【不動院剣編】
私は、物心がつく前に父を失い、母は気がふれてしまいました。
それからというもの、私はずっと男である事を強要されてきました。
女としての人生を歩む事は許されず、父の跡を継ぐ事こそが私の使命であると教え込まれてきました。
私は、これまでもこれからも、女として生きる事は無いのだろうと思っておりました。
しかし、私の人生を大きく変える出来事が起こったのです。
気がつくと才監学園という場所に閉じ込められ、15人の級友と共に共同生活を送る事となりました。
其処で過ごしているうちに、私はとある男性に惹かれました。
…舞田殿。
私は、彼に生まれて初めて恋に落ちました。
今まで家の中しか知らなかった私の世界を、彼は瞬く間に創り替えてしまいました。
武の道を突き詰める事のみを生き甲斐にしていた私にとって、誰かを一人の男性として好きになる事は未知の体験であり、今まで感じた事のなかった何かを感じました。
今まで積み重ねてきたものがまるで嘘のように、私は彼に心を奪われていきました。
そのうち私は、彼の隣にいる事だけが、束縛された私の人生の唯一の幸福とさえ考えるようになりました。
しかし、私は不動院家の当主であって、男に恋をして刃が鈍るような事は決してあってはならない。
その二つの思いが私の中で絡み合い、行動を起こす事ができずにいました。
ですが、転機は突然訪れました。
学園長達が私達の動機を発表した夜の事でした。
私は配られた動機を見て、そのまま就寝しようとしておりましたが、そこへ彼がいらしたのです。
ピンポーン
「…はい。おや、舞田殿。貴方でしたか。」
「おう、剣か。悪いな、夜中に部屋に来ちまって。」
「いえ…それは構いませんが…どういったご用件で?」
「…ああ、お前の秘密の事で、ちょっとな…」
秘密…おそらく、内容は私が女であるという事でしょうね。
「…私の秘密、ですか。…とりあえず、お上がりください。ここでお話を伺うのも、如何なものかと。」
「おう、悪いな。邪魔するぜ。」
◇
「…それで、舞田殿。お話というのは?」
「…ああ。実は俺…お前の秘密を見ちまってよ。お前が女だって…俺ァ、できりゃあお前の口からホントの事が聞きてェんだよ。別に無理して言うこたぁねェけど、言えたら教えてくんねェか?」
「…できれば、最後まで言いたくなかったのですが…仕方ありませんね。舞田殿。貴方が見た私の秘密は、真実です。私は、歴とした女です。…今まで騙してしまい、申し訳ございませんでした。…どうしても信じていただけないのであれば、ご自分の目でお確かめください。」
私は、舞田殿の前で上だけ服を脱ぎました。
「…おう。」
「…舞田殿。いかがなさいましたか?」
「あ、ゲホッ、ゴホン!」
舞田殿は、赤面しながら咳払いをしてごまかしていらっしゃいました。
…可愛らしいですね。
「…いや、悪い。つい…ガン見しちゃ悪いよな。」
「いえ、そうではなく…驚かないのですか?」
「いや、そりゃあ…いきなり裸になったのは驚いたけど…お前が女だって事は、知ってたしな。」
「…え?」
「お前を抱きかかえた時、なんか変だなって思ってよ。だから、もしかしたらそうなんじゃないかって思ってたんだよ。それで、それを確かめる意味で俺はお前に話をしに来たんだ。」
「…そう、ですか。」
「お前、なんで男のフリなんてしてたんだよ?なんかワケがあったんじゃねェのかよ?」
「…実は、私の家には、正統な血筋の男子が家を継ぐという仕来りがございまして…しかし、先代当主だった私の父には、私一人しか子共がいませんでした。だから、私は家を継ぐために男として育てられたんです。」
「おう。俺、バカだから難しい事はよくわかんねェけど…お前も色々と苦労してたんだな。」
「いえ、そんな…」
「そうだ。お前ばっかりに話させちまうのも悪いし、俺の話もしてやるよ。」
「舞田殿のお話、ですか?」
「おう。俺、実はな。10コ年が離れた兄貴がいんだよ。…でも、俺のせいで大怪我しちまって…半分死んでるみたいな状態になっちまってよ。俺、兄貴が俺の事を恨んでるんじゃねェかって思うと怖くて…ずっと見舞いにすら行けてねェんだ。それが俺の秘密だよ。」
「…なるほど。ところで、舞田殿はなぜ自分の秘密をご存知なのですか?」
「ああ、さっき雪梅に聞いたんだ。」
「…そう、ですか。」
朱殿が…ですか。
あの方は、特に舞田殿との接点が多かったですね。
…おや、私はなぜ苛立っているのでしょうか?
「舞田殿。お話しいただき、ありがとうございました。」
「ああ。他にもなんか相談してェ事とかあったら言えよ!」
「ふふふ、頼もしいですね。…ところで、舞田殿。」
「あ?なんだ?」
「貴方はなぜ、私が女である事を知っておきながら、誰にもその事を密告しなかったのですか?」
「バーカ、ンなモン決まってんだろ。」
「ダチの秘密は、俺の秘密だ。お前が誰にも言いたくねェ事は、俺は死んでも誰にも言わねェ。…これじゃ理由になってねェか?」
「なぜそこまでして…」
「俺からしたら、お前の方がスゲェと思うけどな。女のお前が、相応の覚悟を持って男のフリをしてたんだ。男なら、ダチの覚悟は受け取ってやるのが筋ってモンだろ。」
「舞田殿…ありがとうございます。」
「いいって事よ!剣の方こそ、話してくれてありがとな!!じゃ、また明日な!!」
◇
舞田殿は、私の秘密を知っていながら、誰にも言わないでいてくださった。
そして彼は、私の事を友達だと言ってくださったのです。
…友達、か。
正直、一番言われたくなかった言葉でしたよ。
私は、彼にとっての
私は、彼にとって他の皆さんとは違う、特別な『何か』ではありませんでした。
私はこんなにも彼の事を想っているのに、彼にとって私はここに閉じ込められた仲間の1人でしかなかった。
彼は、本当の意味で私の事を『見て』くださってはいなかった。
その事が何よりも許せなくて、いつの間にか彼の事が憎くて仕方なくなっていました。
その時、私の中である考えが過りました。
この世で叶う事のない愛なら、いっその事彼を亡き者にしてしまおう。
この手で舞田殿を殺せば、私は彼にとっての特別な『何か』になれる。
きっと、私は彼に恨まれるだろう。
でも、それでもいい。
彼は、私の中で永遠に生き続けるのだから。
そして私が死んだ時、私は私を縛る全てのしがらみから開放され、彼と永遠に共にいる事ができる。
余計な物を全て排除し、彼と共に過ごす…
嗚呼、なんと素晴らしい事なのでしょうか。
私は、舞田殿を殺す事に致しました。
一度思い立ったら、行動に移すのは難しい事ではありませんでした。
私は、舞田殿を殺すための準備をしました。
待っていてくださいね、舞田殿。
貴方に本当の幸福を教えて差し上げますから。
◇◇◇
舞田殿は、朝食を召し上がった後、いつも通り体育館に向かいました。
私は、舞田殿を殺すため、体育館に入りました。
「…失礼します。」
「おう、剣か。どうした?なんか用か?」
「ええ…少々、舞田殿にご報告しなければならない事が。1分で良いので、付き合って頂けないでしょうか?」
「報告?いいぞ。なんか見つけたりしたのか?」
「ええ、まあ…この体育館で発見した事なのですが…ここでは少々場所が悪いので、できれば足場まで移動したいのです。構いませんか?」
「全然いいぞ。上に行きゃあいいんだろ?」
「…宜しいのですか?」
「いいって。ダチが俺を頼ってくれてんのにほっとけるかっての。お前が嘘をつくヤツじゃねェ事は、ちゃんとわかってっからよ。」
「ありがとうございます。」
やはり、舞田殿は私を少しも疑わず、私の誘いを承諾してくださいました。
彼の良心を利用して殺害するのは卑劣かもしれませんが…それも仕方のない事ですよね。
だって、私は彼を愛しているのですから。
「それで剣。話ってなんだ?」
「あの、ここの足場からでないと見えないのですが…そこに何か見えませんか?」
「ん?どこだ?何も見えねェけど?」
「もう少し右です。」
「右ィ?一体何があるっつーんだ…」
ガチャッ
「…え?」
「ありがとうございます舞田殿。私の用意した罠にかかってくださって。」
私は、舞田殿の足に手錠をかけ、縄を手に取りました。
「罠?おい、何がどうなってやがんだ剣!テメェ、一体どういうつもりだ!?」
「舞田殿。今だから申し上げますが、私はずっと前から貴方の事を想っておりました。」
「は?おい、テメェ何を言って…」
「大好きです、舞田殿。」
「死んでください。」
私は、素早く舞田殿の首に縄をかけると、足場から飛び降りました。
ギシッ
「がっ…がぁああああ、がはっ…!?ぎっ、ぐぅううぅぅ…!!」
「…ッ。」
やはり、この方法を選んで正解でした。
幾ら数多の修羅場を乗り越えてきた舞田殿と言えど、この高さから人が落ちた衝撃で首を絞められれば一溜まりもない筈です。
「がっ…ぐぅう…!」
舞田殿の呻き声が、私の身体を震わせ、この上なく高揚させる。
彼は、私の重みでもがき苦しんでいる。
私が、舞田殿を殺している。
最愛の人が死のうとしているのに、私はなぜここまで昂っているのだろうか。
彼が死ぬ様を想像するだけで、全身が熱くなって爆発しそうになる。
私は、舞田殿を愛している。
愛しているからこそ、今この手で殺している事に悦びを感じている。
他の誰でもない。
私が、彼にとって最期の人になれたのだから。
嗚呼、なんて幸福な事だろうか。
「………………。」
気がつくと、舞田殿は足場の上で動かなくなっていました。
私は舞田殿の死を確認した後、彼を自殺に見せかけるため、工作をしました。
私は早く舞田殿に逢いたいので、生き残りたいわけではないのですがね。
舞田殿も、皆さんと一緒の方が喜ばれるでしょうし…
それに、皆さんは少なからず景見殿達を死なせてしまった事を後ろめたく思っているでしょからね。
待っていてください舞田殿。
すぐに他の皆さんにも逢わせて差し上げますからね。
私が其方に逝くのはその後になってしまいますが、どうかそれまで待っていてくださいね。
次逢う時には、お互いに何にも縛られずに出逢えると良いですね。
…ふふふ。あはは…
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!
「あーあ、殺っちゃったよ!全く、なーにが愛だよ!構ってほしいだけのメンヘラだったんじゃん!結局さぁ、ただ満たされる事を愛と勘違いして、勝手に暴走しただけなんじゃないの?やっぱりオマエ、頭おかしいから一回死んでその頭治してきなよ。あ、ここまで腐ってたら死んでも治んないかw」
【舞田成威斗編】
【超高校級の喧嘩番長】舞田成威斗クンの秘密!
舞田成威斗は臆病者である。
俺には、絶対に誰にも言えねェ秘密があった。
俺は、臆病者で卑怯者だ。
今でも本当の事を打ち明けられねェで、ずっと俺の本性が暴かれる事に怯えてる。
俺は、そんな自分が恥ずかった。
だけど、俺よりチビでヒョロいヤツが、全てを賭ける覚悟で俺に秘密を打ち明けた。
アイツは、俺なんかよりずっと強いヤツだった。
俺も、本当はずっと変わりたい、強くなりたいって思ってた。
だから俺は、ソイツに秘密を打ち明けた。
◇
俺には、10コ年の離れた兄貴がいた。
ガキの頃からずっとケンカばっかりやってた俺とは違って、真面目で誠実な人だった。
兄貴はヒョロくて身体も弱かったけど頭が良くて、医者を目指していた。
俺が何か問題を起こした時も俺の代わりに頭を下げてくれるような、俺にとって自慢の兄貴だった。
だが、事件が起きた。
俺が中3の頃、俺はちょうど他校のヤツとケンカしていた。
その学校の番長にケンカを吹っ掛けられたから、俺はケンカを買ってやった。
俺は、売られたケンカを買っただけだ。何も悪くない。
そう思っていた。
俺が学校にいる時、俺は先公に呼び出された。
いつも通り他校のヤツとケンカしたのがバレて怒られんのかと思ってしぶしぶ職員室に行ったら、先公は信じられねェ事を言いやがった。
俺の兄貴が、不良に襲われて大怪我を負ったって。
俺は、いてもたってもいられなくなって、兄貴がいる病院に駆け込んだ。
「植物状態です。このまま、意識が戻らない可能性も…」
医者がそう言ったのは、今でもはっきり覚えている。
俺が見たのは、何かを言ってる医者と泣き崩れる親父とお袋、そしてベッドで横になって、変な管を大量に繋がれてる兄貴の姿だった。
俺は、怒りで目の前が真っ赤になって、すぐに病院を飛び出して兄貴を襲ったヤツを探した。
兄貴を襲ったヤツの子分を見つけた俺は、ソイツをボコボコにして事情を吐かせた。
ソイツから聞き出した事件の詳細は、こうだった。
兄貴は、俺が他校の不良とケンカばっかやってる事に心を痛めて、ソイツらに直接会いに行った。
そして、当時俺がケンカしてた相手の不良共に頭を下げて言ったらしい。
弟が迷惑をかけて申し訳なかった、代わりに自分がなんでもするから弟の事を許してやってほしいって。
それに逆ギレした不良共のボスが、兄貴を殴った。
それで、その時たまたま機嫌が悪かった事もあって、手下共と一緒に兄貴をリンチしたらしい。
俺は、それを聞いて頭が真っ白になった。
兄貴は、俺のせいでボコボコにされて、大怪我を負った。
俺は、その事実が信じられなくて、ただひたすら逃げた。
兄貴は、自分をあんな目に遭わせた俺を恨んでるに決まってる。
このまま兄貴が死んじまったら、俺は兄貴を死なせた人殺しになっちまう。
もし意識が戻ったとしても何を言われるかが怖くて、病室に戻れなかった。
それからずっと、兄貴に会うのが怖くて見舞いにすら行けていない。
俺がケンカばっかりやってたせいで、何も悪くない兄貴がボコボコにされた。
兄貴は俺のために勇気を出して不良共に謝りに行ったのに、俺は勇気がなくて結局最後まで兄貴に謝れなかった。
俺なんか、伝説のヤンキー【超高校級の喧嘩番長】じゃねェ。
罪と向き合う事が怖くて兄貴に会う事すらできねェ臆病者。
それが俺の本性だ。
◇
モノクマが湧いて出た日の真夜中、俺の手帳に秘密が送られてきた。
【超高校級の侍】不動院剣クンの秘密!
不動院剣は、女である。
…マジかよ。
剣が女だと…?
そんなの、信じられっかよ…
…いや、今思えば思い当たるフシはいくつかあったな。
剣のヤツ、元々華奢で女顔だし、アイツを抱きかかえた時なんか違和感があったし…
でもアイツ、なんで女のクセに男のフリなんてしてたんだ?
…本人に確かめに行けばわかる事だよな。
◇
【不動院剣の独房】
俺は雪梅の話を聞いた後、剣の部屋に行った。
ピンポーン
インターホンを鳴らすと、剣はすぐ出てきた。
「…はい。おや、舞田殿。貴方でしたか。」
「おう、剣か。悪いな、夜中に部屋に来ちまって。」
「いえ…それは構いませんが…どういったご用件で?」
「…ああ、お前の秘密の事で、ちょっとな…」
「…私の秘密、ですか。…とりあえず、お上がりください。ここでお話を伺うのも、如何なものかと。」
「おう、悪いな。邪魔するぜ。」
…なんか、女子の部屋に上がるって思うと変に緊張するな。
今まで、コイツの部屋に行った時は全然平気だったのによ。
◇
「…それで、舞田殿。お話というのは?」
「…ああ。実は俺…お前の秘密を見ちまってよ。お前が女だって…俺ァ、できりゃあお前の口からホントの事が聞きてェんだよ。別に無理して言うこたぁねェけど、言えたら教えてくんねェか?」
「…できれば、最後まで言いたくなかったのですが…仕方ありませんね。舞田殿。貴方が見た私の秘密は、真実です。私は、歴とした女です。…今まで騙してしまい、申し訳ございませんでした。…どうしても信じていただけないのであれば、ご自分の目でお確かめください。」
剣は、少し顔を赤くしながら上だけ裸になった。
「…おう。」
剣の身体は、雪みてェに真っ白で、ちょっと筋肉はあるけど細っこい身体つきだった。
俺は、思わず剣の裸に目が釘付けになった。
剣のヤツ、意外と胸デケェな。
…なんつーかコイツ、エロい身体してんな。
「…舞田殿。いかがなさいましたか?」
「あ、ゲホッ、ゴホン!」
「…いや、悪い。つい…ガン見しちゃ悪いよな。」
「いえ、そうではなく…驚かないのですか?」
「いや、そりゃあ…いきなり裸になったのは驚いたけど…お前が女だって事は、知ってたしな。」
「…え?」
「お前を抱きかかえた時、なんか変だなって思ってよ。だから、もしかしたらそうなんじゃないかって思ってたんだよ。それで、それを確かめる意味で俺はお前に話をしに来たんだ。」
「…そう、ですか。」
「お前、なんで男のフリなんてしてたんだよ?なんかワケがあったんじゃねェのかよ?」
「…実は、私の家には、正統な血筋の男子が家を継ぐという仕来りがございまして…しかし、先代当主だった私の父には、私一人しか子共がいませんでした。だから、私は家を継ぐために男として育てられたんです。」
「おう。俺、バカだから難しい事はよくわかんねェけど…お前も色々と苦労してたんだな。」
「いえ、そんな…」
剣のヤツ、そんな事情を抱えてたんだな。
俺、ダチなのに全く気付いてやれてなかったな。
女のコイツが、全てを賭ける覚悟で今まで男のフリをして、その事を俺に打ち明けてくれたんだ。
今まで逃げてばっかだったけど、俺も剣みたいに強くなりたい。
俺は今ここで全てを話して、今度こそ変わるんだ。
「そうだ。お前ばっかりに話させちまうのも悪いし、俺の話もしてやるよ。」
「舞田殿のお話、ですか?」
「おう。俺、実はな。10コ年が離れた兄貴がいんだよ。…でも、俺のせいで大怪我しちまって…半分死んでるみたいな状態になっちまってよ。俺、兄貴が俺の事を恨んでるんじゃねェかって思うと怖くて…ずっと見舞いにすら行けてねェんだ。それが俺の秘密だよ。」
「…なるほど。ところで、舞田殿はなぜ自分の秘密をご存知なのですか?」
「ああ、さっき雪梅に聞いたんだ。」
「…そう、ですか。」
ん?剣のヤツ、なんか変だな。
考え事か?
「舞田殿。お話しいただき、ありがとうございました。」
「ああ。他にもなんか相談してェ事とかあったら言えよ!」
「ふふふ、頼もしいですね。…ところで、舞田殿。」
「あ?なんだ?」
「貴方はなぜ、私が女である事を知っておきながら、誰にもその事を密告しなかったのですか?」
「バーカ、ンなモン決まってんだろ。」
「ダチの秘密は、俺の秘密だ。お前が誰にも言いたくねェ事は、俺は死んでも誰にも言わねェ。…これじゃ理由になってねェか?」
「なぜそこまでして…」
「俺からしたら、お前の方がスゲェと思うけどな。女のお前が、相応の覚悟を持って男のフリをしてたんだ。男なら、ダチの覚悟は受け取ってやるのが筋ってモンだろ。」
「舞田殿…ありがとうございます。」
「いいって事よ!剣の方こそ、話してくれてありがとな!!じゃ、また明日な!!」
俺は、剣の部屋を出て、自分の部屋に戻った。
今まで卑怯で弱い俺だったけど、アイツのおかげで少しは変われたかな。
そうだ、明日、みんなに俺の秘密を打ち明けよう。
俺はもう逃げねェ。
自分の罪から逃げたら、今までと一緒だから…
俺はここを出て、兄貴に会いに行くんだ。
それで、あの日の事をちゃんと謝るんだ。
◇◇◇
俺は、朝メシを食い終わった後、サウナに寄ってから体育館に行った。
いつも通り筋トレをしてると、体育館に剣が入ってきた。
「…失礼します。」
「おう、剣か。どうした?なんか用か?」
「ええ…少々、舞田殿にご報告しなければならない事が。1分で良いので、付き合って頂けないでしょうか?」
「報告?いいぞ。なんか見つけたりしたのか?」
「ええ、まあ…この体育館で発見した事なのですが…ここでは少々場所が悪いので、できれば足場まで移動したいのです。構いませんか?」
「全然いいぞ。上に行きゃあいいんだろ?」
「…宜しいのですか?」
「いいって。ダチが俺を頼ってくれてんのにほっとけるかっての。お前が嘘をつくヤツじゃねェ事は、ちゃんとわかってっからよ。」
「ありがとうございます。」
剣が俺に報告…?
よくわかんねェけど、なんか重要なモンを見つけたのか?
せっかく昨日秘密を打ち明け合ったんだ、なんでもいいからコイツの役に立ちてェな。
「それで剣。話ってなんだ?」
「あの、ここの足場からでないと見えないのですが…そこに何か見えませんか?」
「ん?どこだ?何も見えねェけど?」
「もう少し右です。」
「右ィ?一体何があるっつーんだ…」
俺は、柵に寄りかかって剣が指を差した方向をよく見てみた。
ガチャッ
「…え?」
「ありがとうございます舞田殿。私の用意した罠にかかってくださって。」
剣は、いきなり俺の足に手錠をかけた。
「罠?おい、何がどうなってやがんだ剣!テメェ、一体どういうつもりだ!?」
「舞田殿。今だから申し上げますが、私はずっと前から貴方の事を想っておりました。」
「は?おい、テメェ何を言って…」
「大好きです、舞田殿。」
「死んでください。」
剣は、ロープを俺の首に回したかと思うと、足場から飛び降りた。
ギシッ
「がっ…がぁああああ、がはっ…!?ぎっ、ぐぅううぅぅ…!!」
クソッ、くるし…息が、できねェ…!
剣…お前、なんで…
俺が何したってんだよ…!
「がっ…ぐぅう…!」
おい、ちょっと待て…俺は、こんなところで死ぬなんて嫌だぞ!?
せっかく、変われるチャンスを掴んだんだ。
兄貴に謝るまでは死ねるかよ…
嫌だ、俺は…死にたくない…!
…誰か、助け……………
「………………。」
「あーあ、死んじゃったよ!まあ、今回の件に関しては、ヤンデレサイコ女に惚れられちゃったのが運の尽きだったねって事なんだけど…自分の罪から逃げてばっかいるからそういう目に遭うんだよ!自分のせいで植物状態になった兄貴に謝れもしないクズにはお似合いの末路じゃん!」
【朱雪梅編】
訳がわからない。
昼ご飯の支度ができたから、成威斗サンを呼びに行こうと思って体育館に行ってみたら、剣サンが成威斗サンを天井に吊るしていた。
剣サン、一体何をやってるの…?
ワタシは、頭が真っ白になって、その場から動けなくなった。
ザッ
「ヒッ…!」
物音を立ててしまい、剣サンに気付かれてしまった。
剣サンは、鬼のような形相でこっちに来る。
剣サンは、一気に距離を詰めると、手に持っている何かを振るった。
ザンッ
その瞬間、視界に赤い何かが散って、腕に痛みが走る。
好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛好痛!!!
为什么… 为什么为什么为什么为什么为什么为什么为什么为什么为什么!!?
ワタシ、剣サンに何かした!?
さっき、ワタシが剣サンが何かやってるのを見ちゃったから…!?
わけがわからないよ…!
チャキッ
剣サンは、ワタシの方を見て何かを構えた。
よく見ると、剣サンは手に刀を握っていた。
…本気だ。
ワタシは、このままだと剣サンに殺される。
そんなの嫌だ…!
ワタシは、ひたすら走った。
剣サンが、ものすごいスピードで追いかけてくる。
後ろを振り向いたら殺される。
腕の傷が痛んでも、止まらずに走り続けた。
幸い、ワタシは皆サンの中で一番足が速い。
距離を取れば、どこかに隠れてやり過ごせるはず…!
ワタシは、ここで死ぬわけにはいかないんだ!!
…!
視界に女子更衣室が映った。
あれだ!!
剣サンは男だから、女子更衣室には入れない…
ここに隠れれば、やり過ごせるはず…!
考えてる時間なんてない、隠れなきゃワタシが殺されるんだ。
ワタシは、更衣室の中に逃げ込んだ。
…お願い、うまくいって…!
◇
【女子更衣室】
…ふぅ。
間に合った。
なんとか、剣サンに追いつかれる前に逃げ込めた。
ここに隠れてれば、剣サンはもう追いかけて来れないはず…
でも、その後はどうしよう?
そうだ、チャット機能で皆サンに助けを呼んで…
ガーーーーー…
「!!?」
更衣室の扉が開いて、中に誰かが入ってきた。
入ってきたのは、剣サンだった。
为什么… !?
剣サンは、男だから女子更衣室に入れないはずなのに…
剣サンは、鬼のような形相で日本刀を振りかぶった。
どうしよう、入り口は剣サンに塞がれてて逃げられない…!
讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌讨厌…
讨厌!!!
ワタシ、まだ死にたくない!!
嫌だ、誰か助け…
ザンッ
「あ、か…はっ…!?」
身体中に、重い衝撃が走る。
視界に大量の赤色が飛び散り、意識を蝕むほどの鋭い激痛が全身を襲う。
視界がボヤけて、足元がフラつく。
あ…
「あーあ、死んじゃったよ!かわいそうに、キチ●イを怒らせるような事しちゃったのが運の尽きだったね。世の中には関わっちゃいけない種類の人間がいるって事、ちょっとは勉強になったかな?まあ、今更学んでも遅いけどね!」