遊戯王IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:LAST ALLIANCE

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今回は小説主人公が退院してからの出来事がメインになります。
この章から原作で学園行事が悉く中止になっている事で生じた皺寄せ(もとい弊害)を記していきます。
動乱と記したとおり、IS学園内で起きる出来事を中心になりますが、この章から本格的に『私立鳳凰学院』も参戦する事になります。


TURN21 チーム・サティスファクションズの立ち上げ

「何か本格的に世の中が変わり始めたな……」

 

 純一が退院してIS学園に戻ってから1週間後。放課後。純一はIS学園の変わり果てた雰囲気に戸惑い、何処か居心地の悪さを感じていた。

 備え付けられているベンチに腰掛け、缶コーヒーを飲みながら、純一は自分がIS学園に復帰したその日にあった出来事を思い出した。

 純一が復帰した事に5組のみならず、彼と関りのあるクラスの誰もが喜んだ。しかし、純一は1組を訪れた時に一夏の席を見て悲し気な表情を浮かべた。

 自分を重傷に追い込んだ一夏は懲罰房で謹慎処分を受けている。そのせいもあってか、1組の雰囲気はお葬式のように暗く落ち込んでいた。

 

「今回の事件でIS委員会、女性権利団体とIS学園に対して一般市民の感情が悪化していると言うニュースが連日報道されているのは皆知っているよね? その原因は織斑君が純一君を攻撃した事。ISが兵器として認識された事。確かにあれは織斑君の意思じゃなかったけど、どちらにしても織斑君がやった事には変わらない。あの事件が切っ掛けで世論はISを兵器と見なし、私達を寄せ付けないようになったわ」

 

「兵器ですか……」

 

「そんな……私達だって被害者なのに……」

 

 1年5組の教室。SHR。担任のナターシャが連日の報道によってISとIS学園に対する悪印象が高まっている事を伝えると、教室中は騒然となった。

 それを制したナターシャだったが、目の前の現実を受け入れる事が出来ない生徒達を見て溜息を付く事しか出来なかった。彼女なりに思う所はあるようだ。

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントでの出来事を受け、世の中は大きく変わり始めていた。そんな中で置かれた立場と状況が変わってしまったのは純一や一夏だけではなく、IS学園の生徒達も同様だった。

 あの出来事を受け、一般市民はISを兵器として見なし、人殺しの道具をファッションのように着飾り、アクセサリーのように何気なく持ち歩いている事に恐怖を抱き、社会から排除しようと動き始めた。

 

「それともしかしたら外出自粛になる可能性も高いわ。今のままだと外出した時に一般市民からの攻撃や誹謗中傷を受ける可能性が高いと考えられているの。今回の一件やSNS等で拡散された映像によって、今は世論が大炎上していると言っても良い。もう誰にも止める事が出来ないわ」

 

 今の世の中は女尊男卑と言う社会風潮が蔓延し、例え女性が横暴を行っても許されるような社会となった。ただ道を歩いているだけで謂れも無い被害を受ける男性が出ているが、それはISと言う存在による優位性が存在していた。

 しかし、その優位性もデュエルディスク登場後に崩れる事となった。今回の大会の失敗は言わば、特大級の不祥事と言っても過言ではない。

 ISの存在を傘にした女性達による横暴に苦しむ者達がそれを利用しない事はない。今までの鬱憤を晴らすが如く、反撃に打って出ている。

 女性権利団体の建物を襲撃したり、デモや抗議活動を起こす等行動を起こしてきたが、それにIS学園の生徒も巻き込まれてしまった形となる。

 

「皆も見たでしょう? 純一君が斬られたのを。彼は文化祭の時も命を狙われた。今度は死にかけた。これでISを尚も競技用パワード・スーツと言い張るのも限界がある。IS企業も批判されているから、もうISと言う存在が世論から批判されているって言っても過言じゃないわ」

 

「そんな……それじゃあ私達がここにいる意味もないじゃないですか……私達のこれまでの努力は……」

 

「だから皆の皆の安全も考えて不便に感じるかもしれないけど、生徒の外出は極力自粛してもらう事になるかもしれないわね。必要な物は通信販売等で取り寄せる形になるかもしれないけど……」

 

「IS学園は社会から孤立するかもしれないって事ですか……」

 

 5組の面々は純一の影響もあってか、どのクラスよりも今回の件を重く受け止めていて危機感を抱いている。無理も無いだろう。クラスの副代表兼参謀と言う重要なポジションにいる男子生徒が、“世界で2番目の男性IS操縦者”が大変な事になったのだから。

 今回の一件を通じて、IS学園は社会からの批判の格好の的となった。もちろんIS委員会と女性権利団体も批判されているが、一般市民にとってIS学園は“女尊男卑主義者の育成所”、“兵器の扱い方を学ぶ場所”と言う認識を完全に抱かれてしまった。

 IS企業は同じISを取り扱う企業だけあって理解を示しているが、そのIS企業も批判を受けている中、何時支援を打ち切られるか分からない状態となった。

 IS委員会と女性権利団体のせいで、IS学園にいる女子生徒達は大変な事態に直面する事となった。彼女達は生贄になったのかもしれない。ISと言う物が生み出した社会の歪みを正す為の生贄として。

 

「父さん。IS学園が生徒達に外出自粛令を出すかもしれないって。必要な物は通信販売で取り寄せる事になるけど……」

 

『本当か!? 通信販売で取り寄せるって言っても応じてくれる企業は普通ないぞ!?』

 

「どういう事?」

 

『今のこの状況だ。IS学園に手を差し伸べる企業はないって事だ。IS企業以外はな。もしIS学園に支援を行った事がバレても見ろ。袋叩きになるだろう。IS学園は切り離されたんだよ社会から……』

 

「マジか……冗談きついぜ」

 

 SHR終了後。純一はスマホで父親の洋介に電話をして状況を伝えながら、駄目元でIS学園への支援を頼んでみた。

 純一の父親は『黒田商事』の社長。『黒田商事』は国内で有数のトップ企業の総合商社であり、今回の事態に決して無力とは言えない。取引先の会社から何かしら良い返事が貰えると純一は期待した。しかし現実は甘く無かった。

 話を聞いた洋介は多少驚きながらも純一に現実を突き付ける。例え通信販売を行ったとしても、応じてくれる企業がいるかどうか。それ程までにIS学園が置かれた状況は厳しくなっている。

 

「と言う事は僕も外出自粛!? ふざけんな! こちとら被害者なんだぞ!」

 

『言いたい事は分かるが落ち着け。こっちでIS学園への通信販売に応じてくれそうな企業をリストアップし、一社ずつ当たってみる。流石にこのままじゃヤバい気がするからな……』

 

「もう頭が痛いよ……」

 

『まぁそう気に病むな。何かあったらまた連絡する』

 

 洋介との電話を終えた後、放心したように純一は大きく溜息を付いて項垂れる事しか出来なかった。事態は予想外の方向に進んでいる。純一としてはもう何もかも逃げ出したいくらい、酷い状況となっている。

 そもそもこうなったのはIS委員会が無茶な事を言い出した事が全ての始まりだった。1ヶ月と言う僅かな期間で、純一と同レベルにすると言う無茶な要求。ISの実習や座学が多いIS学園において、1ヶ月は幾ら何でも短すぎた。

 それに応えるべく、『カードターミナル』と純一が奮闘した結果、このような有り様となった。せめてもう少し時間があれば。せめてアリーナで予行演習さえ出来れば。彼らは悔し涙を流したのは言うまでもない。

 

(今回の一件で恐らく一夏と千冬さんにアンチやヘイトが集まりそうな気がする……今年のIS学園の行事は全て一夏絡みで中止になったし、今回は人の生死に関わる事になった。これ一夏にとってヤバくなるんじゃないか? それに千冬さんも報道で真実をありのままに伝えているけど、事態を引き起こした責任もあるし……もう止めよう。頭痛くなってきた)

 

 思考の海に沈んだ純一だったが、あまりの状況の悪さに頭痛がした為、思考の海から戻って教室に戻る事にした。

 そもそも今回の事態の悪化を招いたのはISに対しての価値観がある。そもそもISは何かと聞かれても、ISに興味ない人でも競技用パワード・スーツと答えるくらい、何処かはっきりしない所があった。

 しかし、今回の事件でISは兵器であると一般社会は認識してしまった。元々純一はIS部隊に殺されかけた事がある為、それを知っている市民達は声を合わせてISを兵器だと認識して排除しにかかっている。

 とは言えどISは兵器であると言い切ったら、日本人の大半は戦争に対して過剰なアレルギーを持っている為、社会から受け入れられない未来しかない。だからこそ競技用パワード・スーツと言って誤魔化す事しか出来なかった。

 そうしないと、IS学園を日本に設置する事が出来なかったのかもしれない。利権絡みの政治の世界の話になるが。

 

(束さん……僕は貴女を恨むよ。貴女が女性を羽ばたかせたいと言っていた物が、今や女性の足を引っ張っている。ISは早過ぎたんだ、世の中に出て来る事が。そして貴女が起こした“白騎士事件”でISの運命が決まっていた。最初から失敗する運命だったんだよISは……)

 

 純一が束に恨み言を内心呟いているのと同じ頃。世界中の何処かにあるとされている束の移動用ラボでは、束は何時ものにこやかな表情を消してモニターを観ていた。

 彼女の表情は何処か元気がなく、まるで追い詰められたような表情を浮かべていた。それを心配そうにクロエが見ている。

 

「束様、一度休んだ方がよろしいかと……」

 

「そうなんだけどね……寝れないんだよ。目を閉じると、ジュン君がいっくんに斬られた時の事を思い出して……」

 

 束は一夏とアンナの試合をマスター・ユウギと共に実況・解説席から観ていた事もあり、運悪く純一が一夏に斬られる場面を見てしまった。

 その時に束の中で何かが壊れてしまった。無理もない。自分が開発した最高傑作を身に纏った大切な人が、同じ大切な人を殺し掛けたのだから。束は気を失い、千冬によって保健室に運ばれた。これには千冬も驚いたと言う。

 後で『白式』を解析して暴走プログラムが仕込まれていた事を知ると、IS委員会と女性権利団体に向けて凄まじい憎悪を燃やした。

 本来の居場所に戻った束だったが、悪化していくIS学園の状況と、次々と明かされていくIS委員会と女性権利団体の悪行を見て自分の無力さに打ちのめされつつ、一夏や千冬、そして箒の心配をしている。純一のお見舞いにも行ったが、そこで純一に心配された。

 

―――束さん。顔色悪いですよ? ちゃんとご飯食べて早く寝ないと、折角の美人が形無しになりますよ?

 

 純一とクロエに心配される程、束の精神状態はお世辞にも良い状態ではなくなった。自身が製作に携わったデュエルディスク。ISの技術を取り入れた“それ”は世界中の人々の心を掴む事に成功し、IS学園で初めての大会が開催される事になった。

 ここまでは良かった。ここまでは束の想定していた範囲内であり、彼女も大会は成功する物だと信じていた。出来れば純一に優勝して欲しいと思いながら。

 しかし、彼女によって予想外だったのはIS委員会と女性権利団体が介入した事。文化祭での襲撃事件で世論からのISとIS学園への信頼を取り戻すべく、大会の主催者として運営を行って大規模な大会を開催したが、結果を言えば大失敗に終わった。

 その結果ISの信頼は底辺にまで落ちたと言っても過言ではないレベルになり、更に言えばISは兵器として社会は見なすようになった。純一が大勢の観客の前で斬られ、重傷を負ったと言う事実がISへの不信感を増大させていく理由となってしまった。

 ISが登場してから、世界は混沌となった。それが今度は何処かで戦争が起きそうな状態となっている。言わば危ない火薬庫状態。

 

「どうしてこうなったんだろうね……IS委員会と女権団体が悪いと言えばそこまでだけど、ISにまで不満が行くなんて……何が悪かったのかな?」

 

 束も危惧していた。今回の失敗で一夏に対しての不信感が出ている事を。何しろ突然暴走して純一を斬り付けたのだから。事情を知らない観客達からすると恐怖でしかなく、それが今の世論を形成した理由の1つだ。

 しかし束は理解出来なかった。何故ISが悪いかと言う事に至る経緯を。全ては自分が自作自演で起こした“白騎士事件”が切っ掛けだと言う事に。あの出来事がISの運命を決定づけた事を束は知ろうとしなかったし、理解しようとしなかった。

 

 

 

「……てな感じで1週間経ったけど、流石にきついなぁこれは」

 

 1週間前の出来事を振り返り終えると、純一は缶コーヒーを飲み終え、ごみ箱に空き缶を放り投げてゴールインさせた。

 純一は先週の土日に実態を調べる為に外出届を出して都市部を歩いてみたが、同じく外出届を出したIS学園の女子生徒が販売店では突っぱねられ、飲食店から締め出され、遊園地には立ち入り禁止を言い渡されるわ、とにかく散々な目に遭っているのを見た。

 幸い純一は眼鏡を外した姿で街を歩いていた為、普通にお店に入れたり出来、自分の事を明かした時、色んな人から励ましや同情の声を受けた。

 IS学園は今後の学園行事を中止にせざるを得なくなった。例えば運動会や修学旅行。その為、普通の学園生活を送る事を余儀なくされている。

 と言うのも、各国要人を招いた大会で重傷者を出してしまい、しかもその人が今勢いがあり、世論に影響力がある男子生徒だった事も裏打ちされ、各国の政治家やIS企業の面々が慎重な行動を取らざるを得なくなった事も関係している。

 

「まぁ原因はIS委員会と女性権利団体があるとは言えど、IS学園も色々やらかしているね……こればかりは仕方ないか」

 

 その為、純一が校内を歩いているだけでも雰囲気と居心地の悪さを感じ取れている。それに加え、このような状況を作り出した原因がIS委員会と女性権利団体にあると言う事から、フラストレーションをぶつける対象がいない事が加速させている。

 純一に重傷を負わせた一夏は懲罰房にいて、しかも姉は世界最強の実力者。下手に手出しをしたら何をされるか分からない為、彼女達は何とか不平不満を抑えながら今の生活を送っている。

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントの失敗。それによって生じた影響は世間一般のみならず、IS学園にも大きな影響をもたらしていた。その中で純一は現実を受け止めているが、それでも予想外の展開に頭を抱えている。

 

「このままIS学園はどうなるのかな? 早くこんな所からおさらばしたいよ……それに新しくデッキを組んだのは良いけど、果たして真価を発揮出来る日が来るのか……現状は分からないよ」

 

「こんな所にいましたか」

 

「ナタリアさん……」

 

 純一が自身の左手に付けている腕時計、もとい待機状態の専用機ことデュエルディスクを眺めていると、とある女子生徒が唐突に声を掛けてきた。

 その女子生徒の名前はナタリア・スアレス・ナバーロ。純一が移った5組のクラス代表でスペインの代表候補生。金髪をポニーテールにまとめた女子生徒。彼女は純一の隣に腰を下ろして座った。

 

「逃げているんですか? 目の前の現実から」

 

「逃げている……? 僕程目の前の現実に抗っている人はIS学園の中にはいないと思うんだけどね」

 

「分かっていますよ。純一君が一番今回の失敗を真剣に受け止めていて、一番の被害者である事も。でも純一君。今回の失敗はもう純一君一人で解決出来る領域を超えています。最早世界中の問題となっています。それを全て抱え込み、一人だけで悩んでいるって言うのは逃げている事と同じなんです」

 

 ナタリアは純一の隣に腰掛けると、純一の苦悩や立場を理解している上で、純一の事を“目の前の現実から逃げている”と批判した。

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントの失敗。それは純一が重傷を負った事も含めてニュースで話題となり、連日連夜報道されている。ナタリアですらうんざりするくらい。

 更に主催者のIS委員会の杜撰な対応や女性権利団体の汚職や不正行為も併せて公表されると、更なる炎上が発生した。勿論IS学園も無関係ではない。連日の報道のおかげもあってIS学園にも風評被害が及び、民衆の怒りが向けられている。

 

「こんな事を言っても慰めにもならない事は知っていますけど、敢えて言わせてもらいます。例え純一君が専用機を展開して織斑君と戦っても、どの道大会は中止になっていました。一般客もいる中、突然専用機が暴走したんです。あの中で続行したとしても、結果は目に見えていました。そもそも素人のIS委員会が主催で行い、女性権利団体の介入を許した時点で大会は失敗に終わる運命だったんです」

 

「そうかもしれない……それにしても随分と冷静なんだね」

 

「いえ、私も今回の件で自分の身の振り方について考えないといけないな~って思ったんです。純一さんには私の事を話していなかったですね……」

 

「ナタリアさんの事?」

 

「はい。そう言えば、こうしてのんびりお話しする機会が無かったですね。どうして私が代表候補生になったか」

 

 そう言うと、ナタリアは純一に自分が代表候補生になった経緯について話し始める。ナタリアは勉強・運動の両方共に平凡だった。何が秀でている物はなく、何か輝くような物は無かった。只の平凡な少女だった。

 そんな少女はISの適性検査を受けた結果、平均以上の適正値を叩き出した。この時分かった。自分にはISがあると。自分の力で空高く羽ばたく事が出来ると。何もない自分にも居場所がある事が。

 それからのナタリアは本人の努力もあって代表候補生試験に合格し、見事代表候補生になる事が出来た。しかし、ここからが本当の闘いだった。

 代表候補生は国家代表になる為の戦いと、代表候補生としての地位を守る為の戦いがある。各国の代表候補生の中でも平均レベルなナタリアは、自分の地位を脅かす人が出て来る事を怖れながら、国家代表になろうと努力し続けた。

 そしてIS学園に来てからは特に目立った所はなく、学園行事の相次ぐ中止に内心不満を抱えながらも、今日まで一生懸命に駆け抜けてきた。

 

「そうだったんだ……で、今は国家代表になりたいの?」

 

「それなんですけどね……何だか自分でも分からなくなってきました。ISが動かせるって言っても、今のままじゃ逆に自分の首を絞めちゃいますし……何だか私ってけっこう流されて生きてきたのかなって思います」

 

「別に良いんじゃないかな? 流されて生きるってのは。むしろ僕みたいに自分の考えや意思を持って動ける人の方が珍しい気がする。やりたい事があるんだったら、それを極める為に専門の学校に行った方が良いけど、ここの奴らって本当にISの道に進みたいから入学したのかどうかってちょっと言えない所があるんだよ」

 

「成る程……確かにそうですよね。それを言うなら私もなんですよ。偶々ISの適正値が人より良かっただけで、偶々ISを動かせるのが上手だったから代表候補生になれただけですし。そりゃ努力は当然しましたけど。でもISの道に進みたいかって聞かれるとそうじゃないですし……これをやりたいって言える物がないんですよね私は」

 

「今はそれで良いと思うよ。気付けたって事が第一歩になった訳だし。取り敢えずISの道に進むかどうかは考えているって事で良いんだね?」

 

「はい。今回の一件はIS企業も少なからぬダメージも受けましたし……結局私にはISしかなかったんです。でも今は違います。私、純一君の姿勢を見て色々学んだんです。最初私は純一君の事を疑っていました。今までクラスで一度も話に出て来ませんでしたし、『遊戯王』の大会優勝経験者と言われてもピンと来ませんでした。でも……エキシビジョンデュエルを観て、私の中で何かが変わりました。あの時の純一君、物凄く輝いていて楽しそうでした」

 

 はっきりとした口調で、決然とした表情で話すナタリアの思いを否定せず、純一はデュエルディスクを見ながら考える。

 確かに自分は逃げているのかもしれない。これからの事が不安で仕方がなく、自分がどうなるかさえも分からなくなった。それでもナタリアのように藻掻き、苦しみ、抗いながらも頑張っている人もいる。

 ならばやる事はあるのではないか。未来に悲嘆せず、目を逸らさずに現実に抗い続ける。そうやって生きていたら物凄い幸運が天から降り注いだ。だから今後も同じように現実に抗い続けよう。

 

「まぁそうだったね……あれは本当に台本なしのガチンコだったからねぇ」

 

「そして純一君が5組に来て、『遊戯王』を教えてくれたりしていました。正直凄い楽しかったですし、もっと色んな事が知りたくなりました。いつもだったら何かをやらされたり、流されるしか無かった私が初めて自分の意思で何かをやりたいと思えた瞬間だったからです。ISしか無かった私に道を示し、認めてくれる人がいるんだなと気付けたんです。だから私は自分の意思でやりたい事を見付けたいです」

 

「……ありがとう。ナタリアさんが初めてだよ、こういう形で僕にちゃんとお礼言ってくれたの。それだけで分かった。僕がやってきた事って無意味じゃなかったんだなって」

 

「はい! あ、そうだ。純一君……あの……一緒に同好会やりませんか?」

 

「同好会!?」

 

「実は私と比奈さんと神楽さんで話したんです。折角試合に向けて練習してきたのに中止になった今、このまま終わりたくないって言う話になったんです。デュエルディスクも使う場面がこれから減るだろうと思います。だったら普通に『遊戯王』で対戦して楽しもうって話になって……それなら純一君が退院してから話をしようかと……」

 

 ナタリアからお願いされた同好会の話に純一は驚き、目を丸くさせながら話を聞く。流石に同好会と言う言葉が出て来るとは思ってもみなかった。

 ナタリアは純一の手を握り、お願いするかのように目を伏せながら言葉を続ける。まるで純一に願うように。純一を信じるように。

 

「駄目ですか? メンバーは今の所は私と神楽さんと比奈さんしかいませんが、『カードターミナル』の方が全面的に協力してくれると約束してくれました。それに私達の他に『遊戯王』が好きな人や、何か楽しい事や気晴らしが欲しい人の為の居場所になりたいと思って……」

 

「成る程な……でも同好会をやるって言うなら生徒会長の楯無さんに届け出を出して、顧問の先生も探さないと駄目だよ? その辺は大丈夫?」

 

「はい。ナターシャ先生が顧問に、後は純一君がリーダーになって、人を集めて届け出を出せば大丈夫なようにしています」

 

「準備万端だなおい!?」

 

「フフッ♪ 純一君が入院している間に手配しました♪」

 

「凄ぇな……参ったよ。そこまでして同好会をやりたいって訳ね。確かに外部に向けての活動は出来なくなったけど、学内で活動する分には大丈夫だな……」

 

 純一が入院している間、ナタリアは『遊戯王』同好会の立ち上げに向けて大きく動き出していた。メンバーを集め、顧問の先生を決め、後は届け出を書いて生徒会に提出する所までの段階となっている。

 現段階のメンバーは純一の他にナタリア、比奈、神楽の合計4人。学年別クラス対抗デュエルトーナメントでの1年5組の出場メンバーが集っている状態。そこに担任のナターシャを顧問に据えている。

 更に『カードターミナル』の全面協力を取り付けた為、『遊戯王』を楽しみながら学ぶ環境が整備されたと言う事になる。

 

「純一君、本当はこのまま終わりたくないんですよね? でないとデュエルディスク付けたままにしてないですし、デッキを持ち歩かないですよね? やっぱり心の何処かで『遊戯王』を続けたい、このまま終わりたくないって思っているんですよね? 違いますか?」

 

「あぁ。僕は5組の皆に優勝させると約束したけど、結局その約束を果たす事が出来なかった。約束を破った事になる。それにこの状況下だ。身動きが取れず、楽しい事も少なくなった中、僕に出来る事を考えたらやっぱりデュエルで魅せる事ぐらいしかないと気付かされてね……」

 

「では純一君。今度は純一君について教えて下さい。1組にいた時、デュエルディスクのモニターになる前の話を」

 

「分かった。あまり良い事はないけど……」

 

 今度は純一がナタリアに1組にいた頃の話を始めた。1組にいた時、純一は一夏の影に隠れるだけの日々を過ごしていた。

 クラス代表決定戦ではセシリアに完敗したが、一夏に辛勝してクラス副代表となって事実上1組のクラス代表として君臨していた。

 毎日専属コーチの楯無の個人指導を受け、確実に上達していったが、専用機が無かった事でタッグマッチトーナメントしか参加する事が出来ていない。そこで初めての実戦を迎え、一夏とのタッグでラウラの暴走を何とか止める事が出来た。

 専用機持ちではないが、結果だけを見ると専用機持ち以上の成果を出していると言っても過言ではない。しかし、専用機は与えられず、中々実力を認められず、無駄口陰口を叩かれるだけの毎日を過ごしていた。

 それでも理解してくれる人はいた。一夏や千冬、真耶や楯無、1組の皆や鈴達といった他のクラスの専用機持ち。彼らは純一の事を理解し、努力を認めている。

 

「僕は最初からIS関係の道に進むつもりは無い。だからISの事を学んでその先に進むIS学園にはいない方が良いんだ。だから皆と見ている景色は同じでも、目指している先が違っていた。だからここでは浮いているような存在だった」

 

「確かお父さんの会社を継ぐんですよね? 純一君の夢は」

 

「あぁ。でもデュエルディスクのモニターになってここでの生活が変わった。今までは何の目的も持てず、ISの事を学ぶだけだったけど、『遊戯王』の授業が始まって責任が芽生えたんだ。経験者で結果を出している以上、それに見合っただけの事をやらなければいけないと思えた。だから自分の知識や経験を極力伝えて、実戦的な事を少しでも理解して貰えるようにしたんだ」

 

「今思うと本当に面白くて理解しやすかったです」

 

「やっていく間に色んな人から声を掛けられて教えたりして、ここに来て輝けなかった僕が初めて輝けるようになった。それに改めて自分を理解してくれる人や認めてくれる人がいるんだなって思えて……だからその人達の為に何かやらないとって思ったけど……今のこの世の中でこの状況になると何も出来ないって悩んでいたんだ」

 

 デュエルディスクのモニターになり、『遊戯王』の授業が始まった事は純一にとって色んな意味でのプラスとなった。

 IS学園の生徒達に実力を認めさせ、人徳も広める事が出来た。同じ1年生だけでも純一を慕う人が続出する程、彼の影響力は計り知れない。

 

「でもナタリアさんが同好会に誘ってくれたおかげで、僕にも出来そうな事が見つかったよ。『遊戯王』と言う世界をもっと見せてやりたい。その気持ちに嘘はない。分かった。その同好会に加わるよ。勿論リーダーとして」

 

「ありがとう!! もちろん喜んで!」

 

 純一は満足出来ていない自分の思いに向き合おうと、自分を慕っている人達の為に同好会入りを決めた。これで純一が同好会の会長となり、同好会を率いる事となった。

 ナタリアは副会長となって純一の補佐を行う。後に“純一派”と呼ばれる一大勢力。それが今ここに旗上げとなった。

 

 

 

「ここが私達同好会の拠点です」

 

「まぁここしかないよな……」

 

 ナタリアに案内されたのは同好会の拠点、もとい『カードターミナル』IS学園店の中にあるデュエルスペース。

 そこは数週間前は女子生徒達で賑わっていたが、今ではその見る影もない。授業の為に渋々やらされていた感じがあった為か、純一も何処か寂しそうな笑みを浮かべた。

 

「あ、ナタリアさん。やっと来ましたか!」

 

「待ってましたよ、2人共」

 

「比奈さんに神楽さん……」

 

「純一君、お帰りなさいです!」

 

「これでやっと同好会として動けますわね」

 

 デュエルスペースの奥に行くと、フリー対戦をしている2人の女子生徒がいた。白井比奈と四十院神楽。純一とナタリアのクラスメートであり、5組の大会出場メンバー。

 そして彼女達を見守っているのはナターシャと俊介。5組の面々が中心となり、同好会を立ち上げた。

 

「今村先生……あれ? 『カードターミナル』の皆さんはどうしたんですか?」

 

「俺以外は皆自分の担当している店だったり、本部に戻ったよ。この世の中だ。IS学園への批判に巻き込まれたくないからな……特に大樹さんはIS学園に対して完全な不信感を抱いている。もうあれは一生直らないだろうな……」

 

「そう、ですか……でもどうして今村先生は残ったんですか?」

 

「俺が残ったのは君の為だよ。君が入院している時、『カードターミナル』の皆はIS学園から逃げるように出て行った。俺はそれが正しい事だと思っていた。ニュースを見てもIS学園、引いてはISその物が袋叩きにされている。そんな時にここにいても意味は無いし、自分達にもマイナスしか残さない。沈みゆく泥船から逃げ出すのは当然だ」

 

「でもな、俺にはここから去る事が出来なかった。それは純一君が理由だった。純一君が5組を優勝させると言って今まで頑張ってきた。聞いた話だと寝る時間を減らしてまで勉強してカード知識を身に付け、自分が『遊戯王』から離れている間の時間を埋めていたって。それを聞いたら俺も最後まで君を応援したくなった。だからナタリアさん達の頼みを、同好会立ち上げに協力する事にしたんだ」

 

 俊介は『カードターミナル』の中でも純一と付き合いが長く、努力や苦悩を知っているからこそ、一人だけIS学園に残る事を決めた。

 良樹や大樹の反対や説得を押し切り、純一の為と言い張り続けて残る道を選んだ。それ以外の面々は荷物をまとめてIS学園から立ち去り、今は元々の仕事に戻っている。

 

「話は分かりましたけど、ここに残ったってやる事はないでしょう?」

 

「まぁね……放課後にならないと君達は来ない。けどさ、今回の件で実はIS学園から逃げ出した教師が数人いたんだ。それが全員一般教員だったんだよ。つまり一般科目を教えられる先生が急遽必要になったって事なんだ。それで俺は理事長先生に打診した。これでも前は有名予備校で講師していて、東大に沢山合格者を送り込んだ経験があるからさ。それに教員免許も持っているし……まさかここで役立つとは思ってもみなかったけど」

 

「それで今は講師みたいな立場に……」

 

「そう言う事。純一君がこの学園を離れる時が、俺もこの学園からいなくなる時だからよろしく頼むよ。じゃあ予定通りリーダーは純一君で、副リーダーはナタリアさんで良いね。あ、純一君。これ申請書だから書いておいてね」

 

「了解です」

 

 俊介から申請書を渡されて必要事項を記入していく純一。その記入が終わると、同好会の名前を決める事にした。

 実は『遊戯王』同好会は現実に存在しており、東京大学等の大学の他にもヤフー株式会社にもある。他にもSNSでも検索すればかなりの数の同好会が見つかる。

 

「さて折角だから同好会の名前を決めようと思うんだけど……実は純一君が好きそうな取っておきな名前を用意してきたんだ」

 

「何ですかそれ?」

 

「これだよ、これ。今の俺達に必要な物さ」

 

「これは……!」

 

「『チーム・サティスファクションズ』……?」

 

 俊介がホワイトボードに書いていく同好会の名前。それは『チーム・サティスファクションズ』。純一が反応するのは無理もない。

 元ネタとなった『チーム・サティスファクション』は『遊戯王5D's』に登場する伝説のチームで、無法地帯と化したサテライトを統一したと言う実績持ち。メンバーは不動遊星、ジャック・アトラス、クロウ・ホーガン、鬼柳京介。

 

「あぁ。世論とか色々な事情でどうやったって、今のIS学園から逃げる事は出来ない。だったら、ここで満足するしかない。ここでデュエルして満足しよう。だからこそ『チーム・サティスファクションズ』と名付けさせて頂いた。ちなみに本家本元から許可を頂いてある。どうする純一君? 何か他にも良い名前があるか?」

 

「……今村先生。それで行きましょう。『チーム・サティスファクション』は伝説を築き上げた。僕は伝説を築こうとしたけど失敗した敗者。でも戦う気力がある限り、まだ負けていません。伝説を築き上げましょう」

 

「決定だな。純一君。後は君に任せよう」

 

「『チーム・サティスファクションズ』……行くぞ!」

 

『オオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 純一はメンバーの意思を確認するように、左右を交互に見やる。右側にいる神楽、比奈、ナターシャの3人は笑顔を見せながら頷き、左側にいるナタリアと俊介はサムズアップをして純一の背中を押した。

 これで全員の気持ちは一つになった。そう確信した純一が声を上げると、誰もいない『カードターミナル』IS学園店で伝説が産声を上げた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
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