本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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伯爵令嬢と妹王女

 アリス・スティアート様。

 

 私達の一年後輩として魔法学園に入学し、さっそくその存在感をアピールし始めた王女様。

 暗にカタリナ様への敵意を示した彼女について、私とメアリ様はまず、情報を集めることにした。

 といっても、容姿のせいで目立つ私は大した役に立てない。

 ほとんどメアリ様頼りの調査になってしまったのだが――。

 

「アリス様は品行方正、勤勉にして努力家、下々の者にも礼を尽くす素晴らしいお方のようですわ」

 

 調査結果を語るメアリ様の表情は、手放しでアリス様を褒める内容と裏腹に、苦いものをはっきりと含んでいた。

 

「何か裏があるのではないか、と?」

「人格にも能力にも何ら問題のない公正明大な優等生――なんて、いるわけがないでしょう」

 

 ふん、と、苛立たしげに鼻を鳴らして語るメアリ様。

 貴族令嬢の鑑と謳われている彼女が言うと、色々と洒落になっていないのだが、

 

「目の前にお一人いらっしゃるので、私としては肯定しがたいです……」

 

 おずおずと言えば、メアリ様はきょとんと瞬きした後、頬を赤く染めて、

 

「……お、お世辞でも嬉しいですわ。私が裏表なく、対等に話ができるのはソフィアだけですもの」

「私にとっても、メアリ様は大切なお友達です」

「ありがとう、ソフィア。そうだ。今日は一緒に寝ましょうか? 話が長くなってしまうと、静かな廊下を歩かなければならないでしょう?」

「それは楽しそうですね! ですが、先にお話を済ませてしまった方がいいのでは?」

 

 メアリ様は「そうだったわ」と表情を戻した。

 

「人格についてはひとまず置くとしても、カタリナ様へ敵意を持っていることは事実。理由、あるいは目的がわかればいいのだけれど……」

「後ろ暗いところは見られない、のですよね?」

「ええ。入学からの短い期間で着実に派閥を形成し、優秀な成績を上げているけれど、地位や権力をもって誰かを貶める、などという素振りも一切なし」

 

 カタリナ様が攻撃される気配も今のところない、ということだ。

 

「ただ、私達に関する情報を集めているような節はあるわ」

「私の料理店にも足を運んで、給仕から熱心に話を聞いていたそうです」

 

 向こうも今は準備段階なのかもしれない。

 

「アリス様は優秀でいらっしゃるのですよね? 一年生は最初のテストが迫っているはずですけれど――」

「……十中八九、生徒会に入ってくるでしょうね」

 

 王族ともなれば生徒会入りは当然と言ってもいい。

 ジオルド様とアラン様に続き、アリス様が生徒会入りをすれば王族が三人。非常に華やかな生徒会ができあがることだろう。

 加えて、アリス様は合法的にカタリナ様に近づくことができる。

 

 私達は細かな情報を交換した後、今のところは何もわかっていないに等しい、ということをあらためて実感した。

 

「……とにかく、様子を見ましょう。不用意な行動を取れば向こうに利を与えてしまうかもしれないし、引き続き情報収集を進めるということで」

「わかりました」

 

 私はメアリ様の提示した方針に、神妙な頷きを返した。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

 次の休日。

 

「さあ、ソフィア様。狭い部屋ですけれど、どうぞ楽になさってください」

「は、はい」

 

 どうしてこうなったんだろう……?

 私やメアリ様の部屋よりも広い王族用の寮部屋に招かれた私は、にこやかなアリス様の声かけに、緊張を感じながら答えた。

 

 その日。

 私はいつものように朝から図書館に向かい、ラーナ様に出くわさなかったのに気をよくしつつ読書に勤しんでいた。

 しかし、昼食はお弁当で済ませ、さあ、午後の読書と意気込んだタイミングで意外な人物――アリス様が声をかけてきたのだった。

 

『ごきげんよう、ソフィア様』

『ご、ごきげんよう、アリス様。本日はお勉強ですか?』

『ええ。魔法学園の図書館には、宮廷図書館にない本も所蔵されていますから』

 

 学友を連れず一人きりのアリス様はそう言って微笑む。

 

『私、読書が趣味なんです。特に物語が』

『そうなのですか!?』

 

 思わず興奮してしまう私。

 私とメアリ様にあんな本をプレゼントしてくれたことから想像はついていたものの、本人からこうして打ち明けられるというのは格別の喜びだ。

 目をきらきらさせる私を前に、アリス様は「ええ」と頷いて、

 

『ソフィア様。この後、特別なご予定はおありですか?』

『予定、ですか? いえ、特にありませんが……』

『でしたら、私の部屋で本のお話をしませんか? この前、お贈りした本、私も大変楽しく読みましたので、是非感想を語り合いたいと――』

『行きます!』

 

 それで、気づいたら敵地に一人で乗り込む羽目になっていた。

 

 ……弁解させてもらうなら、私も完全に前が見えなくなっていたわけではない。

 ただ、アリス様は一枚も二枚も上手だった。

 用件の前に本の話をして私の注意力を奪う奇策。予定を聞く際、『特別な』と付け加えたのも私に「読書で忙しい」と答えさせないためだ。加えて、本の話をしようという誘いをかけて、私の本好きとしてのプライドにまで訴えかけた。

 図書館ならばカタリナ様やメアリ様が一緒にいる確率は低いので、ほぼ確実に私だけを誘いだすことができる。

 

 アリス様は自分のメイドにお茶やお菓子の準備をさせると(まるで予定していたかのようにスムーズだった)、あの本をテーブルの上に置いた。

 私が貰ったのと同じ本。

 本を部屋に取りに戻る、という逃げ口上を封じる目的かもしれないが、自分が読んで気に入った本をプレゼントしてくれた、と考えると、その、テンションが上がった。

 

 というか、本当に本の話をするつもりなのだろうか……?

 

「? どうしました?」

「い、いえ。王族の方と二人きりなんて初めてなので緊張してしまって……」

「ふふっ。前にも言いましたが、私は王族と言っても目立たない存在ですから。どなたか貴族の男性に嫁ぐことになるでしょうし」

 

 ジオルド様への禁断の恋。

 メアリ様が口にしていた予想がふと頭をよぎった。

 

「それよりも、ソフィア様。さあ、もっと椅子を寄せましょう」

「え?」

「向かい合っていては本が読みにくいでしょう?」

 

 それぞれの椅子をくっつけるようにして、肩を寄せ合う私とアリス様。

 小さい頃、カタリナ様と似たようなことをよくやった。

 二人で同じ本を覗き込み、わくわくしながらページをめくる。効率は物凄く悪いのだが、楽しくて楽しくて仕方がなかった。

 最近はさすがになかなか機会がなかったが、

 

「ソフィア様。この書き出しからして秀逸だと思いませんか?」

「あ、わかります! これから何が起こるんだろう、ってわくわくします!」

 

 私はアリス様に促されるまま、楽しい本トークに没頭していった。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「……ふう」

 

 満足。

 気づけば、窓の外ではだんだんと日が傾こうとしていた。

 長時間話し込んでいたこともあって、お茶もお菓子もしっかりいただいてしまった。途中でお菓子のおかわりとしてポテチが出てきた時は驚いたけど、そういえば、私の料理店のこともしっかりリサーチされていたのだった。

 

 アリス様も満足げに息を吐いて、

 

「物語はいいですね。……現実では絶対にできないような恋もできますから」

「恋のお話は楽しいですものね」

 

 貰った物語本は、王子に恋するあまり悪しき手段に手を出してしまった魔女の話だった。

 

「ええ。……特に、ソフィア様の周りは浮いたお噂が少ないでしょう?」

「そうですね……」

 

 私も含め、まともな恋愛をしていない者ばかりだ。

 

 ――と、これはもしかして。

 

 話が本題に入ったのだろうか。

 私は少し身構えつつ、アリス様に尋ねる。

 

「アリス様には好きな方はいらっしゃらないのですか?」

「私ですか? いいえ、特にはいません」

 

 さらりと答えるアリス様。

 痛い所ではないのか、それとも、予想済みだから動揺しないのか。

 

「お近くにジオルド様やアラン様のような素敵なお兄様がいらっしゃると、男性を見る目も厳しくなってしまうのでしょうか」

「ふふっ。そうですね。でも、お兄様方も外から見えるほど素敵な方ではないのですよ?」

 

 おや……?

 

「そうなのですか?」

「ええ。むしろ、私としてはあんな腹黒ドS王子や天然俺様系と付き合って疲れないのかと……あ、すみません。私ったら、つい」

 

 ここだけの話にして欲しいと言うアリス様に微笑んで頷きつつ、私は内心で考える。

 この様子だと禁断の恋はなさそうだ。

 だとすると、カタリナ様を目の敵にする理由はなんだろう。

 

 ――まさか。

 

 脳裏にふと考えがよぎる。

 双子王子が関係ないのなら、カタリナ様に想いを寄せる他の男性が関係しているのかも。

 

 つまり、キース様かお兄様が狙われているのでは!?

 

 身内の危機に、私は危機感を募らせた。

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