GOD EATER 2 ‐刃と命で護るもの‐   作:金科玉条

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喪失の悲しみは癒えるものではない
しかしそれを乗り越えて、彼らは進む
更に多くの喪失を産まないために、戦う
それがゴッドイーター、「神を喰らう者」


4:極東の夕暮れ

 フライアの現在地から、遠く南へ―――かつて、様々な陰謀と想いが交錯した『激戦区』――

そこにはフェンリル極東支部、またはアナグラと呼ばれる巨大な施設があった。

 そこは常にアラガミとの戦闘最前線であり、どの支部よりも多く、どの支部よりも逞しく、どの支部よりも雄々しく、ゴッドイーターたちが戦っている。

 そんな極東支部のエントランス、賑やかに口喧嘩をする二人がいた。差し込む西日は傾きを強くして、オレンジ色の有機的で温かな陽光がエントランスを照らしている。

「あのさ、いい加減にしてよね!」

「なんのことかな、僕は至って平静に任務をこなしたつもりだったが」

「何が『至って平静』よ!あんたいちいちうるさい!戦闘中に叫ばないでよね、気が散るんだけど!」

 その言葉に、ブロンドヘアーを優雅に顔の脇でカールさせた青年は大きくのけ反り、大仰に手を上げる。

「何を言う、我が妹よ…あれは僕の正義の覚悟と!闇を払う意思の!現れではないか!」

 それに対して、彼よりも頭一つぶん背の低い少女は心底呆れたように言った。

「誰がアンタの妹よ!だいたい何よそれ、すっごいダサいじゃない!」

「ああ、エリナ……君が不安なのはわかる……喪失の悲しみは易々と癒えるものではないことも、先刻承知だ………だがしかし、それではけして前は向けないのだ」

「何わけわかんないこと言ってんの!?私はただ静かにしてろって言ってるんじゃん!」

「……そう、だからこそエリナ、この僕に全て任せて、未来へ向く希望を」

「……聞いてないし」

「ああ、我が妹よ!」

 そして、ブロンドの青年――エミール・フォン・シュトラスブルクは、エリナ――エリナ・デア・フォーゲルヴァイデの肩をがしっとばかりに掴もうとした。

 無論のこと、エリナはさらりとかわす。

「何よ!」

「何故逃げる……そうか、恐ろしいのだな!?この僕を認めることで、兄の存在を」

「いい加減静かにしろっていってんでしょ!」

 とうとう、エリナは肩を怒らせて歩いて行ってしまった。残されたエミールは、彼女を追おうとして――

「その辺にしとけよ」

 突然、彼は後ろから声をかけられた。

「……おや」

「よ、エミール……毎日、よくやるねえ」

 右眼に眼帯をした、エミールよりも少し背の高い黒髪の青年――と表現するのが正しいだろう。細く鋭い目を更に細め、夕暮れの光を嫌うように肩をすくめている。

「ヴァルデルト君ではないか……任務が終わったのだな、お疲れ様」

 ヴァルデルト、と呼ばれたその青年は、つかつかと近寄ると、エミールの両肩にその両手を置いた。

「誰かを失うってのはな……決して、第三者が理解できるもんじゃねえ感情なんだ。たとえ割り切ったと自負しても、一生ついて回る感情なんだよ。だから、扱いには注意した方がいい……噛みつかれるぜ」

 諭すように言ってから、ふわりと笑んで、ヴァルデルトは背を向けた。彼は少し腹が減っているのである。

「……うむ…少し言いすぎたな、反省しよう」

「それがいいぜ……あ、お前暇か?よければ飯でも食おうぜ、腹減っちまってよ」

 ポケットに手を突っ込んだまま、のらりくらりと彼は言う。そんな彼は、かつて―――2073年の冬ごろ、ドイツから精神療養のためにやってきた。

 2073年といえば、エミールがちょうどドイツ支部に入隊した年である。

 エミールが初めて会った現役の神機使いは彼だった。20歳の彼に、ひとつ年上のヴァルデルトは気さくに接してくれたものである。

 当時――まだ神機使いとしてひよっこであったエミールと違い、彼は15歳の頃から神機を扱ってきていた。

 そんな彼とエミールは友人となり、共に数多の任務をこなしていた―――

彼の昔話は、またいつか語るとしよう。今ここで語るには、あまりに重く、割に合わない。

「悪くない話だが……僕は遠慮しよう。これから少し、リッカさんに神機のメンテナンスの話を聞かねばならないのでな」

「そうか…ま、無理にとは言わねえさ、気が向いたらでいいぜ。またな」

ラウンジへ入っていったヴァルデルトを見送り、エミールははっと気付く。

「エリナに謝らなければならないのではなかったか……?」

 

 

 ラウンジは、先日極東支部の改装工事があった際に取り付けられた――否、設置された神機使いの交流と休息の為の一室である。

 一室とはいえ、小さなホール程度の広さと温かみのある内装から、任務を終えた神機使いは主にラウンジにいることが多かった。今日も、そんな神機使いたちがラウンジで思い思いに過ごしている。

「いいか、絶対に動くな……それでお前は輝ける」

 

「でも、動かないと敵を見つけられませんよ……?」

 

「でさ、昨日もすっげー面白かったんだぜ……」

 

「・・・・・・・・!!」

 

「キュルルルル」

 

 静かに溢れる声は、ヴァルデルトの耳に快く響いている。そんなラウンジの中央に据えられた大きなバーテーブルのカウンター席に、彼は目指す少女を見つけた。

「わかってるんだけどね……エミールに悪気がないって事は、さ」

「まぁ、しょうがないよエリナちゃん……元気出して」

 マシュマロのような帽子をかぶった小柄な少女、エリナと、その横で彼女を元気づけるもう一人の少女。二人はやはり、共にこの極東支部のゴッドイーターであった。

「うん……ありがとね、アヤノさん」

「いーのいーの、私に出来るのって話を聞いてあげることくらいだから」

 アヤノ―――愛車アヤノ。2072年に極東支部に入隊した、第一世代――つまり、刀身もしくは銃身のみに使用を限られる神機使いである。ちなみに、彼女が適合したのは銃身タイプの神機のみであり、刀身つまり近接攻撃は不可能であった。

「あ、あとアヤノさんじゃなくてアヤノでいいよ?」

「気分の問題だから……いいのっ」

「そ、そうなの……」

 どうやら先ほどの事を言っているらしい――と見当をつけ、ヴァルデルトはエリナの隣に座った。

「ムツミ、何か軽く食えるものをくれ」

 しかし彼が声をかけたのはエリナではなく、バーテーブルの内側でにこにこと笑む少女だった。少女というにも幼い、あどけなさでいっぱいの容貌を微笑みに満たし、答える。

「はーい♪じゃあ適当にサンドイッチでも作るね」

 フルネームは千倉ムツミ、歳は9つ。調理師免許を持ち、ここフェンリル極東支部のシェフと呼ばれる、ハイスペックな少女である。

「あ、ヴァルデルトさん……お疲れ様でした」

 こんな時にきやがって……という目線がアヤノから送られてくるのに気づき、ヴァルデルトはまた少し肩をすくめると、エリナの肩に手を置いた。エリナは抵抗せずにテーブルの木目をを見つめている。

「……反省してるってさ」

「別に気にしてないから、って言っておいてください」

 わずかに俯いて、エリナは答えた。

「……あー……その、なんだ……」

 言葉が見つからず、ヴァルデルトはがしがしと頭をかく。

「なんか食うか?」

 結局その結論に落ち着いてしまい、自分を呪うヴァルデルト。アヤノからのオーラがますます強まり、一種のプレッシャーを感じ始めた時――

「はいっ……サンドイッチ、わけてくれればいいです」

「おう、おやすい御用だ」

 ふっと微笑み、ヴァルデルトは天井を見上げた。

 この支部で、かつて起こった日常のひとつ――すなわち、神機使いの戦死。

 ヴァルデルトはその頃ここにはいなかったのだが、ある神機使いが、油断から命を落としたのである。とはいえ、神機使いにとって死とは常に背中の後ろにぴったりと張り付いているものであり、それはやはり日常として捉えられる。

 しかしそれは大局的な見方であり、神機使いであることの有無なしに、人が一人死ぬというのは、やはり重大なことであるのだ。戦死した彼の名は、エリック・デア・フォーゲルヴァイデ。エリナの実の兄であり、フォーゲルヴァイデ財閥の跡継ぎでもあった。

 かつて病弱で、床に伏せっていた妹の為、彼は神機使いになったのであった………お陰で、エリナはある程度体調を回復し、時々この支部にも遊びに来るようになった。

 そして――ある日唐突に、新兵との合同任務の際、ほんのわずかな油断から―――彼は、命を落とした。当然のことながら、エリナの悲しみと絶望は深いものであり、一時期は兄の死を認めずに錯乱状態に陥ったこともあるという。

 そんな彼女が、今では最前線で活躍するゴッドイーター……そこに、疑問を抱く者もいるだろう。

だが、それは当たり前のことであるのかもしれなかった。

 彼女は、アラガミがいなくなれば自らのように苦しむ人がなくなる、と考えたのである。もちろん、アラガミを殺して、仇を討っても、エリックは帰ってこない………その事実など、彼女には理解できていただろう。だが、アラガミのいない世界を作ると決意した少女の心には、やはり一辺の迷いもなかったのであろう――と、ヴァルデルトは思うのである。

「はい、どうぞー♪」

 楽しげな声に思考を中断され、ヴァルデルトは体勢を戻してテーブルの上を見た。シンプルな大皿に盛られた、にわか作りの――それでいて豪華なサンドイッチが、任務を終えて戻ってきた彼の眼に、非常に魅惑的に映る。

「さすがムツミだぜ……尊敬に値するな」

「て、照れますね……えへへ、ありがとうございます!」

 いつの間にか消えていたアヤノからのオーラは、彼を―――正確には、彼の持つサンドイッチへの視線に変わっていた。エリナも、同じたぐいの視線を向ける。

「………わかったよ、二人にもやるから……」

「ありがとうございますっ!」

「やったー!」

 エリナとアヤノが歓声を上げ、ラウンジ中の視線が一点に集中した。その一点とは、慌てて口をつぐんだ二人ではなく――

「デル、いいモン食ってんな」

「うまそー!」

「・・・・・!?」

「美味しそう……です!」

サンドイッチを持ったまま、視線の中心は苦笑した。

「わかったって……ムツミ、悪いけどこれ、もっと必要みたいだぜ」

「はいはーい♪今つくるよっ」

どこまでも楽しげに料理を始めたムツミから、集まってきた全員へ向き直ると、誰にともなくデルは呼びかける。

「誰か、エミールも呼んでこいよ」

と。




極東支部での1エピソードです
ヴァルデルト君とアヤノちゃんが初登場、二人ともわりと濃く作ったキャラです
負けるなリツガとイロハ………
あとあれですな、キャラが掴めないです
泣きごと言っても仕方ねえのでこれからもがんばります
ちなみに次回はヴァルデルト君の回想シーンとなります
フライアに戻るのはその次ですかね……場所が行き来してしまって申し訳ないです
でもどうしてもこれが書きたくて仕方なかったので、はい……ゆるりとお付き合いくだしあ
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