ARIA the Weigh anchor〜その 暁色の 素敵な出会いに   作:リリマル

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ARIA成分がまだまだ薄くて申し訳ありません。


Navigation.2 〜 その 遥かなる 第一歩は

海軍本部〜特休会計室カッコカリ

 

「Hey,霧島!お邪魔しますヨー!」

 

「あら金剛お姉さま、如何なさいましたか?」

 

 ドアが勢いよく開け放たれ、紙の束を持ち入室した金剛はそのままドサッと霧島の机の上にそれを置いた。

 

「湘南鎮守府の件ネー、滞りなく進んでマスよ!」

 

「そうですか!それは良かった、秘書艦の五月雨さんからはどういった申請が来ていますか?」

 

 サムズアップしそう報告してきた金剛に、霧島も笑顔で返す。今回、全国の鎮守府に対する順次の休暇措置に先駆け、テストモデルになった湘南鎮守府。そのテストの開始に伴い新設されたここ、『全鎮守府に対する特別休暇専用会計処理監査室』通称『特休会計室』。未だテスト段階のためカッコカリではあるものの、これから上がって来る仲間たちからの希望を極力叶える為に、この係に選出された本部付きの二人は燃えていた。

 基本的な窓口には金剛がなり、申請に関係する各所への連絡や打ち合わせなど行いつつ、霧島と順次会計処理・書類作成をし本部へ経費の申請書を回す。そんな流れをまずは試しているところであった。後々の自分たちの休暇のときにより良い待遇を求められるように、という邪な心が無いわけではないようだが。

 

「えぇっとデスねー、彼処の提督と一緒に旅行だって!Oh,Honeymoonだね!」

 

「それは…とても素敵です。本当に良かった…」

 

「YES!ワタシも〜、提督とステキなVACANCEを過ごすために〜、今は全力で皆のDreamを応援するデース!」

 

「はい!私もまずは五月雨さんたちの希望をいち早く叶える為に、予算が申請されて来たら確実に!全て!通さなくてはいけませんね!」

 

クネクネと身悶えをする姉を他所に、霧島はメガネをキラリと光らせ改めて気合を入れる。前世では辛い思いをさせてしまった彼女(五月雨)を、今度は自分が幸せにしてそれを見守るんだ。という静かな闘志を燃やしているのだった。

 しかしその言葉を聞いた金剛の動きがピタリと止まった。心無しか額に汗をかいて、表情が引きつったような気がする。

 

「Hmm,アノネー霧島ー。そのことなんデスが〜…」

 

「はい!それで目的地などの希望は既に?新婚旅行というとやはり熱海ですか!?」

 

「エェッとね〜ソウネ〜、『城ヶ崎村』っていう提督のCountryらしいんだけどさー」

 

「ほう、お恥ずかしながらどちらか存じあげないのですがそ「AQUA」れんん…?」

 

 ソッポを向きながらぽそりと呟いた姉の一言に、霧島の優秀な頭脳は一瞬フリーズを起こす。

 

「彼処の提督、AQUAの日本人入植地出身なんデスって〜」

 

「そ、それはまた想定外ですね。ではまず二人分の火星星間旅行の申請と予算の計算を「…13人分」おおっと?」

 

「交通費とか申請書類とか気にしなくてオッケーって聞いて、基地の皆でfollow himすることにしたみたいデース」

 

それを聞いて流石に霧島のメガネは少しずり落ちた。大本営も霧島も、良くてテーマパークのチケット、悪くてもテーマパークの貸し切り位に考えていたのだが、まさか全員の星間旅行という斜め上の申請が来るとは思わなかったのだ。しかしそこは霧島、メガネをスッと直すと気持ちを切り替える。やることが一気に扶桑型の艦橋並に山積みとなったのだ。

 

「わかりました。まずは全員分の渡航申請、宇宙船(スペースシップ)の座席確保、AQUAへの根回しなど、最低限必要な事を可能な限り早急に行いますので、少し返事を待って頂けるようお伝え願えますか?」

 

「…アノネ〜?」

 

霧島が気合を入れて動き出そうとするものの、金剛はモジモジとしてまだなにか言い淀んでいる様子。

 

「お姉さま…?」

 

「ちょ〜〜〜っと宇宙軍の人にお願いしたら、偶然AQUAに輸送予定の新型機体があって、CrewのTestとTrainingを兼ねて空席予定だったところに載せてくれることになってネー?諸々の申請や諸経費は海軍(コッチ)が持つからノープロブレムよーって言ってみたらサー…?」

 

そう両手の指を遊ばせつつポソポソと説明をした後、特に付けてもいない腕時計を確認する動きをすると、黙って天井(そら)を見上げた。

 

「ウン…Good Luck!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Good Luck!じゃないですよお姉さま!え、予算通す前に行かせちゃったんですか!?火星に!?」

 

「Sorry,霧島〜!Burning Loveを全力で応援したくて、ちょこっと張り切ったらleaps and boundsでつい〜…」

 

 その言葉を聞いた霧島は、机に置かれた資料を見つめながら微妙に震える手でゆっくりとメガネを外し、脇に置いた。

 

「それでこれがその諸々の?」

 

「YE〜S…」

 

 

その申請書や宇宙軍からの請求書等々の山を見やり、霧島は天井(そら)を仰いだ。今頃彼らはどの辺りを航行しているのだろうか?

自分には想像もつかない遥かな航路を進む彼らに、せめて自分が出来る最大の安全祈願をしなくては。

 

 

 

「はぁ〜っ、お姉様!」

「はいゴメンナサイ!」

 

 

「…それでは紅茶を入れてください。ポットにたっぶりお願いしますね」

 

「霧島ぁ〜…オッケー!任せてー!」

 

 半泣きから満面の笑みに変わった金剛が、給湯室へ駆け出していくのを見つつ、やれやれといった表情で山の中から一枚紙を取ると、想いを込めて一次承認欄へはんこを押し始める霧島であった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

『〜皆様、長時間の宇宙旅行(スペースフライト)お疲れ様でした。当機はまもなくマルコ・ポーロ国際宇宙港に到着いたします。それでは、皆様に猫妖精(ケットシー)のご加護がありますよう。』

 

 

『AQUA(アクア)』こと火星は、惑星地球化計画(テラフォーミング)の際に、極冠部の氷の予想以上の融解により、地表の9割以上が海に覆われた水の惑星となった。

ネオ・アドリア海に浮かぶ島々には、当時の入植者の出身国ごとに島が1つずつ割り当てられ、それぞれの島にそれぞれの国の伝統を活かした文化村が作られている。

国境などの境界線が存在しないため、近隣の島にはゴンドラなどの移動手段を用い自由に出入りが可能で、中でも城ヶ崎村のある日本島はネオ・ヴェネツィアから近い場所にあるため、今回の旅行ではマルコ・ポーロ国際宇宙港を玄関口とすることにしたのだった。

 

 

 

「着いたくま〜!!」

「着いたにゃ〜!!」

 

 

「うぅぅぅ…うっぷ…」

 

「ちょっと長門、大丈夫?」

 

「陸奥、あそこのベンチに」

 

 海鳥が飛び人々が行き交うサンマルコ広場。ドゥカーレ宮殿を模したマルコ・ポーロ国際宇宙港ターミナルビルからはしゃいで走り出す他のメンバーとは対象的に、足元のおぼつかない長門の両脇を支える提督と陸奥は、彼女を脇にあるベンチに座らせた。

 

「だ、大丈夫ですか?長門さん?」

 

「五月雨、すいませんが背中擦っててあげてください。僕はちょっと酔い醒ましにジェラート買ってきますので」

 

「はいっ!全力でお擦りしています!」

 

「すまない五月雨…提督…」

 

「悪いわね提督…あ、私ピスタチオとヘーゼルナッツで」

 

「陸奥…」

 

 宇宙船の大気圏突入からの一連の動きに、夾叉弾を喰らいまくったようにグロッキーになっている長門は、心配してくれつつも食欲に素直な自分の姉妹艦(いもうと)を見上げ、残念なものを見るような視線を向けた。

 

〜〜〜

 

「はい長門、グリーンティー。抹茶味です。陸奥ご希望のピスタチオ&ヘーゼルナッツですが、おまけで店主さんがミルクも入れてトリプルにしてくれましたよ」

 

そう言いながらジェラートを手渡してくる提督の背中越しにジェラート屋の方を見やると、口ひげを生やしたパティシエが手を振っていたので、陸奥はウインクと投げキッスをお返ししている。

 

「あらあら、美人は罪ねぇ〜」

 

「耳真っ赤ですよ陸奥。はい五月雨はベリーとチョコレートで良かったですよね?」

 

「わ〜い!ありがとうございます!」

 

 茶化されて提督の背中をポカポカと叩いている陸奥と、大喜びでジェラートを口にする五月雨を見ながら、長門も受け取ったジェラートに口をつける。

鮮やかな若草色のジェラートは、特有のしっかりとしつつもさっぱりした甘さとミルクの香りと、爽やかな抹茶の香りと苦味が冷たさと共に通り抜け、涼しい潮風と共に揺さぶられ続けた不快感を洗い流していく。

 

「ありがとう…実に美味だ。それにしても、まさかネオ・ヴェネツィアで抹茶味が食べられるとは思わなんだ」

 

 ゴーンゴーンと鐘楼が鳴り響き、全員が広場に顔を向ける。かつて海中に没した地球(マンホーム)のヴェネチアより移転されたサンマルコ広場。かのナポレオン・ボナパルトをして『世界で一番美しい広場』と賞賛せしめただけのことはある素晴らしい景色が広がる。

 

「綺麗…ですね」

 

「ええ、それにネオ・ヴェネツィアはね、僕の故郷であるかつての日本人の入植島が近いこともあって、日本の文化が深く溶け込んでいるんです。日本風の名前の人も多くいますし、日本語も結構使われてたりしますから、観光するにもいいと思いますよ」

 

「なるほど、それでこの抹茶味のジェラートか」

 

「ええ、他にもじゃがバターなんかの屋台も有め「長門それちょっと一口、一口ちょうだい」

 

「花より団子かおま、ちょやめ…やめんか!」

 

 そんな良い空気に浸る間もなく長門型姉妹がジェラートの取り合いを始めているのを傍目に、苦笑しつつ提督と五月雨はしばし、この景色を楽しむことにした。

 

 

「あ〜!なんか美味しそうなの食べてる〜!」

 

 しばらくすると、暁型の四人が一頻りはしゃぎ回ったのかこちらに戻ってきた。暁は五月雨たちが食べているジェラートを見止め、よだれと共にジーッと見つめている。

 

「暁ちゃん、はいあ〜ん」

 

「ハァハァ、ほら電、雷。はい一口いかが?」

 

「まったく…響、一口どうだ?」

 

 

「「「「…っっっっ!!!!」」」」

 

 待ってましたとばかりに各々が一口もらうと、それはもう満面の笑みを浮かべていた。

 

「みんなお疲れさまでした。ところで、他の5人はどうしましたか?」

 

「それがさぁ…」

 

ヘーゼルナッツ味にご満悦だった雷だったが、なんとも言えない表情で振り返った先では…

 

 

「あの…姉さん…恥ずかしいのであの…」

「良いじゃん神通!ほらポーズポーズ!」

 

「サムラーイ!!ニンジャ!!」パシャパシャ

 

 

「那珂ちゃんだー!握手してください!」

 

「那珂ちゃーん!サインしてー!」

 

「はいは〜い、握手やサインはいいけどぉ、贈り物は税関を通してね?私だけ帰れなくなっちゃうから!」

 

 

観光客たちに囲まれている川内型姉妹。そして、

 

 

「なるほどにゃ〜、それは確かに女心がわからんやつだにゃ〜」

 

「にゃおん」

 

 

「ほおぅほおぅ、それはなかなか刺激的なお付き合いをしてるくま。若さってスゴいくま…」

 

「まあぁ!」

 

広場の一角で猫たちに囲まれ何やら話し込んでいる多摩と球磨。の姿があった。これはまだ時間がかかるなと諦めた提督は、ベンチの方に向き直る。

 

 

「…暁達も、改めてジェラート食べますか?」

 

「「「「食べる(のです)!」」」」

 

「あ、提督。私はレモンとチェリー、よろしくね♪」

 

「陸奥お前…」

 

「あははは…」

 

 

〜〜〜〜

 

 

「はいではみんな揃ったところで、これからの予定を確認します…ん〜?」

 

 無事(多少横道には逸れたものの)全員が集合したところで改めて予定の確認をしようとした提督の携帯端末が鳴った。

 

「あ、本部の金剛さんからです…おお、すごい」

 

「どうしたんですか提督?」

 

携帯の端末を見ながらいたずらっ子のような笑みを浮かべた提督は、そう質問してきた五月雨の顔を見ると、そのまま不思議そうな顔をしている他の皆の方に視線を向ける。

 

「まず那珂、希望していた公演の席を本部が確保してくれました。三人分」

 

「んえ?…え、えーっ!!?それって!『水の妖精』の!?」

 

「はい。なんでもその公演の日は、ネオ・ヴェネツィアでは有名な水先案内人(ウンディーネ)の人が出るらしく、急遽増席になったんですって」

 

「へ〜、良かったじゃん那珂!そのオペラ、旅行中の期間は満席で、船の中でもずっと探してたもんね」

 

「良かったですね那珂ちゃん。提督ありがとうございます」

 

そう言って神通は提督に頭を下げた。後ろでは那珂と川内が手を取り合って喜んでいる。

 

「それは是非本部の金剛さん達に言ってあげて下さい。喜びますよ? ハイじゃあ次に雷。ネオ・ヴェネツィアゴンドラ協会が、特別に観光ツアーを組んでくれるそうです」

 

「え、それ本当指揮官!?」

 

「それは素晴らしい。私達だけじゃ、どこから見れば良いか分からなかったからね」

 

 ひたすらにジェラートに夢中の暁と電もコクコクと頷いている。

 

「ただ、なんでも広報誌のインタビューに協力だけして欲しいそうです」

 

「広報誌?」

 

「えぇ、なんでもゴンドラ協会用のと、大本営への資料用にですって」

 

「流石の霧島さん。抜かりないね」

 

「まぁ他のみんなの為にもなるので、よろしくおねがいします。ええっと球磨。秘湯の宿泊付き入浴チケット二人分…よくこんな場所知ってましたね、出身者の僕でも知らなかったですよ?」

 

「ふっふっふ、球磨の嗅覚をナメてもらっては困るクマ」

 

「おふろでのんびりにゃ〜」

 

「さす球磨…後でそちらの端末に送るそうですので確認よろしくお願いします。最後に陸奥?」

 

「わくわく、わくわく」

 

 

 

 

「帰りの積載量をあまり増やさないように。ですって」

 

「……ひっどぉ〜い!!!」

 

「まぁ当然といえば当然か…」

 

「陸奥さん…希望欄になんて書いたんですか…」

 

 涙目で抗議をするも、五月雨のその言葉に二の句が継げなくなる陸奥。それもそうだろう。

 

『ネオ・ヴェネツィアのスイーツをすべて食べ尽くしたい』

 

等という子供のような要望だったのだから。既にこの短時間で一つの店のジェラートをほぼ全種類食べ尽くしただけに、申請書の内容を知っている長門の視線は冷ややかだ。

 

「提督…なんかすまん」

 

「いえいえ、ご期待に添えずカッコワライ。との文章付きでしたしね。僕と五月雨の方は特に申請したことは追加のものはないので、良かったですか?」

 

「はい!私は提督とこの景色が見れただけでも、既に大満足です!」

 

ニコニコと笑う五月雨に、提督も朗らかな笑みを浮かべる。いよいよ明日からそれぞれが目的地に観光に向かう予定も立ち、ホッとしたのが正直な所だろう。

 

「それじゃあ皆、ひと先ずは今日泊まるホテルに向かいますよ〜」

 

「お〜!」×12

 

提督は自分が先頭になっての初めての漕ぎ出しに少し戸惑いつつ、歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「ねぇアリスちゃん」

 

「どうしましたか?アテナ先輩」

 

「今日ね、サンマルコ広場に忍者と侍が現れたんですって」

 

「…はぃ?」

 

 割と突拍子もないことを言うことで定評のあるこのルームメイト兼、親愛なる師匠はまた何を言い出したのかと、アリス・キャロルは読んでいた本から目線を上げる。

ベッドに腰掛け、まぁ社長を撫でつつクッションを抱きしめ真剣な顔でこちらを見据えるアテナ・グローリィに、アリスはため息を吐きつつ向き直す。

 

「アテナ先輩、いくら日本島が近いからって流石にそれは…」

 

「そうよね、忍者がそんな簡単に人前に出て来ないわよね…どうすれば…弟子入り…」

 

なんだか違う方向で納得しながら、不穏な事を呟くアテナに、アリスはいよいよ頭を抱える。

 

「大切な公演前だというのにそんな噂を流した人は誰ですか…でっかいおしおきです!」

 

「まぁあ〜」

 

 

 

 

「アプチキッ」

 

「どしたのアーニャ?風邪?」




※くしゃみです

食べ物の描写って難しいです…いよいよ次話から各々のストーリー展開に入ります!

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