本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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3巻相当分?
学園祭に向けて


「そろそろ、一年生の皆さんも業務に慣れてきたことでしょう」

 

 その日の生徒会では、メンバー全員を集めて会議が開かれた。

 

「そこで、いよいよ学園祭の運営について詳しい話を始めます」

「おおー」

 

 一年生を中心に小さな歓声が上がる中、一番感心していたのはカタリナ様だった。

 彼女の前にはお菓子の皿があり、クッキーやチョコレートがこんもり盛られている。マリアさんお手製の品のほか、みんなで持ち寄ったお菓子、差し入れで頂いたお菓子などの盛り合わせだ。

 会議だからと除け者にするのは心苦しいけれど、意見を求めるのも心苦しい、ということで、単に見物してもらうことになったのだ。

 

 議長は当然ジオルド様。

 アリス様が書記として黒板にチョークを走らせる。

 

「お兄様――いえ、会長や先輩方は、ある程度のお話し合いを済ませていらっしゃるのですよね?」

「概要を説明し、各自、案を温めておくよう通達した程度ですが」

 

 この魔法学園では二年に一回、学園祭が開かれている。

 二年制の学校なので、今在籍している生徒にとっては初めてのイベントだ。『FORTUNE・LOVER』の物語は一年時で終わっているので、ゲーム内でも描かれていないことになる。

 学校を舞台にしたゲームで、設定上も存在するイベントなのに作中で描かないなんて、と、アリス様から聞かされた時は驚いたものだ。

 

「引継ぎの面から見ても、非効率的な仕組みですわよね」

 

 メアリ様が眉を寄せて呟けば、アラン様が面倒臭そうに「狙ってやっているらしいぞ」と言った。

 これにはキース様が首を傾げる。

 

「どういうことですか?」

「魔法学園に入学するのは基本、貴族だ。そして、生徒会を運営するのは上位の連中になる。つまり生徒会と学園祭は『国政の練習』なんだよ」

「国政……そうか!」

 

 ジオルド様が頷いて、

 

「もちろん、規模がまるで違いますが――自分達の責任において予算を動かし、運営しなければならないという点においては似通っています。開催を二年に一度とし、敢えて引き継ぎを行いづらくしているのは『独自色を取り入れろ』というメッセージなのですよ」

「慣習や前例をなぞるだけの国政など必要ない。チャンスが平等に訪れるとも限らない。時流を見極め、挑戦し、成功してみせよ……と、いうことですね」

「さすが、マリアは博識ですね」

「そ、そんなことは……」

 

 恐縮するマリアさんの姿に空気が和んだ。

 しかし、そう考えると、今回の学園祭にはプレッシャーがかかる。王族が三人も含まれている上、アリス様という「例外中の例外」まで含まれているのだから。

 当日は来賓として多くの人が訪れる。

 中には学園の出身者も当然含まれるのだから、先達に見せて恥ずかしくないものにしなければならない。

 

「まあ、と言っても、去年の卒業生に連絡しようと思えば簡単にできるのですが」

「おいジオルド。台無しだぞ」

「一つのやり方に固執するな、ということですよ。今生徒会が武器にできるとすれば、それは『多様性』でしょう?」

 

 男女のバランスもいいし、身分の幅もこれでもかと広い。

 ジオルド様は、どこか挑戦的な笑みを浮かべて。

 

「先に宣言します。この学園祭、必ず成功させます。そのために皆さんの力を貸してください」

「おう!」

 

 もちろん、私達にも否はなかった。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「研究発表に、作品の展示・販売。魔法の実演披露に、生徒会劇……。盛りだくさんですね」

 

 ティーカップを両手で支えながら、私はほっと息を吐いた。

 さすがに皆さんやる気満々で、会議は白熱した。そのせいで遅くなってしまい、夕食の時間に遅れそうになったくらいだ。

 部屋の主であるアリス様はテーブルの向かいで微笑む。

 

 夜のお茶会は、あれ以来、私達の密かな楽しみになりつつある。

 

「生徒会劇だなんて……百合の花が咲きそうですわね」

「?」

「あっ……。あの作品は麗乃先輩が亡くなった後でしたね。申し訳ありません」

 

 恋がわからない生徒会長(女性)と、恋がわからない後輩役員(女性)の恋物語らしい。

 私は「お気になさらないでください」と微笑んで、今度詳しく教えてもらえるようアリス様にお願いした。

 

「でも、アリス様にとっては昔の作品ですのに……よく覚えていらっしゃいますね?」

「百合作品の歴史に残る名作ですもの。電子書籍の発達で、古い作品の入手も容易ですし」

「うう、羨ましいです……」

 

 手に入らないせいで読めない本がある、というのはとてももどかしいのだ。

 

「あら、ソフィア先輩はてっきり紙の本の方がお好きかと思いました」

「もちろん、紙の本は大好きです。重みも、匂いも、手触りも、一枚一枚ページをめくる感覚も――全部、愛おしくてたまりません」

「さ、さすがソフィア様。私より一枚も二枚も上手ですね」

 

 アリス様にドン引きされてしまった。

 私の時代もスマホやタブレットがかなり普及しだしていたが、ハイテク時代を生き抜いたアリス様とは感覚が違うのだろう。

 

「でも、独自色を出すという割には無難な内容ですよね?」

「独自性がないと文句を言う輩もいれば、伝統を重んじていないと文句を言う層もいるのですよ」

「……なるほど」

 

 研究発表や魔法披露はこの魔法学園に欠かせないものだ。

 魔法について学ぶための機関である以上、それを研究し、成果を発表する場は必要になる。

 そういう意味では高校より大学に近いかもしれない。

 

「生徒会劇がありますし、他にも有志の催しがありますから、独自色は十分に出るのではないでしょうか」

「さすがアリス様。よくご存知なのですね」

「……一応、王女として教養を身に着けさせられましたので」

 

 アリス様は照れながら笑った。

 

「ゆ、有志といえば、ソフィア先輩も出店なさるのでしょう?」

「そうですね。料理店の出店を許可していただきました」

 

 学園祭に出店するには最低でも、貴族が利用するに値するだけの「格」が必要になる。

 街の料理屋がぽっと出で出店するのは難しいが、うちの店はアスカルト家のプロデュースだし、私の知り合いを中心に貴族の利用者もいる。

 ポテチなど、貴族に広まりつつある料理の火付け役でもあるのだから、それなりの箔づけはできていた。

 

「お陰で、カタリナ様からは料理のリクエストをいただいてしまいました」

「まあ。どんなお料理を用意するのですか?」

「どうやら、カタリナ様は日本の『お祭り』をイメージされているようでして……」

 

 お好み焼きに焼きそば、たこ焼き、などの名前を挙げていた。

 なので、屋台っぽいものを考えるつもりだ。

 

「ふふっ。カタリナらしいですね」

 

 さすが、前世の親友であるアリス様は全く動じない。

 くすくすと楽しそうに笑って喜んでいる。

 

「そうだ。アリス様にも手伝っていただけませんか? 私の知らないレシピや、食材の入手ルートをご存知でしょうし」

「あっ。はいっ。もちろんです。ソフィア先輩とお店づくりなんて楽しそうです!」

 

 私達はそれからもわいわいと、相談という名のお喋りに興じた。

 

「……そういえば、ソフィア先輩。この間、お見せしようと思っていたものなのですが、見ていただけますか?」

「はい、もちろんです。確か、珍しい本でしたよね?」

「ええと、正確に言うと『本』ではないのですが……物語であるのは間違いありません」

「?」

 

 私は首を傾げつつ、アリス様の取り出したものを受け取って――。

 

「あ、あの、できればお部屋で読んでくださいませ。恥ずかしいので」

「??」

 

 言われた通りに部屋に帰って読んでから、言われた意味を理解した。

 

「アリス様、劇の台本を書きませんか?」

 

 そして、後日、私はアリス様にそう提案した。

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