遊戯王IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:LAST ALLIANCE
好評なら他のキャラ視点で記していこうと思います。
織斑一夏。彼は『IS〈インフィニット・ストラトス〉』の原作主人公である。IS学園の1年1組に在籍しており、1組のクラス代表を務めている。
女性しか乗る事が出来ないISを世界で初めて動かした男性である為、世間からは“世界初の男性IS操縦者”と言われている。彼は専用機持ちで、“白式”の操縦者。
俗に言うイケメンであり、無自覚に女性をときめかせる言動をする為、数多くの女性から好意を抱かれる事が多い。しかし、恋愛に対しては異常に鈍感なフリをしていて、相手の好意には気が付かないようにしている。
―――俺に告白してくる女性は俺の事をどうでも良いと思っているんだろう。皆して千冬姉の義妹や義姉になりたいだけじゃないのか? 俺の事を好きだって言ってくれる人や、見てくれる人はこの世の何処にもいないんじゃないのか?
IS学園に入学する前、そしてIS学園に入学してからもひっきりなしに数多くの女性から告白されてきた一夏。しかし、彼はわざと鈍感なフリをする事で告白してきた女性の本性を確かめていた。
と言うのも、一夏の姉は世界最強の称号こと“プリュンヒルデ”と呼ばれている織斑千冬だからだ。幼い頃から千冬に守られてきた過去から、“誰か(何か)を守る事”に強い拘りを持っている。
そんな一夏から見て黒田純一は一体どのような人間なのか。『デュエル・ストラトス』が始まるまで一体どのような日々を過ごし、どのような出来事を経験したのか。ここでは普段語られる事のない心情や日々の様子を一人の人間視点で記していく。
「これが純一の……大会優勝経験者の実力か……」
「強いですわ……確実に相手の展開を妨害しつつ、自分は展開して制圧しに来ていますし」
「私達は勝てるのか? 純一率いる5組に……」
俺の名前は織斑一夏。この日はIS学園の学園行事、学年別クラス対抗デュエルトーナメントの初日。俺達1年1組の試合は第2アリーナで第2試合に組み込まれていて、試合を控えた俺達は『カードターミナル』IS学園店で試合を観戦していた。
第2アリーナで行われている第1試合。1年5組と6組の試合。その1本目はかつてのクラスメートであり、俺の親友で“世界で2番目の男性IS操縦者”の黒田純一がデュエルを行っていた。
かつて同じ教室で勉強しながら笑い合い、同じ景色を見ていた仲間と準決勝で戦わなければならない。そう思いつつも、純一対策を踏まえて彼のデュエルを観ていた。
純一のデュエルを改めて思った。強い。本当に強い。大会優勝者の肩書きは伊達ではないと。心からそう思った。
決して派手ではない。1ターン目からソリティアのように展開し、決して崩れない盤石の布陣を築く訳でもない。確実に展開しながら相手の妨害を行い、盤面を自分の思うようにコントロールしていく。正に純一らしい強さだ。
「成る程……織斑先生の仰っていた通り、【Kozmo】デッキを使っていましたか。“魔の9期”、『遊戯王』のインフレが進んだ環境の中でもまれた彼らしいチョイスだ。あのテーマは9期の中盤に海外で生まれ、【ABC】が環境にいた頃に来日しました」
「純一の話によると、束から勧められたと聞きました」
「ほぉ。あのISの生みの親が……是非手合わせ願いたい物です。そう言えば織斑先生は久し振りに他人のデュエルを拝見されましたがどうですか?」
「そうですね……やはり環境の高速化とインフレを感じました。私がしていた時はシンクロ召喚全盛の頃……第7期だったので今のカードはより強く、より複雑になった印象を受けました」
俺達の横でデュエルを観戦している千冬姉と押村先生。千冬姉は第6期~第7期、シンクロモンスターが大暴れしていた頃のプレーヤーであり、【
その千冬姉と純一は1組と5組の合同授業、デュエルディスクの操作方法を皆で覚える時に行ったデュエルで対戦し、激闘の末に純一が勝利した。
俺は信じられなかった。ISでも無敗で、『遊戯王OCG』でも俺よりも強かった千冬姉でも純一には敵わなかった。インフレした環境で鍛えられた純一が凄いのもあるけど。
それでも純一は、“織斑先生は間違いなく強い。今の環境や使われているカードを覚えれば、絶対僕を倒せる力がある。今回は偶々勝てたけど、次は負ける可能性が高い”と評価しつつ、より強さを追い求めるような発言を残している。
―――純一はIS学園で『遊戯王OCG』が行われるようになってから、性格が良くも悪くも変わっていった。闘争を好み、強さと満足を追い求める求道者となった。まるで今までの鬱憤を晴らすかのように……
かつてのクラスメートとして、小学生の頃からの親友として、同じ男性IS操縦者として、純一の活躍は自分の事のように嬉しく思うけど、これまでの純一の事を考えると、何処か喜べない複雑な自分がいる事に気付いた。
『カードターミナル』IS学園店に設置されている巨大モニター。その画面に映し出されている純一の試合を観ながら、俺は純一が1組にいた頃の思い出を振り返る事にした。
俺と純一の出会いは俺達が小学生の頃だった。箒とは小学1年生の時に知り合い、純一とは小学2年生の時に知り合った。
純一は転校してきた事もあって、中々クラスに馴染む事が出来なかった。だからか一人で本を読んでいる時間が多かった。そんな純一が俺と関わるようになったのは、箒が同級生の男子児童からいじめを受けている事だった。
下校途中、箒が男子児童数人に囲まれていた時、通りかかった純一が男子児童達を煽るような言い方をして挑発。それにのった男子児童達と殴り合いの喧嘩になったと言う。
数の上では不利だったけど、純一はそれを物ともしなかった。見ず知らずの箒を助けてくれた純一。俺は箒からその話を聞き、一人本を読んでいた純一に話し掛けた。
―――僕は誰かを救えるような力はないけど、誰かを見捨てる勇気もない。やった方が良い事をやっただけだよ。
こうして俺と箒は純一と知り合い、3人で仲良く過ごすようになった。純一の家に行って遊んだりしたけど、箒が小学4年生の時に引っ越し、IS学園に入学して再会するまで離れ離れになった。
鈴とは小学5年生の始めに俺のいる学校に転校してきて知り合い、それから中学2年生の終わりまで、俺達と一緒に過ごした。中学に入ってからは俺と弾との3人でよく遊んでいたけど、純一とも一緒に遊んでいた。休日以外はな。
何故休日は遊ばなかったかと言うと、純一が断っていたからだ。まさかあの時『遊戯王OCG』をやっていて、しかも大会に出て優勝しているとは思ってもみなかったよ。
そして俺は私立藍越学園を受験する筈が、間違ってIS学園に試験会場に入って受験者用のISを起動させてしまった。こうして男性でありながら特別にIS学園に入学させられたが、その後に行われた適正検査で純一がISを動かせてしまい、俺と同じく強制入学となった。それをニュースで見た時は親友と一緒に過ごせると喜んだ。
でも純一のお父さん、洋介さんから話を聞くと、日本で最難関の高校の入試に合格していたのを取り消され、純一は物凄く怒り狂ったと。死に物狂いで勝ち取った物を取り消され、泣きながら暴れる事しか出来なかったと。俺は本当に申し訳ない事をした。
俺はあの時の事を謝ったけど、純一は特に気にしていない様子だった。でも付き合いの長い俺には分かる。純一は今も心の何処かで俺とISを恨んでいる。自分の人生を狂わせ、そして世界を歪ませた元凶に。
IS学園に入学した俺は純一と箒と同じ1組に在籍する事となった。初日は授業が始まる前までは憂鬱だったけど、純一と箒と再会してその憂鬱は吹き飛んだ。
担任の先生が千冬姉でワーキャー言われていてうるさかったけど、この日から俺は純一の人となりをいきなり見る事となった。
俺が知っている黒田純一は直情的になりやすい俺とは違い、常に冷静で一歩引いた視点から物事を見たり分析したりして、感情に支配される事なく冷静に動ける。それが本当に羨ましい。俺には出来ない事だから。5組に移ってからも決して変わっていないらしい。
入学当初、クラス代表を決める時間にセシリアが暴走(?)した場面があった。日本を侮辱する発言でクラスの雰囲気が悪くなり、思わず俺も反論しようとした時、純一がセシリアの発言を一言で止めた。
「そこまでにしてもらいましょうか、セシリアさん」
それまでは発言を一切せず、クラス代表の推薦にも名前が上がらなかった純一。彼の一言でクラス中は冷水をかけられたかのように静まり返った。
クラス中の視線が自分に集まっても全く気にする事なく、純一はセシリアを見据えながら言葉を続けた。
「セシリアさん。私はIS関係はド素人当然ですが、代表候補生は国家代表の候補生……言わば幹部候補生と言う事でよろしいですね?」
「その通りですわ!」
「今の貴女の行いは代表候補生として些か、いやかなり問題のある行動に思えます。ISを開発した篠ノ之束博士、そしてこのクラスの担任にしてモンド・グロッソ2連覇を達成したブリュンヒルデこと織斑先生はこの国の人間。そしてここにいる大半の人間は日本人。我らの国をイギリスの代表候補生が侮辱した。これは日本とイギリスの間で国際問題になる事は間違いないでしょう」
「……!」
「私が思うに、代表候補生はISの技術や知識だけが人より優れているだけでは務まらないでしょう。常識や良識、態度といった人間力が物を言うと思われます。私から見ても今の貴女は代表候補生にあるまじき振る舞いをしたとうつります」
丁寧な言葉でセシリアの発言の何処が問題があったのかを分かりやすく説明する純一に、セシリアは自分の発言が如何にとんでもなかったかを知り、顔を青褪めていた。
純一は感情ではなく理性で動く人間だ。如何に相手に分かりやすく丁寧に伝えられるかを考え、言葉を選んでいる。それが知性を感じさせているのかもしれない。
「ここは傷口が広がる前に謝るべきです」
「……皆さんの国を侮辱する発言をしてしまい、大変申し訳ありませんでした!」
「まぁ……本人もクラスの事を思って名乗り出た筈が、ちょっと空回りしてしまったみたいです。ここは私の顔に免じて許してあげて下さい」
セシリアが深々と頭を下げて謝罪するのに合わせ、純一はフォローを入れながら一緒に頭を下げた。その姿を見て誠意が伝わったのか、クラスに流れていた険悪な雰囲気が瞬く間に消え失せ、穏やかな雰囲気となった。
その後は“代表候補生と戦える貴重なチャンスなので経験させて欲しい。試合にはならないだろうが”と言い、純一がクラス代表戦に名乗りを上げた。
「純一さん……先程は不快な発言をしてしまい申し訳ございませんでした。そして助けて頂きありがとうございました」
「起きてしまった事は仕方ない。問題はその後だ。……代表候補生らしい振る舞いを心掛ければ、皆も分かってくれるさ。それに入学して早々にクラス内で揉め事が起きるのが嫌だっただけさ。何よりセシリアさんの今後の為も思って……ちょっと言い方がきつくなったけどね」
「そこまで考えていたとは……」
「まぁ親の教育の賜物って奴だよ。僕の父親は大企業の社長で、英才教育って奴をみっちり叩き込まれた。父親に恥じないよう気を付けているし、何より会社の後継ぎとして立派な振る舞いをするように意識しているだけさ」
「そうだったのですね……私は一応名門貴族の出ですが、純一さんの方がしっかりしていますね」
「いやいやいや。僕なんかまだまだだよ……異国の地で慣れない事とか色々辛い事があるだろうけど、何かあったら僕に相談して欲しい。話ぐらいなら聞けるからさ」
「ありがとうございます!」
純一はセシリアと話す内に、何時の間にか彼女と仲良くなっていた。人たらしと言う訳ではないが、これも『黒田商事』と言う大企業の社長を親に持っているからなのか。
物心つく前に両親に捨てられて以来、俺は姉の千冬と2人で暮らしてきた為、親と言う存在がいる人に何処か憧れを抱いていた。それを知ってか知らずか、純一の両親には千冬姉共々お世話になっており、絶対に足を向けられない。
そんな純一は父親を尊敬しており、彼の背中を常に追いかけていた。社長になると言う夢はその憧れの形であり、父親越えの証だと俺には思えた。
ちなみに後日行われた試合はと言うと、セシリアは当たり前の2勝、純一は俺に勝って1勝1敗、俺は2敗と言う結果に終わった。
純一と俺の試合は泥試合となった。近接戦に持ち込みたい俺と、常に距離を取って確実に一撃を与えたい純一。考える事とやろうとしている事が真逆で、しかも初心者同士と言うお互いに決め手に欠けた勝負となった。
それでも1週間専属コーチの指導を受けた純一が最後はペースを掴み、結局俺は負けてしまった。ところがクラス代表は俺になり、副代表として純一がサポートする事となった。
と言うのもセシリアが先の失言もあってクラス代表を辞退し、俺をクラス代表に据えて純一がサポートする仕組みにした方が良いと千冬姉が考えたらしい。まぁ結果的に言えば、そのシステムは上手く行ったんだけど。
「う~ん……どうした物か」
「どうしたんだ純一? カタログなんか読んで……」
それから2組に中国の代表候補生で俺の幼馴染の鈴が編入し、クラス対抗戦で無人機ISの襲撃があったりした。
その後は3組にフランスの代表候補生、シャルロット・デュノアが編入してきた。純一に会った時、デュノア社のIS用最新装備が掲載されているカタログを渡していた。
そのカタログを読み、目を細める純一にデュノア社の最新装備のモニターになってもらおうと言う魂胆に思えた。純一は俺と同じ男性IS操縦者なのに、どういう訳か専用機を与えられていない。そこをデュノア社は突いてきたのか。
「いや……何でデュノア社が僕に近付いてきたのかなって。普通お前だろ一夏。お前の方がIS業界ではネームバリューあるし、広告塔にさせたりすりゃ大儲け間違いないのに……」
「確かに……でもさ、俺って専用機持っているから色々な事情があって無理だと判断したんじゃないか? 今のお前はノーマークだから今の内に話を付けておこうって可能性も有り得るし」
「成る程な……でも何か裏がありそうだな。僕にコンタクトを取ろうとしてきたんだよ?」
お互いに首を傾げ合う俺と純一はデュノア社について調べる事にした。そうしたらデュノア社が何故純一に接触しに来たのかと言う答えが明らかになった。
技術・情報力不足に伴うIS開発の遅れによって、デュノア社は経営危機に陥っていた。それを打開すべく、デュノア社の社長のアルベール氏は第3世代以降のISのデータ収集も兼ねて、純一と俺のどちらかをデュノア社の広告塔になってもらおうと考えた。
しかし、俺は専用機持ちで千冬姉と束さんの後ろ盾があって迂闊には手を出す事が出来ない。そうなったら残る純一に広告塔になってもらうしかない。純一はただの消去法で選ばれただけだった。
「そう言う事か……待てよ、これはチャンスだ」
「えっ? 何がだよ?」
「親父の会社はIS企業と取引しているけど、まだまだ中小企業止まりなんだ。IS事業に参入したのもつい最近だし……経営危機に陥っているとは言えど、量産機ISのシェアが世界第3位の大企業と企業提携出来るのは大きいよ。それに『黒田商事』は情報収集と物品調達力なら総合商社トップだからね。経営危機を解決すれば恩を売れるし、IS企業にもかなりのインパクトを残せるかもしれない」
「お前……まさかデュノア社を逆に取り込もうって訳じゃないよな?」
「そうだけど?」
「ですよね~お前は普段まともな事考えている割に、時々こういうぶっ飛んだ事言い出すから怖いんだよ……」
「そこまでぶっ飛んでなくないか? 親父にはこの事を打診してみる」
この後、洋介さんは純一が言い出したデュノア社との企業提携に賛成し、アルベール氏に打診した。アルベール氏も『黒田商事』の事を知っており、『黒田商事』からの申し出に感謝していたとの事。
こうして『黒田商事』とデュノア社は企業提携を結び、後にデュノア社の経営危機は少しずつではあるものの、解消されていった。
この一件を通じてデュノア社を経営危機から救った『黒田商事』はIS業界でも注目されるようになり、取引したいと言う申し出が引っ切り無しに来るようになった。
シャルも純一に深く感謝し、純一とすっかり仲良しになって放課後のISを用いた訓練で一緒になったり、楯無さんが不在の時にコーチを務めるようになった。純一は、“シャルの教え方は分かりやすくて丁寧で良いんだけど、何かあるごとにデュノア社の製品を勧めてくるんだよ~それさえ無ければ良いのに”とコメントを残している。
俺はこの時気付いた。シャルは純一に好意を抱いていると。本人は気付いているかどうかは分からないが、俺は影ながら応援する事を決めた。
「貴様が……!」
「ッ?」
「私は貴様があの人の弟である事を認めない!」
それからして、今度は3組にドイツの代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒが編入してきた。ラウラは編入初日に廊下で会った俺にビンタをしてきたけど、その手が俺に当たる事は無かった。
恐る恐る目を開けてみると、そこにはラウラの右手を掴んで制止させた純一がいた。彼の目は鋭く細められていて、明らかに怒っている事が分かった。
「そこまでにしてもらおう。初対面の人に平手打ちをするとはどういう事だ?」
「貴様には関係ない! 離せ!」
「断る。この手を離せば君は一夏をはたく。僕は一夏の親友だ。君と一夏の間に何があったかは知らないが、ここで見捨てる訳には行かない」
「ッ……!」
純一の視線の鋭さに当てられたのか、ラウラは掴まれていた手を払いのけてその場を立ち去っていった。それを見て溜息を付く純一だったが、俺の方を振り返ると何時もの穏やかな笑顔を見せた。
後で知った話だが、ラウラはドイツのIS配備特殊部隊、“シュヴァルツェ・ハーゼ”隊長。れっきとした軍人。それなのにものともしなかった純一は凄かった。
ツーマンセルトーナメントの第1試合。俺と純一ペアと、ラウラと女子生徒のペアとの試合中に起きたアクシデント。ラウラが操縦するIS―『
「アアアアアァァァァァッ!!!!」
「あれは雪片!? 千冬姉の機体と同じじゃないか!」
「何だと!?……まさかあの機体、VTシステムを搭載していたのか!」
「VTシステム!? ちょっと待て純一! それって確か今じゃ禁止になっているんじゃ……」
「ラウラの機体を開発したのはドイツだ! あのナチスドイツが君臨していた国だぞ? こういう違法な事をやっていても何一つおかしくはない!」
「そんな……!」
まるで黒い泥に包まれながら、身に纏うISごと別の“何か”に変わっていくラウラ。その姿を見ている俺は唖然となり、純一は険しい顔をしながら構えを取る。
そして突然変異を終えると、そこにはラウラではない別の何かが立っていた。千冬姉が公の場で使用したISこと“暮桜”。
それを見た時俺はキレた。目の前で大切な人を、憧れる人を侮辱された気がしたから。怒りに任せて突進しようとした時、純一が俺の左手を掴んで制止させた。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「おい。何一人で突っ込もうとしているんだ?」
「離せ! あいつは千冬姉の姿をしているんだぞ! 俺にとって大切な誰かを侮辱しているんだぞ! それを黙って見ていろと……」
「一夏。先ずは落ち着け。熱くなって良いのは心だけだ。頭も熱くなってはいけない」
俺を見る純一の目は鋭く細められていた。普段は温和で優しい雰囲気を放っているのに、あの時はまるで猛獣のようなオーラを放ち、言う事を聞かないと叩きのめすと告げられているような気がした。
そのオーラに当てられる形で俺が突進しようとするのを止めると、純一は深呼吸して自分を落ち着かせてから俺に話し掛ける。
「奴を見ろ。こっちを攻撃してこない。恐らく相手が攻撃して来ない限りは手出ししないようになっているんだろうな」
「あぁ……そうみたいだ。攻撃して来ないし……」
「でもだからと言ってこのまま放っておく訳には行かない。このまま放っておくとラウラさんの命に関わる問題になる。こういう状況だと、お前の
「あぁ。その認識で合っている」
「分かった。僕が後ろから掩護する。お前は斬り込め。今のお前の力は“誰かを助ける”為にある。2人でラウラさんを助けるぞ!」
「応!」
その後は俺と純一の2人がかりで黒い“暮桜”と戦い、何とかラウラを助け出す事に成功した。もしあの時純一が止めてなかったら、俺と純一は各個撃破されていただろうし、ラウラも大変な事になっていたかもしれない。純一には本当に感謝する事しか出来ないし、俺もまだまだ未熟だと突き付けられた。
あの後。ツーマンセルトーナメントは中止となり、寮部屋で俺と純一は飲み物を飲みながら話をしていた。
純一の外見は眼鏡をかけた優等生風な優男。一見真面目に見えるし、事実そうなんだけど、心を許した人にはかなりフランクに喋り、自分の全てを曝け出している。
「一夏……お前、あの黒い暮桜と戦った時どうだった?」
「どうだったって言われても……最初はキレたよ。目の前で千冬姉を馬鹿にされたと思ったから。でも純一、お前が落ち着かせてくれたおかげでラウラを助けられたよ。もし俺が止まらなかったらとんでもない事になっていた……自分が情けないよ」
「お前の欠点は直ぐ熱くなりやすい事だ。一度落ち着いて冷静になるべきだ。今回はどうにかなったけど、次からは気を付けてくれよ。」
「肝に銘じておきます……」
「僕さ、あの時すげぇ怖かったよ。あの黒い暮桜を目の前にした時、恐怖で体が動かなかった。だってさ、目の前で急にISが変わったんだよ? 訳分からねぇ事が起きたんだよ? それで平然と出来る奴ってよっぽど凄ぇ奴じゃないと無理じゃん……あの時一夏が動かなかったら僕は何も出来なかったよ。そういう意味では感謝しているよ」
「それはまぁ……良かったよ……」
俺はIS学園に入学して以降、千冬姉や色んな人に注意されてきた。“誰か(=何か)を守る”事に強い憧れを持ち過ぎて、実力や立場を弁えない行動を取ったり、熱くなりやすい事を指摘され続けている。俺も気を付けてはいるけど、中々直らない。
その中でも純一は俺の信念を否定せずに受け入れてはいるけど、必要な時にはこうして注意をしたり、反省を促している。俺に分かるように丁寧かつ分かりやすく。
俺と純一は正反対だと言われる事が多い。外見とか考え方とか。まるでお互いがお互いを埋め合い、お互いを補完しているように思える。
「話は戻るけどさ、僕は初めてこういう不測の事態に立ち会ったけど、やっぱりすげぇ怖かった。得体のしれない何かと戦うのが……別に戦うのが嫌と言う訳じゃない。世界を救える力はないのに、世界を見捨てる勇気がない半端者だからさ。改めて気付かされたよ。ISは兵器だ。戦う為の道具であり、人を殺す事が出来る道具でもあるって」
「でも……ISにはシールドバリア―や絶対防御があるだろ? それは言い過ぎじゃ……」
「あのなぁ~一夏。それをお前が言えるか? お前の専用機の単一仕様能力は自身のシールドエネルギーを消費する代わりに、対象のエネルギー全てを消滅させる事が出来るんだろう? つまり使い方次第では人を殺す事も出来るって事さ」
「人を殺す事も出来る……!?」
「今更気付いたのか? 僕は既に理解していると思っていたよ。ISは兵器だ。“白騎士事件”で一度認識された以上、それを覆す事は出来ない。ここはそんな兵器の事を学び、兵器の近い方を学ぶ軍人養成所みたいな所だ」
純一はまるでISの事を心底憎むように、唾棄するようにISを兵器だと言い切った。俺はその言葉を聞いて反論する事は出来なかった。
純一の言っている事は正しかった。俺が手にした“誰かを守る為の力”は一歩間違うと、“人を殺してしまう力”になってしまう。ISがあっても、専用機があっても必ずしも皆を守れる訳ではない。まるで木槌で頭を叩かれたように、俺は自分の考えを否定された。
「クラス対抗戦の時、お前と鈴が無人機と戦っているのに、僕は避難用シェルターに避難していた。すげぇ怖かったし悔しかったよ……親友が戦っているのに僕は何も出来なかったし、無人機がまるで人を殺す為に送り込まれたみたいに思えて。でも仕方ないよ。僕は専用機も無いし、初心者同然だ。弾除けにもならない。入学した時は同じだったのに、どうしてこんなに差を付けられたんだろう。そう思うと悔しくて悲しかった……」
「だからか……クラス対抗戦が終わった後、お前は思い詰めたような顔をしていたのは」
「ああ。お前の方がISの分野に才能があるのか、或いは専用機のアドがあるのか……今でもよく分からないけど、僕は何も出来ない自分に怒りが湧いてきていた。そんな時に楯無さんに相談したんだよ。“守る物もない、貫く信念もない、戦う事を恐れる自分はこの先どうすれば良いのか”と」
「楯無さんは何て答えたんだ?」
更識楯無。IS学園2年生で生徒会長。現役のロシア代表操縦者。純一の専属コーチであり、IS学園において純一が本心を話せる数少ない人物。
俺は会った事はないけど、純一の話を聞いていると、凄い魅力的で純一が心から信頼出来るなら間違いないと思っている。
「“それで良い”ってさ。“悩んだり、焦ったりしている事は頑張っている事の証明。純一君はISを兵器として見ているからこそ、その怖さに気付いている。何も出来ない自分に打ちのめされたから、少しでも何か出来るようにしているけど、それが上手く行かない。だから悩んでいるんでしょう?”って。僕の心を言い当てたよ……」
「すげぇな……伊達に生徒会長と国家代表やっている訳じゃないってか」
「あぁ。“ここにいる生徒の大半は私から見ても、意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしているように見える。それに比べれば純一君は立派よ。ISを兵器として扱っている。貴方は戦う事の怖さを知っている。大切な人が傷付けられる事の辛さを知っている。自分の無力さを知りながらも、それでも抗おうとしている”と言った」
「“戦士として必要なのは力ではなく心。戦いを怖れるからこそ同じ戦いを怖れる人達の為に戦える。自分の信念があれば、それを貫く為に戦う事が出来る。純一君。貴方は確かに専用機は無く、技術も知識も少ない。それでも戦士として大切な物を手にしている”って楯無さんは言っていた。それからだよ。僕が吹っ切れたのは。僕は織斑一夏じゃない。黒田純一だ。ならば僕にしか出来ない事が、黒田純一にしか出来ない事がある。やるべき事をやる。それで良いって思えるようになったんだ」
「力ではなく心か……確かに俺は力を手にした。でも心がまだ追い付いていない……そう言いたいんだな?」
「あぁ。まぁ無理もないけどね。半年未満の初心者に欠陥品同然の専用機持たせて、教員部隊や専用機持ちで相手するような強敵を目の前にしたら、嫌でも未熟さが出る。そういう事だ」
純一はこの時専用機を持っていなかった。しかし、楯無さんとの個人指導で確実に実力を付け、メンタルトレーニング等を通して成長してきている。
元々大企業の跡取りと言う事もあって英才教育を受けていたのが、自分が目指すべき上に立つ者の姿を見て考え方や振る舞いを見ながら学習しているみたいだった。
純一には夢がある。父親の洋介さんが社長を務める大企業、『黒田商事』の跡を継ぐと言う夢が。それに向けて一生懸命勉強を重ねたり、毎日走り込みと筋トレをしている。常に自分を鍛え続けるその姿に、俺は思わずその夢を応援したくなった。
そんな純一は俺にこうして大切な事を教えたり、色々な話をしてくれる。俺は純一の話を聞く事が好きで、純一も色んな人と話をする事が好きだ。IS学園にいる数少ない同性と言う事もあって、俺と純一は絶対と言える程強固な信頼関係を築いている。
2学期に入って学園祭の準備が始まった。俺のいる1組はメイド・執事喫茶をやる事になったけど、純一は“自分に執事服は似合わない”と言ってサボろうとしていた。
それをクラス全員と千冬姉と山田先生で説得して参加させる事に成功したけど、意外に純一の執事服姿も似合っていた。むしろ俺がいるよりお客さんが来ていた気がする。やっぱり外見だけじゃないんだな……
ただこの学園祭は中止となった。純一が女性権利団体が雇ったIS部隊に襲撃を受け、そのIS部隊が一般客を怪我させたのだから。おかげでIS学園は連日テレビで叩かれる事となり、IS学園はかなりピリピリとした雰囲気に包まれる事となった。
おかげで専用機限定タッグマッチは中止となり、純一が冗談交じりで一度皆でお払いに行かないかと言う程だった。
そんな時に俺達の運命を大きく変える出来事があった。それはとある日の放課後。専用機持ちの俺達は千冬姉に呼び出された。
「……急に集めて申し訳なかったな。今日集まってもらったのは他でもない。実はIS学園で『遊戯王』をやる事になった」
『えっ!?』
「な、何で『遊戯王』なんですか?」
「『呉島エンタテインメイトスタジオ』と『KONNAMI株式会社』が企業提携を行い、デュエルディスクを開発した。元々『呉島エンタテインメイトスタジオ』は『ソリッドビジョンシステム』を開発していたから、『KONNAMI』が目を付けたんだろうな。その先駆けとしてISにデュエルディスクを搭載し、デュエルをする『デュエル・ストラトス』を行う事となった」
「で、でも織斑先生……私はカードゲーム経験ありませんよ?」
「俺も小さい頃に遊んでいたレベルで……」
俺達は驚く事しか出来なかった。まさかIS学園で『遊戯王』をやるなんて。しかもデュエルディスクを使って行うなんて。『遊戯王』のアニメで出ていたデュエルディスクが現実に出て来るなんて思いもしなかったからだ。
でも不安に思った。俺は『遊戯王』は小さい頃に遊んだ程度だし、セシリアは全くの未経験者。この時集まっていた中には経験者はいるけど、俺達だけで補う事が出来るのか。そう心配になったが、千冬姉が言葉を続けた。
「ああ、それは分かっている。その為、特別許可を頂いて『遊戯王』に詳しいカードゲーム業界の方を講師として招く事にした。『カードターミナル』と言う業界再大手のカードショップのスタッフが担当してくれる事になった。それとここにいない人物がデュエルディスクのモニターに選ばれた」
「それって誰ですか?」
「純一だ。奴は高校受験の本格的な勉強に入る前まで、『遊戯王』のプレーヤーだった。大会で何度も優勝する程強い。話をした時、純一から直接聞かされたよ。まさかのガチプレーヤーだったとは。私も自分のデッキを持っているが流石に古いカードでな……デッキも純一がくれたカードで大幅に強化された」
『遊戯王OCG』はかなりテキストが複雑で効果処理が面倒なカードゲームだ。幾らIS学園の女子生徒が優秀だとしても、自主学習で上達出来る程甘くはない。それをカードゲーム業界の方が教えてくれるのは心強い。
そして驚いたのは純一がデュエルディスクのモニターに選ばれた事だ。まさかガチプレーヤーだったなんて思いもしなかったよ。大会で何度も優勝した!? マジかよ!? 化け物じゃん! そりゃ選ばれて当然だよ。
「本題に入ろう。今日集まってもらったのは皆に専用機に付けるデュエルディスクと、『遊戯王』カードとルールブック等を渡す為だ。学園祭で純一が襲撃された一件で、IS学園の印象が悪くなったのは皆も知っているだろう。そこでIS学園のイメージアップも兼ねて、『遊戯王』の大会を行う事が決定した」
こうして俺達はIS学園で『遊戯王』の勉強をしながら、切磋琢磨していく日々を過ごすようになった。途中で純一がクラスを替えられたりしたけど、俺はクラスをまとめながら頑張っている。
純一にはまだまだ及ばないけど、それでも俺は前を向いて一歩ずつ前進する。皆を守れるように強くなる為にも。心も体も。
ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!
皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。