ダンガンロンパPRISON   作:M.T.

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第5章 真相編

【癒川治奈編】

 

私の家は、それはもう貧乏だった。

父親は私が物心つく前に亡くなり、母親は怪しい仕事をしては稼いだお金をお酒やタバコ、ギャンブルや怪しい薬に全部使ってしまうような最低な人だった。

でも、そんな私の人生に唯一救いがあった。

 

私の弟だ。

彼は、私を姉として慕ってくれたし、まだ幼かったというのに貧しい暮らしに文句ひとつ言わず家の事を手伝ってくれていた。

そんな弟が、ある日突然重い病に侵された。

弟は、日に日に衰弱していって、このままだと2年ももたないと言われた。

治療法がないわけではないが、都会の病院に行かなければならない上に多額の手術代がかかる事を知らされた。

私は、弟のためならなんでもすると決めた。

だから、すぐに行動を起こした。

 

私は、夜な夜な繁華街に出歩いて羽振りの良さそうな男の人に声をかけた。

その人は、最初は私にいい服をプレゼントしてくれたり、多額のお小遣いをくれたり、レストランに連れてってくれたりして優しかった。

だけど、家に上がった途端に詰め寄られて、文字通り体で払わされた。

痛かったし、怖かったし、気持ち悪かった。

それでも私は立ち止まるわけにはいかなかった。

その後は、また別の人に声をかけた。

そんな事をほぼ毎日繰り返して、少しずつお金を貯めていった。

やっちゃいけない事だってわかっていたけど、お金が必要だから仕方ないと自分に言い聞かせた。

でも、お金が貯まった時にはもう遅かった。

弟は、容態が急に悪化して亡くなった。

私は医者に問い詰めたけど、医者はなぜかはぐらかすだけで何も教えてくれなかった。

 

私は、この日誓った。

大切な物を奪われるくらいなら、たとえたった一人でも守り抜いていけるくらい強くなってやると。

その日から、私は稼いだお金を全て勉強に注ぎ込んだ。

私は、弟を救えなかった無念をバネに、死にものぐるいで勉強した。

私にはたまたま看護師としての適性があったのか、勉強を始めてからわずか1年で普通の看護師と遜色ない医療技術と知識を身につけた。

中には噂を聞きつけて、わざわざ無免許の私に治療を依頼してくる患者もいた。

そして、大震災の時、多くの命を救った事で【超高校級】として認められた。

 

 

 

でもある日、私はある真実に行き着いた。

私の弟は、ただの病死じゃなかった。

NOAHSのボスに殺害された。

…許せない。

絶対に殺してやる。

私の弟が受けた以上の苦しみを味わせないと気が済まない。

 

 

 

 

私は、才監学園に収監された後、すぐにモノクマ学園長に取引を持ちかけられた。

知能犯の手がかりを追う手伝いをしてやるから協力しろという内容だった。

私は、弟の仇を討てるのならなんでもするつもりだった。

だから、私はその話を快諾した。

でも、その後すぐの事だった。

私は、財原さんに呼び出された。

 

「いいのか?キミ、このままだと捨て駒にされるよ。」

「は?」

「別にシラを切らなくてもいいよ。俺は、キミが内通者だって事も、知能犯の正体も知ってるから。」

「あなたは一体何を言ってるんですか…?」

「キミの復讐、手伝ってやるよ。」

「…え。」

「なあに、俺も、知能犯にはちょっとした恨みがあってね。同じ敵を持つ者同士、仲良く協力しようぜ?」

「お断りします。あなたのような方、信用できるわけないじゃないですか。」

 

「ふーん。…20XX年4月XX日、癒川治奈死亡。その翌日、知能犯を除く全員がおしおきされて死亡。」

「…は?」

「なんでもないよ、独り言。…でも、キミが俺の言う事を聞かないって言うなら、今言った事が現実になるかもね。」

「どういう事ですか?」

「…ちょっと未来予知してあげよっか。もし、キミが俺の言う事を聞かずにこのままクマちゃんの内通者を続けていれば、キミはクマちゃんに捨て駒にされて、仇を討つ事もできずに死ぬ。もし俺とクマちゃん両方を蹴れば、口封じのためにクマちゃんが用意するであろう別の内通者に殺される。どっちにしろキミが仇を討てる未来は無いんだよ。」

「だったらどうしろっていうんですか?あなたの言う事を聞けと?」

「そうだよ。わかってんじゃん。俺のシナリオに従ってさえくれれば、キミの願いを叶えてあげられる。なんてったって、俺は【超高校級の勝者】だからネ☆」

「そんな事をして、何のメリットがあるんですか?」

「だから、言ってんじゃん。知能犯には、俺も恨みがあるんだよ。俺には、キミの願いを確実に叶えてあげられる才能があるんだよ?従った方が得策だと思うけど?」

「あなたの事は信用できません。あなたが裏切らない根拠は?」

「逆に、キミを裏切るメリットが無いでしょ。俺は内通者じゃないし、知能犯の手先でもない。俺とキミは、お互いに同じ敵を持つ仲間だ。…これでどう?」

「…そうですね。あなたの事を完全に信用したわけではありませんが、一応シナリオとやらをお聞きしても?」

「物分かりが良くて助かるー。」

 

 

 

 

…まさか、あの男が、方神と付き合えなんて言ってくるとは…

あの子のためならなんでもやるとは言ったけど、さすがに弟を殺した奴を好きなフリをするなんて反吐が出そう。

さらにアイツは、『俺に殺されろ』と言ってきた。

やっぱり、あの男がまともな提案をしてくるわけがなかった。

…だけど。

 

 

 

 

「本当に良かったのか?俺の言う事を聞いてもらっちまってよ。」

「何を今更…元はと言えばあなたが言い出した事じゃないですか。」

「ごめん、そうだったね。ところで、方神の方は順調?」

「ええ、まあ。とりあえず表向きの協力関係は結んできましたよ。…それにしても、本当にあの男の恋人のフリをする必要なんてあるんですか?」

「だって、二人で何かコソコソやってても、恋人同士ならあんまり他の奴らに怪しまれないでしょ?方神にとっても、恋人であるキミが死ねば、自分を犯人候補から外せるからね。」

「それで、私を敵と付き合わせたと?本当にいい性格してますね。」

「いいねえ、最高の褒め言葉だよ。」

 

「それで、私はどうあなたに殺されればいいんですか?具体的に。」

「説明するからよく聞いて。まず、キミがこのナイフを持って俺に襲いかかるでしょ。そしたら、俺が反撃する。その後、俺がこの毒をキミに盛る。…こんな段取りでどう?」

「でも、私そんなアクション俳優みたいな芸当できませんよ。襲いかかった後、不自然さが出ないようにあなたと揉み合う演技をするなんて、正直難しいんですけど。何か具体的な対策でもあるんですか?」

「ああ、それについては安心しな。キミのアクションが少なく済む方法もちゃんと考えてきたから。」

「…へえ、準備がいいんですね。」

「ありがと。…じゃあ段取り説明するぞ。まず、キミがナイフで俺に切り傷を作るでしょ。その後俺がキミに切り傷を作る。そうしたら、キミは俺に向かって突進して、俺はこれを使ってキミの動きを封じた…事にする。どう?完璧でしょ?」

「それ、媚薬ですよね。まさか、それを使って…?」

「そうだけど?」

「…あなた、本当に最低ですね。」

「えへへ。」

 

「そしてその後、私はあなたに毒殺されると…そういうわけですね?」

「理解が早くて助かるよ。まさかキミが俺の提案を快諾してくれるとはね。」

「財原さん。あなたは最後まで信用できない方でした。」

「ひっど。」

「…だけど、今回だけはあなたに付き合ってあげます。あなたの、知能犯に一泡吹かせたいという思いに嘘はないと判断したので。」

「癒川サン…」

「ただし、もし方神へ復讐する事ができず、あなたも私も犬死にするような結末になったとしたら、永遠にあなたを呪いますからね。」

「こっわ。」

「…それと、これは私からの伝言です。もし可能であれば、方神本人に直接伝えてくれませんか?」

「伝言?」

言いたい事は山ほどある。

アイツの事は絶対に許さないし、できる事なら私の手でアイツを殺したかった。

でも私は、この男ならきっとアイツを殺してくれるって信じてる。

だから、最期は笑って逝ってやる。

 

「『地獄に堕ちろクソ野郎。』…以上です。」

「わかった。ちゃんと伝えておくよ。だから、キミは安心して弟の所に行ってあげな。」

「ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

 

毒に体が蝕まれていく。

肺が破裂して、体が嫌な音を上げて軋み、全身が燃え上がるように熱くなる。

目がかすんで、体の感覚も鈍くなっていく。

…これが、死ぬって事なのか。

あーあ、こんな事ならもっと人生楽しんでおけば良かったなぁ。

 

ぼやける視界の中、たった一人はっきりと見える人影があった。

 

『おねえちゃん。』

 

視界に映ったのは、私の弟だった。

 

「…治人。」

 

『おねえちゃん、やっと会えたね。かってにひとりで行っちゃってごめんね。』

 

「ううん、謝るのは私の方。治人、本当は私の手であなたの仇を討ちたかった。ダメなお姉ちゃんで本当にごめんね。」

 

『そんな事ないよ、今までよくがんばったね。』

 

「治人…!ずっと、会いたかった。長い間独りにして本当にごめんね。もう独りにしない。ずっと一緒にいるから…!」

 

『おねえちゃん、大好きだよ。』

 

私もよ、治人。

私は、あなたを世界中の誰よりも愛してる。

 

 

 

 

 

「…癒川サン。キミの復讐は、俺が引き受けた。」

 

 

 

 

 


 

 

 

【財原天理編】

 

俺は、ずっと負け犬の人生を歩んできた。

俺は生まれてすぐに両親を殺され、闇オークションで売られてとある闇カジノに引き取られた。

そこからは、奴隷として人間以下の生活を送ってきた。

使えない人間は売却されるのがそこのルールだったが、俺は自分の才能を使ってなんとか生き残った。

 

後から聞いた話によると、俺の実の両親はとある村の神子の一族の末裔で、摩訶不思議な力を使って村を救っていたそうだ。

そのせいなのか、俺には生まれつき常人をはるかに凌ぐ先見能力があった。

今までの膨大な統計、世を支配する基本原理、確率、そういったあらゆる要素の点が全て最適解へ向かって線として繋がっているように見えていた。

その線をなぞりさえすれば、俺はいつだって成功を掴み取る事ができた。

でも、俺の才能の本質はそこで終わりじゃなかった。

確率も法則も運命さえも好き勝手にねじ曲げて、俺が望む未来を強引に掴み取る。それが俺の才能だった。

その才能を使って俺はカジノを潰して、その後成り行きで育ての親に拾われた。

俺が投資と起業を繰り返して巨万の富を築いたのは、その直後の事だった。

俺は、世界屈指の資産家として注目を浴び、【超高校級の資産家】と呼ばれるまでに至った。

でも、その才能はあくまで後から伴ったおまけに過ぎなかった。

…【超高校級の勝者】。それが俺の本当の才能だ。

 

俺には、絶対に殺すと決めている奴がいた。

ソイツは、俺の人生を滅茶苦茶にしたカジノを裏で操っていた上に、俺の大切な人を殺した張本人だ。

俺は、自分が楽しく生きられればそれでいい。

だけど、アイツは…方神冥だけは、絶対に殺さなきゃいけない。

だって、そうじゃなきゃ()()楽しくないから。

 

 

 

 

 

 

 

俺は、癒川サンとコロシアイの打ち合わせをした。

俺が癒川サンを殺して、方神が俺を操った気になって有頂天になってる間に俺が自殺をする。

…いや、自殺はおかしいか。

だって、俺は方神に殺されるんだからな。

俺を殺したアイツが処刑される。それが俺の考えた最高のシナリオだ。

ただ、このシナリオにはひとつ欠点がある。

アイツのクソダセェ死に様をこの目で見られない事だ。

しょーがない、これだけは諦めるしかないか。

それか、天国か地獄がある事に賭けてみようか?

アイツが地獄に落ちる様を見るのもまた一興ってね。

 

俺は、右手の中指の指輪を外して睨んだ。

俺だって、たった15で死ぬなんて嫌だ。できればこの手は極力使いたくなかった。

でもいずれ殺されるんなら、死に方くらいは選びたい。

アイツの思い通りに死ぬつもりは微塵もない。

俺の死に方を決めていいのは俺だけだ。

俺は、今まで殺されるために生きてきたわけでも、人の言いなりになるために生きてきたわけでもない。

たった一度しかない人生を全力で楽しむためだけに生まれてきたのだから。

俺は、指輪を飲み込んだ。

「…ふぅ。」

まさか、こんな形で右手中指の指輪が役に立つとはね。

やっぱ、願掛けって大事だねw

 

 

 

 

全てがうまくいき、俺は狛研サンに罪を暴かれた。

だけど、それすらも俺の計算の内だった。

俺は、狛研サンなら俺の嘘を暴いてくれるって信じてた。

そして、感情に任せて判断を誤るほどあの子が子供じゃない事も、俺はわかってた。

全てが俺の描いた通りに動いていく。

俺はあんなゴミクソに殺される事になるけど、それでもアイツを死刑にさえできれば俺の勝ちなのには変わりない。

散々上げるところまで上げておいて、最後の最後に絶望のドン底に突き落として、俺だけはおいしい所を全部持っていって勝ち逃げしてやる。

だって俺は、【超高校級の勝者】なんだからな。

 

「ぎゃははははははははははははははははは!!!そりゃそうなるよね!!だって、みんなにとっては、君を生かす選択をするメリットなんて1ミリも無いもんね!!あーあ、かわいそうに!!」

ウザいくらい調子に乗ってんな、コイツ。

今からオマエも死ぬんだっつーの。

ホント、面白すぎて笑い堪えるのに必死だよw

そうだ、どうせならこのまま調子に乗らせておこう。

ついでに慌てふためく演技付きでね。

だって、やっぱりギリギリまでアイツに優越感を感じさせてあげた方が、後から来る絶望も大きいもんね。

…そう、俺がサイコーの死を遂げるその瞬間まで。

 

…!

「復讐したって幸せになれないなんて、そんな事でお父さんとお母さんが喜ぶわけないって事なんて…そんなの、わかってんだよ…!でも…それでも…やっぱりコイツが許せないんだ…!ボクは、コイツを殺さないと気が済まないんだよ!!」

「狛研ちゃん…」

「うっ、うぅう…うぁああああぁあああああああぁああああああああぁあああああああ!!!」

なんて顔してんだよ、狛研サン。

それじゃあ両親が悲しむぜ。

この子にとっては色々と複雑な心象なんだろうけど、それでもやっぱり俺はこの子に復讐させるわけにはいかない。

俺は、この子に手を汚して欲しくない。

それに、これは俺がやると決めた復讐だ。

俺の手でアイツを殺さないと気が済まない。

 

『安心しろ。キミの復讐は俺が引き受けてやる。』

 

うまく伝わったかな?

ごめんね、狛研サン。

今回ばかりは、俺がこのセカイの主人公だ。

…っと、ヤバい。

そろそろ毒が効いてきたみたいだな。

保ってあと10分ってところか。

時間は限られてるし、何を言い残すか考えておかなきゃな。

 

 

 

『それでは!【超高校級の資産家】財原天理クンのために!スペシャルなおしおきを用意しました!』

 

「いやだぁああああああああああああぁあああああああああああああああああぁああああああああ!!!」

 

『ではでは…おしおきターイム!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴポッ

 

「…なーんちって。」

キッツ…これ、思ったより苦しいな。

胃がもうズタボロじゃねえか。

こりゃあもう時間の問題かな。

でもいっか。

方神のクソに復讐できて、俺はおしおきを受ける事もなく勝ち逃げできるわけだし。

今どんな気分かって?

サイコーに決まってんだろうがよ!

方神も、こんな糞ゲーも、それを操る黒幕も全部ゴミだ。

俺は、安全圏から笑って見てやがるカスが一番嫌いなんだよ。

でもな、どんなにテメェらがそういうクズだったとしても、俺がいる限りテメェらの勝利だけは絶対にあり得ない。

最後に笑うのは、黒幕でも他の参加者でも視聴者でも、ましてや知能犯でもない。

【超高校級の勝者】であるこの俺様だ。

 

「天理クン!?天理クン!!しっかりしてよ!!ねえ!!」

 

ハハッ、なんて顔してやがんだ狛研サン。

ウザくてキモい俺が死にそうになってんだよ?

もっと喜んでよ。

俺、キミの泣いてる顔、あんまり好きじゃないんだからさ。

 

「ッ、ゲホッ、ゴホッ…!ハハッ…さすがに喋りすぎたか。これ、思ったより死ぬの早いかも。…ヘヘッ、最期に…テメェのダセェ死に様を見られそうにないのが心残りかな。まあでもいっか。『囚われのマリアのための交響曲』の続きは見届けられたしな。」

「天理クン!もういいよ、喋らなくて!これ以上仲間が死ぬなんて、ボクは嫌だ!」

「ゼェ…ゼェ…どうせ生き延びたって、おしおきを受けるだけだよ…だったら潔く死んでやるよ。短い間だったけど楽しかったぜ。」

「そんなの、わからないじゃないか!とにかくこのまま死ぬなんてダメだ!!」

「狛研サン…最期にこれだけは伝えておくね。俺は、キミの事を誰よりも信頼していたし、クラスメイトとしても、友達としても、一人の女の子としても、キミは俺にとって誰よりも大切な人だった。」

「そんな…これから死ぬみたいな言い方やめてよ!キミは【超高校級の勝者】なんだろ!?死ぬ運命くらい、ねじ曲げてみせろよ!」

 

俺、なんで今まで狛研サンに執着してたのかわかった気がする。

多分、恋をしていたんだと思う。

狛研サンは、方神に殺された俺の初恋の人にそっくりだった。

だから、彼女に重ねて見ていたのかもしれない。

…いや、違うな。

これは偶然なんかじゃない。

俺がこうしてまたあの人に出会って、あの人の腕の中で死ぬのは、きっと俺自身が決めた運命だったんだ。

こんな形になっちゃったけど、せめて最期くらいはちゃんと想いを伝えないとね。

 

「天理クン…」

キミが泣くなら、俺は笑って死ぬ事にしよう。

今までで最高の笑顔で、こんな腐った世界を嘲笑って終わらせてやるんだ。

だって俺は【超高校級の勝者】だから。最期まで笑顔でいなきゃね。

 

 

 

「叶、大好きだよ。ありがとう。」

 

 

 

 

 


 

 

 

【方神冥編】

 

俺は、生まれてからこの方『負けた』事が一度もなかった。

俺は、全てにおいて恵まれた完璧な存在だった。

俺には元から全てが備わっていた。

でも、何か足りない物がある事に気がついた。

俺は、その足りないものを探すために実験を繰り返した。

ある日の事だった。

父親に言われた事が気に障ったので、俺は召使いに父親を殺すように命令した。

その召使いは父親を殺し、処罰された。

俺は父親を殺された哀れな子供として扱われ、一切咎められる事は無かった。

この時、俺は気付いた。

…これだ。

俺の人生に足りないもの、それは他人を支配するという快楽だったんだ。

 

俺はその日から、他人を唆して支配する快楽に魅入られた。

そして俺は『NOAHS』という組織を立ち上げ、気に食わないゴミ共を何人も裁いていった。

どれだけ他人に迷惑をかけようと、最悪殺したって俺は絶対に裁かれない。

俺のせいで俺以外の全員が不幸になって、俺だけは不利益を被らない。

…なんて幸せな事なんだろうか。

そして組織を立ち上げてから10年が経ち、俺は【超高校級の知能犯】として世間から恐れられた。

誰もが俺を恐れ、慄いている。

俺は、とても高揚した。

俺が一方的に他人を裁き、俺自身は何をしようと一切裁かれない。

でも、それは当然の事だ。

だって俺は、唯一無二の勝者で、この世界の神にふさわしい存在…

【超高校級の勝者】なのだから。

 

俺の名前が有名になってきたので、俺は自分の正体を隠す事にした。

目立つのは好きだけど、それで俺が豚箱行きになったら元も子もない。

俺は、今までの経歴を全て偽装し、時には替え玉を用意して、【超高校級のアナウンサー】穴雲星也として世間に知られるようになった。

穴雲星也は、俺が昔読んだ全く売れないミステリー小説に出てくる脇役の名前だ。

確か、若い記者の男で、連続殺人事件の最後の被害者だったかな。

 

自分を悟られないように、俺は脇役を演じるんだ。

周りは、俺をただの脇役だと思い込んでバカにしていればいい。

この世界の本当の主人公は、この俺様だ。

 

 

 

 

才監学園に収監されてすぐ、俺は黒幕に取引を持ちかけられた。

ソイツには、俺の正体はバレていた。

…まあ、こんな大掛かりな拉致監禁をするような奴だ。

多少は俺の事を調べていて当然か。

ソイツがしてきた提案というのは、今から始まるデスゲームを盛り上げろというものだった。

俺は、正直不快感を覚えた。

この世界の主人公は俺だ。俺がこんなふざけた奴にいいように使われていいわけがない。

だが、コイツの言う事を聞いたフリをして、隙を見てゲームを乗っ取るのも悪くないと思った。

俺は、黒幕と取引を結んでゲームの段取りを考えた。

 

そして、俺は部屋を出て他の奴らに出会った。

…【超高校級のマドンナ】に【超高校級の国王】か。

豪華なメンツが集まってるな。

…まあ、【超高校級の勝者】である俺様ほどじゃあないがな。

ん?なんだあの二人は。

えっと、確か【超高校級の不運】と【超高校級の幸運】だったっけ?

なんか、いかにも自分が主人公だってオーラを出してんな。

まあ本人達は無自覚だろうが。

…だったら、俺はアイツらを仮の主人公にして、アイツらを立てる役を演じる事にしよう。

 

「うーん、ここはどこなのかなぁ。まるでわからないや。」

 

お前らは、自分がこの物語の主人公だと思っていればいい。

だが、本物の主人公はこの俺だ。

俺は常に他人を支配し、勝ち続けてきた男だ。

俺の辞書に敗北なんて言葉は無い。

俺が負けるなんてあり得ない。

俺の才能は、【超高校級の知能犯】なんてチンケなものじゃない。

俺様こそが、【超高校級の勝者】なんだ!!

 

 

 

 

俺は、カス女を唆して、あのウザい成金を殺す事にした。

仮にあの女が失敗したとしても、成金に罪を被って貰えばいいだけの話だ。

俺はあのクソ女にそれっぽい事を言って、成金を殺すように仕向けた。

俺はその様子を少し離れたところで見ていたが、やはり俺が予想していた通り、癒川は失敗して財原に殺されかけていた。

だが、財原自身も毒を喰らって瀕死の重体だった。

そこで俺は成金に解毒剤を与え、癒川を殺した殺人犯としておしおきを受けてもらうという最高に面白いシナリオを思いついた。

 

俺は、研究室に行って取引を持ちかけ、成金に解毒剤を無理矢理飲ませた。

そして、解毒剤を飲まなかった女の方は血を吐いてのたうち回りながら死んだ。

これで、財原は癒川を殺した殺人犯になった。

財原には、狛研に罪を着せる計画を話し、偽装工作を持ちかけた。

不本意とはいえ殺人を犯してしまった財原は、それを受け入れ、偽装工作を始めた。

…もちろん、俺は約束を守る気なんて微塵もない。

もし狛研に投票されそうになったら、土壇場で今の事件の動画を雑魚共に見せる。

狛研も正直厄介だから殺しておきたいが、それよりはまずコイツだ。

このクサレ成金を生かしておいたら何をしでかすか分かったもんじゃない。

俺は、コイツの偽装工作を手伝って、表向きは共犯関係になった。

 

 

 

 

全てがうまくいった。

一瞬、万が一にでもあのクソゴミ天パ野郎に同情して俺に票を入れる奴が過半数を超えたらとヒヤヒヤしたが、どうやらアイツの底辺の人望じゃあ、それはあり得なかったようだな。

まあ、栄のバカだけはアイツに同情して俺に票を入れやがったが。

そして、当の天パ成金無能野郎は死の恐怖で暴れ回っていた。

…半分予想はしていたが、ここまで醜いとはな。

10年前殺したクソ探偵の娘が何かほざいているが、そんな事はどうでもいい。

俺は今最高の気分だ。

俺自身は一切手を汚さずに世界一の大富豪を屈服させ、この世界の主人公としての才能を大いに愚民共に見せつけているのだから。

俺は【超高校級の勝者】、神に選ばれた存在なんだ。

…いや、この俺様こそが神そのものだ!!

フフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 

 

 

ゴポッ

 

「…なーんちって。」

 

!!?

え、あ、え!?

おい、何が起こった?

どうなっている!?

なんで、なんで今財原が血反吐を吐いて倒れているんだ!?

こんなの、計画に無いぞ!!

「俺がキミの正体に気づいてないと思った?キミが知能犯って事くらい、最初から知ってたよ。だから殺す事にした。全ては、キミを殺す為だけに俺と癒川サンが描いたシナリオだったんだよ。」

そんな、バカな…あり得ない!!

あの女とコイツが組んで俺を嵌めようとしていただと!?

そんな話があっていいわけがない!!

俺は、【超高校級の勝者】なんだぞ…!?

第一、コイツはなんで急に血を吐いて…

「モノキソールωは、特定の条件下では猛毒になるってクマちゃんが言ってただろ。」

「まさか…急性珀銀中毒…!?」

「ビンゴ。俺はあらかじめ珀銀製の指輪を飲み込んでいて、お前が俺に飲ませた解毒剤のせいで中毒にかかって今瀕死の重体だ。…つまりだ。」

 

 

 

 

「俺が今ここで死ねば、実行犯のテメェがクロとして処刑されるんだよ!!」

…。

…………………………は!!?

「はっはははははははははははははははははは!!!いやぁ、哀れだねぇ。皮肉とはまさにこの事だよ。俺、言ったよね?癒川サンに解毒剤を飲ませてやってほしいって。でもそれを無視してキミが俺に解毒剤を飲ませたんだ。俺がわざわざ唯一全員が生き残り、かつキミが勝てる方法を教えてやったってのに…キミはそれを自らドブに捨てたんだよ。」

なんだそのゴミみてぇな策は!!

ふざけんじゃねえぞクソが!!

大体、何のメリットがあってこんな事を…

「テメェの事が大っっっっっっっ嫌いなんだよ!!とっととくたばれゴミ野郎!!」

「は…?」

「今どんな気分かって?最高に決まってんだろ?テメェを道連れにして、クソゲーをメチャクチャにして、そんな大それた事をしでかした俺は苦しい思いをする事もなく楽に死ねるんだからよ。俺の死に方を自由に決めていいのは俺だけだ!ざまあみろ!!おしおきなんざクソ食らえだ!!」

クソッ、なんなんだコイツ!!完全に狂ってやがる!!

俺の計画を台無しにしやがって!!

どこまで往生際が悪いんだ、無価値な人間のくせに!!

「ねえ、楽しかった?安全圏から石を投げるのは。自分は手を汚さずに人を殺して場を支配した気になって、最高にエクスタシー感じたでしょ?でも、これでキミも殺人犯の仲間入りだ。希望が絶望に変わった気分はどう?ねえねえ、今どんな気持ち?どんな気持ち?」

「うるせェ!!黙れクズが!!クッソ、なんなんだよテメェは!!あああああああああ、醜い!!こんなやり方、美しくない!!こんな、セオリーも戦略も才能も美学も運命さえも、全てを無視したやり方…正気じゃない!!完全に狂ってんだろテメェ!!!」

「かもな。」

「!?」

「言ったろ?人生を本気で楽しめる奴は正気じゃないってな。別に周りがどうとか、正しいかどうかとかどうでもいい。俺は、自分が楽しく生きられりゃあそれでいいんだよ。そのためならなんだって利用するし、それを邪魔するルールなんてねじ曲げてやる。確率も法則も、時に運命さえも支配して、俺が最も望む未来を強引に掴み取る。それが俺の【超高校級の勝者】としての才能だ!!」

「ッ…!!」

「どうした?そんな、雑魚に噛み付かれたみたいな顔してよぉ。なあ、【超高校級の敗者】さん?」

ふざけんなゴミが!!

何が【超高校級の勝者】だ、それは俺の才能だっつってんだろうがよ!!

テメェ如きが名乗っていい才能じゃねえんだよ、雑魚が!!

テメェなんかさっさとくたばれ低能がぁあああああああ!!!

 

 

 

「…叶。大好きだよ。…ありがとう。」

…あ?

おい、何笑ってやがんだ。

その気味の悪い笑顔を向けるのをやめろ!!

なんでコイツは最期の最期まで笑ってんだよ!!

まるで、俺に勝ったとでも言いたげな…

 

…嘘だ、俺が負ける?

駄目、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ

それだけは絶対に駄目だ!!

俺は【超高校級の勝者】なんだ!!

こんな雑魚に負けるわけがない。

俺が負けるなんてあり得ない!!

嫌だ、負けるのは嫌…負けるのは嫌…

 

 

 

 

いやだぁああああぁああああああああああぁあああああああああああ!!!

 

 

 

 

 

『うぷぷ、あーあ。壊れちゃったよ。何が【超高校級の勝者】だ、本物の【超高校級の勝者】ならキミが殺したって何度言えばわかるんだよ!っていうかさ、オマエって本当は負けるのが怖くて何もできなかった雑魚でしょ?失敗が怖くて何もできない時点で、オマエはすでにここにいる全員に負けてるんだよ!…って、ごめんごめん。事実すぎて反論できないよねw』

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