「…キミが内通者だったんだね、狛研叶サン。」
「ッーーーーーーーーーー!!?」
天理クンは、ナイフをこっちに向けて一歩ずつゆっくりと近づいてくる。
「…なーんて。」
「言うとでも思ったか?」
「…へ?」
天理クンは、ヘラヘラと笑いながら、右手のリンゴを取り出した。
「フルーツ持ってきてあげたよ。食べる?」
「…は、はははは…」
フ、フルーツ…
「どうしたの?」
天理クンは、ソファーにどっかりと座ってリンゴの皮を剥きながら話しかけてきた。
「…ああいや、てっきりボクが内通者だと疑われたものだと思ってたから…」
「にゃはは。ンなわけないじゃん。…でも、狛研サンの行動のおかげで、俺からしたら内通者を特定できた。」
「えっ?」
「俺はね、全員の部屋や研究室を見てまわったとき、ある物を探してたんだよ。」
「あるもの?」
「…通信機器だよ。内通者なら、黒幕と連絡を取り合うためにそういうのを研究室に置いてるんじゃないかと思ってな。」
「それで?」
「っていっても、そんなモンを剥き出しにして置いてる程、内通者もバカじゃないって思ってさ。だから別の可能性を探ってた。」
「別の可能性?」
「…音だよ。もし内通者なら、黒幕と連絡を取り合うために使う部屋があるんじゃないかと思ってよ。…そしたら案の定、壁に不自然な空洞がある部屋が3部屋あったよ。」
「その3部屋って?」
「…今回開放された3人の研究室。だから俺は誰が内通者なのか特定するために網を張った。」
「網?」
「その3人に、あえて内通者だと睨んでいる人を教えてみたんだよ。…もちろん、他の二人には聞かれないようにな。」
あれ、他の二人にも言ってたって事!?
「えっ、じゃあボクにゐをりちゃんを調べろって言ったのは!?」
「キミが内通者だった時のための罠だよ。あの時反応を見ていたのは、神座サンじゃなくてキミの方だったんだよ。…でも、キミはシロだった。」
「じゃあ、娯楽室の盗聴器がなくなってたっていうのは…!?」
「…さっきも言ったように、俺は3人に同じ事を言っていた。内通者候補の名前だけ変えてな。それで、娯楽室に仕掛けた盗聴器がなくなってたんだ。」
「え?だったらなんで内通者を特定できるんだっけ?盗聴器が回収されてたんでしょ?」
「察しが悪いなぁ。…俺が調べていたのは、盗聴器の音声じゃなくて、盗聴器が回収されているかどうかだったんだよ。だって、普通自分が内通者なら、よく行く部屋に盗聴器なんて仕掛けられてんの嫌だろ?だから、俺の読みが正しければ一部屋だけ盗聴器が回収されてるはずなんだよ。」
「でも、だったらなんでボクが内通者じゃないの?ボクを調べようと思って仕掛けた盗聴器がなくなってたんだよね。」
「そりゃあ、内通者もバカじゃないからな。自分の持ち場に仕掛けられた盗聴器を回収したら、自分が犯人ですって言ってるようなモンだ。…だから、他の内通者候補に濡れ衣を着せたんだよ。」
「え、じゃあ誰が内通者だったの?」
天理クンは、見上げるようにして睨むと、皮を剥く手を止めた。
「…。」
ザクッ
そして、ナイフを剥きかけのリンゴに突き刺した。
「…癒川治奈。アイツには気を付けろ。」
…え!?
そんな、嘘でしょ?
治奈ちゃんが、内通者…!?
「そんな、何かの間違いだよね?治奈ちゃんが内通者なわけないじゃん!!」
「…俺はそれぞれ、狛研サンには神座サンが、神座サンには癒川サンが、癒川サンには狛研サンが怪しいって言ってたんだよ。それで、その3人にはそれぞれ、狛研サンには美術室、神座サンには化学室、癒川サンには娯楽室に盗聴器を仕掛けたって教えておいた。結果、盗聴器が回収されてたのは娯楽室だけだった。…キミは濡れ衣を着せられただけだ。…癒川治奈。アイツが真犯人だ。」
「…そんな。」
「いいか。アイツの前では絶対に喋りすぎるな。会話は全部筒抜けだ。…それと。」
「何?」
「…いや、これはあくまで俺の中での最悪のシナリオだけど…」
「うん。」
「…黒幕と知能犯は裏で繋がってる。」
「…え?」
「よく考えてみろよ。もし知能犯がひとりで勝手にやってる事だったら、クマちゃんがいきなりおしおきのルールを変更したり、俺らがあんなクソゲーやらされてるのを黙って見てるとか、不自然な点だらけだろ。…決定的だったのは、学園の重要なネットワークがいとも簡単に乗っ取られた事だよ。パスワードが一回解除されたにもかかわらず再設定せずに放置しとくとか、何の優しさだよ。」
「あっ…」
「…とにかくだ。俺らに今できる事は、こっちから情報を一切漏らさない事だ。何があっても、絶対に重要な情報は漏らすな。もちろん、内通者の正体に気づいた事も、俺とキミだけの内緒な。」
「…ねえ。」
「何?」
「なんで天理クンは、ボクに協力してくれるの?今まで散々ボク達の邪魔をしてきたのに。」
「言ったろ?俺は、『囚われのマリアのための交響曲』の続きが知りたいんだよ。あの作品は、このゲームでいうとちょうどラッセクンが死んだ所で終わってる。」
「そうなんだ。…でも、天理クン、そう言ってる割にはやけにボクにだけ協力的だよね。作品の続きを完成させたいなら、尚更みんなに協力すればいいじゃん。」
「それ、俺に言わせる?」
「それに、もうひとつ気になってる事があるんだ。天理クンさぁ、お金持ちならみんなを買収したりとか簡単にできるよね。でも、ボクの事はお金とかそういうの関係なく信じてくれてるよね。なんでなの?」
「…狛研サン、ひとついい事教えてあげよっか?」
「何?」
「俺、女の子に現金以外の物プレゼントしたの、狛研サンが初めてなんだよ?」
「…え?」
「俺、ぶっちゃけ今まで世の中金で買えないものなんて無いと思ってたんだよね。地位も、名声も、信頼も、時には才能さえもね。でも、俺ってこう見えて意外とロマンチストだからさ。好きな人の心だけはどうしてもお金で買いたくないんだよね。」
「そうなんだ。」
「…なーんてね。」
天理クンは、いつものあっけらかんとした笑顔に戻った。
「…あ、そうそう。これ見てよ。」
天理クンは、壁にかけてあった額縁を取り出して見せた。
そこにはトランプの上に今まで犠牲になったみんなの顔写真が貼られていて、ダーツの矢が刺さっていた。
「これって…」
「今まで犠牲になったヤツが何のカードだったのか、俺なりに考察してみた。現時点で残ってるのは、スペードのA、ハートのA、ダイヤのA、スペードのK、クラブのK、ハートのQ、ダイヤのJの7枚だ。」
「…そっか。教えてくれてありがと。」
「どういたまして。」
「…あの。」
「何?」
「ボク、キミが今までやってきた事は許せないけど…でも、少なくとも今は、キミなりにこの状況をなんとかしようとしてるっていうのは伝わるからさ。だから、ボクはキミを信じるね。」
「…そうか。」
「…狛研サン。」
「何?」
「…ありがとう。」
天理クンは、ボクの顔を見上げて言った。
…気のせいかもしれないけど、天理クンの顔はなんだか哀しそうな顔をしているような気がする。
「らしくないなぁ。お礼を言うのはまだ早いよ。ボク達は、知能犯と黒幕をやっつけてここを出ないと。」
「…だな。」
「さてと、もう遅い時間だからそろそろ寝よっか!」
「もうそんな時間?じゃあ、部屋に行こうか。」
「…だね。」
◇
…治奈ちゃんが内通者、か。
到底信じられないような話だけど…
それが事実だとすれば、治奈ちゃんはなんで黒幕なんかに協力してるんだろう。
…あんないい子なんだもん、きっと理由があるんだよ!
そう、だよね…?
ん?
…あれ?
天理クンが歩いてる後ろの物陰に、誰かいる気が…
…まさか!
ヒュッ
「危ない!!」
「ん?」
ボクは、天理クンを咄嗟に庇った。
…次の瞬間。
ゴッ
「がっ…!」
頭に、鈍い痛みが走る。
視界がボヤけて、力が抜けていく。
「…。」
誰かが物陰の奥へと逃げていく。
…待っ、て…
キミは、一体…
…誰なの?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…あれ?」
目の前は、あたり一面暗闇だった。
…ここは一体?
「…さん。」
…誰?
「…叶さん。」
この声は…
凶夜クン!?
…だけじゃないな。
隥恵ちゃんも、踊子ちゃんも、彩蝶ちゃんも、翠ちゃんも、成威斗クンも、雪梅ちゃんも、剣ちゃんも、才刃クンも、ラッセクンもみんないる。
…って事は、待って!?ボク、もしかして死んだ!?
いやいやいや!ちょっと待って!急すぎない!?
…あれ?でもボク、ここに来る前って何してたんだっけ?
ダメだ、全く思い出せない。
「…叶さん。思ったより来るの早かったね。どうしたの?」
「いや…わかんない。全然思い出せないんだ。」
「そっか。…じゃあ、そろそろ行こっか。みんな待ってるよ。」
「…あ。」
みんなが、こっちに手を振っている。
…多分、向こうに行ったらもう二度と戻れない気がする。
…でも。
「…うん、そうだね。」
まあいっか。
今までの事、全然思い出せないし。
…それになんか、何もかもどうでもよくなってきた。
ボクは、凶夜クンの手を取って歩き出そうとした。
「…あれ?」
「叶さん、どうしたの?」
「…わかんない。わかんない、けど…全然前に進めない…」
「何言ってるの?早く行かないと間に合わないよ。」
「わかってる!…でも、なんか…大事な事を忘れてるような…」
…!
これは、凶夜クンがくれたペンダント…
…そうだ、思い出した。
ボクは、絶対生き残るって決めたんだ。
生きてあんな檻から出てやるって、みんなで決めた。
…だから。
パシッ
「…叶さん?」
「ごめん、凶夜クン。まだそっちには行けない。ボクは、どうしても戻らなきゃいけないんだ。」
「…そっか。そうだったね。…いってらっしゃい。」
凶夜クンが指を鳴らすと、扉が現れた。
「これで向こうに帰れるよ。みんなの所に行ってあげて。」
「…ありがとう。」
扉を開けて帰ろうとした、その時だった。
ドンッ
後ろから誰かに背中を押された。
その顔は、笑っているように見えた。
「お父さ…」
「…はっ、あぁあっ!!?」
気がつくと、ソファーで横になっていた。
「…あ、起きた?」
「叶…!」
「狛研ちゃん…良かったぁああ…!!」
「狛研さん…本当に、生きていてくれてよかった…!」
ソファーの周りには、みんながいた。
「…えっと、ここは…」
「俺の研究室。」
「あれ…?ボク、一体何を…」
「狛研さん、大変だったんだよ。頭から血を流して倒れてて…ホントに、さっきまで脈が無かったんだから。」
「癒川君が治療してくれなかったら、どうなっていた事か…」
「…そっか、ありがとう治奈ちゃん。」
「いえ…」
あれ?なんだ、この違和感は…
何か大事な事を忘れてるような…
「ねえ、あの…ボク、さっきまで何してたっけ?」
「…。」
天理クンは、ぽかーんとした表情で見ていた。
「…うっわ、マジか。…どこまで覚えてる?」
「えっと…晩ご飯の時くらい?」
「あー、マジかー…ねえ、みんな。今日はもう遅いし、そろそろ部屋戻ったら?」
「え、でも…」
「狛研サンも、重傷負ってるんだよ。これ以上ギャーギャー騒いだら傷に響くだろー?」
「…ケッ、いっつもギャーギャー騒いでんのはテメェだろ。」
「じゃ、そういうわけだからとっとと行った行った!…と。狛研サン。さっきまでの話、本当に覚えてない?」
「うん、全く。」
「じゃあ全部話してやるから。」
「…わかった。」
ボクは、天理クンから起こった事を全部聞いた。
「…。」
「思い出した?」
「うん、ぼんやりと。…そうだったね。そういえば、そんな話してたね。」
「思い出せたんだったら良かった。」
「…ごめん。迷惑かけたでしょ。」
「いや、いいよ。キミが庇ってくれなかったら、そうなってたのは俺の方だったからね。」
「…。」
「頭の傷はどう?大丈夫そう?」
「あ、うん。まあね。思ったより大丈夫そう。…治奈ちゃんが治療してくれたおかげかな。」
治奈ちゃん…あの子内通者なら、なんでボクを助けてくれたんだろう。
「水飲む?欲しかったら取ってくるけど。」
「…。」
「何?どうかした?」
「…いや、天理クン。なんか今日、やけに優しくない?なんかあった?」
「失礼だな。俺は元々優しいっての。」
「そうだっけ?」
「そうなの。」
変なの。いっつもふざけてばっかで優しくしてくれた事なんて無いじゃん。
優しい天理クンって、なんか逆に気持ち悪いね。
「…狛研サン。」
「何?」
「…。」
「え?」
天理クンは、いきなりボクに抱きついてきた。
「…本当によかった。生きていてくれて。」
はぁ?え、ちょっと待って。今日の天理クン、マジでおかしい。変な物でも食べたのかな?
「天理ク…」
「…勝手に俺を置いて死んだりすんなよな。キミは、俺にとって大事な人なんだからさ。」
「え?あ、うん…」
天理クンは、ボクの肩に顔をうずめながら涙声で言った。
…そんなに心配してくれてたのか。
心配かけさせたのはちょっと申し訳なかったかな。
「…ありがとう、天理クン。でももう大丈夫だから。」
「やだ。もーちょいこのまま。」
「ちょっと、ホントにそろそろ部屋に戻んないと。」
「やだやだー。」
「ダダこねないでよ天理クン。子供じゃあるまいし。」
「俺はまだまだ子供だもんねー。絶対死なないって約束してくれなきゃやだ。」
「…わかったよ。ボクは絶対生き残るし、もう誰も死なせない。…だから。」
「いいの。」
「え?」
「生きていてくれるだけでいいの!」
「…うん。ボクは、絶対に生きてここから出る。…約束するよ。」
「にししっ、じゃあ許す。」
天理クンは、顔を上げると満面の笑みを浮かべた。
「あれっ?泣いてないじゃん!さっきの、もしかして嘘泣き!?」
「えへへ。」
治奈ちゃんに、天理クンまで!
嘘泣きとかひどいよー!
「じゃあ、もう遅い時間だから行くね。おやすみ天理クン。」
「うん、おやすみなさぁーい。」
研究室を出ようとした、その時だった。
「狛研サン!」
「…何?」
「なんでもない。」
「…なにそれ。」
珍しく真面目な話するなーって思ってたのに。
やっぱ、天理クンって何考えてんのかわっかんないよね!
さてと。だいぶ回復したし部屋戻るか。
《財原天理の好感度が1上がった》
◇
「狛研さん。」
「あ、星也クン。どうしたの?」
「心配で様子見に来ちゃった。飲み物でもどう?」
「…ありがとう。」
星也クン…もう遅い時間なのにわざわざお見舞いに来てくれるなんて、優しいなぁ。
「ぷっはー。生き返るー。」
「…ははっ、狛研さんってなんか少しおじさんみたいだよね。」
「うっ…よく言われる。」
「やっぱり。」
「治奈ちゃんは?一緒じゃないの?」
「治奈なら部屋で寝てるよ。起こしちゃ悪いしね。」
「ふーん。」
「ねえ、財原君と何を話してたの?あ、変な事されたりとかはしてないよね?」
「ううん。ちょっと色々と愚痴りあってただけ。」
「…そう。」
「…あっ。」
「どうかした?」
「…あのさ、一個聞いてもいい?」
「何?」
「昨日天理クンとゲームしたんだけどね。ちょっと気になる事があったの。」
「気になる事?」
「うん。天理クンがカードを切って、ボクが赤か黒か言って、その直後に天理クンがカードの束の一番上のカードを引いてそのカードの色を当てられるかどうかっていうゲームをやったの。」
「うん、それで?」
「ボク、一番下のカードの色を覚えてて、それを目で追ってたんだ。あれは、確かに赤だった。それで、天理クンがカードを切るのをやめた時、確かに一番上のカードは、ボクが見たカードだったんだ。…でも、天理クンが引いたのはなぜか黒いカードだったの。なんでなのか、星也クンわかる?」
「ああ、それはすごく初歩的なトリックだよ。」
「と、いうと?」
「まず、あらかじめ両手にそれぞれ違う色のカードを隠し持っておくんだ。それで、狛研さんがカードの色を言ったタイミングでカードを切るのをやめたら、束の一番上に片手を置いてそっとカードを手から離せば、必然的にそのカードが一番上になるっていう寸法さ。」
「えっ、なにそれ!インチキじゃん!」
「…まあ、手品ってそういうものだからね。」
「もー。じゃあ最初から勝ち負けは決まってたんじゃん!何がゲームだよ、天理クンのいじわる!」
「ははは…それより狛研さん。体調はもう本当に大丈夫なの?」
「うん、もうピンっピンしてるよ!」
「そう。じゃあ、もう遅い時間だし部屋に戻ろっか。」
「うん!」
今日はちょっと色々ありすぎたな。
今日はたっぷり寝て疲れを取らなきゃ。
あと、頭のケガも治さないとね。
おやすみなさーい。
◇◇◇
「うーん…」
よく寝た。
『オマエラ!!起床時間です!!生活リズムの乱れは、心の乱れにつながります!!全員、今すぐ起床するように!!』
あーあ、毎朝毎朝うるさいなあ全く。
ホンット、他にやる事がないのかなぁ。
まあいいや。
気分をリフレッシュして、今日も一日頑張らなきゃ!
◇
【食堂】
「おはよーみんな!!」
「叶…!怪我はもう大丈夫なの…!?」
ゐをりちゃんは、素早くボクのところに来た。
「うん。おかげさまで絶好調!」
「…良かったぁ。もう無茶はしないでね。」
「わかってるって。」
…ゐをりちゃんも、そんなに心配してくれてたのか。
これ以上みんなに迷惑かけないようにしないとな。
「おはよう、狛研さん。」
「やあ、狛研君。元気になったみたいで何よりだよ。」
「おはようございます、狛研さん。回復してよかったですね。」
「…うん、まあね。」
治奈ちゃんは、ぬいぐるみの翠ちゃんを撫でながら微笑みかけてきた。
こんな天使みたいな子が内通者…?
正直全然信じられないよ…
「おはよう、狛研サン。」
「あ、うん。おはよう。」
天理クンは、ボクに近づくとそっと紙を見せてきた。
『あの鳥のぬいぐるみに気をつけろ。あれで監視・盗聴されてる。』
「!!?」
天理クンは、手を軽く下に押すようにした。
そして、ボクの目をじっと見てきた。
多分、『そのまま平然を装え』って言いたいのかな。
「…。」
『わかった』
ボクは、目で合図を送った。
「あの、二人は一体何をされてるんですか?」
「ん?ああ、気になる?今ね、狛研サンをナンパしようとしてんだけど、フラれちゃってさー。ホント今日ってツイてないわー。」
「そうなんですか?」
「ああ、うん。ところで治奈ちゃん。今日のゲームはキミが担当でしょ?頑張ってね。」
「はい。できるだけ早くクリアできるよう、頑張ります。」
「うんうん、その意気その意気!」
「じゃあ、全員揃ったしそろそろご飯にしようか。」
「賛成ー。俺もうお腹ペコりんぬですわー。」
「お前、たまにはメシの支度とか手伝えよ…」
「やなこった。めんどっちい。そういう事はキミ達が勝手にやっててよ。」
「コイツ…」
◇
うーん、おいしかった!
「ごちそうさまでしたーっ!!」
「あはは、今日も元気だね。狛研さん。」
「全くだぜ、昨日あんな事があったってゆーのによぉ。」
もう、天理クンったらニヤニヤしながらこっち見てるし!
…昨日赤ちゃん返りしてたの、みんなに言いふらしちゃおっかな?
「あの、私…ゲームしてきますね。」
「頼んだよ、治奈。」
「はい…あんまり自信無いですけど…皆さんのためにも私、精一杯頑張ります。」
「他のみんなはどうするの?」
「俺は部屋で寝るー。」
「そうだねぇ。オイラは研究室で詩でも作っていようかな?」
「オレもたまには研究室で勉強しよっかな。」
「…叶、一緒にいてもいい?」
「うん!じゃあ一緒に遊ぼっか、ゐをりちゃん。何して遊ぼっか。またお絵かきでもする?それとも、折り紙とか…」
「えへへ、叶と一緒…」
そんなに嬉しいのか。
「星也クンは?」
「そうだなぁ…図書室で調べ物でもしよっかな?」
「そっか。」
「…叶。私達も、行こっか。」
「そだね。」
ゐをりちゃんと遊ぶの楽しみだな。
◇
【超高校級の絶望】の研究室
「それじゃあ、ゐをりちゃん。何して遊ぼっか?」
「…叶と二人…」
「ゐをりちゃん?聞いてる?」
「…あ、ごめん。」
「ねえ、何して遊ぶ?」
「…叶が好きな事なら、なんでもいい…」
「なんでもいいっていうの一番困るなぁ。」
「…ごめん。」
「んー…あ、そうだ。…ねえ、ホントになんでもいいの?」
「…うん。」
「だったら、この研究室模様替えしない?」
「…え?」
「ほら、この部屋血塗れじゃん。それより、もっと楽しい雰囲気の部屋にした方がいいと思うんだ。ゐをりちゃんはどう思う?」
「…うん、いいかも…」
ゐをりちゃんは、満面の笑みを浮かべた。
…ホンットにメッチャかわいい。
マジでゐをりちゃんって天使だよね。
この笑顔、ずっと見てたいなぁ。
「じゃあ、早速模様替えしちゃおっか!じゃあ、必要な道具とか取ってくるね。」
「うん。」
◇
ー2時間後ー
「…だいぶできた。」
「うーん、我ながら上出来!」
研究室は、元の部屋の面影を残しつつ、部屋全体が明るい雰囲気になるように模様替えをしているところだ。
「ありがとう、叶。」
「いいっていいって!ボクもやりたいからやってるだけだし!それにしても、だいぶ明るくなったんじゃない?血のシミも隠せたし。もうあと半分くらいやれば完成だね。」
「…うん。」
「ゐをりちゃんはどう?模様替えしてて、楽しい?」
「…。」
ゐをりちゃんは、顔を真っ赤にしながら俯いた。
「…うん、楽しい。」
「大丈夫?熱とかあったりしないよね?」
「…別に、平気。熱とかないから。」
「そっか。それならいいんだけど。よーし、じゃあ後半も頑張って仕上げるぞー!…あ。」
「…どうしたの?」
「いけない。道具が足りなくなっちゃった。倉庫から持ってくるね。ゐをりちゃんはそこで待ってて。」
「…でも、叶ひとりじゃ色々と大変なんじゃ…」
「ゐをりちゃんは、部屋の装飾進めてて。ボクはその間に倉庫に行って色々探してくるから。」
「…わかった。」
◇
【内エリア 6F】
さーてと。
倉庫行って色々持って来ないとね。
えーっと、何がいるかな?
追加分のペンキでしょ?それから、飾り付け用の道具も結構使ったし、色々と持ってこないとだよね。
…ん?
ちょっと待って。
あそこにいるのは…
…星也クン!?
「星也クン!!大丈夫!?」
「あ、狛研さん…ぐっ…!」
星也クンは、右肩をケガしている。
「大丈夫なの、それ!?どうしたの!?」
「…やられたんだ。」
「やられた!?誰に!?」
「…わからない。いきなり斬り付けられたと思ったら、顔も確認できずに逃げられちゃって…でも、僕らに敵意を持った誰かだと思う…」
「星也クン!そんな事より今は、手当てしないと…!」
「…いや、手当ては自分でできる。狛研さんは、犯人を探して。その人がまた誰かを殺しちゃう前に。」
「でも…」
「…お願い。」
「…わかった。探してみるよ。」
ボク達に敵意を持った誰か…
…まさか、治奈ちゃん!?
そんな、仮にも彼氏の星也クンを斬り付けるなんて…
まだ近くにいるはずだよね。
止めなきゃ…!
…?
あれ?
治奈ちゃんの研究室が開いてる…
「ッ!!」
…嘘でしょ。
あれって、血の跡だよね。
そんな、中で何があったの…?
…確かめなきゃ!
ボクは、治奈ちゃんの研究室を開けた。
「ねえ、中で何があったの!!?」
次の瞬間、ボクの目にありえない光景が飛び込んできた。
「ッーーーーーーーーーー。」
ボクは、その子と目が合った。
でも、その子の目は濁っていて、何も映さなかった。
顔は赤色に汚れていて、誰がどう見ても目の前に転がっているのは死体だった。
床には見慣れた赤い色があたり一面に広がって、生臭い匂いが充満していた。
その異様な光景は、昨日までの研究室のそれではなかった。
胸に深く突き刺さったナイフが、部屋の照明を浴びて、鮮やかな赤色を強調しながら輝いている。
まるで糸の切れた操り人形のようにその場で動かなくなっているその子の顔は、毎日この学園で一緒に過ごしてきたクラスメイトの顔そのものだった。
わけがわからない。
まさか、キミが殺されるなんて思ってなかった。
…なんでキミが。
【超高校級の看護師】癒川治奈ちゃんは、そこで死んでいた。
ー才監学園生存者名簿ー
【超高校級のアナウンサー】穴雲星也
【超高校級の工学者】入田才刃
【超高校級の不運】景見凶夜
【超高校級の絶望】神座ゐをり
【超高校級の幸運】狛研叶
【超高校級の資産家】財原天理
【超高校級の栄養士】栄陽一
【超高校級の詩人】詩名柳人
【超高校級のマドンナ】白鳥隥恵
【セキセイインコ】翠
【超高校級の曲芸師】朱雪梅
【超高校級のダンサー】羽澄踊子
【超高校級の生物学者】日暮彩蝶/【超高校級の人狼】暁裴駑
【超高校級の侍】不動院剣
【超高校級の喧嘩番長】舞田成威斗
【超高校級の看護師】癒川治奈
【超高校級の国王】ラッセ・エドヴァルド・シルヴェンノイネン
ー以上6名ー