遊戯王IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:LAST ALLIANCE
後はゴーキン等のパーツを集めてデッキを完成させるだけです。
【ドライトロン】も次章から本編に登場させます。
今回は前回の続きで、衝撃的な終わりを迎えた所から始まります。
果たして純一君と一夏君の運命は!?
「な、何が起きたんだ!?」
「分からない! 急に織斑一夏が純一君を斬り付けた!」
「ヤバイ! 血が出てるよ! 早くしないと死んじゃうよ!」
「学園は一体何をやっているんだ!?」
学年別クラス対抗デュエルトーナメント。それは初日の午前中で早くも中止に追い込まれる事となった。と言うのも、1年生の部の第2試合、1年1組と7組の対戦のインターバルで、一夏が純一を突然攻撃すると言う異常事態が発生したからだ。
一夏こと『白式』は突如として機体の装甲を白騎士の形状に変貌させると、雪片弐型で純一を斬り伏せた。何の予兆もなかった。突然の変貌だった。流石に純一も予想出来ず、攻撃を受けるしか無かった。
「山田先生、レベルDの警戒体制を発令して下さい」
「はい!」
第2アリーナで観客の怒号と悲鳴が響き渡る中、1組の出場メンバーがいるピットでは千冬が真耶に指示を出していた。
実の弟に発生した異変。弟同然に可愛がっている教え子に起きた不測の事態。千冬としては今すぐ第2アリーナに向かって事態の収拾を計りたい所だった。
私情を押し殺して冷静になって自分がやるべき事をこなしていると、ナターシャとナタリアの2人が現れた。
「織斑先生! 純一君を早く助けないと!」
「このまま放置しておくと死んじゃいます!」
「分かっています、ナターシャ先生。しかし今は観客を避難させる事が優先です。他のアリーナにも中止連絡を出し、観客を避難させなければ……」
「そうですね……ならば指揮はお任せします。教員部隊は私が率います」
「ナターシャ先生?」
「私がここに来た本当の理由は、大統領から直々に純一君を守るよう命令されたからです。今ここで不毛な議論をするより、私は自分の職務を全うします。失礼します!」
ナターシャは教員では珍しい専用機持ちだが、その実態は純一を守る為にアメリカ大統領権限でやって来た。
かつて無人機だった頃に暴走事件を引き起こした
ナターシャがIS学園に来た本当の理由を知った千冬が呆然としたように固まっていると、それを見かねたナタリアが口を開いた。
「織斑先生。私は専用機こそありませんが、これでも代表候補生です。どうか避難誘導でも良いので指示を。このまま何もせずにいるのは嫌です!」
「分かった。戦闘教員は迎撃に当たるように。専用機持ちはそのバックアップに入れ。それ以外の代表候補生は一般教員と共に避難誘導を!」
千冬の指示を受けたIS学園の面々がそれぞれ動き出す中、純一はと言うと、実は意識があった。とは言っても重傷を負っている事に変わりはないのだが。
何故生きているのかと言うと、『白騎士』の攻撃を受けた時に咄嗟に半歩下がっていたからだ。これによってダメージを少しではあるものの軽減する事が出来た。もし半歩下がっていなかったら確実に死んでいた。
この半歩下がると言う動作は、純一のIS専属コーチの更識楯無が教えた動作だった。純一は“相手と相対する時、必ず攻撃に対処できるように半歩下がって構えろ”と言う教えを守り、この事態でも無意識に対処していた。
純一は楯無をIS操縦者として心底尊敬しており、彼女の教えを必ず守っている。その真面目さが結果的に彼の命を繋ぎ止めた事となった。
この後、暴走した『白騎士』は専用機持ちと戦闘教員達による合同部隊によって無力化され、純一は無事に救出されて病院に搬送される事となった。
純一は搬送された病院でその日の内に意識を取り戻した。彼の無事を願っていた仲間や教員、両親達を大いに喜ばせた。特に更識姉妹、ナターシャ、ナタリアの4人は純一の声を聞いた瞬間に大喜びして抱き付き、目覚めたばかりの純一を困らせる程だった。
純一は怪我が治るのが最低でも1週間かかると医師から診断された為、安静も兼ねて2週間は搬送先の病院で入院生活を余儀なくされる事となった。
その2週間の間にIS学園を取り巻く状況は大きく変わる事になった。何故なら学年別クラス対抗デュエルトーナメントは最悪とも言える結末を迎える事になってしまったからだ。
先ず大会は初日でいきなり中止となった。その為に純一の直感が的中した事となった。しかも中止になったタイミングが悪すぎた。
観客達が観戦出来たデュエルは僅か数試合。しかも1年生の部に至っては、最初の試合が突然の棄権となった。更に2試合目で突然のIS暴走事件が発生し、『デュエル・ストラトス』の広告塔の純一が重傷を負う事件が発生した。
幸い観客の中に死傷者は出なかったものの、事の顛末を直接見ていた各国の要人を含め、観客達からは怒りと不満の声が相次いだ。その主な理由はチケットの金額と大会の中身が伴わなかった事に対する物だった。
「おい、ふざけんじゃねぇぞ! どうしてISを展開したままデュエルさせた!? こういう事態が起こり得る事が分かっていた筈だ!」
「純一君のようにデュエルディスクだけを展開させたままやらせた方が良かっただろう!? ISなんか兵器だ! 人殺しの道具だ!」
「高いお金を払わせて見せられたのはこの程度か!? ふざけんな! こっちは頑張って有休使わせてもらったんだぞ! それに貯めてたお金を使ってまでチケット買ったのに! なのにこんな事になるなんて……ちくしょう! ちくしょう!」
「こんなのは詐欺だ! 金を返せ! 訴えてでも返金させるぞ!」
「この映像を流せば……お~! すげぇ事になった! こりゃ炎上物だわ! ハハハッ、ざまぁみろ! ISさえあれば何でも出来るって思いこんでいるからこうなったんだよ!」
「それに一体どういう事だ? どうして“世界初の男性IS操縦者”が“世界で2番目の男性IS操縦者”を攻撃した? 仲良しじゃなかったのかよ!?」
観客達は改めて思い知る事になった。ISは女尊男卑の象徴で兵器である事を。それだけにこのような事態を招いたIS学園とIS委員会を挙って批判した。
彼らの目の前で黒田純一は斬り伏せられた。血しぶきを上げながら倒れ伏せる純一の姿は観た者の心にトラウマとして刻まれる程だった。男子生徒が重傷に追い込まれただけに、世間はこの大会の失敗を重く受け止めていた。
IS学園で初めて行われたカードゲーム大会は、ISのイメージアップも兼ねて大々的に宣伝され、超高額とも言えるチケット代を提示した上で開催されたが、その結果は大失敗と言える結果となった。
1年6組の謎の棄権、突如として暴走した一夏と『白式』、重傷を負った純一と言う、予想外としか言えない最悪の事態が立て続けに発生したのだから。
その日の内に黒田純一が意識を取り戻し、命に別状がないと言うニュースが流れると、観客を含めた誰もが安堵した。しかし、IS学園とIS委員会に対する不信感や不満がより一層大きくなったのは言うまでもない。
―――やはりISは兵器だ。それを使う生徒達の意識が低すぎるのではないか。
―――チケット代と内容が見合っていない。明らかな詐欺だ。
―――貯金を切り崩して買ったチケット代だ。返金して貰わないと割に合わない。
状況は最早IS学園の力で解決する事が出来る範囲を超えてしまった。詐欺とも言える大会を開催したとして、IS委員会とIS学園は未曾有の批判を受け、至る所で大炎上が発生する事となったのだから。
高額なチケット代の返金を求めて至る所で裁判や騒動が起こったが、ここでまた炎上騒ぎが発生し、批判が巻き起こる事となった。それは大会の現場監督を務めた女性達がIS委員会と癒着関係にある女性権利団体のメンバーである事が明らかになり、チケット代を含めた売上金を持ち逃げして姿を晦ませている事が判明したからだ。
もちろん多額の売上金を持ち逃げして行方を晦ませた女性達は指名手配になり、警察等が血眼になって捜索しているが、後の調査によって彼女達にはもう1つの容疑がかけられる事となった。
それは1年6組が棄権する理由となった出場メンバーへの恫喝・叱責によるパワハラ疑惑だった。これは6組の出場メンバーだった蘭・育江・亜依の3人と講師の大樹、臨時担任の菜月のその場にいた全員の告発文書がトリガーとなった。
更に大会の為に雇われた派遣スタッフが援護射撃を行った。女性権利団体から来た女性達が怪しい企てを話している場面や、6組の出場メンバーを叱責・恫喝している様子を動画付きで公表した。これが更なる炎上を招いたのは最早言うまでもない。
その時の映像は派遣スタッフによってスマホ等で撮影され、SNSに投稿されては至る所で炎上している。これがニュースに取り上げられ、注目されている。
これによって、IS委員会と女性権利団体は社会から“努力している人の足を引っ張る事しか出来ない奴ら”と言う認識を抱かれ、IS学園も同じような烙印を押された事は言うまでもない。
「一夏、君が覚えているのは何処までだ?」
「俺が覚えているのはお前が俺を励ましてくれていた時だ。肩を叩かれた時に意識を失って……」
「と言う事はその時点で暴走が始まったのか……」
その日の夕方。一夏が純一の所にお見舞いに来ていた。一夏は最初に謝罪したが、純一は気にする事なく受け入れた。
そこから純一は一夏に尋ねた。あの時一体何が起きたのか。一夏が暴走した時何が起きていたのか。それを知る為に。
「一夏。これで分かっただろう? お前が持っている専用機、もといISは兵器だって事が。お前の力は誰かを殺す事だって出来るんだ」
「あぁ……でもお前は助かった……」
「咄嗟に半歩下がったからな。でも本当に半歩下がっただけで生きれるのか? だって僕が斬られてから病院に運ばれるまでそれなりに時間あったし、けっこう血も流れた筈だ。普通なら失血死していてもおかしくないし……まぁ良いや。専用機持ちの特権って事にしておくよ。けど斬られたのが僕で良かったな。『カードターミナル』の人だったら間違いなく死んでいたぞ? そしたらお前立派な犯罪者だ」
「犯罪者……か」
「あぁ。ここから先、お前は大変な事になるだろう。事が事だからな……」
「そんな……」
純一は自分が生きている事に疑問を感じつつも、一夏に残酷な現実を突き付ける。自分が得た筈の“誰かを守る為の力”が、“人を殺す力”として純一を傷付けた事を。
その事に絶望する一夏だったが、この日の放課後に行われた職員会議では彼の処分が決められていた。問題なのは専用機の暴走も相まり、純一を重傷に追いやった事。一夏の意思とは関係なく、純一を斬り伏せた処罰をどうするかと言う事。
千冬は一夏の意思ではない為処分を軽くして欲しいと訴えたが、ナターシャは軍人ならではの人の命に関わる問題を起こした所を追求した。
―――最低でも専用機を没収しないと示しが付きません。人の生き死に関わる問題で、しかも大勢の人の前で起こった事件です。ここで厳罰を下さないと、世論から更に叩かれる事になるでしょう。
純一の担任のナターシャの言葉により、教員会議で一夏に下された処分は2つ。1つ目は専用機没収。2つ目は1ヶ月の謹慎処分。この処分には千冬も言い返す事が出来ず、俯きながら結果を受け入れた。
一夏との面会時間が終わると、純一はパソコンを立ち上げ、Twitterを立ち上げて学年別クラス対抗デュエルトーナメントの反応を見ていた。
―――ISなんか使わなきゃ良かったのに……俺達が見たかったのはデュエルだ! ISじゃねぇ!
―――織斑一夏って織斑千冬の弟だろう? さては姉の地位を守る為に暴走させられた? だとしたら可哀そう過ぎるだろう……
―――IS学園は女尊男卑の巣窟だ! 二度とあんな所行くか!
―――あんなISとかいう兵器をファッションのように使っている女達なんか、全員悪魔だ!
大会の失敗。これによって発生した結果は最早国際問題になる可能性が高い。各国の要人の目の前で男子生徒が重傷を負ったのだから。
第三者から見ても、一夏が純一を斬り伏せた事に変わりはない。IS委員会と女性権利団体の介入によって、学年別クラス対抗デュエルトーナメントは大失敗に終わった。
「『学年別クラス対抗デュエルトーナメント大失敗! 白昼で起きた惨劇!』か……そりゃ一面にでかでかと載るよなぁ」
学年別クラス対抗デュエルトーナメントの中止となった次の日。『私立鳳凰学院』の食堂では、平等院兄妹と“鳳凰四天王”、IS学科に在籍している代表候補生達の面々が食事を取りながら、テレビを観ていた。
『私立鳳凰学院』の面々もIS学園に招待されて学年別クラス対抗デュエルトーナメントを開催されたが、事件が発生した時に避難するかのように学院に戻った。唯一友希那が純一と連絡が通じる為、彼の無事を知る事が出来た時は全員喜んだのは言うまでもない。
例えIS学園にいても、純一はいずれ学院に来る仲間であり、生徒会に重要な役職として迎え入れる用意も出来ている。それくらいの待遇を用意する程、佐智雄と零児は純一の事を評価している。
「結局、俺達は馬鹿高いチケット代だけ払わされて、数試合しか観れずに帰ってきた訳か。ハァ~やってられねぇぜ」
「公輝さん……」
「結局、ISを使ったデュエルなんかやらねぇ方が良かったって事だよ。純一君みたいにデュエルディスクだけで良いじゃん。テレビでも言っているよ? ISは兵器だって。IS学園はな、兵器の使い方を学んで覚える軍学校と同じだ!」
「それは幾ら何でも言い過ぎじゃ……」
「ヴィシュヌさんの言いたい事も分かる。でも公輝は親父がやっていた超有名料理店を女尊男卑を掲げる連中によって倒産に追いやられた過去がある。だからISと女尊男卑を掲げる連中を心底嫌っているんだ。察して欲しい」
「はい……」
溜息を付きながらテレビを観ている短髪の巨漢―鬼塚公輝を心配するように、褐色の肌に緑色のショートカットが特徴なタイの代表候補生―ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーが見つめる中、公輝は紛然たる思いで言葉を吐き捨てる。
そんなヴィシュヌに声をかけたのは平等院零児。公輝とは同じクラスで親友とも言える関係である為、彼の肩を持っている。
「まぁでも今回の事件は酷いね……純一君って文化祭でIS部隊に狙われたんだよね? 今度は死にかけるなんて……お姉さん、ちょっと可愛そうに思えるよ」
「もうIS学園は安全な場所とは言えないですね。今年に入って織斑一夏が原因かどうか分かりませんが、少なくとも彼の影響で行事が悉く中止になっていると聞きます。そして今回の事件……確実に彼は学園内での立場が悪くなるでしょう」
ニュースを観て苦笑いを浮かべるのはグリフィン・レッドラム。彼女はブラジルの代表候補生であり、水色のロングヘアに褐色肌が特徴な女子生徒。
彼女の話に相槌を打つのは天城海斗。温和な表情を浮かべており、その笑顔は人々の心を自然と癒してくれると評判だ。
「それより問題なのはIS学園の生徒達だ。大会は中止になるわ、世論から叩かれるわで大変な事になっているのでは?」
「いやそりゃそうだろう……IS学園にいる知り合いの話だと、今までにないぐらい大変な事になっているらしい」
「フォルテは大丈夫かしら?」
「大丈夫だと信じましょう」
銀髪のショートヘアでボーイッシュな雰囲気を見せるロランツィーネ・ローランディフィルネィが心配そうな表情を見せると、壇玄人がスマホのLINEを見せた。
スマホの画面を見たロランツィーネが表情を変え、玄人も表情を曇らせる隣で、赤髪のロングヘアで眼鏡をかけたベルベット・ラウを万丈目準也が励ましていた。
その頃。IS学園の会議室で緊急の職員会議が行われていた。そこには『カードターミナル』の押村良樹の姿があり、搬送先の病院の病室にいる純一はオンラインでの参加となった。
特に純一は一夏の暴走事件の被害者と言える人物。あの日何が起きたのかを知っているだけあり、事の真相を探るにはどうしても彼の証言が必要だった。
「これより緊急の職員会議を始めます。今日集まって頂いたのは他でもありません。純一君が退院した事で、ようやくこの議題について話せる時が来ました。IS学園の今後についてです。純一君は病院にいたので初耳になりますが、事件があった当日、一通り事が終わってから取り調べを行いました。今回の事件は何故発生したのか。誰が何の為に起こしたのかを分析しつつ、IS学園の今後について話し合いたいです」
「先ず今回の事件が起きた経緯についてです。調査の結果、今回の事件は起こるべくして起きた物だと言う事が分かりました。先ずは純一君のお話を伺うとしましょう。純一君、一夏君の機体が暴走した時の状況を教えて下さい」
『はい。一夏がアンナさんに1ターンキルをされて負けた後に励ましていましたが、彼は俯いたまま沈黙していました。どうしたのかな、やっぱり勝てる筈の相手に1ターンキルされて負けたのが重かったのかな、と思って顔を覗き込もうとした次の瞬間、僕は斬られました。まさかその後に暴走するなんて思ってもみなかったです……』
「それにしてもよく生きていられるわね……」
『咄嗟に半歩下がったんです。楯無さんの教えで、“常に攻撃を躱せるように半歩下がって構えろ”と言われていたんです。それを守ったおかげで、こうして生きていられます。本当、感謝する事しか出来ないです』
緊急職員会議の司会進行役は轡木十蔵が務めている。表向きはIS学園の用務員で、柔和な人柄と親しみやすさから“学園内の良心”といわれている壮年の男性。
しかし、実態はIS学園の実務関係を取り仕切る事実上の運営者であり、純一や一夏が心を開く事が出来る数少ない人物の1人とされている。
純一は十蔵に促されて当日の様子を語った。突然の攻撃に対処しきれずに斬られたが、半歩下がっていたおかげで一命は取り留めた。
「その後は専用機持ちと教員部隊で一夏君を無力化させて、純一君を救出する事に成功しました。先程純一君が言った通り、彼が咄嗟に半歩下がったおかげで即死にはならなかったです。それでも胸を斬り裂かれ、重傷である事は分かりませんでしたが……」
『それで、一夏のISが暴走した理由は何だったんですか?』
「あぁ、実は一夏のISに暴走プログラムが仕込まれていた……原因は私の不徳にある」
『ちょっと待って下さい。暴走プログラムが仕込まれていたまでは分かりました。ですがどうして織斑先生が悪いんですか?』
「実は……私は騙されたのだよ、女性権利団体に」
一夏のIS、『白式』が暴走した理由。それは『白式』に暴走プログラムが施されていた為だった。無力化させた後、束と共に『白式』を調べた結果、暴走プログラムが施されていた事が判明したのだ。
束が自分が触ってもいないのにどうして暴走したのか疑問に感じていると、千冬はとある出来事に思い当って顔が真っ青になったと言う。
「大会の現場監督としてIS委員会から来たと言っていた女性達から、専用機持ちに試験的に“特殊スキル”の導入を促された。“特殊スキル”は1回のデュエルにつき3回まで使用可能で、発動条件はライフポイントが4000以下になった時。
『“特殊スキル”の導入? 初めて聞きましたが……押村先生はご存知でしたか?』
「純一君、実は私も大会中止後に聞かされたんだよ……我々にも話は通っていなかったんだ」
「押村先生の話から分かる通り、お前達には話を通さず、独断で事を進めていたようだ。IS委員会は許可を貰ったと言っていたが、そもそも話をしていなかったからな。これは私が悪かった。お前と押村先生に確認を取っていれば、少なくともこうなる事は避けられた筈だ。申し訳ない」
実は“特殊スキル”の話は女性権利団体が発案し、純一や『カードターミナル』には通さずに導入された。これは純一は初耳であった為、驚く事しか出来なかった。
女性権利団体はIS委員会から来たと偽った為、千冬でも見破る事が出来なかった。それだけに、千冬は自分の確認不足を素直に認めて反省している。
『確かに確認不足だったのは否定出来ませんし、もしかしたら大会の失敗を防げたかもしれません。でも、もう終わった話です。問題はこれからですよ。この会議は失敗を分析して理解し、その後の事を話し合う為に行っているんですよね?』
「そうですね……でも確認不足で言うなら私達教員も同じです。私が純一君や押村先生達に確認を取っていれば、少なくとも純一君と一夏君に辛い思いをさせずに済みましたし……」
『え~と、話を戻すとその“特殊スキル”を登録した時に暴走プログラムを仕込まれたと言う事ですか? その時ぐらいでしょうかね。暴走プログラムを仕込めるとしたら』
「そうだな……考えられるタイミングとしたらそれしかない。それにIS委員会の役員にも問い合わせたのだが、彼女達も“特殊スキル”の存在を聞かされてなかったと言っている」
『と言う事は……女性権利団体の奴らの仕業……?』
「そうとしか考えられない。奴らはIS委員会の役員と偽って『白式』に暴走プログラムを仕込んだ。一夏がデュエルに負けた時に起動するように仕掛けた。それが起動キーとなり、今回の事態を招いた」
学年別クラス対抗デュエルトーナメントが中止となった最大の理由。それは一夏のIS、『白式』が暴走した事にあった。その原因は暴走プログラムが仕込まれていた事。
暴走プログラムを仕込んだのは女性権利団体のメンバー。彼女達は一夏がデュエルに負けた時に発動するように仕掛けていた。
もし千冬や楯無達が“特殊スキル”の許可使用に違和感を覚え、純一に相談しに行っていれば、まだこのような結末を回避する事が出来ていたのかもしれない。
『その女性権利団体のメンバーの行方は一体どうなっているんですか?』
「今IS委員会が捜索しているが、見つかっていないらしい」
「しかもチケット代を含めた売上金全てを持ち逃げしたみたいです……これが今ニュースで揉めている一因なんです」
『……これ主催者はIS委員会なんですよね? だとしたら女性権利団体と癒着状態にあったと言う事になりますよね?』
「そうですね……もうSNSでは至る所で炎上しています」
真耶や菜月も頭を抱えている程、今のIS学園は創設以来未曾有の危機に陥っていた。しかも陥らせたのはIS委員会と女性権利団体と言うのが笑えない。
大会が中止になった次の日。世界各国の新聞では学年別クラス対抗デュエルトーナメントの中止がこれ見よがしに報道され、新聞の一面を飾る事となった。
―――『デュエル・ストラトス』大失敗!? 白昼に起きた殺傷事件!?
―――まさかの事態!? 専用機の謎の暴走!?
―――黒田純一君一時意識不明の重傷! 犯人は“ブリュンヒルデ”の弟!?
これらの見出しは日本の新聞による物だった。僅か数試合しか行われず、謎の棄権負けがあったり、ISによる殺人未遂事件が起きると言う、散々な結果に終わってしまった。
IS委員会は大会を成功させてISとIS学園のイメージアップを狙いたかったが、図らずも黒田純一の優勝を阻止したい女性権利団体によって阻止される事となった。
この結果を受けたIS委員会が黙っている筈がない。幾ら癒着関係にあるとは言えど、自分達の行いを邪魔されたからだ。間違いなく女尊男卑を掲げる女性権利団体のメンバー達は排除されるのが目に見えている。
「世間ではIS委員会と女性権利団体が叩かれています。恐らくこれから責任の擦り付け合いが始まるかと。ですが、IS委員会が女性権利団体出身の役員を全員追放して終わりそうな気がします」
「まぁ確かにそっちの方が手早く、安全に済みそうですしね。ところで皆さん、長尾先生の講師辞任の話は伺いましたか?」
『ッ!?』
良樹が冷え冷えとした目をしながら問い掛けると、IS学園の教員は誰もが驚いたような顔を浮かべた。大樹本人から聞いていた菜月と純一は悲しそうに顔を俯けた。
純一は覚えている。怒りに打ち震えた大樹の悲嘆と彼の決意を。それによって自分が感じた悲しみを。それだけに遣る瀬無い怒りを抱えている。
「大会で異常事態が発生した後、彼が私に言ってきたのです。“IS委員会の役員共は俺達が指導した生徒達の思いや頑張りを踏み躙った”と。恐らく女性権利団体の奴らだと思いますが、そいつらはあろう事か6組の出場メンバーを “お前達はIS学園の優秀な生徒なのに黒田純一に負けた”、“IS学園の面汚し”、“お前達のせいでIS学園の看板に泥を付け、イメージを悪化させた”だの好き勝手に罵倒しました。そのせいで6組の残る2人は出場出来なくなり、6組は棄権に追い込まれました」
「そ、そんな事が起きていたとは……」
「私はそれを聞いた時、こう思いましたよ。これで我々『カードターミナル』の仕事は終わったと。私達は貴方達IS学園の教師が『遊戯王』の事を教える事が出来ない為、代わりに教えるようIS委員会に頼まれてここに来ました。しかし、彼らは条件を出していました。“IS学園の生徒達は初心者だが、優秀なので1ヶ月さえあれば大会優勝経験者と同レベルになれる。そのように指導しろ”と」
『なっ!? IS委員会はそんな無茶な要望を出していたんですか!?』
良樹が口にしたのはIS委員会から『カードターミナル』スタッフへの要求。かなりの無茶ぶりに純一は驚く事しか出来なかった。
『遊戯王OCG』の大会に優勝する事は決して簡単な事ではない。デッキパワーが強い・弱いの二元論だけでなく、デッキやカードの対策を行う高度な情報戦となるからだ。
それは大会に出てみないと分からない事が多かったりする為、授業で説明するにはかなり無理がある。
「我々はIS委員会の要求が無理難題過ぎる事は理解していましたが、それでもやれる所まで頑張ろうと思い、純一君の力を使ってまで頑張ってみました。しかし結果はこの通りでした。指導した生徒は純一君に負け、その生徒がいるクラスは棄権負けに追いやられ、織斑君の専用機は暴走させられて大会は中止となった。IS学園の教員方に問いたい。これが貴方達のやり方か。自分達にとって都合が悪い事が起きたら直ぐに隠蔽したり、無かった事にしようとする。それが教育機関として、いや大人として正しいやり方なのか。私は一人の人間として問いたい!」
良樹の剣幕に千冬を含めたIS学園の教員達は誰も応える事が出来ない。良樹の言葉は正論だった。IS委員会と言う上層部に振り回された結果、自分達は尻拭いをさせられた。返す言葉が見当たらなかった。
純一は何も発言せず、静かに良樹の言葉を聞いている。彼の気持ちは良樹達『カードターミナル』側にあり、今回の件で完全にIS学園を見限る事を決めた。
「私達は仕事で来ました。IS学園の『遊戯王』の授業を担当し、指導を行うと言う仕事を引き受けました。大元となる大会が中止……いや失敗に終わった以上、我々スタッフは責任を取る形で辞任する事になるでしょう。ただ今の世論を見ていると結論を出すのはまだ早いかと思いますが、私の中では十中八九辞任する事になると思います。『カードターミナル』の方も退職するかもしれませんね……」
良樹はIS委員会の無理難題に応えられなかった時点で、自分達はどう転がってもIS学園から去らなければならない事を実感していた。
IS委員会は1ヶ月で純一と同レベルになる事を望んだが、結局それは出来なかった。更にイメージアップをするつもりが、様々な要素が複雑に絡み合った結果、更なるイメージダウンを招いてしまった。
IS委員会のやり方を見ていると、恐らく責任を取らされる形で自分達はIS学園の講師を辞任する事になると良樹は考えている。依頼主が満足する内容に及ばなかった所か、最悪の結果を招いてしまった。幾ら事情が事情でも世論が許してくれないだろう。
「……ところで今後はどうするのですか?」
「今後なのですが……まだ目途が立っていません。世論も炎上していますし……なのでほとぼりが冷めるまでは何時も通りになるかと思います」
こうして緊急職員会議は終了となり、参加していた面々は解散していくが、その中で純一は一人険しい表情をしていた。
理由は現在IS学園が置かれている状況が余りにも過酷過ぎるからだ。これからもっととんでもない事が起きるのではないか。そのような確信が純一にはあった。
「純一。改めて謝らせて欲しい。一夏がお前を重傷に追い込み、私の確認不足がこのような事態を招いた。本当に申し訳なかった」
『良いですよ織斑先生。一夏はわざと傷付けたんじゃなく、暴走した上でああなったんです。それにこちらがもっと介入していれば良かったですし……』
緊急会議終了後。一人会議室に残った千冬は純一に深々と謝罪していた。専用機の暴走があったとは言えど、自分の弟が一時意識不明の重傷を負わせた事には変わりはない。それに加え、自分の確認不足でこのような事態を招いてしまった。
純一も一夏の事情に理解を示しつつ、自分と『カードターミナル』が大会運営に介入していればこのような事は無かったと反省している。
『まぁ今後このような事が起きない為にも何が悪かったか、何が問題だったのかを考えて理解しないと……と言っても次があるかどうかなんですよね』
「あぁ……恐らくIS学園では二度と行えないだろうな。今のままだと」
『ですね……何しろ経緯はどうあれど殺人未遂事件になりましたから。起きた場所がIS学園で良かったですね。もし日本の法律が適用されていたら、今頃一夏は警察に捕まっているでしょう』
「そうだな……」
IS学園は学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないと言う国際規約がある。
これを言い換えればIS学園は無法地帯であり、何をやっても許される事になる。アクセサリーの形状をしている兵器を持ち歩き、何かあればそれを使う。戦争にアレルギーがある日本人からすればたまったものではない。
―――所詮ISは兵器だ。幾ら授業で主にスポーツのような競技種目で使われているって言っても、インターネットと僕の目を誤魔化す事は出来ない。
IS学園での日々を通じて、純一もラウラと同意見となった。IS学園の学生は意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしていると。
世論は完全にISを兵器と、人を殺す事が出来る道具として認識するようになってしまった。無理も無いだろう。観客の目の前で少年が斬り付けられ、血飛沫が舞い上がった。
観客達の中にはトラウマとなった人が出てもおかしくない。いや事実トラウマになってしまった人が出てしまった。心療内科に通うようになってしまった人が発生してしまい、益々IS学園に対して批判が向けられるようになった。
『これからどうなると思いますか?』
「そうだな……更にイメージダウンしたせいで世論はISに対して批判的になっているから、来年度のIS学園の入学者の数が減るのは目に見えているな」
『別に良いのでは? だってISコアの数は限られていますし、それこそ、ISに乗れる人なんて代表候補生とか限られた人になって来るでしょう。ここでISの事や操縦方法を教わっても、大半の生徒がこの先長い人生で使う場面なんて早々ないでしょう。習うだけ無駄と言えます』
『純一……お前』
「そもそもIS学園がまともな所じゃないんですよ。今回の件ではっきりと分かりました。この学園は女尊男卑を掲げる連中の巣窟であり、IS委員会の傀儡に成り果てている。最早この学園は公正な機関としては機能していません」
純一の目が鋭く細められて千冬を射抜く。純一の言葉は正論だった。ISのコアは数が限られている以上、IS学園を卒業して操縦者としてやっていけるのは卒業生でも極僅か。数%の世界となっている。
そんな数%の世界の競争で、相手は代表候補生達。IS学園に入学してから本格的にISに触れる一般生徒が彼女達に勝てるのか。純一は勝つのは難しいと踏んでいる。だからこそISの操縦技術を終わっても卒業後は意味のない物となると言い切った。
IS学園の卒業生の主な進路はIS企業かIS学園で培った技術を活かせる一般企業に就職するか、或いは大学や短大に進学するか。そのどちらかになっている。
更に純一の心は今回の一件で完全にIS学園から離れてしまった。学園行事にIS委員会と女性権利団体が介入して好きなようにした結果、行事は失敗すると共に自分も重傷を負った。しかも明らかに自分を追い落とす魂胆が丸出しだったと言うおまけ付き。
IS学園は最早公平な教育機関に在らず。女尊男卑を掲げる連中の巣窟であり、純一のように自分達の邪魔になるような人々を平然と追い落としにかかる。そのような野蛮な考えを持つ連中の場所だと言う認識を抱かれた。
「お前の言う通りだ。だが少々言い過ぎだ。IS学園に対して批判的な意見が寄せられているが、大半はIS委員会と女性権利団体の内容だ。こっちは風評被害を受けている感じだ。何とかしなければもっと大変な事になる」
『只でさえ大変なのにこれ以上大変になられても困るんですよね……ところで一夏はその後どうなったんですか?』
「実はな……今は懲罰房で謹慎処分が下された」
『まぁ何かしらの処罰を受けるだろうとは思っていましたが……あ、そろそろ時間になるので戻った方が良いですよ?』
「もうこんな時間か……早いな。安静にするんだぞ」
純一が自分を斬り付けた親友の事を尋ねると、千冬は表情を曇らせながら、純一が斬られた後の事を話し始めた。一夏のその後と処分についても合わせて。
結論から先に言うと、一夏は純一を一時意識不明の重傷に追い込んだとして専用機を没収され、懲罰房に移動した上での謹慎処分を下された。
例え純一に重傷を負わせたと言っても、様々な要因があった事は否定出来ない。専用機に女性権利団体が仕込んだ暴走プログラムによって、意識とISのコントロールを奪われていたと言う事実がある。しかし、それでも純一に重傷を負わせたと言う事実に変わりはない。
一夏が純一を斬り伏せた直後、専用機持ちと教員部隊の合同部隊が一夏のISと戦いを始めた。暴走しているとは言えど、流石に複数の専用機持ちと言う実力者達相手に勝利する事は出来なかったが、千冬の計算だと10分は戦っていたらしい。
幾ら咄嗟に半歩下がっていたとしても、流石に斬撃を喰らっていたのは事実。彼の身体から血液が失われていき、10分もあれば最終的に致死量に至ってもおかしくなかった。それでも楯無が確認した時は辛うじて意識がある状態だった。
合同部隊によってISを停止させられ、意識を失ったまま救護室に運ばれた一夏はと言うと、意識を覚ました時に千冬から映像付きで現実を見せられた。その現実は一夏を絶望させるには十分だった。
親友を斬り伏せて重傷を負わせただけでなく、連日の報道によって、自身が得た“誰かを守る力”たるISが“人を殺せる兵器”として世間一般から認識されてしまった。女性権利団体によって、一夏を取り巻く状況もまた変わってしまった。
ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。
・原作通り
この小説でも原作のお約束事を守りました。学園行事が一夏とその周辺によって中止に追い込まれると言う……ところが今回は最悪の結末を迎えました。
・変わりゆく世の中
初日で中止。見れた試合は片手で数える程。突然の棄権負け。暴走事件からの重傷者発生。これだけあれば中止にするのは妥当でしょう。
そして金額と中身が伴わなかった事で観客からはブーイング。しかも暴走は意図的で、売り上げは持ち逃げされた。
この大会の失敗でISに対する不信感がMAXになり、女尊男卑の社会風潮が崩れる事になりました。
・鉄の主人公!?
半歩下がったから何とか助かりましたが、それでも致死量レベルの出血で生きていられる……いや生かされている純一君の謎。
この理由は後で明かしますので心配なく。
・一夏君への処罰
人命に関わる大事を例え自分の意思で無かったとしてもやらかしたので、今回は処罰を受けました。これは軽い方なのか重い方なのかは皆さんに委ねます。
自分の力は誰かを傷付ける事が出来る事は分かっていましたが、それが親友を傷付けたなんて……一夏君の精神的ダメージはでかいです。
しかも世の中がISとIS学園に対して否定的になったので、彼を取り巻く状況はあっという間に悪くなっていきます。
・事件の真相
ISの暴走は意図的で女権団体の仕業。大会を成功させてイメージアップをしたいIS委員会と、純一の優勝を阻止しながら大会を成功させたい女権団体。
この意見の相違が今回の事件の引き金となりました。IS委員会と女権団体の決裂は決定的になりました。
・IS学園に心は在らず。
もう1つ決定的になったのは純一君がIS学園を見限った事。命を狙われ、重傷を負った事でIS学園に対する信頼は地に堕ちました。
しかしIS学園の教員や生徒への信頼関係はそのままなので、学園に復帰次第新しい動きを見せます。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!
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