カタリナ様が行方不明になって数時間後、ジオルド様のもとへ脅迫状が届いた。
『カタリナ・クラエスの身柄は預かった、無事に返して欲しければ王位継承権を放棄せよ』
これによって誘拐が確定。
ジオルド様は特別、王位継に拘りを持っていないが、手続きが煩雑すぎるうえ、カタリナ様が返ってくる保証もない。
要求が身代金や、継承権を示すアイテム等であれば交換もできるのだが。
「どうせなら私を狙ってくれれば良かったのですが……」
「アリスを狙ったところで、僕は王位継承権を放棄しないよ。身内であると同時に政敵でもあるんだ。むしろ『アリス派』の陰謀を疑わないといけない」
アリス様の王位継承権はないも同然だが、彼女が王位を継ぐ方法はある。
――上位の王族が全員死ねばいい。
正気を疑うような発想だが、王位継承に関するごたごたは現実でも物語でもよくある。
下から上だけじゃなく、例えば第一王子がライバルになりうる第二王子を謀殺する、といったケースも。
「ですが、この要求から首謀者はだいぶ絞り込めますわね」
メアリ様が胸の下で腕を組みつつ(羨ましい)言うと、アラン様が似たような姿勢で腕を組んで、
「ジオルドに王位を継がれると困る人間――つまりは王族だな」
「そうすると、アランも候補に上がるわけですが」
「冗談を言うな。俺がそんな方法で目的を達すると思うか」
「思いませんよ。あらゆる意味でね」
となると、第一王子のジェフリー様か第二王子のイアン様が怪しい。
二人とも昼間会った際は好青年といった感じだったので、こういうことをするとは思えない――特に、ジェフリー様は「王になる気があるんだろうか?」と疑ってしまうような人柄だったのだが、何も本人が実行するとは限らない。
ジオルド様が言った『アリス派』のように『ジェフリー派』『イアン派』の人物、つまり、彼らに王位を取らせたい側近や縁者が首謀した可能性もある。
更には、ジェフリー派の仕業に見せかけたイアン派の仕業、などという可能性もあるわけで、ある程度、目星をつけられる一方、犯人を絞り込むほどの情報にはなりえない。
「アリス様。何かご存知ではないのですよね?」
私は念のため、アリス様に尋ねてみる。
彼女の知識に学園祭でのイベントはないと聞いているが、
「アリスは時々、妙な情報を拾っていますからね。どうですか?」
「……ちょっと待ってください。この状況、何か引っかかるような気がするのです」
なんと、思い当たる節があったらしい。
「思い出してくださいませ、アリス様! カタリナ様が大変なのです!」
「せ、急かさないでください、先輩。……ええと、そう。誘拐。王位継承権。ジオルド様……あ! 移植版の初回特典、オリジナルストーリーブック!」
「「は?」」
私以外の全員が「何言ってるんだこいつは、カタリナが乗り移ったか?」とでも言いたげな顔をした。
◇ ◇ ◇
「知らないと仰っていましたのに……」
「し、仕方ないのです。コンプリートエディションには基本、全部のストーリーが収録されていましたが、紙媒体の話までは入っていなかったのです」
アリス様の前世である敦子ちゃんは該当のゲーム機を持っていなかったので、移植版は購入しなかった。
いくら好きとはいえ、多種多少なグッズを全部集めきるほどの財力は無いのである。
「おいお前ら。仲が良いのはわかるが、何をこそこそ話してやがる」
「「な、何でもありません」」
「……ずるいですわ」
皆さんには「集めていた情報と状況を総合した上で、導き出した結論」と説明した。
「イアンお兄様の婚約者――セリーナ・バーグ様が関わっている可能性があります」
セリーナ様は、悪い言い方をすると「凡庸な女性」であるらしい。
博学でも、魔法の才があるわけでも、社交に長けているわけでもない。美人ではあるが絶世の美女ではない。活発な性格でないのは浮気の心配がないともいえるが、子を指導し立派に育てる力に欠けている、と見る者もいる。
「セリーナ様自身は努力家です。ですが、それでも目立った成果が上がらないことを気に病んでいるご様子があります」
「そんな自分でもイアンお兄様の助けになれる方法を考えた――ですか。少々短絡的というか、セリーナ様が首謀する計画にしては大胆すぎる気もしますが」
「ご本人が全てを計画する必要はありません。決断さえ引き出せれば、後は周囲の者が動けばいいのです。そして、決断を引き出す手段は――」
「闇の魔力」
静かに言ったマリアさんに全員の視線が集まる。
彼女は強く頷いて、言う。
「その方が闇の魔力に唆されているのでしたら、近くまで行けばわかるかもしれません」
更にメアリ様が、
「首謀者が特定できるのでしたら簡単ですわ。セリーナ様のここ数日の行動、所有する屋敷の使用状況を洗えば、おそらくは」
「そうと決まれば、手分けして動きましょう」
キース様が締め、私達は一斉に動きだそうとした。
そんな時、
「皆さん、ちょうどお集りでしたか」
「会長――ラファエル様」
「様、は不要ですよ、ソフィア様。皆さんにいい情報をお持ちしました」
魔法省勤めになったはずのラファエル・ウォルトが、カタリナ様に関する決定的な手掛かりと共に現れた。
◇ ◇ ◇
ラファエル様――ラファエルさんは配属された部署の上司と共に、とある事件の捜査を進めていたらしい。するとそれがカタリナ様誘拐事件と繋がったため、私達に知らせに来てくれたのだ。
魔法省って警察か何かなのか、とツッコミを入れたくなるが、あそこは要はなんでもやるお役所なのだ。
依頼されれば迷子のペット探しなどにも関わるし、今回のような誘拐事件や貴族の悪行を暴いたり、といったこともする。
普段は地味な書類仕事も多いらしいのだが。
「カタリナ様は、カタリナ様は無事なのですか!?」
「落ち着いてください、メアリ様。あの方は無事です。最強のボディガードが付いていますから」
最強のボディガード。
私の頭の中で「エンダァー!」と「ダダンダンダダン」が流れているうちに、ラファエルさんは「私の上司です」と説明してくれた。
なんでも上司の方は女性らしい。
だが、常に泰然自若としており、魔法にも長けている。魔法省でもそこそこのお偉いさんだから逆らったらひどいことになる。
「趣味の魔法道具製作ばかりしている困った人なんですが、仕事は異様にできるんですよね……」
誰のことかわかったような気がします。
「ソフィア様とマリアさんはご存知かもしれませんね」
誰のことかわかりました。
ラーナ様、そんなことまでやっていたとは。
というかそれは、セリーナ様の起こした誘拐事件の現場に、政敵であるスザンナ様(=ラーナ様)本人が居合わせているということで。
ちょっとセリーナ様が可哀想すぎるのではないか、と思ってしまった。
「できれば人手が欲しいところなんです。よろしければ協力していただけませんか?」
もちろん、私達が「ノー」と言うはずがなかった。
◇ ◇ ◇
ラファエル様と共に私達が行ったのは、いわゆる「強制捜査」というやつだった。
相手は悪だくみをしている貴族なので、当然、荒事も出てくる。
用心棒やら何やらが襲い掛かってきたりもしたのだが、ジオルド様やアラン様、キース様の剣の腕は並の相手が敵うものではない。
一方、メアリ様やアリス様が守られているだけかといえばそんなことはなく、襲い来る脅威には卒なく魔法を使って対処していた。
マリアさんは皆さんが怪我をした際にそれを治すことができる。
私も例の魔法で自分の防備だけはばっちりだ。下手に使うと風の渦に吹き飛ばされた人が連鎖的に追突事故を起こすので、注意が必要だが。
そうして、辿り着いた監禁場所。
「あら、みんな。勢揃いでどうしたの?」
カタリナ様は見知らぬ男と二人で、ベッドのある狭い部屋にいた。