これはもしかしたら夢かもしれない。現実であるということを全力で否定したかったけれど、きっとそうはいかないのだとも思う。
「あっれ〜、おかしいな……。さっきまで普通に使えてたのに」
リビングでテレビのリモコンを持ったまほろがぶつくさと独り言を言っていた。
「どうしたの、まほろ」
私は思わず話しかけた。きっと面倒なことになるのだろうと思ったけれど、この日ばかりは少し気になってしまった。
「あー、絢か。それがさー、テレビが映らなくなっちゃって」
「えっ、テレビ……壊れちゃったの?」
「いや、そんなことないと思うんだけどなぁ……」
私は少し驚いて、テレビの画面を見た。そこに映っていたのはいつものニュースでも、バラエティでもなく完全な砂嵐。白と黒、そして時々赤が入り交じる画面、そしてノイズとしか捉えられない、聞くと不快になる音が流れていた。
少しだけ気が遠くなるような感覚に、目眩がする。
「絢、大丈夫……?」
まほろが心配そうに声をかけてくれた。私は「大丈夫、少し目が疲れただけだと思う」と言った。
「消そっか。テレビ」
「うん。そうしてくれると助かる」
まほろはリモコンを使って、電源を切ろうとした。だけど、何度電源ボタンを押しても、画面が消えることはなかった。もちろん耳障りな音だって消えることはない。
こういう時は、まるで古いテレビを見ているかのように、視界にも砂嵐が入り込んだみたいに感じられる。
「なんで消えないのよ。電池切れてるとか……?」
「まほろ、貸して」
リモコンを受け取って色々と触ってみる。蓋を開けて電池を入れ直してみたり、連打をしてみたり。
それでもやっぱりうんともすんとも言わなかった。
「やっぱりダメ……。どうしよう」
「どうしようも何も……、電池替えてみるとか?」
「替えの電池、どこだっけ……?」
「確か、そこの左の棚の上から2番目の引き出しに電池は買ってあったはず」
私はソファーから離れて、まほろに言われた通りの棚を開けた。
だけどそこには電池……いわゆる乾電池というものは見つからなかった。あるのは単四の電池が入っていたと思われる包装の残骸だけだった。
「嘘……。ない……」
「おかしいな……、確かにそこにあったのに」
「入ってた形跡はあるんだけど……」
カサカサと音を立てるフィルムだけがそこにあって、肝心の電池本体はない。
「ほんとにないの?」
「うん。ないみたい」
「コンビニ行ってくるか」
まほろは面倒くさそうにそう言った。その手はテレビに触れている。直接電源を切ろうと考えたのだろうが、それもダメだったらしい。
「待ってまほろ、私も行く」
引き出しを閉じて、振り返る。そしてまほろに近づく。
「なんでよ」
「ちょっと……、怖いから…………」
「今から財布取りに行くんだけど」
「ついて行っちゃ、だめかな……」
「はぁ……、まぁいいけど」
もう一度、テレビをの方見る。相変わらずそれは不思議なノイズと砂嵐を撒き散らしていた。