遊戯王IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:LAST ALLIANCE
何しろ純一君達を取り巻く状況が次第に悪化していき、IS学園が未だかつてない危機に遭う事になりますので。
その中でもデュエル描写はしっかり入れますのでご理解を。
TURN20 変わりゆく世界
学年別クラス対抗デュエルトーナメントで起きた事件。それによってIS学園と、ISに関わる全ての人々の状況は一変してしまった。主に悪い意味で。
純一が病院に入院して安静にしている頃、一夏は懲罰房で謹慎処分を受けていた。これは学園側が決めた処罰であり、千冬から言い渡された物だった。
様々な要因があったとは言っても、一夏が純一を意識不明の重傷に追い込んでしまった事実は変わらない。“世界初の男性IS操縦者“であり、織斑千冬と篠ノ之束と言う強力な後ろ盾がいるとしても、大勢の人々の目の前で重傷者を出してしまった事は事実だった。
厳しい処罰を下さないとまた世論が炎上すると考えたIS学園によって、一夏は1ヶ月間懲罰房に移動した上での謹慎処分を言い渡された。勿論専用機没収もされた上で。これには千冬も口出し出来なかった。今回の事態を引き起こした一因を担っただけあって。
そして純一はと言うと、被害者と言う事もあってか、世論からは同情や擁護の声が相次いだ。専用機を持つようになった矢先の出来事と言う事もあったが、世論は文化祭の時に狙われた事もあり、あまり専用機の事は触れなかった。
織斑一夏と黒田純一。同じ男性IS操縦者でありながら、加害者と被害者でこのように大きく民衆から見方が分かれた。純一は影響力を保持しながら難を逃れ、一夏もIS学園と同じく厳しい状況に立たされた。
―――『デュエル・ストラトス』大失敗!? 専用機の暴走で生徒が重傷に!?
『暴走した専用機持ちって織斑千冬の弟だろ?』
『暴走したとは言っても、負けた腹いせに人を斬るなんて信じられない!』
『それより純一君どうなるんだろう……今回の件で一番ダメージ受けているから心配だよ』
『IS委員会と女権団体の奴らめ、絶対許さねぇ!』
『IS至上主義者よ、懺悔の用意は出来ているか!』
「酷い言われようだな……」
『私立鳳凰学院』の生徒会室。そこにいるのは短い黒髪をウニのように立たせた少年―平等院佐智雄。彼は『私立鳳凰学院』2年生で生徒会長を務めるだけでなく、平等院財閥の次期総帥を務めるポジションにいる。
彼は連日報道されている学年別クラス対抗デュエルトーナメントの事を細かくチェックしており、純一の事を内心心配している。
妹の友希那が認める程の実力者であり人格者。お見舞いに行った時にお互いに自己紹介し、打ち解け合って意気投合した程気が合った。
「良かったと言えば良いのか……これでお客さんを招いて大々的に行うとこうなるってのが分かった。やはり学内で、こじんまりとした所からやろう。良いサンプルになったと言えばそこまでだけどな」
佐智雄は窓から見える晴天の空を見ながら考える。実は『私立鳳凰学院』でも『デュエル・ストラトス』をやっていて、その一環として『遊戯王』の授業をしているのだが、IS学園と比べてのんびりとした授業スピードなのが特徴だ。
1ヶ月でトーナメントレベルにすると言う無茶な要求もない為、確実に覚えながら一歩ずつ上達していく事を目指している。その為、知識を詰め込む事なく、歴史や環境の変遷の説明にも力を入れている。
環境デッキに使われていて、平均価格が1000円以上するカードは使用禁止と言うルールがあるが、現在の環境デッキもカードの平均価格が1000円以下なら使用可能と言う条件の為、生徒達はIS学園より質の高いデュエルに励んでいる。
近い内に学内大会を開催する予定だが、IS学園のやり方を見て参考になった所があった事も事実。佐智雄は頭の中でイメージを描きながら新聞を読み進めていく。
(取り敢えずメディアに大々的に宣伝するのは無し。今のこの状況だ。こっちのダメージが大きい。それと『デュエルラボ』さんが主催で行う。“餅は餅屋”だ。それが良い)
今の世の中は女尊男卑であり、男性にとって息苦しい世の中となっている。見ず知らずの女性の言う事を聞いたり、道を歩いているだけで警察に連れていかれるような事だったあるからだ。それが積もりに積もって女性やISへの不信感や憎しみを募らせ、このような事態を招いたと言っても過言ではない。
IS学園で再び発生した不祥事。それはIS学園の信頼を地に堕としただけでなく、IS委員会と女性権利団体の横暴や不正、汚職等を白昼に晒したと言う事になる。
「テレビは何処もIS学園の事しかやってないし面白くないな……まぁ僕には“これ”があるんだけどね」
さて純一は何をしているかと言うと、病院のベッドで安静にしていた。テレビを観ているが、どのテレビ局もIS学園で発生した不祥事の事ばかりで飽きてしまった。
テレビを消すと、純一は差し入れで頂いた『遊戯王OCG』の最新パックを手に取り、パック開封を始めた。彼が貰ったのは2020年9月12日に発売された『デッキビルドパック ジェネシス・インパクターズ』。
このパックは同じシリーズのカードがまとまって入っていて、収録カードだけでデッキ構築を楽しめるパックになっている。このデッキビルドパックシリーズは【エルドリッチ】や【ドラゴンメイド】、【閃刀姫】等の環境デッキを輩出している。
純一が『ジェネシス・インパクターズ』で構築したいデッキは【ドライトロン】。純一にとって久しぶりの新デッキであり、11期に入って初めて構築するデッキとなった。高い攻撃力を持つ機械族の儀式テーマが【ドライトロン】。
公式Twitterや考察サイトを調べていく中で、純一は【ドライトロン】は強い上にカスタマイズするのが面白い事に気付き、大会直前の土曜日に発売されるパックを、自宅の近くにあるカードショップで5箱事前に予約購入した。
そして彼の手元にあるのは『カードターミナル』と『KONNAMI株式会社』からの差し入れで頂いた10箱。1箱15パック入りなので、合計150パックを開封する事となった。
「さてお目当てのカードは全て揃うかな?」
純一が時間を掛けながら150パックを開封し始めるのと同じ頃。今回の失敗を通じて、IS委員会と女性権利団体の間では埋める事の出来ない溝が生まれていた。
学年別クラス対抗デュエルトーナメントが目指す目標がそもそも異なっていた事が、今回の事態を引き起こす原因となったのだから。
IS委員会は大会の成功だけ。女性権利団体は大会を成功させつつ、黒田純一率いる1年5組の優勝を阻止する事。IS委員会は癒着状態にある女性権利団体に協力を求めた時点で、この大会は失敗する運命だった。
その為に女性権利団体は一夏達専用機持ちのISに細工を仕込んだり、1年6組を棄権負けさせたりした。その悪行は世間に晒され、今や女性権利団体は世界中の敵と言える所まで落ちぶれた。
「今回の大会は貴女達の失敗で世論から袋叩きになっています。何の罪もないIS学園の生徒達まで巻き添えになっているこの状況……言い逃れは出来ませんよ?」
「知らないわ! そもそも薄汚い男の分際で女性達の象徴である神聖なるISを動かしたのが悪いのよ!」
「男の癖に生意気なのよ! 黒田純一と織斑一夏が私達の栄光を穢そうとした! だから私達は奴らを始末しようとした! だから私達の行いは正義なのよ!」
「ハァ~本当に貴女達とは会話が成立しませんね。良いですか? 貴女達のその身勝手な考えと思い込みのせいで、一体どれだけの人が迷惑していると思っているんですか?」
とある場所。とある建物の中にある会議室。広い室内を取り囲むように配置されている机と椅子には、十数人の女性が座っている。
片方の席にはIS委員会の役員が、もう片方の席には女性権利団体のメンバーが座っている。前者の表情は氷のように冷たく、後者の表情はマグマのように怒りで熱くなっている。
まるで証人喚問のようにIS委員会の管理官―沖田美紀は女性権利団体の役員に問い詰めるが、彼女達は自分達の行動の正当性を主張するばかり。議論は全く進展せず、IS委員会の役員の中には露骨に苛立ちを見せる女性もいた。
「知らないわよ! それに私達ばかり責められているけど、貴女達も悪いじゃない! 私達に協力を求めた時点で貴女達も同罪なのよ!」
「そうよそうよ! そもそも初めてのカードゲーム大会で私達素人がやったからこうなったんじゃない!」
「確かに貴女達の仰る事は事実です。『カードターミナル』さんの協力を仰がず、自分達だけで事を進めた私達が最も責められるべきです。しかし、貴女達の行いも同じ事が言えます。私達が警告したにも関わらず、貴女達はIS学園で事を起こした。しかも世界中の世論を巻き込むと言う結果に……」
女性権利団体のメンバーが口々に反論すると、美紀は自分達の過ちも素直に認めつつ、女性権利団体に下した警告の事に触れた。
IS委員会は純一から見て女性権利団体の大元でIS学園の上層部と言う認識だが、それは半分正解で半分不正解だった。
元々IS委員会の正式名称は国際IS委員会でIS条約に基づいて設置された国際機関であり、国家のIS保有数や動き等を監視している。それがどういう訳か何時の間にか、女性権利団体と癒着関係を結ぶに至った。
「我々は警告しました。文化祭で黒田純一を殺すべく、貴女達がIS部隊を雇って襲撃させた時に。二度は無いと警告しました。それで貴女達は少しは抑えるだろうと思いましたが……どうやら我々の勘違いでしたね」
「貴女達は知らない! あの黒田純一の恐ろしさを……奴がデュエルディスクのモニターになった事で世論は、世界は一気にデュエルディスクに注目してISに見向きもしなくなった!」
「そうよ! あの黒田純一は“フェンリル”……この世界に災いをもたらす者、私達女尊男卑に終焉をもたらす悪魔なのよ!」
「何の事を言っているか分かりませんが、貴女達が“フェンリル”を言って怖れる純一君を殺そうと文化祭にIS部隊を派遣したせいで一般人にも怪我人が続出……これでIS学園と私達のイメージダウンが始まり、不信感を抱かれるようになりました。そして今回の件で完全にISへの信頼が失墜し、兵器として見られるようになりました」
「貴女達が神聖だと崇めるISと、貴女達女性権利団体の威信は他ならない貴女達によって失墜させられた……その事実を深く受け止めなさい」
IS学園の文化祭で黒田純一を襲撃した時、IS部隊は一般人にも決して少なくない数の怪我人を出していた。それによってIS学園の対応が批判され、IS学園とISのイメージダウンが始まってしまった。
そのイメージダウンを解消する為、学年別クラス対抗デュエルトーナメントをデュエルディスク発表から1ヶ月と言う短い期間で行わせたが、結果は物の見事に大失敗に終わってしまった。自分達IS委員会と女性権利団体のせいで。
全てが自業自得な結果になったとは言えど、IS委員会と女性権利団体は面白くない上に、美紀はこの一件が更なる混乱を招くのではないかと危惧している。
何故ならこの一件を利用して、日本政府や平等院財閥等の反女尊男卑派が何かしら行動を起こす事が目に見えているからだ。純一も反女尊男卑派の一人であり、彼をシンボルに据えて何か行動を起こすに違いない。
今の日本政府は持病の悪化で総理大臣と自民党総裁を辞任した阿部野信三から、若手の政治家で官房長官を務めていた菅野拓郎が総理大臣兼自民党総裁になった。
菅野首相は日本政府から女尊男卑思想を持つ政治家を全員追い出すと宣言し、世論の支持を獲得している。
学年別クラス対抗デュエルトーナメントの失敗によって、色んな人々や多方面からの信頼を失い、インターネットの至る所では炎上したり、マスメディアでは大きく叩かれている。
「今回の事態の責任は私達IS委員会と女性権利団体で取るしかないです。そもそも主催者がIS委員会で、最も貢献したのが貴女達ですから」
「な、何を言って……」
「今回の事態を招いた責任を取る為に、大会の主催から協賛に関わった人達全員に処罰を下します」
こうしてIS委員会でも新しい動きがあった。IS委員会から女尊男卑思想を持つ人間全員が追放されたのだ。それがニュース速報で流れた時、純一も驚く事しか出来なかった。
こうして学年別クラス対抗デュエルトーナメントの失敗によって、ISに携わる人々の立場や状況が変わるようになった。
それから数日後。土曜日。前日に病院から退院した純一は、親友の五反田弾の家に遊びに来ていた。弾の部屋にいるのは純一と弾、そして弾の妹の蘭の3人。
五反田兄妹も先日発売された『デッキビルドパック ジェネシス・インパクターズ』のボックスを複数購入していた。今現在行われるのはボックスの開封式であり、デッキ構築後のフリーデュエルだった。
弾に影響されてか、蘭も『遊戯王』をしている。今は中学3年生だから息抜き程度に嗜んでいるが、純一をして“手強い”と言わしめる程に強い。
「そう言えば純一も災難だったな~折角の大会が中止になって。俺、お前の試合が配信されると聞いて楽しみにしていたけど、大会が中止になったから配信は停止になったんだよ……」
「あぁ。僕は良いけどさ、問題なのは一夏だよ。毎日のようにIS学園の事が報道されているせいで、世界中で顔が知られている。“ISで人殺しをやろうとした奴”って思われても仕方ないよ」
「一夏さん……どうなるんでしょうか?」
「どうなるって言われても……純一、お前は知っているんだろう?」
「あぁ。専用機没収に懲罰房で謹慎処分。まぁ妥当と言えば妥当だな~」
純一も一緒にパックを開封しながら弾と蘭の五反田兄妹の質問に答えているが、何時もの歯切れの良さがなく、何処か悩んでいるような様子だった。
IS学園は創設以来最大とも言える危機に立たされている。世界中の要人達を観客として招待して行われた学年別クラス対抗デュエルトーナメントは、誰がどう見ても失敗と言えるような結果になって終わったからだ。
純一はこのように考えていた。本来、世界は誰に対して平等であって不平等で無ければならない。これまで特定の人間の為に世界は都合良く動く事は無かったが、今はで特定の人間の為に世界は都合良く動いていた。
それは今変わり始めている。デュエルディスクの台頭と黒田純一の成り上がりによって、世界は全ての人間に平等かつ不平等な世界に回帰しようとし始めている。つまり、女尊男卑やIS絶対至上主義を掲げる連中にとって、都合の悪い世の中になってきている。
「それに良い事にならないのは蘭ちゃんの方だよ。僕はこの際だから直接言いに来たんだよ」
「何かあったんですか?」
「いやさ、鈴から聞いたんだよ。IS簡易適性試験を受けてA判定を出したんだって?」
「はい、それが何か……」
「悪い事は言わない。IS学園には来ない方が良い。蘭ちゃんの為にも」
純一は目を細めて鋭い視線で蘭を見る。まるで睨み付けるような視線に蘭は一歩後ずさるが、弾は純一の行動を咎めたりはしなかった。
中学生の頃からの悪友だけあり、純一の思考はある程度読む事が可能な弾。彼は純一が言おうとしている事が何となく推測出来た。
「話は既に聞いているよ。来年高校受験なんだろう? 第一志望をIS学園にしていると。 止めておいた方が良い」
「純一さん……」
「今のIS学園は世論の批判に晒されて大炎上している。この大炎上は当分の間収まるとは考えられない。つまり今のままで行くと、来年度の入学者数が減る可能性が高いって事だ。そうなると適正値が高い人は強制入学させられる事だって考えられる」
「そ、そんな事があるんですか!?」
「あくまで予想の範囲内だけどね……IS委員会の連中ならやりかねない。今からでも遅くない。進路についてよく親御さんと話し合った方が良い。一度きりの人生だ。後で後悔しないようしっかり考えるんだ」
「そうします。実は純一さんが文化祭で襲撃された事件の報道を見て、IS学園を受ける事に疑問を持っていました。でも今回の件で決めました。私はIS学園を受けず、今いる学校の高等部に進学します」
純一が蘭に忠告したのはIS学園の入学について。彼は今回の大会の失敗を受け、IS学園の来年度の入学者数が激減するのではないかと考えている。
世論の批判に晒されているのはIS委員会と女性権利団体の介入があった事と、彼らの傀儡になっている事に対して。他にも大会で重傷者を出したり、チケット代の返金トラブル等々もあるのだが。
蘭は一夏に恋心を抱いてIS学園への入学を目指しており、IS簡易適性試験を受けてA判定を出している。この高い判定を出してしまった事が純一にとって一番の心配材料であり、IS委員会がIS学園に強制入学させる考えの裏付けとなっている。
それだけに純一は蘭の事を心配している。後で自分が受けているような事を受けさせない為にも、厳しい言葉を使ってでも蘭に伝えている。
あの後弾と蘭の五反田兄妹と雑談をしたり、ワーキャー言いながらデッキを構築してデュエルしまくった。大会の時に受けた嫌な事が全て吹き飛ぶくらい、とても楽しい時間を送る事が出来た。そう言えるくらい、純一は五反田兄妹を大切に思っている。
「純一か……」
「織斑先生……いや千冬さん。こんな所でどうしましたか?」
「一夏の為に買い物をしていてな……家に戻ろうとしていた時にお前を見かけた。お前も買物か?」
「はい。コーヒー豆を切らしていたのを思い出して、学園に戻る前日に買おうと」
「そうか。この後時間はあるか? お前が退院したから昼食を取りながら色々話したいと思ってな。特別に奢るぞ?」
「ありがとうございます」
翌日。日曜日。純一は自転車を漕いで大型ショッピングモールに来ていた。IS学園の寮部屋にコーヒーメーカーを置いているのだが、そのコーヒー豆を切らしてしまい、学園に戻る前日に仕入れる為に買い物に出ていた。
コーヒー豆を仕入れて駐車場に向かっている最中、純一は千冬に会った。千冬は帽子を被り、髪を結び、眼鏡をかけた変装姿だった。
それなりに手が込んだ変装をした千冬は一夏の為に買い物に出ていた。一夏は今謹慎処分中でIS学園の懲罰房にいる為、休日になると千冬は一夏が出したリストを見ながら欲しい物を購入している。
お互いに買い物を終えた所だった事もあって、千冬と純一はショッピングモール内にあるフードコートで食事を取る事にした。
「僕が入院している間、皆は大丈夫でしたか?」
「あぁ。大丈夫と言えば大丈夫だったが……流石に5組がお前がいないからか空気が重かった。1組も一夏がいなくなった……まるでお葬式のように重くて暗い雰囲気だった」
「取り敢えず僕が明日戻るので多少は和らぐでしょう。一夏の方は大丈夫ですか?」
「それがな……かなり気落ちしていて私でも手が付けられないのだよ」
千冬が1組と5組の様子を話すと、純一も困ったような表情を浮かべる。一夏と純一は在籍しているクラスでかなりの影響力を持っており、彼らの不在は大きい。
5組はクラス代表のナタリアが支えているが、1組はクラス代表の一夏が起こした事件によって雰囲気が悪くなっている。
「そもそもですけど、授業初めて直ぐと言えるタイミングで、大会をやろうと言う事に無理があったんです。せめて一通り学園行事こなしながら勉強して、今年度の行事が終わってからでも良かったでしょうに……」
「あぁ。お前の言葉には一理ある。だが文化祭からまだ時間が経っていないから、IS委員会がIS学園をイメージアップさせたい気持ちは分からなくもない。だが各国の要人を招き、かなり宣伝して行った大会が出オチと言っても良いタイミングで中止になったなんて前代未聞だぞ……」
「しかも中止になった原因が一夏にあったのが余計に……失敗するべくして失敗したと言えばそこまでですけど、今年の学園行事ってどれも成功しましたっけ?」
「少なくとも今年成功した行事はない。何かあると、殆どが一夏関係で中止になっている」
千冬にとって、純一はIS学園の生徒の中で本音を話せる数少ない存在。一夏には話せない事も普通に純一に話す事が出来る。
自分がいない事でクラスの皆の事を心配する純一だが、明日復帰する事もあってまた皆に会える事に何処か喜びを感じていた。
しかし不安材料なのは一夏の事だった。今まで彼が原因で学園行事が中止になる事が多々あり、今回は重傷者まで出す事態となった。しかも原因の一端を担ったのが千冬だったと言うおまけ付きだ。
今回の件で一夏に対する風当たりが強くなり、千冬のIS学園生徒に対する影響力が低下するのではないか。純一はそれを心配している。自分にも火の粉が降りかかりそうな大きな問題になる事が予想されるからだ。
「IS委員会と女性権利団体のせいで、一般人からの信頼は失墜した。折角高いお金出して、何とかお休み貰ってわざわざ来てくれたのに……それだけ楽しみにしていた大会がこんな結果になってしまった。合わせる顔がない……」
「僕達は最初からIS委員会と女性権利団体の欲望と利益の為に利用されていたのか……『カードターミナル』の方々の思いを踏み躙り、一夏の思いを利用し、大勢の人に迷惑をかけた……全ての責任は奴らにあります。僕達の努力は……願いは……一体何だったでしょうね?」
「本当に済まなかったな純一……今回の一件は一夏よりお前の方が一番ダメージを受けた筈だ。起きてしまった事は仕方ないが、今回の件は完全な事故だ。マスコミは事件だと騒ぎ立てているが実際は事故だ。これからIS学園の生徒は厳しい風当たりに晒される事になる」
「まぁそうなるでしょうね……あれだけ宣伝した大会で事故や不祥事が起これば、マスコミが見逃す筈がありません。初めて行った大会が中止になって、世間からは袋叩き。こりゃもうたまった物じゃないです……IS学園の皆がいたたまれないです。高校生が背負えるキャパシティーを超えている……」
純一はデュエルディスクのモニターとなってYoutubeチャンネルに出演したり、雑誌でコラムを書いたり、Twitterを始める等精力的な活動を行う中で、マスメディアとの上手な付き合い方を勉強するようになった。
その中でSNSやマスメディアの恐ろしさをIS学園の誰よりも深く知っている。個人情報の流出はこの情報社会において避けたい事の1つだからだ。
「僕が一番心配しているのは一夏の事もそうですけど、千冬さんもです。世間でも知名度が高く、“ブリュンヒルデ”と今でも呼ばれています。嫌かもしれませんけど、自分はそれだけの実力と名声があると言う自覚を持ってください。今の世の中、家族を巻き込む嫌がらせがあります。それに巻き込まれてもおかしくないでしょう」
「そうだな……ありがとう。気を付ける」
純一が退院してからもずっと、マスメディアの至る所ではIS委員会と女性権利団体、IS学園の問題が中心に取り上げられている。
ニュースを見ていると、千冬と一夏の織斑姉弟の自宅に脅迫文等の物騒な手紙が送られていると言う物もあった。千冬は性格的に気にしていないだろうが、純一が見る限り千冬の顔色はあまり良い物ではなかった。
恐らく一夏と純一の2人を傷付けた事で世論に叩かれ、IS委員会に色々言われているのだろう。その精神的な疲労が蓄積されているとしか思えない。
事実千冬の所には彼女の事を尊敬しているIS操縦者達の激励の手紙から、一般人からの誹謗中傷や脅迫といった内容の物まで届いている。IS業界からの支持が根強い一方、それ以外は全く支持されていない。正に今のISの在り方を示しているようだった。
「まぁここから女尊男卑思想を持つ女性、引いてはIS関係者達が排除されるかもしれないな……」
―――株式会社〇〇に勤務の女性(25)、投身自殺を行う!?
千冬と別れた後、純一は駐輪場に行って自転車に乗ると、真っすぐ帰宅した。帰宅して最初に観たのはスマホ。そこにはIS関連のニュースが速報として出ていた。
IS学園のOGが投身自殺したと言う衝撃的なニュース。その詳細を読んでいくと、この女尊男卑の社会風潮による歪みがまた明らかになった。
自殺したその女性、もといIS学園のOGは女尊男卑思想に凝り固まっていた。IS学園卒業後、彼女は一般企業に就職した。そこで横暴な態度を取って社員を困らせたり、取引先を縮小させる等会社に不利益を与えていた。
ISと言う存在が後ろ盾にいる以上強くは言えない為、会社側は今まで見て見ぬふりをしてきたが、文化祭で発生した純一襲撃事件で一転攻勢に出た。
ISを動かせる女性は男性より優れている。それならば男性の倍仕事をして、給料に見合っただけの成果を出してもらわないと困る。会社側はこれまで女性の後ろ盾だったISを逆手に取り、女性に過剰労働を強いるようになった。
このようなケースは数多く確認されており、被害者の全員は女尊男卑主義者だった。女性は男性より体力が少なく、会社から男性以上の仕事量を押し付けられたら悲鳴を上げたくなるのは当然の事だ。
目の前の仕事が終わってもまた別の仕事を押し付けられ、その仕事を終えても他の仕事を押し付けられる。正に仕事の押し付けによる無限ループ。気が付けば日付が変わる事なんか当たり前の世界。
そんな無限仕事地獄による過剰労働によって心身共に疲弊していき、彼女は過労のあまり投身自殺を計った。今日も世界の何処かでこのような事が起きているとなると、幾ら反女尊男卑派の純一でも表情が曇ってしまう。
ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。
・IS学園に吹く逆風
今回の事件が純一のみならず、彼の周辺や世界を巻き込む事態となりました。仮にも”世界で2番目の男性IS操縦者”ですし、大勢の人の前で重傷を負ったので。
・IS委員会に切り捨てられた女性権利団体
今回の大会の失敗の責任を取る形で追放されました。IS委員会も主催者なのでどっちもどっちな感じは否定できません。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!
皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。