今作は小説&映画タイトル縛りでいきたいと思います。
プロローグ①
「さよなら。」
30年前までは、世界は絶望的だったという。
大量に人が死に、秩序が崩壊し、『希望』なんて何もない世界。
しかし、『未来機関』によって世界の秩序を乱した者達は処分され、世界に平和が戻ったという。
僕も、改変される前の世界に生まれていたなら、こんなに苦しい思いをしなくて済んだのだろうか。
…そんな事を今更考えたって、
僕はこの世界に絶望した。
だから命を断つ事にした。
見慣れた屋上。
僕はここで、何度も踏みとどまった。
勇気がなかったから、ここまで生き延びてしまった。
でも、それも今日で終わりにしよう。
飛んだ。
世界の色が、筆で伸ばしたような模様を描きながら撹拌される。
もう、今まで抱えていた苦しみも、吹きつける風の冷たさも、何も感じなくなった。
これが、死ぬって事なのか…
うぷぷ、そんな簡単に終わらせていいのかい?
…誰だ、僕を呼ぶのは。
ーいい物見せてあげるよ。ここで死ぬなんて、もったいないだろ?
無いなら、作ってあげるよ。キミが望むセカイを…
僕の…望む…セカイ…?
僕の視界は、白くまばゆい光に包まれた。
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「はっ、あぁあっ!!?」
…はぁ、変な夢見ちゃったなぁ。
よりによって、こんな大事な日に自殺する夢見るなんて…
やっぱり、僕ってツイてないのかなぁ。
…でもまぁ、現実も似たようなものか。
僕の名前は
その名の通り、僕はものすごくツイてない。
テロリストに人質にされたり、楽しみにしていたイベントの日に限って怪我や病気をしたり…僕の場合、当たるといえば車か雷か食あたりだ。
とにかく、生きているのが奇跡なんじゃないかっていうくらいの不運に見舞われた僕は、希望ヶ峰学園の100期生としてスカウトされた。
高校では、平和な3年間を送ろうと思ってたのに、超人ばっかりの超エリート校に入学させられるなんて、僕はなんて不運なんだ。
僕は、入学式のために正門に向かい、門をくぐった…
…はずなんだけど。
どういうわけか、僕は今全く知らない部屋の中にいる。
なんでここにいるのか、そもそもここは一体どこなのか、全くわからない。
…これって、拉致監禁じゃないのか?
とりあえず、警察に連絡…
あ。携帯が無い…
どっかで落としたのかな。ホント、ツイてないな。
とりあえず、現状を把握するために、部屋の中をよく見てみる事にした。
◇
…なるほど、大体把握できた。
ここは、どうやらホテルの個室のような空間らしい。
ベッドや洗面所、ユニットバスなどがあった。
ただ気になるのは、窓が鉄板のようなもので封じられている事、そして棚の中にロープや洗剤、睡眠薬などが置かれている事だった。
…これで自殺しろって事かな?
まあ、こっちとしても、ずっと死にたい気分だったわけだし…
死なせてくれるっていうんだったら、好都合…なのかな?
せっかく道具があるんだし、ちょっと首でも括ってみるか…
今まで勇気がなくて何度も死に損なったけど、今度こそ…
「誰かいるのかな?…開けてみるか。たのもー!!」
いきなり、女の人の声が聞こえた。
「って!?わぁあああああ、ちょっとちょっとちょっと!!キミ、何やってんの!?」
その女の人は、いきなり僕の部屋に入ってくると、僕に駆け寄ってきた。
「…え?」
「ホント、ビックリしたぁ…せっかく人に会えたと思ったのに、首吊ろうとしてるんだもん!…あ、制服…キミ、もしかして学生さん?」
その人はハンチング帽を被っていて、ワイシャツの上に探検隊のようなジャケットという、おかしな格好をした人だった。
さらに、帽子から飛び出た触角のような髪の毛が、彼女らしさを強調している。
外見から察するに、多分僕と同じ高校生だ。
綺麗なショートの黒髪で、今まで出会った事のないような魅力を持っていた。
その人は、碧い瞳を輝かせながら僕を見つめてくる。
と思うと、その人は予想外のリアクションをした。
「わああ、ラッキー!!誰もいないんじゃないかって不安だったけど、人に会えて…しかも、ボクと同じ年代の子に会えたなんて!ボクって、ホントツイてるなぁ!」
え?え??
言っている意味が本当にわからない。
この人は、何を言っているんだ?
拉致監禁されて、ラッキーだと?
どういう思考回路を辿ったらその考えに行き着くんだ。
この人、どんだけ明るいのかなぁ…
「あ、あの…あなたは…」
「あ、ごめん。自己紹介がまだだったね。ボクは
「ちょ、超高校級の…幸運…?」
「あ、ごめん。言ってなかったね。ボク、【超高校級の幸運】として希望ヶ峰学園にスカウトされたんだ!」
超高校級の幸運…
確か、平均的な高校生の中から1人だけランダムに選んでスカウトする制度…だっけ。
超高校級って言ったら、僕と同じ…
「ねえねえ、君の事も教えてよ!」
「え、ええっと…」
「僕は、景見凶夜…【超高校級の不運】です…」
「【超高校級の不運】?って事は、もしかして希望ヶ峰学園の新入生!?」
「は、はい…」
「うっわぁ!ボクと同じじゃん!嬉しいなぁ…!凶夜クン!やっぱり、ボク達って運が良いね!ねえ、その【超高校級の不運】ってさ、何なの?教えて!」
「…そのままですよ。僕は今まで、死にたくなるくらい不運に見舞われてきたんです。乗ったバスはバスジャックされるわ、未知のウイルスに感染して治るまでずっと隔離されるわ、生きてるのが不思議なくらい運が悪いんです。だから僕は、希望ヶ峰学園にスカウトされたんです。ホント、皮肉ですよね。こんな不幸体質のおかげで希望ヶ峰に進学できるなんて…」
「でもさ、生きてるのが奇跡っていうくらいの不運に遭っても、キミはこうして生きてるわけでしょ?それに、スカウトのおかげでボク達がこうして出会えたんだからさ!やっぱり、ボク達はツイてるんだね!」
狛研さん…やっぱり、この人かなり変わってるなぁ…
僕がラッキーだなんて…そんな事言われたの、初めてだよ。
「あの、狛研さん…」
「叶でいいよ!」
「叶さんは、なんでそんなに前向きなんですか…?」
「うーん…なんでって言われてもねぇ。まあ、人生いい事ばっかりじゃないからさ!なんでもポジティブに考えた方がウルトラハッピーって事だよ!」
「…すごい、ですね。叶さんは。僕は、そこまで前向きにはなれない…です。」
「ボクだって、別に無理して前向きでいろとは言ってないよ?でもさ、一日一個でもいい事見つけていけたら、今より人生楽しくなると思わない?」
「え、ええと…」
「たとえば、ほら!ボクと友達になれた事、とかさ!」
叶さんは、僕の手を握って引っ張った。
「さ、一回外に出よ!いつまでも部屋の中に閉じこもってたって、息が詰まるだけだよ!」
「あ、ちょっと待って…」
僕は、叶さんと一緒に部屋の外に出た。
◇
「…!」
部屋の外は、見たこともない光景が広がっていた。
僕がいた場所は、部屋が環状に並んだ建物の6階建てだった。そして、円柱状の建物の真ん中には、噴水があった。
「…なんだ、ここは…」
「ここ、面白いよね!こんな構造の建物、見た事無いよ!」
叶さんは、一度この景色を見ているはずなのに、何故か初見の僕よりもテンションが上がっていた。
…この人、ホント変わってるよなぁ。
「ねえねえ!この水、飲めると思う?喉が渇いちゃってさ!なんか飲みたいんだけど!」
えぇ…
叶さん…なんでこの状況で噴水の水が飲めるかどうか聞いてくんの?
なんで僕達がここにいるのかとか…
そもそもここはどこなのかとか…
もっと気にする事いろいろあるでしょ。
「あら。この状況で、よくそんなふざけた事が言えるわね。頭にカビでも生えてるのかしら。」
後ろから、女の人の声が聞こえてきた。
「うわっ…すごい美人…」
絹のように艶と透明感のあるセミロングの黒髪。
吸い込まれそうになるほど澄んだ明るい菫色の瞳。
全体的に暗い色の制服とは対照的に、雪のように白い肌。
その人の持つ、この世のものとは思えないような美しさは、神が創り出した最高傑作と言わんばかりだった。
「…。」
「あら。人の顔をジロジロと見るなんて、失礼なんじゃなくって?まあ、私の美しさに見惚れるのは無理ないのですけれど。」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「あらぁ!あなたって、本当に鈍臭いのね!視界に映るだけで不愉快だから、早く消えてくださらないかしら?」
「凶夜クンは鈍臭くないよ!ただ、ちょっとドジなだけだよ!」
叶さん、ほぼ同義だから。フォローになってないから。
「はぁ、なんなの?わけのわからないままこんな所に連れてこられて、人に会ったと思ったら鈍臭い白髪男と、男遊びの激しそうな、下品で頭の軽い女しかいないじゃない。まさか、ここにいるのがこの3人だけって事ないでしょうね?」
その人は、ぶつくさと文句を言い始めた。
…この人、超絶美人なのに、口悪いなぁ…。
黙っていれば完璧なのに…
「ねえキミ、名前は?ボクは狛研叶。【超高校級の幸運】だよ、よろしくね!」
「あ、僕は景見凶夜って言います…【超高校級の不運】です…」
「フン、私があなた達ごときに名前を名乗るわけがないでしょう?ホント、下品で不愉快ね。早く消えて頂戴。」
「ふぅん、白鳥麗美ちゃんって言うんだ。よろしくね!」
叶さんは、綺麗な人が出てきた部屋のネームプレートを見て、あいさつをした。
「ちょっと!あんた、何人の部屋を勝手に見てんのよ!非常識にも程があるでしょ!?」
そもそも、なんでこの距離でネームプレートの文字が読めるの?
叶さんって、目が良いんだな。
「フン、まあいいわ。どうせ名前がバレてるんだったら、言っても言わなくても同じよ。あんた達には特別に、私の事を教えてあげるわ。そのついてるのかついてないのかわからない耳でよく聞きなさい。私は
あっ…超高校級のマドンナ…聞いた事あるな。
確か、世界一美しい高校生と言われていて、目の大きさや鼻の高さなどの顔のパーツからこの人の持つありとあらゆる技能まで、『美しさ』という面において全てが理想的で、『女の完全体』とか、『歩く黄金比』とか呼ばれている超絶美少女だ。
噂によると、白鳥さんの眼を見た人は、その美しさに魅了されて絶対服従する僕と化し、白鳥さんが訪れた店は人がごった返して人の圧で潰れる(物理)とか…会員数1000万人を超えるファンクラブがあるとか…
そんな嘘みたいな噂も、この美貌が謎の説得力になってるんだよなぁ。
…とても綺麗な人だけど、僕は正直苦手だな。
口が悪いのもあるけど、綺麗すぎて一緒にいると気まずいんだよな。
叶さんがいなかったら、絶対心が折れてたよ。
「まったく、あんた達ときたら、本当に下品で不愉快極まりないわね。私の美しさを台無しにする気なら、ここにいる価値なんて無いから早く消えて?」
いくら美人だからって、言っていい事と悪い事とあるよね。
ほら、叶さんだって怒りのあまりプルプル震えてるし…
「すっごーい!!まさか、2人も【超高校級】に会えるなんて!嬉しいなぁ…ねえねえ、もしかして、麗美ちゃんって希望ヶ峰の新入生!?」
「な、何よあんた…!だったら何!?不愉快!消えて!」
「え!?やっぱり!?新入生なんだ〜!ボクと凶夜クンもなんだよー!新入生が3人も同じ場所に集まるなんて、すっごくラッキーだね!」
僕にとっては、アンラッキーなんだよなぁ。
白鳥さんにグイグイ食いついていける叶さんって、ある意味すごいなぁ。
「う、うるさいわね!不愉快なのよあんた!グイグイ近づくな!」
うわぁ…
なんか、女子ばっかりで気まずいなぁ…
まさかとは思うけど、この建物にいるのこの3人だけって事無いよね?
お願いだから、誰か男の人来てよ…
女子2人に男1人って、すごい居づらいんだけど…
この2人とどう接したらいいのかわかんないよ…
ガチャ
白鳥さんの隣の部屋から、西洋貴族風の男が出てきた。
長い金髪に、綺麗な青い瞳、そして白鳥さんと同じくらい白い肌の華奢な人だ。
…良かった。やっと男の人に会えた。
女子2人しかいない空間にいて、気まずさと緊張で吐きそうだったからな。
「あ、また誰か出てきたね!今度は…なんか、すごいゴージャスな人が来たよ!どっかの国の王様とかかな?」
叶さん、そんなわけないでしょ。
確かに貴族風の人ではあるけど、さすがに王族ではないでしょ。
王族を拉致監禁なんてしたら、国が動くって。
…それにしても、綺麗な人だなぁ。
でも、この人絶対外国人だよね。
僕、英語とか全然わかんないし…どうしよう?
話、通じるかな…
「ねえねえ、キミは誰?ボクは、狛研叶だよ!よろしくね!」
さすが叶さん…初対面の西洋貴族相手にもグイグイいくなぁ。
日本語通じないんだから、話できないってば。
「…なんだ貴様は。この俺を誰だと思っている、無礼者が。」
え!!?
待って、日本語通じた!?
しかも、日本語で返してきた!?
この人、日本語上手くない!?
「え!?あ、え!?」
「…なんだ貴様。もしかして、俺が日本語を話している事に腰を抜かしているのか?だとしたら、貴様は相当勉強不足だな。この俺が誰かも分からぬとは…」
えぇ…初対面ですっごいバカにされたんだけど…
「ご、ごめんなさい…」
「…まあいい。おい貴様ら。名を名乗れ。そうだな。そこの帽子にはもう名を聞いたし…おい、そこの白髪赤眼のお前、名を名乗れ。」
「え、ぼ、僕ですか…?ぼ、僕は…景見凶夜って言います…」
「なんだ貴様は。男のくせに、ナヨナヨしおって。恥ずかしくないのか。…大体、貴様はそうやって人の前に立つ事をしないから貧相な見た目なんだ。」
そう言われましても…
「まあいい。おい、次は貴様だ。女、名を名乗れ。」
「はぁ?何よあなた。私が誰だかわからないのかしら?ホント、不愉快な男ね。」
「いいから名乗れ。俺に盾つくなら、不敬罪で処罰するぞ。」
ん?不敬罪?
「何よあんた。私にそんな生意気な口を利く男、初めて見たわ。…でもまあ、私は優しいからね。教えてあげるわ。私は白鳥麗美。【超高校級のマドンナ】よ。私の名前を知らないなんて、どうかしてるわよあんた。そのふざけた金髪は、ロングパスタでできてるのかしら?」
うわああああああ!!白鳥さん、言い過ぎ言い過ぎ!!
無闇に初対面の相手を怒らせちゃダメだってば!!
「そう言われても、知らんものは知らん。…全く、日本人の女は大和撫子だと聞いていたんだが…貴様やあそこの触角帽子を見る限り、俺の思い違いだったようだな。」
「触角帽子ってボクの事言ってるの?ボクのこの帽子はね、ボクの大事な宝物なんだよー。」
「貴様の宝物の話などどうでもいい。これ以上俺に無礼を働くな。不愉快だ。」
この人もこの人で、いちいち発言にトゲがあるなぁ。
さっきから名前を教えてくれないし…
「あ、あの…とりあえず、名前だけでも教えていただけませんか…?」
僕は、勇気を振り絞ってその人に聞いてみた。
「なんだ貴様。まだいたのか。さっきから気配が無いものだから、てっきり尻尾巻いて部屋に逃げ込んだのかと思っていたぞ。」
気配が無いって…
影が薄いって事か…まあ、否定はしないけどさぁ。
「本来、俺の名前を知らないなど、あってはならない事なんだがな。まあいい、改めて教えてやろう。俺の名は、ラッセ・エドヴァルド・シルヴェンノイネン。シルヴェンノイネン王国の現国王だ。今年、【超高校級の国王】として希望ヶ峰学園に進学する予定だった。」
あっ…!聞いた事ある…確か、シルヴェンノイネン王国の国王が、今年【超高校級の国王】として入学するって…
シルヴェンノイネン王国は北欧に位置する小国で、工業や農業に力を入れていて、国民は皆豊かな国だと言われている。確か、鰊の塩漬けとウォッカが名産だったはずだ。数年前に先代国王が若くして亡くなり、その長男だったラッセ様が即位したらしい。ラッセ様はまだ子供にもかかわらず国をまとめ上げ、先進国の国々にも劣らない国力をつけたらしいけど…なんか、イメージと全然違うな。
もっと、人当たりが良くて頼りがいのある人だと思ってたんだけど…
「すごーい!ラッセクンは、ホントに王様だったんだね!なんか、王様と一緒にいるって不思議な感じだね!よろしく!」
「…気安く話しかけるな。俺は国王だぞ。本来、庶民の女と同じ空間にいるべきではないんだ。」
「あら、国王ですって?具体的に、どの辺が?あなたみたいな器の小さい男が国王だなんて、国民もかわいそうね。えっと…確か、シラミノミゴキブリ王国だったかしら?」
白鳥さん、一国の王様に対してズバズバ言い過ぎだよね?
本当に不敬罪で罰せられちゃうよ?
「…貴様、俺の国や国民達を馬鹿にするなよ。確かに昔は戦争で負け続け、脆い国だった。だが今は、国民達の努力の末、逞しく豊かな国になったのだ。国民達が支えてくれなければ、今の王国は存在しなかった。俺の国の国民達を侮辱する事は、この俺が許さん。」
ラッセ様も、やっぱり一国の国王なんだな。
こういうとき、ちゃんとまともな事言うんだね。
「あらあら。随分とまあ論点をすり替えるのがお得意なんですね。確かに、私はあなたの国や国民をバカにしたけれど、でもそれ以上に一番バカだと思ってるのはあなた自身なのよ?少しは自覚なさい?」
「…貴様、俺を敵に回すとは、いい度胸だな。国王を本気で怒らせるとどうなるのか、教えてやる。」
「あら、国王のくせにこの程度で怒るんですか?本当に器が小さいのね!」
うわぁ…すっかり喧嘩モードだよ。
白鳥さんとラッセ様、性格は似てるけどお互いの相性は最悪なんだな。
どうしよう…二人とも、おっかなくて止められないよ…
ああもう、なんで3人もいてまともな人が一人もいないんだよ。
やっぱり、これも『不運』なのかなぁ。
「あ、鳥だ。」
ちょっと、叶さん。
小鳥追っかけてないで、二人のケンカを止めて…
「ピィ、ピィ!」
浅葱色の小鳥がバサバサと翼を動かしながら暴れ、ケンカをしている二人に突っ込んでいった。
「きゃあっ、ちょっと!なんなのよ!!鳥!?」
「なんだこの鳥!おい、暴れるな!このっ!」
「ダメだよきみ達、ケンカなんかしちゃ!翠が泣いてるよ!」
小鳥が出てきた部屋から、小柄な女の子が出てきた。
うっすらと桜色がかった銀髪に、ペリドットのように黄緑色の瞳の、少し幼い顔立ちの女の子だ。
パステルカラーのセーラー服の上に、小鳥のワッペンをつけた白衣を着ている。
髪型や制服からはお嬢様のような雰囲気が窺えるが、どこかメルヘンチックな雰囲気を醸し出している不思議な子だ。
「翠、こっちおいで!」
「ピィ!」
女の子が呼ぶと、小鳥は女の子の指に停まった。
「よしよし、翠、二人のケンカを止めようとしてたんだね。お前は優しい子だね。」
「ピィ!」
女の子が小鳥の頭を撫でると、小鳥は嬉しそうな声で鳴いた。
「ちょっと、なんなのよあんた!今の鳥、あんたのペットなの?だったらちゃんと人を襲わないようにしつけておきなさいよ!せっかく2時間かけてセットした髪がグシャグシャになっちゃったじゃない!」
「全くだ。おい小娘。飼い主なら、自分のペットの管理くらいきちんとこなせ。貴様がきちんとしつけないから、その鳥が俺を襲ったんだぞ。」
「ちがうよ。翠は、ペットじゃなくてお友達だよ。それに、翠は無闇に人を襲ったりしないよ。翠は賢い子だもん。翠は、きみ達に仲直りしてほしかったんだよ。ね、翠。」
「ピィ!」
「ねえねえ、その鳥、翠ちゃんっていうの?かわいいね!」
「ホント?ありがとう。翠も喜んでるよ。」
「え、キミ、翠ちゃんの気持ちがわかるの?」
「うん、わかるよ。だって、わたし達はお友達だもん。ね!」
「ピィ!」
「わぁ、すごい!息ピッタリ!ねえねえ、キミ、名前は?ボクは狛研叶!【超高校級の幸運】だよ。キミの事も教えてよ。ボク、キミの事もっと知りたいな!」
「いいよ。わたしは
日暮彩蝶…聞いた事あるな。確か、生物学において世界屈指の知識を持つ天才で、どんな動物とでも心を通わせる事ができるらしい。大震災の時に動物園の動物達を安全な場所に避難させて、多くの人や動物達の命を救った功績が認められて、【超高校級の生物学者】としてスカウトされたらしい。どんな凄い女の人かと思ってたけど、まさかこんなに小さくて可愛らしい子だったとは…
「彩蝶ちゃんも希望ヶ峰学園の新入生なの?」
「そうだよ。」
「えー!?すっごーい!!新入生がボクの他に4人も!それに、小鳥の翠ちゃんも!こんなにすぐに友達ができるなんて、もしかしてボクって、めちゃくちゃラッキーなんじゃない!?」
「そうだねぇ。わたしも、かなえちゃんとお友達になれて嬉しいよ。翠も、かなえちゃんとお友達になれて嬉しいって。…ねえ、そっちの白い頭の子は?」
「あ、僕は景見凶夜です。【超高校級の不運】です。」
「へえ、きょうやくんね。なんか、きょうやくんってウサギさんみたいだね。」
「う、ウサギ…?」
「うん。髪が真っ白で、目が赤くって…ウサギさんみたいでかわいい!」
「あ、ありがとう…」
今までこの見た目のせいでからかわれてきたから、そう言われるとちょっと調子狂うな…
「ねえねえ、ボクは!?何っぽい?」
「うーんっと、かなえちゃんはテリア系かな。元気いっぱいだし。」
「テリアって犬?わーい!ボク、ワンちゃん大好きだよー!」
「ねえ、そっちの綺麗な子は?」
「私?…ホント、なんでどいつもこいつも私の事を知らないのかしら。…白鳥麗美。【超高校級のマドンナ】よ。ウフフ、私の美しさに見惚れてもいいのよ?」
「しらとり?うーん、れいみちゃんは白鳥っぽくはないよね。どちらかっていうと、むしろコクチョウだよ。」
「ちょっと!あんた、何勝手に私を動物で例えてるのよ!私は私!動物で例えられるわけないでしょ!?バカなの!?」
「れいみちゃん、ちょっと静かにしてくれないかな。翠がうるさいって言ってるよ。」
「私の声のどこがうるさいのよ!!あんた、その頭のねじりハチマキ引きちぎるわよ!!」
ねじりハチマキって…編み込みでしょ。
引きちぎるって…口悪いなあ、白鳥さん…
なんか、白鳥さん、だんだん性格がひどくなってってるような気がするんだけど…
「ねえ、そっちの外国人の子は?」
「フン、貴様も俺の事を知らないとはな。日本では、俺の国はニュースで扱わないのか?…まあいい。俺の名はラッセ・エドヴァルド・シルヴェンノイネン。【超高校級の国王】だ。貴様ら、4人もいて全員俺の事を知らないとは…無礼にも程があるだろう。シルヴェンノイネン王国の国王だぞ。俺の名をその胸に刻んでおけ。」
「ラッセくんね。ラッセくんは、やっぱりキツネ?」
「おい。貴様、一国の国王を動物に例えるなど、無礼極まりないぞ。今すぐ首を垂れて今の発言を訂正しろ。」
「ええ…ラッセくん、言ってる事が難しすぎてよくわかんないよ。」
「貴様、どこまで俺を愚弄する気だ!!不敬罪で極刑に処すぞ!!」
わぁ…日暮さんは大胆すぎだけど、ラッセ様も器が小さいなぁ…
せっかく一旦平和になったと思ったのに、また乱してどうすんのさ。
「ピィ!」
翠ちゃんは、いきなりラッセ君に襲い掛かった。
「わっ!おい、なんだこの鳥は!!おい銀髪!!今すぐこの鳥をどうにかしろ!!」
「あ、ちょっと!翠!ダメだよ!ラッセくんを攻撃したら!…いい?わたしに怒鳴ってきたからって、怒っちゃダメだよ?ケンカはダメっていつも言ってるでしょ。」
「ピィ。」
うーん、どいつもこいつもキャラが濃すぎなんだよなぁ。
なんでもかんでもラッキーだと思っちゃう叶さんに、自分以外の人間を見下してる白鳥さんに,王様なのにどこか子供っぽいラッセ様に、翠ちゃんで攻撃してくる日暮さん…
このメンバーで、平和になんて過ごせるわけないんだよなぁ。
…やっぱり僕って、不運だなぁ。