本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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学園祭

 劇の練習に、生徒会としての仕事、それから自分達の出店準備。

 

 私は慌ただしく日々を過ごし――とうとう、学園祭の当日がやってきた。

 

 魔法学園は優雅で上品なところだが、生徒会の仕事がハードワークなのは変わらない。

 前日まで準備に追われ、いつもより遅く眠り、朝早く起きて最後の調整や確認を行うことになった。

 

 開会の言葉は生徒会長であるジオルド様。

 

「この学園祭が、皆さまにとって良い催しとなることを願っております」

 

 きゃーっ、と、黄色い声(主に女子のもの)が沢山飛んだ。

 生徒達が少しずつはけていく中、私達は一度集まって、

 

「では、後は手筈通りに」

「「はい」」

 

 あらかじめ決めた持ち場へと散開した。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「晴れて良かったですね、アリス様」

「ええ。せっかくの学園祭が雨天では、楽しさが半減してしまいます」

 

 私はアリス様と一緒に劇の会場だ。

 

 ファンタジー世界での学園祭。

 現代と違い、スマホやトランシーバーのような便利な道具はない。そのため、生徒会役員は最初から役割を分担し、持ち場から極力動かない形になる。

 その代わり、生徒のほぼ全員が貴族であるため、使用人を動員したり、期間中だけのお手伝いを雇うことができる。

 劇の会場でも生徒からの協力者や雇われたスタッフが最後の設営や当日準備、ビラ配りや呼び込みが行われる。

 

 生徒会役員の主な仕事は働いてくれる皆さんの監督、指揮になる。

 

「ソフィア先輩。ご自分のお店や展示はよろしいのですか?」

「ええ。そちらにも人を派遣しています。特に『目玉』にはお兄様が行ってくださっていますから」

「まあ、それは安心ですね」

 

 アリス様は微笑んで頷いて、

 

「……ところで、どれが『目玉』なのですか?」

「……活版印刷のつもりでしたが、そう言われると、どれも『目玉』ですね」

「ああ。活版印刷は特に大きな事業ですものね」

 

 活版印刷機に印刷物、出店の食品、魔法の研究発表では『渦の防壁』の魔法が披露される予定だし、ラーナ様に「お前の名前で発表しろ」と言われた魔法道具もある。

 注目度と重要性は正直、どれが一番か読みづらい。

 我ながら案件を抱え込みすぎな気もする。

 

「ところで、アリス様も大変ですね。カタリナ様と回られたかったでしょう?」

「そうですね……。そういう気持ちがあったのは事実ですが、でも、あまり気にしてはいません。私の希望はあくまで、あの子の行動を見届けることですから」

 

 カタリナ様は劇のみの参加なので、他の時間は自由に過ごしていただくことになっている。

 今頃はクラスメートの方と回っているのではないだろうか。

 もちろん、私もカタリナ様と回りたかった。生徒会の方々はみんなそう思っているに違いない。でも、仕事なので仕方がない。

 私はまだ「カタリナ様を独り占めできるわけがない」と諦めがつくが、他の皆さんはカタリナ様に焦がれながらもぐっと我慢しているのだから、根はとても真面目なのがよくわかる。

 

「劇に出演しないのも、観察のためですか?」

「ええ。傍観者に徹する方があの子をゆっくり眺められますから」

「そうだったのですね。申し訳ありません。アリス様だけ人前に立たないなんてずるい、などと思ってしまって……」

「……すみません、ソフィア先輩。実はそれも少しあります」

「ひどいですアリス様。私も台本をお手伝いしたので、出なくてもいいかと思いましたのに」

 

 ほぼ満場一致で「ソフィアは駄目」と言われてしまった。

 

「良いではありませんか。ソフィア先輩は可愛らしいのですから、もっと皆さまに見ていただくべきです」

「うう。私が容姿のことを気にしているのをご存知なのに、そんな風に仰るのですね……」

「拗ねないでください。また新しい本をお貸ししますから」

「本当ですか? 約束ですよ!?」

 

 我ながら簡単すぎると思うが、本の話を聞いたら気分は一気に明るくなった。

 こうしてお友達と過ごすのももちろん楽しいが、本はいい。心が洗われる。

 

「カタリナには『あれ』を渡しましたし、安心です」

「そうですね」

 

 カタリナ様に渡したのは、ちょっとしたお守りのようなものだ。

 アリス様からは「学園祭は心配ないと思う」と聞いている。

 でも、ラファエル様の時のことがある。念のため、用心しておいた方がいいと思い、アリス様の助けも借りて魔法道具を作った。

 この魔法道具に関しては悪用されるとまずいので、研究発表には出していない。

 

 ……と、話をしているうちに会場が近づいてきた。

 

「頑張りましょうね、アリス様」

「ええ。こちらこそよろしくお願いします、ソフィア先輩」

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「ソフィア。こっちの方はどうだ?」

「お兄様」

 

 アリス様と協力して宣伝等を行っていると、お兄様がやってきた。

 

「こちらは順調ですわ。そちらの方は?」

「問題ない。しばらくの間、他の者に任せてきた」

 

 お兄様は学園を卒業後、お父様について回って仕事を教わったり、お手伝いしたりしている。

 ゆくゆくは宰相の地位を継いで国の重要人物となる。

 

 ……まだ婚約者が決まっていないのが救いだが、タイムリミットは近づいている。きちんと司書になるためにも、この学園祭は失敗できない。

 

 それから、お兄様の応援も。

 

「あ、ソフィア先輩。そちらはお兄様ですか?」

「はい。兄のニコル・アスカルトですわ」

 

 気づいて歩み寄ってきてくれたアリス様に、お兄様が向き直る。

 

「初めまして、アリス様。ニコル・アスカルトと申します」

「アリス・スティアートです。初めまして、ニコル様」

 

 微笑み合う(お兄様は無表情だが)二人。

 端正な美形ながら実は運動神経が良く、程よく引き締まった筋肉を持つお兄様と、可憐で清楚な雰囲気を持っていて守ってあげたくなるアリス様。

 美男美女、まさにお似合いだ。周りにいた女性達が歓声を上げている。

 

「ニコル様のお噂はかねがね。伺っていた通りの美しい方ですね」

「アリス様こそ。お兄様方と並んでも全く引けを取ることのないお美しさです」

「まあ。お上手なのですね」

 

 アリス様は凄い、と、私は傍からぼんやりと思う。

 あのお兄様を間近で見ているのに、外見からでは動揺が見えない。

 お兄様の方は鈍感+カタリナ様に夢中+生真面目というコンボで全く気にしていないだろう。アリス様はあんなに素敵な方なのに、なんて勿体ないんだろう。

 実際、ギャラリーはどんどん凄いことになっている。

 

「お兄様がいてくだされば、それだけで宣伝になりそうです」

「そうなのか? いるだけでいいならしばらく手伝っても構わないが」

「お願いしてもよろしいですか?」

「ああ」

 

 お兄様が快諾してくれたので、とりあえず立っていてもらって、私とアリス様でチラシを配っていく。

 

「あ。私がいない方が効果が高いのではないでしょうか……!」

「「ソフィア(先輩)も十分客寄せになるから」」

「そうでしょうか……?」

 

 お兄様効果は絶大だった。

 彼を目当てにした女性が次から次へとやってくる。私とアリス様のところにも男性が結構来てくれる(割合としては私が二でアリス様が八くらい)。

 お陰で用意したビラはどんどんなくなっていった。

 

「きゃー! ニコル様よー!」

「アリス様、握手してください!」

「ソフィア様。〇〇先生の新刊は読まれまして?」

 

 どんどんなくなった。

 

 ――なくなったのはいいのだが、人が途切れない。

 

 ついでに、劇自体には興味がない人が多かったのか(「え、ニコル様は舞台に出ないんですか? なーんだ」)、捨てられたビラがそこかしこに落ちる。落ちる。落ちる。

 貴族の学校なのに。

 とはいえ、同じ状況なら現代日本でもゴミは散乱する。近代的とはいえ、ファンタジー世界の住人に日本以上の倫理観を期待する方が無茶というものだ。

 

「あの、生徒会の皆様。申し訳ないのですが……ニコル様とお話をされるのでしたら裏でお願いできますでしょうか?」

「「申し訳ありませんでした」」

 

 お兄様に協力してもらう作戦は失敗だった。

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