【日暮彩蝶編】
わたしは、ここに来てからみんなと色んな事をした。
それはすっごく楽しかった。
でも、わたしのほんとうの友達と呼べるひとは、一人もいなかった。
わたしのほんとうのお友達は、あの日全員死んじゃったんだ。
みんな、あの子に殺された。
…ようこちゃんに。
だからわたしは、あの子に復讐することにした。
スクリーンには、小学校の映像が映った。
『すごーい!あげはちゃん、そんなにたくさん鳥さんとお話できて!』
『ねえねえ、あたしにもできる!?』
『うん、この子達は、人懐っこいからね!すぐにみんなとお友達になれるよ!』
『すごーい!』
『ねえ、この後うちに来ない?わたしのママが、今日ケーキ焼いてくれるんだってー。』
『わーい!行く行く!』
『あげはちゃんは、かわいくって頭が良くて、動物さんたちと仲良しで、しかもお金持ちのお嬢さま!ホント憧れちゃうよねー!』
『えへへ…』
『ねえ、あげはちゃん!今度、みんなでピクニックにでもいkkkkkkkkkkkkkkk…あっ、い、いかnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn…』
「!?」
映像が急に乱れ、画面が砂嵐になった。
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
プツン
砂嵐が止んで、映像が元に戻った。
でも、そこにはさっきまでの小学校はなかった。
教室は真っ赤に染まり、床には子供達の無惨な亡骸が転がっていた。
そこには、ただひとりの黒い影があった。
その影は、甲高い声で不気味に笑う。
『きひっ…ひひっ…ひひひひひひっ…あははははははははははは…!』
画面がまた切り替わり、何かの部屋が映った。
そこには、二人の大人とようこちゃんと思われる女の子がいた。
『本当に、君が殺したのかい?』
ようこちゃんは、笑いながら答えた。
『…そうだよ。アタシが殺したんだ。アタシが暁裴駑だったの。』
『!!?』
『なんであんな事したんだ!!』
『あのさぁ、殺人鬼にそんな質問する意味ある?…殺したかった。ただそれだけよ。』
『…!!』
『ひひっ、きひひっ…ははっ、あはははははははははは!!』
ようこちゃんは、不気味な笑みを浮かべながら高笑いした。
そこで映像は終わっていた。
映像は切り替わり、劇場のような場所が映し出された。
劇場の幕の前には、クマちゃんが立っていた。
『クラスのみんなの人気者で、クラスのアイドル的存在だった日暮彩蝶サン!いやあ、実に可愛らしいですね!しかし、クラスメイトに何かあったようですね!?その中でひとり笑う影…そして、羽澄サンがまさかの自白!?では、ここで問題です!!日暮サンの大好きだったクラスのみんなを皆殺しにした犯人は、一体誰だったのでしょうかっ!!正解は、自分の目で確かめてみてねー!!』
…!
うそ、うそうそうそうそうそうそ…!
そんな、こんな事って…!
この時、わたしは思い出した。
ようこちゃんは、わたしのクラスメイトだった。
そして、みんなを殺した犯人がようこちゃんだって事を。
じゃあ、ようこちゃんは、わたしがクラスメイトだって知ってて、今まで…
そんな…
…許せない。
あの子が、ゆいちゃんを…まきちゃんを…たろうくんをしゅんくんを…
絶対許さない。
そうだ。お前はあの女を許さない。違うか?
!!?
いきなり誰かがわたしに呼びかけてきた。
きみは誰!?
俺はお前。お前は俺。お前と俺は、ふたりでひとつ。俺達は、生まれた時からずっと一緒にいる。
きみが…わたし?
そうだ。俺にはわかる。お前の全てが。もちろん、お前があのギャルを恨んでいる事もな。
…そう。わたしはようこちゃんを許せない。許せない、けど…
だったらよぉ、お前…どうしたいんだよ?
…あの子に、みんなの痛みを思い知らせてやりたい。
みんなを…わたしの友達を奪ってのうのうと生きてるあの子が許せない。
そうだよなぁ。…許せないよなぁ。
だったら、殺っちゃえばいいじゃん?
…わたしが、ようこちゃんを…殺す…?
そうだよ。殺しちゃえよ。この前疫病神を殺したブスみたいによぉ…俺がちょっと力を貸してやるから。なあ、殺しちゃえって。
…わたしは。ようこちゃんを殺す。
殺す。
殺す殺す殺す。
絶対に殺す!
『あげは、大丈夫?』
「翠…」
いつのまにか溢れていた涙を拭いてくれたのは、翠だった。
…今思えば、これが踏み止まる最後のチャンスだったんだ。
「…ありがとう翠。」
『ねえ、あげは。さっきの映像だけど…本当に、あげはのおともだちにひどい事をしたのは、ようこちゃんなの?』
「…え?」
『私の知ってるようこちゃんは、悪い子じゃないよ。きっと、なにかわけがあるんだよ。一回ようこちゃんと話し合ってみようよ。』
「…そうだね。うん、翠の言う通りだよ。わたし、どうかしてた。…そうだよね。ようこちゃんは、何の理由もなくわたしのお友達を殺すような子じゃないもんね。」
『そうだよ!』
「…決めた。わたし、やっぱりようこちゃんと話にい…」
本当ニソレデイイノカ?
「!!?」
いいか、俺は、お前自身に聞いてるんだ。…お前、本当はそれで納得してねぇんだろ?
ちがう、わたしは、ようこちゃんとお話しに行くんだ。
お話しに行って、ちゃんと疑っちゃってごめんなさいって謝るんだ。
『そうだよ、あげは!ようこちゃんはきっと許してくれるよ!』
…そうだよね。あの子なら、きっと許してくれるよね。
あの女がお前を許す?脳内お花畑も大概にしろ。人を許せない奴が許されるわけねえだろ。
わたしは、許され、ない…?
『そんな事ない!あげはもようこちゃんも悪い子じゃないもん!謝って、ふたりで仲直りしようよ!』
仲直り…
そんなの無理に決まってんだろ。…どうせ許されねえ罪なら、どうすりゃあいいと思う?
踏み倒しちまえばいいんだよ、そんな罪。
なあに、簡単な事さ。あの女を殺しちまえば、あの女が罪を犯していようといまいと一緒だろ。
…罪を、踏み倒す?
わたしが、ようこちゃんを殺人鬼扱いした事が、無かった事になる?
『それは違うよ!ようこちゃんを殺したって、全部が無かった事になるわけないよ!』
なあ、本当はアイツが憎いんだろ?ほら、いい加減目を覚ませ。お前のドス黒い本性を曝け出してみろ。
『あげは!がんばれ!あげはの心の中にいる悪いヤツなんかに負けないで!また一緒にお歌を歌おうよ!』
おい、クソ鳥。お前何勝手にピーピーわめいて俺の片割れの心を乱してくれてんだ。俺達の心をどうにかしていいのは、俺達だけだ。たった数ヶ月一緒に過ごしてきただけのテメェが割り込んできていい領域じゃねえんだよ。
『きみがあげはとようこちゃんをケンカさせようとしてるんだね!?きみとあげはが同じなわけない!きみなんか、あげはじゃないよ!』
何言ってんだよ。日常生活はほぼそっちの人格を表に出してやってるってのによぉ。目障りなんだよ身の程知らずの畜生が。
『きみこそ、あげはにひどい事をさせちゃダメだよ!私、あげはとようこちゃんをケンカさせるような奴なんて大っ嫌い!』
ピーチクパーチクうるっせぇんだよ!!お前は黙ってろクソ鳥がぁあ!!!
…ッうるさい!!!
「ピギャッ!!」
…あ。
気がつくと、わたしは翠を叩いていた。
「あっ…ごめん、ごめんね翠!わざとじゃないの!ごめん、許して!」
「ピィ、あげは…」
で?結局、お前はどうしたいんだよ。殺すのか?
…っえ。
殺しはいいぞ?スカッとする!イヤな事とか、全部忘れられるぜ。
そんな事…
それに、お前は憎いんだろ?友達を全員ブチ殺したあのギャルが!!
ちがう…
違わねえさ。俺の声が聞こえてんのがその証拠だ。お前は羽澄踊子が憎い。そうだろ?
…そうだ。
わたしは、ようこちゃんが憎い。
わたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎いわたしはようこちゃんが憎い
なら、やる事はひとつだろ?
…殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす
『ダメ…!あげは、おねがい…正気に戻って!』
「…。」
『…あげは?』
「翠、どうしたの?怖い顔して。ごめんね、さっきの事…まだ怒ってる?」
『良かった、いつものあげはだ!こわいナニカじゃない!』
「…あのね、翠。ちょっと考えたんだけど、翠に話さなきゃいけない事があるんだ。」
『お話?なあに、あげは?』
「…わたし、ようこちゃんを殺す。」
『…え!?』
「きっと、翠の言う通り、ようこちゃんに確かめに行くのが
『だったら…!』
「だけど、それはわたしにとっての
『もし、あの映像が嘘だったら!?あげはは取り返しのつかない事をしちゃうんだよ!?』
「でも、わたしの記憶がそうだって言ってるんだもん!!それに、殺すなら今しかないんだ!!早くしないと、他の誰かがようこちゃんを殺すか、ようこちゃんが他の誰かを殺すかしちゃうでしょ!?そうしたら、わたしは復讐のチャンスを失っちゃうんだよ!?ようこちゃんが殺人鬼かなんて悩んでる暇は無いんだよ!!」
『あげは…!』
「…翠、わたしのお友達なら、わたしの事助けてくれるよね?誰が、赤ちゃんだったきみを助けて今まで育ててあげたと思ってるの?」
『…わかった、私はあげはを手伝う…』
「ありがとう翠。ごめんね。本当はこんな脅し文句、使いたくなかったけど…でも、復讐のためだもん。わかってくれるよね?」
『…。』
「決まりだね。」
決めた。
わたしはようこちゃんを殺す。
クラスのみんなのかたきを討つんだ。
…これで良かったんだ。
これで良かった。
…良かった?
「あーあ、殺っちゃったよ!全く、クラスメイトを殺したのは自分の裏人格だってのに…簡単に闇落ちして大恩人を殺しちゃうなんて、真性のドクズ女だよね!!せっかく親友のインコが止めてくれたってのに、結局殺人の道具にしちゃってさぁ…そんなゴミみたいに性根が腐った女は、地獄の底ででも朽ち果ててろ!!」
【羽澄踊子編】
アタシは、アゲハのおかげで生きられた。
病気で夢を諦めかけてたアタシを、あの子のお父さんが治してくれた。
あの子にも、アタシが病気と闘ってる間ずっと励ましてもらった。
アタシは、あの子に夢を貰った。
アタシは、あの子がいたからつらい闘病生活も耐えられた。
あの子がいなかったら、生きる事も、夢を叶える事もできなかった。
だから、この恩はちゃんと返さなきゃいけない。
アタシは、アゲハのためならなんだってできるしなんだってする。
だからアタシは…
その日は、ウチのクラスでやる白雪姫の劇の役決めの日だった。
アタシはその日、たまたま体調を崩して学校を遅刻した。
後から聞いた話だと、役決めでかなり揉めたらしかった。
…どうせ魔女役を押しつけられてるんだろうな。
アタシは、憂鬱な気分で教室に入った。
「ッーーーー!!」
そこには、信じられない光景が広がっていた。
赤く染まった教室。床にはクラスメイト達の無惨な亡骸が転がっていた。
そこには、ただひとりの黒い影があった。
その影は、甲高い声で不気味に笑う。
「きひっ…ひひっ…ひひひひひひっ…あははははははははははは…!」
その影は、アゲハ…いや、ハイドだった。
「…。」
何が起こったのか全く理解できなかった。
アタシは、思わず声を漏らした。
「…!!?…あ、あああ…アゲハ…!?アンタ、何やってんのよ…!」
「…。」
アゲハが、不気味な表情からいつもの表情に切り替わった。
…ハイドからアゲハに切り替わったのか?
「…あれっ?よ、ようこちゃん…?…え、何これ…一体どうなってるの…!?みんな、起きてよ!ねえ、ねえ!!」
「…もしかして、またハイドが現れたのか?」
「ハイド?何それ…わたし、何も知らない!!気付いたら、みんながこんな事になってて…」
アゲハの奴…かなり混乱してるな。
そりゃあそうだ。ハイドがいる間、アゲハはなにも覚えてないんだから。
アタシにはわかってた。これをやったのは、全部ハイドだって事を。
アタシは、覚悟を決めた。
アタシは、アゲハに恩返しがしたい。
…やるべき事は決まっていた。
「…そうだよ。アンタは何も知らない。何もしてない。みんなを殺したのはアタシだ。」
「…え!?ちょっと待って、何言ってるの…!?何考えてるのよようこちゃん!!」
「アゲハ、この大量の死体をどうにかするのは無理だ。みんなはアタシが殺したって事にしておくから、アンタは今のうちに逃げな。」
「なんで!?ねえ、なんでそんな事言うの!?ようこちゃんは、みんなを殺したりしてないのに…!!」
「…アゲハ、アタシはアンタのお父さんに…日暮先生に助けられた。そして、アンタにも元気を貰った。アンタのおかげでアタシは生きられた。アンタ達がいたから、アタシは諦めかけてた夢を追いかける事ができた。アタシに、夢をくれてありがとう。」
「ようこちゃん…!」
「…だから今度はアタシがアンタの夢を守る番だ。アンタ、獣医になるって夢があるんだろ?こんな所で台無しにしていいのかよ!?」
「でも、ようこちゃんはどうなるの…!?」
「アタシの事なら心配すんな。アタシは、アンタに十分すぎるくらいたくさん貰った。今度はアタシがそれを返す番だ。ほら、人が来る前に早く逃げな!!」
「ッ…!!」
アゲハは、泣きながらひたすら走った。
「…誰が犯人かわからない程度には荒らしとくか。」
「おい君!!何やってるんだ!!」
「…。」
…これでいい。
アタシは、元々ここにいるはずじゃなかったんだ。夢は叶わなかったけど、それはいい。
アゲハが…あの子が幸せに生きてくれさえすれば。
あの子の幸せがこんなところで終わるくらいなら、アタシが代わりに罰を受ける。
それがどんなにつらい事だったとしてもかまわない。
アタシは、あの子のためなら悪魔だろうと魔女だろうと、何にでもなってやる。
それからすぐに事件の事がニュースになった。
ニュースではアタシの名前は公開されなかったけど、大勢の人達が、アタシが犯人だって事に気付いた。
あの日から、アタシは殺人犯として責められながら生きてきた。
でも、そんな事はどうでも良かった。
アゲハが、幸せに生きてくれているから。
…家族のみんなにまで迷惑をかけたのは申し訳なかったけど。
でもみんな、アタシは犯人じゃないって知ってたから、あえて何も言わないでくれていた。
みんなの遺族の人達も、何人かは同じだった。
アタシは、ほんの少しの優しい人達に助けられながら、どんなひどい仕打ちにも耐えてきた。
それからしばらくして、ほとぼりがさめて、小学校で起こった事件が話題にあがらなくなった。
アタシは転校を繰り返して、髪の色やメイクを変えた。
おかげで、街でアタシを見かけても、アタシだって気付く人はほとんどいなくなった。
そんな時、クラスメイトからたまたま動画サイトでダンス動画をアップするのを勧められた。
アタシは、勧められるまま動画をアップした。
すると、その動画がどういうわけかめっちゃバズった。
それから、アタシは動画を何本か投稿したけど、どれもめっちゃ大好評だった。
中にはアタシの正体に気付いて殺人犯だとか悪口を書き込む奴がいたけど、大絶賛のコメントの嵐に埋もれてかき消された。
アタシは【超高校級のダンサー】として一躍有名になって、家族の暮らしも前よりだいぶ良くなった。
…やっぱり、あの時のアタシの判断は間違ってなかった。
色んな人に迷惑をかける事になったけど、恩返しはできたし、夢も叶えられたんだ。
…ホントは、アタシは夢を叶える資格も無いのかもしんないけどね。
ありがとうアゲハ。
アンタがアタシを生かしてくれたから、アタシは夢を叶えられたんだ。
それから数ヶ月が経って、アタシはこの学園に収監された。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
一緒にいたアゲハが、他の奴らと楽しそうにしている。
アタシは、正直メッチャ嬉しかった。
あの子が幸せでいてくれた。
それが何よりだった。
アタシは、アゲハが幸せなら、もう何もいらないとさえ思えた。
本当はすぐに昔みたいに楽しく喋ったりしたかったけど、あの子の幸せを邪魔したくない。
だからアタシは、あの子の前では他人のフリをした。
アゲハ、アタシは…アンタさえいればそれでいいの。
だって、アンタはいつでもアタシの光だった。
アンタは、アタシの…
◇
アタシは、シュエメイと一緒にダンスの仕上げをした。
ダンスの練習メニューが全部終わって、アタシ達は解散する事になった。
「ジャ、ワターシ、研究室デ準備してから寝マス!」
「そっか。じゃあ、アタシはもうしばらくここで踊ってよっかな?なんか今ノリにノってるし。」
シュエメイが出て行ってからしばらく経った頃だった。
「…ふぅ。こんなとこかな。そろそろアタシも寝よっと。」
上着を拾って着ようとした、その時だった。
誰かの気配がした。
アタシは、咄嗟に振り向いた。
「!!?」
そこには、ノコギリを構えたアゲハと、白衣のポケットに入ったスイがいた。
「あ、アゲ…ハ…!?なんだよ、アンタ…い、一体、どういうつもり…」
「…ようこちゃん。ごめんね。わたしはクラスのみんなのかたきを討つんだ。」
「仇…!?アンタまさか、あの時の事を思い出して…」
「言い訳なんて聞きたくないよ!とにかく、死んで!!」
アゲハは、猛突進してきた。
「やぁああああああああああ!!!」
でも、いくら相手がアゲハだからって、黙ってやられるアタシじゃない。
アタシは、難なくアゲハを蹴り飛ばしてノコギリを奪った。
アタシに押さえつけられたアゲハは、子供みたいにバタバタと暴れた。
「あぁあああ、あああああああ!!そんな、あとちょっとだったのに!!あとちょっとでみんなのかたきが討てたのに!!」
「…超一流のダンサーナメんなよ。アタシがアンタみたいなチビに殺されるわけないでしょ?」
「か、返して…!」
「返してって言われてはいどうぞって素直に返すわけねーじゃん。…このまま殺されるくらいなら、アタシがアンタを殺してやるけど?」
「ヒッ…!?」
「何ビビってんだよ。アンタだって元々その覚悟で来たんだろ?人を殺す気なら、自分が殺される覚悟くらいしろよ。」
「やだ!!やだやだやだ!!」
「うるせえな。今楽にしてやるよ!」
「…え?」
あれっ?
なんで…なんで目の前が滲んで揺れてんだよ。
…クソッ。やっぱり、無理に決まってるじゃんよ。
「…なんてな。…アンタを殺すなんて事、できるわけないじゃん…!」
「ようこちゃん…」
アタシは、アゲハにノコギリを返した。
「…そんなに仇が討ちたいなら殺れよ。」
「…え。」
「そりゃあ、アタシだって死にたくないけど…でも、どうせ誰かに殺されるんなら、殺される相手くらいは選びたい。アゲハ、アタシはアンタになら殺されてもいい。…ただ。」
「なに…?」
「アゲハ…痛くしないでね?」
「ッ、うぁあああああああああ!!!」
ゴッ
「…あ。」
視界がぼやけて、頭に鈍い痛みがある。
アタシ、殴られた…のか…
そこで意識が途切れた。
「ようこちゃん、ごめん…ごめんね!!」
ザブンッ
ゴポゴポゴポ…
アゲハ、今までありがとう。
アンタは、アタシの希望だった。
「あーあ、死んじゃったよ!せっかく恩人のために自分を犠牲にしてまで冷酷な殺人鬼を演じたっていうのに恩を仇で返すような事されちゃってさぁ!世の中こんな皮肉な事ってあるんだね!まあ何にせよ、恨むならあんなキチガイに関わって勝手に自分の希望だと勘違いした自分を恨むんだね!」
【翠編】
私のお母さんとお母さんの飼い主さんは、私が生まれてすぐに死んじゃった。
私の兄弟も、みんな死んじゃった。
数ヶ月前に起こった大震災のせいで。
私のお父さんは、震災が起こる前に事故で死んじゃってたらしい。
私は、震災で家族をみんな失って、私もがれきの下で死にかけてた。
そんな私を助け出して、まだ赤ちゃんだった私を引き取ってくれたのは、あげはだった。
あげはは、まだ高校生なのに、日本で一番すごい生物学者だった。
あげはは、私を治して、私に翠っていう名前をつけてくれた。
あげはは、私に新しい居場所と名前をくれた。
あげはは、私にとっては友達で、お姉さんで、そしてお母さんだった。
あげはが笑ってる時は一緒に笑って、あげはが泣いてる時は一緒に泣いた。
私は、あげはと一緒にいてとっても楽しかった。
私は、あげはの事が誰よりも大好きだった。
そんなあげはが、おかしくなった。
クマのぬいぐるみに変なビデオを貰って、それを映画館で見てからというもの、あげはは急に様子が変になった。
あげはは、急にようこちゃんが人殺しだと言い出した。
それに、あげはの中にもうひとり、誰かがいるような気がする…
あげはの中にいる悪い奴が、あげはに悪い事を言ってあげはにひどい事をさせようとしてるんだ。
私は、そんな奴を許せない。
あげはもようこちゃんも、本当はとってもいい子なのに。
なんでコロシアイなんてひどい事をさせようとしてるの?
私、もうきょうやくんやさかえちゃんみたいに、ひどい死に方をする人を見たくないのに。
みんなの中の誰かひとりでも欠けたら私、悲しいよ。
絶対に、あげはがようこちゃんを殺すのを止めなきゃ!
私は、みんなで仲良く一緒にお歌を歌いたいんだ!
『ダメ…!あげは、おねがい…正気に戻って!』
「…。」
『…あげは?』
「翠、どうしたの?怖い顔して。ごめんね、さっきの事…まだ怒ってる?」
『良かった、いつものあげはだ!こわいナニカじゃない!』
「…あのね、翠。ちょっと考えたんだけど、翠に話さなきゃいけない事があるんだ。」
『お話?なあに、あげは?』
「…わたし、ようこちゃんを殺す。」
『…え!?』
「きっと、翠の言う通り、ようこちゃんに確かめに行くのが
『だったら…!』
「だけど、それはわたしにとっての
『もし、あの映像が嘘だったら!?あげはは取り返しのつかない事をしちゃうんだよ!?』
「でも、わたしの記憶がそうだって言ってるんだもん!!それに、殺すなら今しかないんだ!!早くしないと、他の誰かがようこちゃんを殺すか、ようこちゃんが他の誰かを殺すかしちゃうでしょ!?そうしたら、わたしは復讐のチャンスを失っちゃうんだよ!?ようこちゃんが殺人鬼かなんて悩んでる暇は無いんだよ!!」
『あげは…!』
「…翠、わたしのお友達なら、わたしの事助けてくれるよね?誰が、赤ちゃんだったきみを助けて今まで育ててあげたと思ってるの?」
『…わかった、私はあげはを手伝う…』
私は、あげはの言葉に逆らえなかった。
反対したら、あげははきっとひとりでようこちゃんを殺しちゃう。
…それか、返り討ちに遭ってようこちゃんに殺される。
私にできる事なんてたかが知れてるけど、あげはが私を置いてひとりで危険な道に行こうとしてるなら、私もついていかなきゃいけない。
ごめんね、あげは。
ごめんね、ようこちゃん。
…ケンカ、止められなかった。
◇
「…はぁ、はぁ…これでなんとかようこちゃんの死体を隠せたね。」
『ねえ、あげは…本当にうまくいくの…?』
「うん。わたしの計算が正しければね。」
『…そう。』
私にはわかる。
このままじゃ、きっとあげははクロだってバレちゃう。
だったら、友達の私がやる事は決まっていた。
『…。』
「翠?何やってるの?」
『別に?何もしてないよ?』
「そっか。…シュエメイちゃんが戻ってきちゃうかもしれない。そろそろ引き上げないと…」
『そうだね。』
私は、保管室の鍵を飲み込んだ。
これが無ければ、きっとあげはを犯人だって疑う証拠が無くなる。
そうすれば、きっとあげはは生き残れる。
他のみんなは死んじゃうけど、私はあげはが一番大事。
あげはの事は、私が守る。
…そう思ってたのに。
◇
あげはが、上へ上へと昇っていく。
私は、あげはについていった。
てんりに…あの悪魔に羽を握り潰されたせいで、うまく羽ばたけないけど…
おしおきなんて、絶対させない!
私があげはを守る!
そう思った時、目の前に袋みたいなものが迫ってきた。
目の前が真っ暗になった。
急に目の前が明るくなった。
目の前には細い柵が見える。
くちばしで噛み切ろうとしても、硬くてビクともしない。
柵の隙間から、あげはが見えた。
あげはは、手足を鎖で繋がれていた。
あげはは、不安そうに周りをキョロキョロと見回した後、泣き喚いた。
…ごめんね、あげは。
わたしが、きみがようこちゃんを殺すのをちゃんと止めていれば…
わたしが、証拠の隠滅をちゃんとしていれば…
わたしが、あの悪魔に捕まりさえしなければ…
全部、私のせいだね。
せっかく今まで育ててもらったのに、迷惑ばっかりかけて本当にごめんね。
『フッフッフ。さあ、エサの時間ですよ。』
トラが、私を鳥カゴから出した。
…お前達のせいで、きょうやくんが、さかえちゃんが、そしてようこちゃんが…!
許さない、許さない!
私はトラの手に噛み付いた。
『フン!全く、小生意気な鳥ですね!そんなアナタにはキッツゥいおしおきをプレゼントして差し上げましょう!!』
トラは、注射器を取り出した。
一体何する気…!?
ブスッ
!!?
あぶぉいうえもあうんゔぉううぇるせこつやぢぽぉじゅげくぉずちゃぽびゅあぁあああああああああああああああああああ!!!!!
『フッフッフ。ワタクシの指なんかよりもっと美味しいエサがあちらにございます。そちらでお腹を満たしてくださいな。』
「ギャオ゛オオオォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「あーあ、死んじゃったよ!いっつも日暮サンについてって一緒に色々やってた割には、彼女の事何もわかってなかったよね?結局さぁ。オマエは、見捨てられて独りぼっちになるのが怖かっただけなんだよ!せいぜい地獄で可愛がってもらいな!…あ、その醜悪な姿じゃ、可愛がってもらうなんて永遠に無理かw」