カタリナ様が男性と二人っきり。
しかも、相手の男性はどこかワイルドな雰囲気を醸し出す、肉食系と思しき人。
何があったのかと動揺する私達だったが、途中で合流したラファエルさんの上司――「メイドのラナ」こと「ラーナ・スミス」(こと「スザンナ・ランドール」)が一緒だったし、カタリナ様救出と犯罪の摘発が先なので、男への詰問は後回し。
男――ルーファス・ブロードはあっさり罪を認め、お縄についた。
「こうしてここに残っているということは、覚悟はできているんだろうな?」
「はい。あなたたちの元に行ってすべてを話します」
去り際、ルーファスはカタリナ様へ「約束まで預かっとく」と言ってブローチを掲げた。
あのブローチは?
約束って?
私達が大量の「?」に襲われたのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
結局、事件は私達が蚊帳の外のまま幕を下ろした。
実行犯はルーファス・ブロード。
命令者はセリーナ・バーグ。
黒幕は
ルーファスは元々は孤児で、メイスン侯爵が拾い育てた手駒だったらしい。
彼は盗み、殺人など何でもやるチンピラだが、闇の魔法についてはかつて人に儀式をさせられただけで、詳しいことは何も知らなかった。
メイスン侯爵はジェフリー王子の行き過ぎた信奉者。
王子を王にするため、イアン王子の婚約者であるセリーナ様を唆し、ジオルド様の婚約者であるカタリナ様を誘拐させた。
どう転んでも政敵が減り、両者脱落も狙える計画を立てた。
セリーナ様についてはほぼ、アリス様が推測として語った通りだ。
彼女は「イアン王子に相応しくないのではないか」という悩みを抱えており、ルーファスの闇の魔法によってそれを増幅されて利用された。
闇の魔法が用いられたことはルーファス本人、それからマリアさんの証言によって裏付けられたし、関わっていた用心棒等々の雇い主がメイスン侯爵だったことも裏付けが取れた。
何よりイアン王子がセリーナ様を許したので、重い罪にはならない見込みだ。
「ラーナ様は婚約者であるジェフリー王子の命を受け、部下であるメイスン侯爵の悪事を追っていた、というわけですね。先んじて動いていたことでジェフリー王子は『部下の独断』であることを周囲に印象付けることもできた、と」
「さて、何のことかな」
魔法省内の一室にて、私が推測も交えて尋ねると、ラーナ様は見事にしらばっくれた。
「スザンナ・ランドールと私は全くの別人だが、お前の推測が正しければ、かの御仁はなかなかの切れ者だな。ジェフリー王子などという昼行燈の婚約者なのが勿体ない」
「ラーナ様……」
色んな意味で心にもないことを言わないで欲しい。
ジト目で見ると、彼女はコーヒーを啜りながら肩を竦めて、
「ともあれ。メイスン侯爵が独断だったのは事実だろうよ。私がジェフリー王子ならあんな杜撰な計画は立てん」
「それは、その通りですね」
メイスン侯爵の関与が明らかになれば、王位を追われるのはジェフリー王子の方だ。
そういう意味では侯爵の献身は全くの無意味どころか、他勢力のスパイであることを疑わないといけないくらいのお節介だ。
それとも、侯爵も別の誰かに操られていた……?
「ま、ジェフリーとしては事を秘密裏に終わらせる気もあまりなかったのだよ。奴は王位に興味がないからな」
「ジオルド様もそんなことを仰っていましたが……大丈夫なんでしょうか、王家」
「なに。ああいったものはなりたい奴がなるより、なりたくない奴がなる方が上手くいくものだ。どちらも一定以上の能力がある場合、という条件付きだがな」
なんとなくはわかる。
王の仕事をどう考えているか、という話だ。
なりたいと願う者の中には王に与えられる特権目当ての者もいるだろう。そう言った者は熱意と裏腹に、王になってしまえば悪政を敷きかねない。
一方、なりたくない者は王の仕事がどれだけ大変で責任が伴うかわかっている。王になれば仕方なく、本当に仕方なくではあるが一生懸命に働くだろう。
「時にソフィア・アスカルト。魔法省への就職の件だが」
「私は純粋に本が好きで司書になりたいと願っております」
「残念だ」
「……私が『はい』って言うまで言い続ける気ですか?」
「当然だろう」
何があっても「はい」と言わないように気をつけようと思った。
◇ ◇ ◇
さて、カタリナ様とルーファスの件だが、こちらについてもひと悶着あった。
――いや、二悶着? 三悶着? もっとだろうか?
カタリナ様いわく、ルーファスというのはあの人の本名ではないらしい。
「彼はソラっていうのよ」
嬉しそうに思い出し笑いをするカタリナ様。
もうそれだけで発狂寸前になる方が出た。
本人いわく、ソラには何もされなかったというのだが、もちろん、私達の誰もそんなことは信じなかった。
「カタリナ。ソラとの間に何があったか、時系列で教えてください。単に『何もなかった』というだけでは信用できません。どれくらい信用できないかというと『何もしてないのに壊れた』と同じくらいです」
前世のお仕事トラブルか何かを思い出したのか、アリス様が常になく真剣に言った。
「えーっと、なら、思い出せる限りでお話しますが」
ソラが持っていたブローチはカタリナ様が渡したものらしい。
学園祭で買ったそうで、彼に似合いそうだから渡したとのこと。
――ちなみに、貴族でも平民でも、異性に装飾品を渡すのは殆どプロポーズだ。
約束というのは外国へ旅行に行くことらしい。
ソラが外国出身だと聞き、カタリナ様がねだった。ソラは怪訝そうにしながらも笑って承諾したとか。
――ちなみに、貴族でも平民でも、男女が一緒に旅行をするのは親しい仲である証拠だ。
ソラが連行された後のあの部屋では、ジオルド様がカタリナ様の首に小さな赤い腫れを見つけた。
腫れの正体はカタリナ様いわく「虫刺され」ということだったが、よくよく聞いてみると、ソラにベッドへ押し倒されたとか。
『なぁ、俺のものにならないか?』
『そんなにキラキラした目で見つめてきて、何されたって文句を言えないぞ』
囁かれたというセリフはもう、完全にロマンス小説の世界だ。
――ちなみに、貴族でも平民でも、一定以上の歳の男女が同じベッドに入るのは(以下略
話を聞いたメアリ様は「毒殺? 自然死に見せかけられる植物、図鑑にあったかしら?」などと呟き、マリアさんは手をぎゅっと握ったまま蒼白になり、アリス様は笑顔のまま「へえ?」と極低温を発していた。
私も「男性からそんな風に口説かれるなんて羨ましいです!」なんて言う余裕はなかった。どこの馬の骨ともわからない男にカタリナ様を持って行かれるなんて、もうロマンス小説ではなく昼ドラやレディースコミックの世界だ。
「カタリナ様。私がお渡ししたペンダントは……」
「あ。あー、ごめんねソフィア。ほら、劇の時に邪魔だから外したでしょ? 着替えた時にちゃんと持って行かないとなー、とは思ってたんだけど、ブローチの方を確保したら安心しちゃって、つい」
カタリナ様は、やっぱりカタリナ様だった。
「もう待つのはやめましょう」
ジオルド様がそう言ってカタリナ様の唇を奪ったのも無理はない。
無理はない、ないのだが。
「「か、カタリナ(様)(姉さん)!?」」
複数人の声が室内に重なり合った。