【景見凶夜編】
今思えば、僕の人生はロクな事がなかった。
僕は、自分の才能が嫌いだった。
【超高校級の不運】なんて称号、欲しくなんかなかった。
何かをすれば必ず悪い事が起こって、毎日のようにひどい目に遭った。
僕だけならまだいい。でも、僕の『不運』はまわりの人達にまで迷惑をかけた。
周りの人達はみんな、僕を呪いのように忌み嫌ってきた。
学校ではクラスメイトから無視されて、ついには親からも見放された。
でも、全部『不運』なんて才能を持って生まれた僕が悪いんだと思っていた。
こんな僕に、生きてる価値なんて無いと思っていた。
僕は、生きてるだけでみんなを不幸にする。
僕が死んだところで、悲しむ人なんて誰もいない。
僕なんて、生まれて来なければ良かったんだ。
僕は、自分自身に絶望して、何度も死のうとした。
でも、そんな度胸もなくて、いつも死に損なった。
今度こそ死のう、そう思った時、君に出会った。
…叶さん。
僕は、君がいたから生きられた。
君は、こんな救いようのない僕に、生きろと言ってくれた。
生まれて初めて、こんな僕を望んでくれる人に出会えた。
今まで死にたくなるような人生だったけど、君のおかげで生きたいって思えた。
僕は、君に会えて本当によかった。
君が、ずっと暗闇にいた僕を照らしてくれたから。
君が僕に、希望を与えてくれたから。
君と…いや、みんなと出会えた事が、僕にとって最初で最期の『幸運』だった。
僕は、これからもずっとみんなと共に歩みたかった。
【景見凶夜の独房】
…今日は楽しかったな。
パーティーなんて、参加したのは久しぶりだよ。
…それに何より、僕なんかが叶さんの友達になれた。
僕は、やっぱり生きたい。
みんなで一緒にここを出たい。
…そして、やらなきゃいけない事もできた。
今は恥ずかしくて言えないけど、無事出られたらちゃんと叶さんに伝えるんだ。
僕は君の事が好きだ。君と一緒に生きたいって。
スッ
…?
なんだろう、これは…
紙?
誰かが挟んだのかな?
…え。
景見へ
ちょっと話したい事があるから9時40分にオレの研究室に来てくれ。
栄陽一
栄君が…?
僕に話したい事ってなんだろう?
でも、わざわざこうやって紙切れに書いて持ってきてくれたわけだから、きっと重大な用件だよね。
栄君が、僕なんかに重要な相談を持ちかけてくれてるんだ。
その気持ちを無下にするなんて失礼だし、何より彼の力になりたい。
いつも迷惑をかけてる僕でも、彼の役に立てるかもしれない。
おこがましいかもしれないけど、クラスのみんなを少しでも助ける事ができるんだったら、それは何よりも嬉しい事だ。
どんな用件かはわからないけど、とりあえず9時40分に栄君の研究室に行こう。
◇
【超高校級の栄養士】の研究室
ここだったよね。
一応インターホンを鳴らして入ろう。
ピンポーン
「栄君、いる?」
…。
返事がない。
確かに呼ばれたんだけどな。
今何かしてて忙しいのかな?
…まさか、呼んだ事を忘れられてたりとかは…ないよね?
「…あ。」
開いてる…
中に入っていいって事なのかな?
「…お邪魔します。」
僕は、ドアを開けて部屋の中に入った。
「…あれ?」
部屋には電気が付いているのに誰もいない。
この時間に僕を部屋に呼んだってことは、研究室にいると思ったんだけどな…
栄君、どこにいるんだろう?
…呼んでみよう。
「栄君、景見です。呼ばれてここに来たんだけど…」
ザクッ
「ッ、え?」
お腹に、ズキズキと痛みが走る。
痛みが走った部分から、温かい何かが流れ出る感じがして、視界が少し歪んだ。
口から何か温かくて生臭い物が溢れ出た。
僕は、
…血?
目線を下に下ろすと、白鳥さんが僕を何かで刺していた。
「…死ねよ。」
ようやく状況を理解した。
僕は、白鳥さんに殺されているんだ。
…なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんで!!?
なんで白鳥さんが栄君の研究室にいるの!?
あれは、僕をおびき寄せるための罠だったの…!?
なんで…信じてたのに…
なんで白鳥さんは、僕を殺そうとしてるの…?
…僕が何か悪い事をしたから?
僕の【不運】に白鳥さんを巻き込んだから?
わけがわからない。
いやだ、いやだいやだいやだ!!
僕は、こんな所で死ねないんだ!!
「う゛ぁあああああああぁあああああああああぁああああああああああああ!!!」
「キャッ!?ちょっと!あんた、何を…」
いやだ、死にたくない…
僕は、叶さんと、みんなと一緒にここを出るって約束したんだ…!
ここを出るまでは…叶さんに想いを伝えるまでは、絶対に死ねないんだ!
とりあえず白鳥さんをなんとかして、早く手当てしないと…
まずは止血…このままだと、本当に死んじゃう…!
いや、まだ痛みがある…今手当てすれば、助かるかもしれない。
癒川さん達を呼ばなきゃ…
僕は、こんなところでは死なない。
叶さんが、みんなが約束してくれたから。
僕は、何がなんでも絶対に生き残るんだ…!
「あっ…!」
僕の手が触れたはずみで、白鳥さんの手帳の画面が表示された。
手帳には、白鳥隥恵と表示されていた。
「さ、かえ…?」
「調子に乗ってんじゃねェよ雑魚がぁああああああああああ!!!」
「ぐあっ!!」
僕は白鳥さんに引き剥がされ、突き飛ばされた。
「あっ…かっ…はぁ、あっ…」
お腹から血が抜けて、意識が朦朧とする。
もう、視界が歪んでまともに立てない。
手足に力も入らない。
いやだ、まだ死にたくない…
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだ
いやだ!
僕は、生きたいんだ!
こんな所で死んでたまるか!
何か、何か方法は…
…まずい、血を流しすぎて頭が回らない…
僕は、まだ死ねないのに…
「あっ…がっ…」
まだ死ねないのに、もう身体が動かない。
もう、痛みすら感じない。
暗い…冷たい…
水の底に沈んでいく…
…僕は、死ぬのか…
まだ、みんなとの約束を果たしてない…
さっき見つけたばっかりだけど、これからやりたい事もまだあるのに…
「…あぐっ、かっ…」
…無理だ。
どんなに力を入れても、身体が動かない。
意識も朦朧としてきた。
まともに声も出せない。
誰かを呼ぶ事もできない。
もう、僕はきっと死ぬしかないんだ。
でも、どうせ死ぬなら、ただでは死なない。
叶さんは、頭が良くて勇気がある。
きっと、僕を殺した犯人を見つけてくれるはずだ。
だったら、僕に今できる事は、叶さんに犯人を見つけてもらうために、少しでも多くの情報を遺す事だ。
でも、普通に遺すんじゃ、白鳥さんにバレて終わりだ。
…そうだ、『バートン伯爵のティータイム』…!
あれに出てきた暗号なら、叶さんはきっと解いてくれるはずだ。
…サカエ。
手帳に書いてあった名前を、メッセージとして遺そう。
Sの3つ後ろはV、Aの3つ後ろはD、Kの3つ後ろはN、D、Eの3つ後ろはH…
VDNDH
…書けた。
叶さん、ごめん。
本当は、君と一緒に生きたかった。
みんなと一緒に外に出たかった。
君に想いを伝えたかった。
でも、僕はここまでみたいだ…
約束、守れなくなっちゃってごめんなさい。
どうか犯人を見つけ出して、僕の無念を晴らして…
「か、なえ…さん…ご、めん…やく、そく…守れ…な、かっ…た………」
もう、視界がぼやけて何も見えない。
身体の感覚がなくなっていく。
最期に感じたのは、目から溢れて頬をつたう温かい何かだった。
それを最後に、僕の意識は途切れた。
「…。」
「はぁっ、はぁっ…やっと死んだ…手間かけさせるんじゃないわよ…!」
「あーあ、死んじゃったよ。なーにが『全員で外に出る』だよ、そんなの無理に決まってんじゃん!自分の身も自分で守れないような無能だったからオマエは死んだんだよ!【不運】のクセに、不相応な夢を見るなよ。オマエには、夢を叶える事なんてできないし、夢を見る資格も無いんだよ!恨むなら、望まれない才能を持って生まれた自分を恨む事だね!」
【白鳥隥恵編】
私には、双子のお姉様がいた。
お姉様はお母様に似て、とても賢くて気品があって、絢爛華麗な人だった。
それに比べて私は、見た目も内面も醜かった。
だから私は、いつもお姉様と比べられて惨めな思いをした。
「あなたって、何もできないのね。麗美はこんなにいい子なのに。」
「これ以上私達を失望させるな。私は、麗美だけでも良かったんだ。」
両親は、なんでもできて親孝行なお姉様ばかりを可愛がった。
ただでさえ醜悪な上になんの才能もない私は、のけ者にされた。
私をお姉様と同等に愛してくれた事は一度も無かった。
「お前、麗美の妹のクセに、なんでそんなにブッサイクなんだよ!」
「双子なのにこんなに似てないって笑えるよな!どんなクリーチャーだよw」
「やーい、ブースブース!」
幼稚園のクラスメイトのほとんど全員からもいじめられた。
私の味方なんて誰もいないと思っていた。
でも、たった一人だけ、私の味方がいた。
「やめなさいあなた達!これ以上隥恵をいじめたら許さないわよ!」
他でもない、お姉様だった。
お姉様は、私がいじめられるたびに、いつも庇ってくれた。
「お姉様、どうして…」
「だって隥恵は、かわいい私の妹だもの。またいじめられたらすぐ助けてあげるから!」
お姉様は、この世界で唯一私を人間扱いしてくれた。
お父様とお母様に怒られた時は慰めてくれた。
おもちゃや洋服をいつも私に譲ってくれた。
私は、いつもお姉様に救われた。
私にとって、お姉様は憧れの存在だった。
…私は、そんなお姉様が大嫌いだった。
双子なのに、私とは何もかもが正反対だった。
誰よりも美しく全てにおいて完璧なお姉様と、誰よりも醜く何の才能もない私。
お姉様と私は、住む世界が全く違う。
それなのにお姉様は、私を妹として可愛がった。
私にとっては、それが何よりも許せなかった。
むしろ、軽蔑された方がまだ良かった。
優しくなんてされたら、差が浮き彫りになって私が惨めになるだけだった。
私にとって、お姉様は眩しすぎた。
私は、お姉様に憧れると同時に嫉妬していた。
お姉様さえいなければ、私がここまで酷い目に遭う事もなかったのに。
…殺したい。
お姉様がいなくなれば、私は『白鳥麗美の妹』じゃなくなる。
そうすれば、きっと私は私になれる。
そう思った矢先だった。
飛行機が、炎を上げながら家に突っ込んできた。
家は全壊し、お父様とお母様はあっけなく死んだ。
私も大怪我を負い、気を失った。
目が覚めると、そこは病院の一室だった。
私の周りを、親戚だけじゃなくて知らない人達まで囲んでいた。
「良かった、目が覚めて。1週間眠ったままだったのよ。」
1週間…
…そうか。
私は、助かったのか。
…良かった、生きてて。
「…え。」
目の前の鏡に、私の顔が映った。
それは、お姉様の顔そのものだった。
うそ、うそうそうそ…
何これ、どういう事…!?
こんなの、私の顔じゃない…!
なんで私がお姉様の顔になってるの?
きっと夢か何かよね、ねえ、そうよね!?
「…良かったわね、
…は?
みんな何を言ってるの?
違う、私はお姉様じゃない…
じゃあ、お姉様は…!?
「麗美ちゃん…ご両親と隥恵ちゃんの事は残念だったけど、元気出してね。」
隥恵…?
違う、それは私の名前だ…
…じゃあ、まさか、お姉様は…!
「そんな…いやっ…いやぁあああああああぁあああああああああああああ!!!」
「…隥恵、良かった…生きてて…」
「お姉様…!?お姉様…!!」
…思い出した。
今私が生きてるのは、あの時お姉様が護ってくれたからだ。
お姉様は、私を庇って死んだ。
この時、私は2つの事を学んだ。
大切なものは、失って初めて気づく事。
そして、一度失ったものは後でどんなに後悔したって、嘆いたって、決して元には戻らないという事。
失ってしまったのなら、私にできる事はそれを埋め合わせる事だけだった。
私は、その日から必死でお姉様を演じた。
私なんかがお姉様に才能で勝てるわけがなかった。
だから、追いつけるように必死で努力した。
お姉様なら、もっとできる。
お姉様なら、こんなに出来の悪い子じゃない。
そうやって、自分を追い込んで必死にお姉様に追いつき、追い越そうとした。
隥恵なんてダサい名前はもう捨てた。
白鳥隥恵は、あの日の事故で
私が、私だけが、『白鳥麗美』なんだ。
そして数年の月日が流れ、私は【超高校級のマドンナ】として希望ヶ峰学園にスカウトされた。
私は、誰もが羨む憧れの的に、完璧な美少女に生まれ変わった。
誰も、私の本当の正体に気づく人はいなかった。
…いや、『本当の正体』はおかしいか。
だって、私こそが本物の『白鳥麗美』なんだから。
私は、【超高校級のマドンナ】白鳥麗美として希望ヶ峰に入学する…
…はずだった。
気がつくと、私は知らない場所に監禁されていた。
そこには、私以外に15人の高校生がいた。
私達16人を閉じ込めた2匹のぬいぐるみが言う事には、私達は重大な罪を犯し、囚人として才監学園に収監されたという事だった。
私は、信じられなかった。
『白鳥麗美』が、罪を犯すわけがない。
きっと何かの間違いだ。
この私が、こんなところにいていいわけがない。
でも、釈放以外に希望ヶ峰に行く方法は無かった。
こんな所早く抜け出したかったけど、人を殺したら退学になる。
そうなったら、希望ヶ峰に行く道は完全に潰える。
それだけは、絶対にあっちゃいけない事だった。
諦めて釈放を待とうと考え始めたその時、モノクマとモノベルはとある提案をしてきた。
人を殺した生徒には、『再入学資格』を与え、さらにエリートクラスに編入させると。
私は思った。
『白鳥麗美』なら、こんなところに閉じ込められずに希望ヶ峰のエリートになっているはずだと。
そして、それを現実にするチャンスは目の前に転がっている。
だったら、それを利用しない手はない。
モノクマとモノベルは期限を決めてきたけど、私にはそんな物必要なかった。
悩むまでもない。私の答えはすでに決まっている。
誰かを殺してでも、私は希望ヶ峰に行く。
それで私が『白鳥麗美』でいられるのなら、リスクなんてどうでもいい。
あの日誓った。
私のせいで失ってしまったものを、一生をかけて埋め合わせると。
たとえそれがどんなに険しくて苦しかったとしても、最期まで『白鳥麗美』として生き、最期は『白鳥麗美』として美しく散ると。
私の『あるべき姿』を貫き通すためなら、たとえ誰を何人犠牲にしようと、どれだけ自分の手を汚そうと構わない。
私が『私』であり続ける。これが、私にできる唯一の償いだ。
さて、誰を殺そうか。
…決めた。
景見を殺そう。
アイツは、自分の不運のせいでいつも他人に迷惑をかけて生きてきた。
そのくせ、なんの努力もせずに【超高校級】の称号を手に入れた。
何が【超高校級の不運】だ。
鈍臭いってだけでスカウトされた奴が、私と同じ空間にいていいわけがなかった。
その上、死にたい死にたいって耳障りだ。
あんな奴、視界に入るだけで不愉快だ。
…そんなに死にたいなら、望み通り殺してやる。
私は、お前を踏み台にして這い上がってやる。
◇
【娯楽室】
私は、アリバイの信憑性を上げるために朱と一緒に羽澄のダンスを見た。
誰かを殺した生徒は再入学できるって言われたけど、校則の6番目に自分がクロだと知られちゃいけないって書いてあった。
もし知られたらどうなるのかを、アイツらは説明しなかった。
だったら、バレないように殺せばいい。
念には念を入れてアリバイ工作と誰かに罪をなすりつけるための証拠作りはやっておかないとね。
「どうよ!アンタ達も踊ってみたくなってきたでしょ?」
「スゴイですね!サスガは踊子サンでス!」
「…。」
私は、席を立ち上がって娯楽室の最奥の部屋を抜け出した。
「あれ?麗美サン、どこ行くんデスカ?」
「…ああ、研究室にハンカチを忘れてきちゃって…ちょっと取ってくる。二人は、そのまま続けてて。」
「ああ、うん…」
「了解デス!」
…うまく抜け出せた。まずは、ピンを盗んで…
栄を殴って手帳を操作しよう。
アイツはバカだから、簡単に騙せるはずよ。
メダルを道の死角に投げて…
チャリーン
「んお?なんの音だ?」
…バカね。
引っ掛かったわ。
「うおっ!メダルが落ちてんじゃねえか!ラッキー!!これで、キナくさい原に搾り取られた分取り戻せるぜ!…んあ?」
私は、奴がしゃがみ込んだ時背後に忍び寄って、思いっきり頭をピンで殴った。
ゴッ
「ぐあっ…!」
…ふぅ。
なんとか一発でオチてくれたわね。
さてと、手帳の設定を変更して…
これで良しと。
…途中で目覚められたら厄介だから、縛って顔にテープでも巻いておきましょ。
コイツが目を覚ましたら、全部コイツのせいにして私は一人で再入学を果たすわ。
…悪く思わないでね。全部、こんなあからさまな罠にかかったあんたが悪いのよ。
さてと、これでコイツの研究室に入れるはずよ。
私は、研究室の中に入った。
そして、包丁を取り出して物陰に隠れた。
紙をドアの見えやすい位置に挟んでおいたから、もう少ししたら景見が来るはずよ。
ピンポーン
ガチャッ
「…あれ?」
計算通り、景見が部屋の中に入ってきた。
アイツは、キョロキョロと部屋中を見回している。
栄を探してるのね。
バカね。アイツは、部屋の外で寝てるわよ。
「栄君、景見です。呼ばれてここに来たんだけど…」
今だ!!
ザクッ
「ッ、え?」
私は物陰から飛び出し、一気に距離を詰めて包丁で奴を突き刺した。
景見に反応させずに包丁をうまく刺せた。
包丁は、急所に深々と刺さった。
あとは、出血多量で勝手におっ死ぬのを待つだけよ。
「…死ねよ。」
すると、景見はいきなり大声を上げて私の腕を掴んだ。
「う゛ぁあああああああぁあああああああああぁああああああああああああ!!!」
「キャッ!?ちょっと!あんた、何を…」
痛っ…!?
何コイツ、細いクセになんでこんなバカ力なのよ!?
…まさか、火事場の馬鹿力…!?
マズい、このままだと本当に腕を折られる…!
「あっ…!」
景見が手を滑らせて、私の手帳に触れた。
その瞬間、私の手帳の画面が表示された。
ヤツは、私の手帳の画面を見て、一瞬手の力を緩めた。
「さ、かえ…?」
振りほどくなら今しかないと思い、思いっきり突き飛ばした。
「調子に乗ってんじゃねェよ雑魚がぁああああああああああ!!!」
「ぐあっ!!」
景見はよろけて、その場に倒れ込んだ。
ああああああああ!!!最悪!!本っ当に不愉快!!気持ち悪い!!
この私が、こんな何の才能もなくて人に迷惑しかかけない愚図に一瞬でも反撃を許すなんて…!
ホンット信じられない!!っていうか、逆になんでコイツ今まで生きてたの?マジであり得ないんだけど!
「あっ…かっ…はぁ、あっ…」
え、嘘でしょ!?
コイツ、まだ意識あんの!?
確かに急所を刺したはずよ!?
出血量だって、気絶どころかもう死んでてもおかしくない量なのに…
【不運】のクセに、なんで生命力だけは無駄に人一倍強いのよ!
「あっ…がっ…」
何よコイツ…ホントに、見てるだけで不愉快!!
早く死ねよ!!
「…あぐっ、かっ…」
景見は、仰向けのままズリズリと身体を動かした。
コイツ、ゴキブリ並みにしぶといわね。
ホントに見苦しいわ。
早く死にたいんじゃなかったの?
なんでそうやって抵抗すんのよ…!
あー、こんな事ならもっと確実に殺せる方法にすれば良かった。
そうだ、今から心臓を刺して…
「か、なえ…さん…ご、めん…やく、そく…守れ…な、かっ…た………」
景見は、聞こえるか聞こえないかくらいの声で何か言った。
は?何泣いてんのよコイツ。
ホントシラけるわ。
…あ。
「…。」
気がつくと、景見は私の足元で動かなくなっていた。
瞳孔は開ききって、完全に何も言葉を発さなくなった。
「はぁっ、はぁっ…やっと死んだ…手間かけさせるんじゃないわよ…!」
…目の前に死体が転がっている。
私は今、人を殺したんだ。
…でも、どうしてだろう。
全く心が痛まない。
…むしろ。
「…ははっ。あははっ。あーっはっはっはっははははははははははははははははははははははははははは!!!」
やった!!
やったわ!!人を殺したから、再入学できるわ!!
これで私は、本物の『白鳥麗美』になれる!!
そうよ、私は希望ヶ峰のエリートなのよ!!
私は何も間違ってない!!
私が…私こそが、勝者にふさわしい!!
「ははははは…あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
…あ。
私は、自分の身体を見た時初めて気づいた。
景見に抵抗されたせいで、袖に血がべったりついている事に。
マズい、早く汚れを落とさないと…!
私は、服の汚れを落とせる物がないか探した。
「…あれだ!」
私は、大根をすり下ろして、それを使って服の血を落とした。
幸い、血は綺麗さっぱり落ちた。
あとは、ガスコンロを使って軽く服を乾かして…
…これで良し。
これで、私が殺したって事はバレないはずよ。
私は、外に誰もいない事を確認してから、研究室の外に出た。
◇
栄の手帳の設定を元に戻して、ピンを回収しないと…
…!!
嘘でしょ。
羽澄が来たんだけど!
アイツ、朱に踊りを見せてるんじゃなかったの…?
…いえ、落ち着くのよ。
ここで動揺したら、逆に怪しまれるわ。
私は、平然を装って羽澄とすれ違った。
…良かった。
景見を刺し殺した事はバレてないわね。
さっさと手帳を元に戻して、ピンを回収しちゃいましょう。
私は、栄を放置した物陰に戻って、栄の手帳の設定を元に戻し、拘束を解いた。
あとは、ピンを回収して…
◇
【娯楽室】
ピンは元に戻したわ。
あとは、何事もなかったかのように元の場所に戻るだけよ。
「麗美サーン!遅かたですネ!踊子サン、今トイレ行てますヨ!」
「ごめん。部屋が散らかってて、探すのに手間取っちゃったの。もう見つけたから大丈夫よ。ほら。」
証拠として、ハンカチを見せた。
この子は、私の部屋をまだ見てないからね。
散らかってたって言えばうまくごまかせるわ。
「ならよかたでス!あ、踊子サン来ましたヨー!」
「ごめ。ちょっとトイレ行ってた。あ、レイミ戻ってたんだ。」
「ええ…」
「ハンカチは見つかった?」
「ええ、見つかったわ。」
え、何…
なんか、羽澄がすごいこっち見てくるんだけど…
まさか、バレたわけじゃない…よね?
「あっそ、ならいいんだけど。…あ、もう遅い時間だし、そろそろ部屋戻らね?」
「そうね。夜時間は出歩いちゃいけない事になってるしね。」
「もうチョト踊子サンの踊り見たカタですケド…夜時間ダカラ仕方ありませんネ!」
私達は、部屋に戻った。
◇
…大丈夫よ。
きっと、誰にもバレないわ。
だって、私は完璧な美少女『白鳥麗美』なの。
こんな所でしくじるわけがないわ。
…人を殺したから、これで希望ヶ峰に再入学できるのよね?
大丈夫、私は何も間違ったことはしていない。
私は無罪だ。
私は、自分の本来あるべき姿を取り戻すために、行動を起こしただけだ。
私は何も悪くない。
私は、『白鳥麗美』。私は希望ヶ峰のエリート。私は完璧な美少女。
私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美私は白鳥麗美
「うぷぷ…あーあ、殺っちゃったよ。『私は白鳥麗美』?はぁ?何言っちゃってんのかな?白鳥麗美なら、10年前に死んでんじゃん!オマエは、ただのシスコンを拗らせたキチガイだろーが!もうありもしない偶像に成り代わろうとするなんて、ホント愚の骨頂だよね!うっぷぷ、人っていうのは、うわべだけ取り繕っても本性までは成り代われないよね?オマエはずっとドブスな性悪女のままなんだよ。いい加減身の程をわきまえろ!」
「うっぷぷ、ねえねえ、今どんな気持ち?ちゃんと絶望してくれた?…って、もう死んでたか。せいぜい、あの世で自分の過ちを悔いるんだね。身の程知らずの愚か者共が。」