ARIA the Weigh anchor〜その 暁色の 素敵な出会いに   作:リリマル

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「後輩ちゃんは宇宙酔いとか大丈夫よね?確かオーバビスマシンの操縦とか得意だったわよね?」

「藍華先輩?それはまたでっかい人違いでは?」




お待たせしました!アテナさん☓那珂ちゃん回です!


Navigation.3 〜 ほんの ひとしずくの 水(前編)

「居た!先輩!ア・テ・ナ・先・輩!」

 

「あ〜、アリスちゃん…」

 

 人混みに溢れた食品マーケットから抜け出し、カンポ・サンジャコモ・ディ・リアルトに出たアリスは、うつむく男の像の横で『うつむく休日の水先案内人』となっている、スマートなシャツとパンツ姿のアテナを発見した。

 

「先輩、お会計をしている間に居なくならないでください。いい大人が、でっかい迷子ですか?」

 

「ごめんなさい。実は…「「忍者」」…そうなの〜。カンポの方に走っていく影が見えた気がして」

 

 そこまで聞いたアリスは軽くため息を吐きながら額に指を当て、困ったものだとここ最近の事を想起した。思えば数日前、あのまことしやかな噂が事の発端である。

まぁ社長が姫社長とお散歩に出かけたあの日、ネオ・ヴェネツィアに 『サムライやニンジャが出た』だの、『謎の大食い怪獣(注:ガチャペンでは無いらしい)が現れた』だのと、訳のわからない噂をアテナが耳にしたため、大事な舞台前に心乱された一件があった。

 元々突拍子も無いところでノリが良かったり、変なものに興味を惹かれることが多いアテナが、まさか忍者や侍にまで興味津々だとは付き合いの長いアリスも読めるはずもなく。

 しかもその噂は日に日に増え、『『水の妖精』をニンジャが天井から観劇していた』『水の上をニンジャが走っていた』『サムライが転がってきた樽を叩き斬って子供を助けた』『実はニンジャとサムライを操る偶像が』エトセトラエトセトラ。

 

「(大体なんですか!?水の妖精を天井から観劇してたって!でっかい迷惑です!)」

 

『水の妖精』とは、マンホームのヴェネツィアが水没する寸前に書かれたというオペラで、公演前日に劇場が水没してしまい資料も散り散りになるなど、幻となっていた作品である。

以前『ベリルカンパニー』のアッシュ・ベリルやアリス達の手により資料が見つけ出され、ネオ・ヴェネツィアにてヴァローレ劇場復活公演の演目として再現された経緯がある。

その後ベリルカンパニーとゴンドラ協会の協賛により、ベリルツーリストと提携したオペラ観劇とネオ・ヴェネツィア観光をセットにしたツアーも組まれ、幾度となく公演されているのだが、今回は特別公演としてアテナが主人公を演じたのだった。

アテナが舞台に立ったのは、以前一度だけ引き受けたオペラ公演。音楽祭での歌唱等は除き二度目の登壇ということで、アテナの変わらぬ人気ぶりにチケットは即完売。急遽増席されたがそれもあっという間に売れてしまい、アリスにとっても鼻が高い話だったのだ。

 

 それに水を差すようなこの噂。ちなみに今回の噂を流した張本人はアリスにより、シベリア送り。ならぬ、『トラゲット修行(の刑)(シベリアトラを見るまで)』に処された。

 そんな経緯もあり、多少なりともこの問題に憤慨しているアリスだったが、割と本気で落ち込んでいる様子のアテナが目に入り、少し溜飲を下げる。

 

「…アテナ先輩?せっかくの公演大成功のお祝い休暇なんですから、忍者の事は一旦忘れて、お買い物の続きをしませんか?」

 

 多少呆れながらも、笑顔でそう語りかけるアリス。せっかく会社が気を遣い取らせてくれたアテナとの三日間の有給休暇。訳のわからない噂に惑わされて無駄にするのは惜しいと気持ちを切り替えたようだ。

 

「…そうね、ごめんなさいアリスちゃん」

 

 アテナもそう言われ、ようやく立ち上がると笑顔を見せた。アテナとて、舞い上がるとドジをする回数が跳ね上がる自分のことを献身的にサポートしてくれているアリスと、最近は一緒に出かけてお礼を言う機会もなかったので、今回の公演に合わせて数日休みを取らせてくれるよう会社に根回しする程度にはこの時間を大事にしていたのだ。そしてもっと言えば、それこそ舞い上がっていたのである。

 

「もしかしたら、本物のにゃんにゃんぷうを見れるかも。と思ったら興奮しちゃって」

 

「…それはまたでっかい別物では?」

 

「えぇ〜?」

 

 スタスタと歩き出すアリスの後を困り顔で付いていくアテナ。やはりアテナの、舞い上がるとドジっ子になる伝説は健在のようだ。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「はあぁあ〜…」

 

 レモネードを飲みながら盛大にため息を吐きつつ、ウットリと手元のCDを見ている少女が一人。表情は緩みきっており、こころなしかいつもより頭のお団子ヘアーにもハリがあるように見えるのは、艦隊のアイドルこと、湘南鎮守府の那珂である。

 その横には、通り過ぎる観光客たちの視線をそこそこ集めつつ、困ったような顔で、それでも優しく見守る長髪の大和撫子、神通もいる。

二人の前のテーブルには、クロケッタと二人分のドリンク。ネオ・ヴェネツィアの旅カタログなどが置かれている。神通はそれとは別に、グラスワインとチケーティを何種類か楽しみながら、ニコニコというかニヤニヤとしている妹を酒の肴に楽しんでいるように見える。

 

 

「ふんふんっふふ〜ん、神通ー、那珂ー。おっ待たせ〜」

 

「姉さん。目的のものは…そ、それですか?」

 

「おうさ!」

 

 人混みを器用に避けながら、二人の待つリアルト橋の袂にあるヴァルまでやってきた川内は、両手に持ったバレーボール程の毛玉(?)を誇らしげに掲げてみせた。

 

「なんでしょう…それを見るとなんだか罪悪感が芽生えるのですが…」

 

「そうそう、ミスクラウドっぽいよね!?ムックン人形って言うんだってさこれ!はい、神通一個持っててくれる?」

 

 先ほど散策途中で見かけた的あての露天で、ドンと飾られていたこれが頭から離れなくなっていた彼女は、二人を先に行かせるとそこまで戻り獲得してきたのだった。

 神通は川内から渡されたそれをモニュモニュとしつつ、何とも言えない顔をしていた。

 

「ネオ・ヴェネツィアではこういったものが人気なのでしょうか?」

 

「なんかTVで人形劇やってて、グッズ色々出てるんだってさ〜」

 

 クロケッタを摘みつつ、川内は未だにモニュモニュを続ける神通を見て「(あ、結構気に入ってる)」と内心満足し、レモネードに口を付けて一息入れた。しっかりとネオ・ヴェネツィア観光を楽しんでいる様子の二人。それに比べて

 

 

 

「はあぁあ〜…」

 

 

 

「それで…那珂はまだ浮上して来ないの?」

 

「はい、ご覧の有り様で…」

 

 二人の会話など全く耳に入っていない様子で、未だに那珂はCDのジャケットを見つめ物思いに耽ったままだ。そのCDのジャケットには、シルバーパープルの髪を腰まで伸ばした女性が、夕焼けの中何かを歌っているような写真とともに、『ベスト・オブ・天上の歌姫』の文字。

 それは先日三人が見た、オペラ『水の妖精』で、その回のみ特別に主役を演じた水先案内人の、舟謡(カンツォーネ)を集めたCDだった。

 観劇の後から熱に浮かされたように何処かボーッとしたままの那珂は、今日の散策途中に偶然見つけたそのCDを買ったあと、川内が戻って来る直前まで(勿論神通に断りを入れて)プレーヤーでそれを聞いていたのだが。

 

「もういい加減落ち着いてるかと思ったら、更に堕ちておったかぁ…」

 

「那珂ちゃ〜ん、コロッケ冷めちゃいますよ〜?」

 

 ため息とともに呆れ顔の川内に、神通も苦笑しながら那珂に声をかける。その声にハッとした顔をしてようやく顔を上げた那珂は、ぽかんとしたまま二人の顔を交互に見ると、ようやくいつもの調子を取り戻す。

 

「あ、あっれ〜?せんちゃんおかえり〜!じんちゃんも、一人でCD聞いててごめんねっ?」

 

「はいよ、川内参上〜ってね」

 

「気にしないで?ほら、姉さんも帰ってきたことだし、食べたら橋の向こう側も見に行きましょう?」

 

「う、うんっ!よ〜し、那珂ちゃんバッチリ旅レポしちゃうぞ〜っ」

 

ようやくいつもの調子を取り戻した那珂は、ハグハグと美味しそうにクロスケッタを食べ始める。

 

「(那珂があんなに惚れ込むのって珍しいよね?)」

「(ですね。確かに素晴らしい舞台でしたし、あの方の歌が那珂ちゃんの琴線に触れた。と言うことなんでしょうか?)」

 

 アイドルというものへのこだわりから、実はかなりプロ意識の高い那珂。もちろん色々な音楽を聞き自身の参考にして居るのは知っていた二人。

 今回のネオ・ヴェネツィアへの旅行に際しての舞台観劇もその一環。位に思っていたが、どうもあのオペラで主演を演じた水先案内人のファンになってしまったらしい妹の様子に、それはそれで微笑ましい気持ちでコソコソと話し合うムックン人形を抱えた姉二人であった。

 

 

〜〜〜

 

 

 ズンズンと進むアリスの後を、買い物袋を抱えて着いていくアテナ。リアルト橋の傾斜もぐいぐいと登っていくそのアリスの背中はどこか逞しく見える。

 

「アリスちゃん、なんだか気合入ってるわね」

 

「はい、今日こそはあの的あてゲームにでっかい勝利…を…」

 

 何か言おうとしたアリスが、前を見たまま橋の中心部に差し掛かろうかという辺りで急に足を止めた。不思議に思い、アテナはアリスを追い越し前から顔を覗き込むが、橋の向こう側に目を向けたまま微動だにしないので、アテナもそちらに視線を向ける。

 

 

 

「ねぇ!なんで二人は私の頭にそのでっかい毛玉をくっつけてくるの!?」

 

「いやぁ、せっかくだから那珂のお団子もネオ・ヴェネツィアバージョンに」

 

「あらあら、ネオ・那珂ちゃんですね」

 

「もーっ!那珂ちゃんお笑い路線は嫌だって言ってるのにぃ!あとじんちゃんそこはかとなく酔っ払ってるよね!?何杯飲んだの!?」

 

「…うふふ」

「だめなやつだ!」

 

 

 

「「・・・」」

 

 二人はその三人組の方を見たまま固まってしまっていた。オレンジと白を基調にした自分たちの制服に通じる、セーラー服のような統一感のあるデザインの服に見を包んだ彼女たちは、三人共似たような顔つきをしていて、ひと目で姉妹と分かる。

 真ん中のお団子ヘアーの子以外の二人は、肘の上まである手甲を身に着け、腰のあたりは帯のようなものを締めており、どうにもセーラー服が和服のように見えてしまう。

 黒髪長髪の女性は、リボンと何故かはちまきを巻き、左腰に和傘を挿しているのが、なんとなく侍そのものである。

 そしてもうひとりの、大きな毛玉を両手で真ん中の子のお団子頭にくっつけている女性は、長いスカーフのようなもので口元を隠し、腰の後ろに黒い和傘を刺しているのだが、その佇まいはまさに忍者。

 アリスはまさか噂の主が目の前に現れるとは思ってもおらず、視線を固めたままだ。

 だが、真ん中で二人に弄ばれながらも満更でもない表情をしているお団子ヘアーの子。噂の侍と忍者よりも何よりも、アテナはその子に見覚えがあった。

 

 

 

「まぁまぁ、神通だってたまには…ん?」

 

「あら…?」

 

「もぉう今度は何…んぇ?」

 

 こちらを見つめているアテナとアリスに気づいた三人も、目が合ったかと思うと、ポカンとした顔をして固まってしまった。

 

 お互いが数刻固まったあと、全員がハッとしたように動き出し、驚いた様子で話し始める。

 

「アテナ先輩…忍者と侍が…でっかいダブルムックンで…アテナ先輩?」

 

「那珂!あの人!オペラの!」

 

「那珂ちゃん…那珂ちゃん?」

 

 そんな風に広がる動揺の中、未だに固まっている二人。そのアテナの表情が、ぱあっと晴れやかに変わるのと、那珂の頬を涙が伝い落ちたのはほぼ同時だった。ギョッとする三人を尻目に、興奮を抑えるように『歌姫』と『アイドル』は呟いた。

 

 

 

 

 

「那珂ちゃん…?本物の…?」

 

「アテナ…グローリィ…様…」

 

 

 

 

 

 

「えっ?ナカチャン?」

 

「「…様ぁ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠い日々も 夕映えに沈む

 

赤い骨のビルディング

 

あれは滅んだ竜

 

ここはもう 森じゃない

 

くちづけをください

 

風の中で 戸惑っているから

 

あなたを失いたくない

 

ふいに消えそう

 

ほんのひとしずくの水に映る

 

空は深くて

 

時がくれば 私にもわかる

 

朽ちかけた大木に

 

みどりは芽生えるよ

 

夢はまだ 眠ってる

 

抱きしめてください

 

鋼の街 冷え切っているから

 

あなたを失いたくない

 

胸が震える

 

ほんのひとしずくの水に映る

 

空はなぜ 遠い?

 

あなたを失いはしない

 

どうか 叶えてほしい

 

ほんのひとしずくの水に映る

 

愛を伝えて…

 

伝えて…伝えて…

 

 to be continued…










「いやいやいや!出ないですってトラなんて!ここ(海)鳥しか来ないですよ!?」


「でっかい閉廷します」カンッカンッ


「出ないってぇ〜…」



後編もできる限り早く!お待ち下さい!
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