本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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伯爵令嬢と夏休み

 あっという間に日々が過ぎて、学園は夏休みに入った。

 夏休み中は殆どの生徒が実家に戻る。

 希望すれば残ることはできるのだが、両親に成果を報告したり、ご無沙汰だったお茶会や晩餐会に参加するのも私達の立派な務めだ。

 なので、

 

「図書館の本を思う存分読めるチャンスですけれど……」

「ソフィア、帰らないのかい?」

「……帰ります」

 

 お兄様にも優しく促された私は泣く泣く寮、というか図書館に籠もることを諦めた。

 代わりに街の書店で本を買って持ち帰ることにする。来た時に持ってきた本は寮の部屋に置いて行って、実家に持ち帰った本はそのまま置いてくればいい。

 そうすると学園に戻る時に荷物が空いてしまうので、向こうでも新しい本を揃えて持って来よう。

 

「馬車以外の方法でも本を運べればもっといいのですが……。風の魔法で運搬ができないか研究してみましょうか」

「ソフィアは勉強熱心だね」

「私は本を読むために努力しているだけですわ」

 

 実家に帰るとカタリナ様達ともいったんお別れである。

 といっても、昔から頻繁に遊びに行っている間柄だ。離れ離れになるという感覚は薄い。休み中も手紙のやりとりをしようと約束したし、空いている日に会おうと約束もしている。

 

「お兄様。私、馬車の中で本を読んでいても構いませんか?」

「ああ、もちろん」

 

 物静かなお兄様は嫌な顔もせず了承してくれたので、私は帰りの道中を読書して過ごした。

 

「退屈ではありませんでしたか?」

「いや。ソフィアと一緒だったから退屈しなかったよ」

 

 到着間際に尋ねると、お兄様はそう言って微笑んでくれた。

 私の顔を眺めたり景色に目をやったり、夏休みの宿題に目を通したり、色々とやることはあったらしい。

 

「私もお兄様と一緒で良かったです」

 

 こうして私は数か月ぶりにアスカルト家へ戻ってきた。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「「お父様、お母様。ただいま戻りました」」

「お帰り、ニコル。ソフィア」

「二人ともお帰りなさい。元気そうで何よりだわ」

 

 屋敷ではお母様と使用人達だけでなく、多忙なはずのお父様も一緒に出迎えてくれた。

 懐かしい我が家。

 図書館に後ろ髪引かれておいて現金なものだが、帰ってくるとほっとする。今すぐ書庫へ行って読書の続きがしたくなったが、

 

「ソフィア。疲れているところ悪いけれど、さっそくお話を聞かせてくれるかしら?」

「ニコルは私と話そう。問題ないか?」

「「はい」」

 

 私はお母様に、お兄様はお父様とお話をすることになった。

 荷物を置いて着替えを済ませたら、荷ほどきはメイド達にお願いしてお母様の部屋へ。

 

「いらっしゃい、ソフィア。あらためてお帰りなさい」

「はい、お母様。こちらはお土産です」

「まあ、ありがとう」

 

 お兄様と相談して買ってきたお土産はあの街でしか買えないお菓子だ。

 せっかくだからとそれなりの量を買い込んできたので、直接持ち込んだのはごく一部。残りはメイド達が適切に保管し、お茶の時間や食後のデザートに出してくれるだろう。

 

「本当はお母様のための本を買って来ようかと思ったのですが……」

「自分用の本をたくさん買ってきたのでしょう? そちらを貸してもらえれば十分よ」

「かしこまりました」

 

 まず、求められたのは学園での生活についてだ。

 成績については学校側から、生活態度についてはメイド達からも報告されているはずなので、誤魔化しても意味はない。

 私は素直にあったことを話した。

 

「座学では一位を維持。総合成績でも十位以内をキープ。名誉ある生徒会メンバーにも選ばれるなんて、素晴らしいわ。よく頑張ったわね、ソフィア」

「あ……ありがとうございます、お母様」

 

 お母様は笑顔で褒めてくれた。

 前世で通信簿を渡した時もそうだったが、こういう場はどうにも緊張してしまうので、少しプレッシャーから解放された気がする。

 私もお母様につられて笑顔を浮かべ、

 

「ところで。ジオルド王子のお部屋に夜着でお邪魔したとか、女性とはいえ見知らぬ方に招かれて一人でついていった、と聞いたのですけれど」

「じ、ジオルド様の件は生徒会の用事でしたし、女性のお誘いはおそらく魔法省のラーナ様のことかと……」

「ソフィア。あなたももう子供ではないのですから、自己責任という言葉は承知していることでしょう。でも、もう少し自分を大切にしなさい」

「……はい」

 

 怒られている、というよりは心配で言ってくれているのがわかるので、私はしゅんとしてお説教を聞いた。

 幸いというべきか長くは続かず、お母様は上品にため息をつくと小さく咳払いをした。

 

「嫌なお話はこれくらいにしましょう。本題が残っていますから」

「本題、ですか?」

 

 報告はこれで十分だと思うのだが。

 きょとんと首を傾げる私を前に、お母様は控えていたメイド達に指示。ティーセットが片付けられ、代わりにどさっと積まれたのは書類の山だった。

 

「あのう、お母様。これは……?」

「書類ですわ」

「それは見ればわかるのですけれど……」

「在学中、あなたの事業については私達が引き継ぎました。最低限はこなした自信がありますし、赤字は出していませんが、ソフィアでないと動かせない案件が多すぎるのです」

 

 料理店の方なら既存商品の改善、新規商品の開発、三号店の出店時期と候補地の選定。

 作家支援事業の方なら活版印刷機の試作品の確認や、印税制度の問題点の改善などなど。

 時折、手紙で相談などは受けていたのだが、受け取って送り返してでは日数がかかりすぎてしまう。

 

「帰ってきたこのタイミングで処理してもらおうと思っていたのです」

「な、なるほど……」

 

 自分で手を出したことなので「嫌です」とも言えず、私は延々と続くお母様との相談、意見調整に追われることになった。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「大変でしたわね。ソフィアの発想は他にないものだから仕方ないけれど」

「ええ。事業のお陰で本がたくさん買えるのですから文句も言えませんし……」

 

 動きやすい服装に身を包んだ私とメアリ様は、ハント家お抱えの農園を歩きながらお互いの近況報告を行った。

 

「メアリ様も大変でしょう? いくつもお願いをしてしまっていますし……」

「私はそれほどでもないわ。栽培や研究自体は専門家に任せるしかないし、未知の植物である以上、私にも意見を出す以上のことはできないもの」

「そうなのですね……」

「むしろ、こうしてお眼鏡に適うかどうか、ソフィアにチェックしてもらうのが一番大事な仕事だわ」

「うう、メアリ様はずるいです……」

 

 頬を膨らませて上目遣いに見上げると、メアリ様は楽しそうにくすくすと笑った。

 彼女の赤い髪は夜会の照明の下でも人目を惹くが、個人的には陽光に照らされている時が一番映えると思う。赤は活力の象徴だ。

 そう考えると、カタリナ様の瞳が静かな青色であるのが不思議に思えるが、メアリ様だって活力に満ちた素晴らしい貴族令嬢なのだ。

 じっと見つめていると、気づいたメアリ様がこつん、と額を指で突いてくる。

 

「痛いです、メアリ様」

「ごめんなさい。でもソフィア、今は作物を見てもらわないと困るわ」

「あ、そうでした……」

 

 メアリ様には私の欲しいものや考えをできる限り伝えてあるが、どうしても勘違いや伝え漏れは出る。

 もちろん、私の考えが正解かと言えばそうとも限らない、むしろ現場の人の意見で良いものができることも多いのだが、より良いものを作るためにこうして時々は作物の様子を見せてもらっている。

 

「ゆっくりするのは終わってからにしましょう。……そうだ、一緒にお風呂に入りましょうか」

「あ、いいですね! とっても楽しそうです!」

 

 貴族である私はメイドに手伝ってもらって入浴するのが日常だが、お友達同士でお風呂に入る機会は多くない。

 カタリナ様とアンさんの影響もあって、私もメアリ様もメイド達と仲が良い方だが、やっぱり主と使用人では壁がある。

 楽しみだ。

 私はうきうきしながら残りのチェック作業を終わらせにかかった。

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