学園祭に向けて
「そろそろ、一年生の皆さんも業務に慣れてきたことでしょう」
その日の生徒会では、メンバー全員を集めて会議が開かれた。
「そこで、いよいよ学園祭の運営について詳しい話を始めます」
「おおー」
一年生を中心に小さな歓声が上がる中、一番感心していたのはカタリナ様だった。
彼女の前にはお菓子の皿があり、クッキーやチョコレートがこんもり盛られている。マリアさんお手製の品のほか、みんなで持ち寄ったお菓子、差し入れで頂いたお菓子などの盛り合わせだ。
会議だからと除け者にするのは心苦しいけれど、意見を求めるのも心苦しい、ということで、単に見物してもらうことになったのだ。
議長は当然ジオルド様。
アリス様が書記として黒板にチョークを走らせる。
「お兄様――いえ、会長や先輩方は、ある程度のお話し合いを済ませていらっしゃるのですよね?」
「概要を説明し、各自、案を温めておくよう通達した程度ですが」
この魔法学園では二年に一回、学園祭が開かれている。
二年制の学校なので、今在籍している生徒にとっては初めてのイベントだ。『FORTUNE・LOVER』の物語は一年時で終わっているので、ゲーム内でも描かれていないことになる。
学校を舞台にしたゲームで、設定上も存在するイベントなのに作中で描かないなんて、と、アリス様から聞かされた時は驚いたものだ。
「引継ぎの面から見ても、非効率的な仕組みですわよね」
メアリ様が眉を寄せて呟けば、アラン様が面倒臭そうに「狙ってやっているらしいぞ」と言った。
これにはキース様が首を傾げる。
「どういうことですか?」
「魔法学園に入学するのは基本、貴族だ。そして、生徒会を運営するのは上位の連中になる。つまり生徒会と学園祭は『国政の練習』なんだよ」
「国政……そうか!」
ジオルド様が頷いて、
「もちろん、規模がまるで違いますが――自分達の責任において予算を動かし、運営しなければならないという点においては似通っています。開催を二年に一度とし、敢えて引き継ぎを行いづらくしているのは『独自色を取り入れろ』というメッセージなのですよ」
「慣習や前例をなぞるだけの国政など必要ない。チャンスが平等に訪れるとも限らない。時流を見極め、挑戦し、成功してみせよ……と、いうことですね」
「さすが、マリアは博識ですね」
「そ、そんなことは……」
恐縮するマリアさんの姿に空気が和んだ。
しかし、そう考えると、今回の学園祭にはプレッシャーがかかる。王族が三人も含まれている上、アリス様という「例外中の例外」まで含まれているのだから。
当日は来賓として多くの人が訪れる。
中には学園の出身者も当然含まれるのだから、先達に見せて恥ずかしくないものにしなければならない。
「まあ、と言っても、去年の卒業生に連絡しようと思えば簡単にできるのですが」
「おいジオルド。台無しだぞ」
「一つのやり方に固執するな、ということですよ。今生徒会が武器にできるとすれば、それは『多様性』でしょう?」
男女のバランスもいいし、身分の幅もこれでもかと広い。
ジオルド様は、どこか挑戦的な笑みを浮かべて。
「先に宣言します。この学園祭、必ず成功させます。そのために皆さんの力を貸してください」
「おう!」
もちろん、私達にも否はなかった。
◇ ◇ ◇
「研究発表に、作品の展示・販売。魔法の実演披露に、生徒会劇……。盛りだくさんですね」
ティーカップを両手で支えながら、私はほっと息を吐いた。
さすがに皆さんやる気満々で、会議は白熱した。そのせいで遅くなってしまい、夕食の時間に遅れそうになったくらいだ。
部屋の主であるアリス様はテーブルの向かいで微笑む。
夜のお茶会は、あれ以来、私達の密かな楽しみになりつつある。
「生徒会劇だなんて……百合の花が咲きそうですわね」
「?」
「あっ……。あの作品は麗乃先輩が亡くなった後でしたね。申し訳ありません」
恋がわからない生徒会長(女性)と、恋がわからない後輩役員(女性)の恋物語らしい。
私は「お気になさらないでください」と微笑んで、今度詳しく教えてもらえるようアリス様にお願いした。
「でも、アリス様にとっては昔の作品ですのに……よく覚えていらっしゃいますね?」
「百合作品の歴史に残る名作ですもの。電子書籍の発達で、古い作品の入手も容易ですし」
「うう、羨ましいです……」
手に入らないせいで読めない本がある、というのはとてももどかしいのだ。
「あら、ソフィア先輩はてっきり紙の本の方がお好きかと思いました」
「もちろん、紙の本は大好きです。重みも、匂いも、手触りも、一枚一枚ページをめくる感覚も――全部、愛おしくてたまりません」
「さ、さすがソフィア様。私より一枚も二枚も上手ですね」
アリス様にドン引きされてしまった。
私の時代もスマホやタブレットがかなり普及しだしていたが、ハイテク時代を生き抜いたアリス様とは感覚が違うのだろう。
「でも、独自色を出すという割には無難な内容ですよね?」
「独自性がないと文句を言う輩もいれば、伝統を重んじていないと文句を言う層もいるのですよ」
「……なるほど」
研究発表や魔法披露はこの魔法学園に欠かせないものだ。
魔法について学ぶための機関である以上、それを研究し、成果を発表する場は必要になる。
そういう意味では高校より大学に近いかもしれない。
「生徒会劇がありますし、他にも有志の催しがありますから、独自色は十分に出るのではないでしょうか」
「さすがアリス様。よくご存知なのですね」
「……一応、王女として教養を身に着けさせられましたので」
アリス様は照れながら笑った。
「ゆ、有志といえば、ソフィア先輩も出店なさるのでしょう?」
「そうですね。料理店の出店を許可していただきました」
学園祭に出店するには最低でも、貴族が利用するに値するだけの「格」が必要になる。
街の料理屋がぽっと出で出店するのは難しいが、うちの店はアスカルト家のプロデュースだし、私の知り合いを中心に貴族の利用者もいる。
ポテチなど、貴族に広まりつつある料理の火付け役でもあるのだから、それなりの箔づけはできていた。
「お陰で、カタリナ様からは料理のリクエストをいただいてしまいました」
「まあ。どんなお料理を用意するのですか?」
「どうやら、カタリナ様は日本の『お祭り』をイメージされているようでして……」
お好み焼きに焼きそば、たこ焼き、などの名前を挙げていた。
なので、屋台っぽいものを考えるつもりだ。
「ふふっ。カタリナらしいですね」
さすが、前世の親友であるアリス様は全く動じない。
くすくすと楽しそうに笑って喜んでいる。
「そうだ。アリス様にも手伝っていただけませんか? 私の知らないレシピや、食材の入手ルートをご存知でしょうし」
「あっ。はいっ。もちろんです。ソフィア先輩とお店づくりなんて楽しそうです!」
私達はそれからもわいわいと、相談という名のお喋りに興じた。
「……そういえば、ソフィア先輩。この間、お見せしようと思っていたものなのですが、見ていただけますか?」
「はい、もちろんです。確か、珍しい本でしたよね?」
「ええと、正確に言うと『本』ではないのですが……物語であるのは間違いありません」
「?」
私は首を傾げつつ、アリス様の取り出したものを受け取って――。
「あ、あの、できればお部屋で読んでくださいませ。恥ずかしいので」
「??」
言われた通りに部屋に帰って読んでから、言われた意味を理解した。
「アリス様、劇の台本を書きませんか?」
そして、後日、私はアリス様にそう提案した。