しかし、それはもしかしたらあなた自身の好奇心を恨む結果になるかも…。
「指揮官は何で酒を飲まないんだ?」
唐突にM16にそう聞かれたのは確か1ヶ月前だっただろうか?
まあ、疑問は最もだ。
俺の所属する司令部は人間、人形問わず酒好きが多い。
今でも付き合いのある正規軍のロバートや、
今目の前にいるM16なんかがいい例だろう。
(まあ、俺は別に飲めない程下戸でも呑まれる程飲み過ぎるわけでも無いんだけど。)
では何故飲まないのかと言えばただ単純に酒が嫌いだからである。
味が嫌だとかそういうのではなく、幼少期の出来事に由来する。
人形に殺された母親の顔はあまり覚えていない。
けどそのせいで飲んだくれる父親の姿は昨日の事のように、
とはいかないがそれなりに鮮明に思い出せる。
(俺に暴力をふるうとかは無かったけど、
いっそそうしてくれた方がシンプルに憎めたという点では苦痛だったな。)
本日九本目の煙草に火を付けながら思う。
もし、自分が父に教えられた通り
『人間の本物の生命こそが至上で、
人形のような偽物の生命は淘汰されるべき。』
とかいうイカレ思想に進んでいたらどうなっていただろうか?
(少なくともこの職場にはいなかったな。)
命懸けだが、給料はそこそこ良いし、稼ぎも安定してる。
このご時世にしては福祉厚生なんかも整ってるし、
なにより人形とは言えこんなにいい女に囲まれた職場にケチを付けようものなら罰が当たるだろう。
「指揮官、お茶が入りました。」
「お、サンキュー416ちゃん。今日のは紅茶?」
「はい。どうですか?」
「美味いよ、俺が自分で淹れるのより。」
そう言ってやると416は嬉しそうに笑って下がっていく。
この司令部では俺の諸々のサポートを人形たちがローテーションでやっている。
余計な外部からのを雇わなくて良いという面では機密管理の点から大いに歓迎すべき点なのだが
「しっきか~ん!」
「おお、おかえりSOPMODちゃん達……その、ジャンクパーツでできた不気味なオブジェは?」
「今日やっつけた鉄血のハイエンドとその部隊で作ったやつだよ!指揮官にあげる!」
「そ、そうか……俺が私物置いてる倉庫にでも置いといてくれ。」
「ラジャー!」
機械油の跡を残しながら運悪くSOPMODにの隊に遭遇してしまった哀れなる鉄血だったオブジェは引きずられていった。
また何人かハンドガンの子達が吐いちゃうんじゃないだろうか?
心配だ。
「SOPMODも飽きないですね。今月七つ目ですよ?」
「知ってるか?あれ前に正規軍の知り合いに写真送ったら言い値で買うって言われたんだ。」
「!? あれに、ですか?」
「ああ、さすがにびっくりして何に使うんだ?って聞いたら同僚の寝室に置いて思いっきり脅かすって言ってた。」
「悪趣味ですね。」
「あのへリアンさんを抱ける男だ。酒以外悪趣味の極みのような男だ。」
「あの
「おいルビがおかしい。」
本人の前で言わない様に釘を刺すと俺は仕事に戻った。
ここの所、人形たちからのアピールがすごい。
理由は分かってる。少し前に404小隊のUMP9の馬鹿が何を勘違いしたのか、俺とM4A1が肉体関係じゃないかと疑い、M4を監禁、尋問したことがあったのだ。
それでM4ちゃんを救出したときに、ナインに何を言われたのか知らんが俺の唇を奪うと
「今の半分ぐらい、大胆でいい気がします…。」
なんてことをしてくれたわけだ。その話が人形たちに伝わり切ってアピール合戦に発展するまでにそう時間はかからなかった。
俺的には、職場内恋愛とか最悪だと思っていたのだが、
この女ばかりの職場で希少な男性というのは相対的によく見えるもんなのか、意外と俺は競争率が高いらしい。
(勘弁してくれよ、もし俺が冗談ででも恋人いるとか言ったら戦争起こる空気だよ……。)
俺はつくづく面倒ごとに巻き込まれる星の下に生まれついたらしい。
昨日なんか寝てるうちに誰かが入ってきたのをベッドの下に待機していたUMP9が銃を乱射して撃退するなんて事件があったぐらいだ。
(あーダメだ!このまま考えてると絶対だめだ。くそ!)
「指揮官?大丈夫ですか?」
「割とだいじょばない。」
「じゃあ気分転換にここの資料が足りなかったので取りに行ってきてくれませんか?」
「わかった。ついでにちょっと歩いて来る。」
「いってらっしゃいませ指揮官。」
あの資料は確か、明日までに目を通しておけとコピーしたのを渡されてた筈だ。わざわざ資料室に探しに行くより自分の部屋に取りに行った方が早そうだ。
(ここにくるまでは少なくとも映画のトラン〇フォーマーよか話は通じると思ってたが全然そんなことない。)
いつだったか友人と見た特撮なるもので嫌味な白い服の45歳の若作りが
『人工知能には芽生えた自我を制御できない』
みたいなことを言っていたような気がする。
多分そういう事なんだろう。彼女たちはまだ芽生えた幼い感情を持て余しているのだ。
(例えばさっきからずーっと俺の跡をつけてくる娘とかな。)
振り返ったわけでもないので誰かは分からないのだが、
指令室を出たあたりからずっと背の低い人形につけられている。
(誰だろ?うちにそんなシャイな子いたっけ?ん?)
そんな風に考えて歩いていると道の真ん中にでっかいネジが落ちている。
(こんなでっかいネジ何の部品だ?
うちにこんなの使うような武器なり道具なりあったっけ?)
折角だし後ろの娘に聞いてみようと振り返る。
「見-つけた!G41!」
ベビードール風の衣装に…多分何かイヌ科動物の耳をはやしたロリっ子人形のG41がいた。
手には、なぜか注射器を持っていたが、それをかなぐり捨てると四つん這いになっては!は!と期待するような目でこっちっを見上げてくる。
「?………もしかしてこれが欲しいのか?」
ネジを見せるとぶんぶんと元気よく首を縦に振る。
「よーし、良い子だ、とってこーい!」
フェイントにもひっかけられずにG41はブルートもびっくりするようなスピードでネジを追いかけていった。
これが始めると俺の方まで楽しくなってくる。
俺はG41と日が暮れるまで遊んだ。
そのあと当然の様に416から説教の嵐を食らう羽目になったけど。
「それは指揮官が悪いでしょ?」
「それにこちらにも遅刻寸前ですし。」
「で、ですよね~」
AK-12とAN-94に咎められる。
今晩は二人に俺とM16を加えた4人で食事をする約束だったのだ。
「あー!にしても久しぶりに銃撃ちながらとかじゃなく普通に走ったな。」
置いてあったお冷を一気にあおり空にする。
するとなぜかAK-12、M16が
「あ、マズい」
みたいな顔になる。
「んだよ糸目に眼帯。俺が水飲んじゃ悪いかよ?」
「い、いえそんなことは!」
(な、なあ!指揮官の様子がおかしくないか?)
(いつもなら呼び方名前にちゃん付けよね?)
(流石にお冷とウォッカをすり替えるのはマズかったか?)
指揮官は店員にお代わりを頼むとそれがウォッカだと気付かないまま一気飲みした。
「ぐびっ!ぐびっ!ぐびっ!あ゛ー!!ところで眼帯!
お前にはそろそろ一言言っとかないといけないと思ってたんだよ!」
「は、はい!」
「おめえも思春期真っ盛りかもしれねーけどな!
しばらく見ない間に髪真っ白に染めて悪い奴らの所に家出とかどうゆうつもりだ!
聞いた話だと挙句の果てに404と喧嘩するわ反逆小隊をバイクで追い回すはひでぇ荒れようだったって聞いてるぞ!」
「そ、それは……」
「すこしはそこのお淑やかな94やM4ちゃんを見習え。
おい店員!この子にシンデレラ(ノンアルカクテル、めっちゃ甘い)を!」
(いや指揮官!?間違ってません。間違ってませんけどなんですかその最近他校の悪い男と付き合い始めた娘に対する父親の愚痴みたいなの?)
「あの、指揮官?M16の髪は染めたと言うより脱色」
「94、ズレた突っ込みしないで話しこじれるから!」
さらにお代わりを頼みそれもまた喉を鳴らして飲み干す指揮官。
トレードマークの青いスクエア型フレームの眼鏡のブリッジを押し上げこんどはAK-12に狙いを定める。
「おい糸目、関係ないみたいな顔してるけどお前にも言っておきたいことがある。」
「!?」
「お前さぁ、自分の事出来る女とか思って無いか?」
「え?」
「癪に障るんだよ、お前の出来て当たり前みてぇな態度。
そしてそのエロい身体!お前的には自信満々にふるまってるだけなのかもしんねえけど絶妙にムラムラさせられる。一発合体したくなる。」
「なぁ!……な、何を!」
(いや確かに?私もなんか歩き方がお高く留まってるとは思ってたけどそこまで言うかよ指揮官?)
「ねえM16、合体ってどういう意味?」
「94、言われてる本人に聞かない程度に空気が読めるなら私にも聞かないでくれ。」
「すこしはこの純粋無垢な94を見習え。
おい店員!あとでこの子になんか甘いお菓子を!」
「し、指揮官あのそろそろ」
「あ!?なにがそろそろだ?まだ何の料理も頼んでねぇだろ!
おい店員!サーロとナッツ持ってこい!!」
(なぜそこで絶妙にウォッカとマッチなおつまみを頼む!?)
(本当は酒だってわかってるんじゃないの!?)
「指揮官私も頼んでいいですか?」
「おう!遠慮すんな!あれだ、アヒージョとかもいいぞ!」
(そして94を甘やかす。)
(飲み屋に一番下の娘連れてきた父親か!)
そして指揮官はウォッカとは知らずにお代わり。
もう三杯のウォッカを一気飲みしたことになる。
さっきから指揮官に褒められ奢られAN-94は笑顔ホクホクだ。
「なあAK-12?どうする?このままだと指揮官止まんねーぞ?」
「どうするもこうするも止めようがないわよ。
この人人形より反応速度速い時有るのよ?」
下手に酒を取り上げようものなら『テメェいったいどうゆう了見だ!』と理不尽にブチギレられて快速修復送りにされてしまう。悪酔いした人から酒を取り上げるなんて普通の了見なのに。
「うふふふ、ふふふふふ!
なんだか今日の指揮官は愉快ですねフフフ!」
「94あなたまでどうしたの?」
「こいつアルコール飲んでないよな?」
「もしかして場酔いか?」
「うるせえぞお前らぁ……そうだ眼帯。お前悪いことしたと思ってるなら一発芸しろ。」
「い、一発芸?」
その疑問に指揮官は満面の笑みと煙草とライターで答えた。
嫌な予感しかしない。
「三本同時に火をつけて火傷しないように口の中に入れるんだ。」
案の定だった。しかもめちゃくちゃ難易度が高い。
「ほら、あーん。」
「い、いやあーんって」
「あ゛ーん゛!!!!!」
「は、はい!」
脅迫の末、煙草に火を付けられる。
(ま、まずぞ。こ、これを口の中に……。)
AK-12はかつてなく集中しているM16の邪魔をしてはならないと完全に小さくなって動かなくなっていた。
少しの揺れが彼女の命に係わる。
「お!?いっちゃう?眼帯さんいっちゃいますか!?
あそれやーけーど!やーけーど!やーけーど!」
「M16ファイト!M16ファイト!がんばれぇええ!!!」
(少しは空気読めこの酔っ払いども!立ち上がって手をたたくな!
メッチャ揺れるんだよ!周りの他の客も乗ってきたじゃんか!
どいつもこいつもでかい声出すな!空気が震えるんだよ!)
悪戦苦闘しながらもなんとか三本とも口の中に入れることに成功する。
店中から歓声が上がる。
(よ、よかったぁああああああ!!!!!!!!
「いや~感動したぞM16!これはご褒美だ!おい店員!
ジャックダニエルを持ってこい!」
持ってこられたジャックダニエルを開けると指揮官は
「さあご褒美だ!ほーれ一気一気!!!」
煙草が入ったままのM16の口に流し込んだ。
「██████▅▅▅▃▄▄▅▅▅██████▅▅▅▃▄▄▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▃▃▄▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▃▃ァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!」
もはや声になってない音声をあげながらM16は撃沈した。
(………神様、お願いです。普段お酒を飲まない人にお酒を飲ませるなんて間違ってました。
謝るし何でもいいのでここから逃がしてください!!)
翌朝、倒壊した飲みだった店から4人は無事回収されたそうです。