本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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伯爵令嬢と進路相談

「さあ、今日こそは決着をつけようではないか。ソフィア・アスカルト」

 

 とある休日。

 私は魔法学園内の応接室、兼会議室のような場所へと呼び出され、そうそうたる面々と顔を合わせていた。

 

 学園の副責任者。付属図書館の館長。そして魔法省からラーナ・スミス。

 更に、私の婚約者(暫定)であるキース・クラエス、ビジネスパートナーであるメアリ・ハント、王族代表という体でついて来てくれたアリス・スティアート。

 以上、敬称略。

 

「あの、進路のお話と伺ったのですが……」

「合っている。お前の希望を聞いても話が進まない上、卒業までの日数も少なくなってきたのでな」

「私、図書館の司書には不足でしょうか? できる努力はしてきたつもりなのですが……」

 

 座学トップを取り続け、総合でも十位以内に入っている。

 これで不足と言われるのだとしたら、必要なのは戦闘能力だろうか。付属図書館では『図書館戦争』が行われていて、武装司書が配属されている……とかであれば確かに認識不足だった。自身で攻撃魔法を使うのは得意ではないので、代用になる魔法道具か何かを開発するべきか。

 

 動力を私が供給する前提ならサイズは小さくできるので――圧縮した空気を筒から押し出して攻撃するものなどがいいだろうか。

 サイズを合わせた鉄球を用意すれば構造物破壊にも用いられる。

 

 と、ラーナ様は意味ありげに笑って、

 

「努力が過剰だ。ただの図書館司書をさせるには勿体なさすぎる」

「え?」

 

 意外過ぎる発言に瞬きをする私だったが、隣で偉い方二人がうんうん頷いている。

 

「あの、頑張り過ぎだと言われるのは心外なのですが――」

「ごめんソフィア。その点については僕も何も言えない」

「司書になるために手段を選ばなさすぎですわ」

「ソフィア先輩らしいですね」

 

 何故か味方が一人もいなかった。

 呆然としてしまうが、ここで何も言わず引き下がるわけにはいかない。

 

「皆様のご希望は魔法省への就職、ということでしょうか?」

「良くわかっているな」

 

 我が意を得たりと頷くラーナだが、だいぶ白々しい。

 

「魔法省に新しい部署を作る計画は知っているだろう」

「ええ、他人事ではありませんので」

 

 新しい部署とは他でもない『出版部門』である。

 アスカルト家――というか私が「作家の囲い込み」「印税の導入」「印刷機の開発」「出版業という概念の創設」などを行うので、このままでは誰もついていけなくなる、という話になってしまったのだ。

 公文書の写本や広報活動を行っている部署は既にあるため、そこと連携する形で「出版業を管理・監督する部署」を設立、今何がどうなっているのかを把握することを目指すらしい。

 

「釣った魚を横から攫われるようなことはないと信じておりますが――」

「安心しろ、それはない。あくまでも管理と、公的文書の印刷が主な業務だ。むしろ担当者には給与を払うのだから収入の増加と考えていいだろう?」

「出版に対応した税制を検討中ですが、王家としても『活版印刷機を魔法省で一括接収』などといったことは考えておりません。この手の産業を公的機関が攫って成功した例などありませんから」

 

 アリス様が補足してくれる。

 

「というか、ソフィア先輩にそんな仕打ちをするなら、私は本格的にクーデターを考えます」

「アリス王女。王族とはいえ不敬にあたりかねないぞ」

「これは失礼いたしました」

 

 話が逸れたが、ラーナ様の言いたいことはわかった。

 

「私にその新部署へ入れ、ということですね?」

「入れというか、部署の長を務めて欲しい」

「え」

 

 と、驚きの声を上げたのはメアリ様。

 キース様もぽかんと口を開けているし、私だって十分驚いた。

 

「魔法学園を卒業したばかりの若輩者ですよ?」

「新しい部署に若者を配置して何の不思議がある? まあ、二、三年は分室という形を取り、既存部署の一部門として経験を積んでもらうかもしれんが」

 

 責任者となれば、名ばかりだとしてもそれなりの収入になるだろう。

 仕事が忙しいという名目で結婚を遅らせることもできる。

 

 ……あれ、悪くないのでは?

 

「官民の癒着――汚職を招くおつもりですか?」

 

 と思ったら、アリス様が鋭い視線で偉い方達を睨んだ。

 

「独特の語なので意味を掴みにくいが、言いたいことはわかる。ソフィアが公正な、家から独立した態度を取らなければ問題だろうな。取らなければ」

「猫から生まれた獅子の牙を折る、と」

「獅子から生まれたドラゴンの鱗を剥いでいるだけだ」

 

 なるほど。

 私をアスカルト家から引き離す――出版・印刷を主導するのではなく管理・監督する立場に置くことで技術革新の速度を落とし、一介の伯爵家が力を持ちすぎるのを阻止しようというわけか。

 学園の責任者や魔法省の役人の権限を超えている気もするが、あくまでも表向きは卒業生の進路相談兼、魔法省内の人事。

 ラーナ様がスザンナ・ランドールであることを知っていれば、裏の意図は明確だが。

 

「ソフィアが主導しなければ活版印刷は頓挫します。せっかくの産業をフイにするおつもりで?」

「やけに断言するな、メアリ・ハント」

「スミス様もわかっていらっしゃるはずです。あの事業は、彼女の才覚によって支えられていると」

 

 持ち上げられ過ぎで恥ずかしくなってきた。

 

「もっとはっきり申し上げましょうか? ラーナ様は新部署設立にかこつけて、お気に入りを手元に置いておきたいだけですわ。でしたら申し訳ありませんが、ソフィアには私がずっと前から目をつけておりますの」

「ちなみに私が二番目です。……いえ、三番目でしょうか?」

 

 アリス様がおっとり首を傾げると、ラーナ様が「怖いな」と笑った。

 にやり、という笑い方なので、まだまだ余裕を残した悪役にしか見えないのだが。

 

「ならば、どうする? 新部署設立はほぼ決定事項だ。ソフィアが参加しないのなら、魔法省と王家が選定した人員()()()運営して良いのか?」

「だ、だったら私が!」

「メアリ。落ち着いて」

 

 売り言葉に買い言葉、無茶な発言をしようとしたメアリ様をキース様が窘める。

 

「君はアラン様の婚約者だ。卒業後は王家の決まり事を学んだり、各役職に挨拶に行ったり、王子の妻となる準備に忙しいじゃないか。現実的にそんな時間はないよ」

「で、ですが……」

 

 と、ここで再びアリス様が口を開いて、

 

「ご安心くださいメアリ様。卒業後の進路が決まっておらず、()()()()()を余儀なくされる身分で、かつ、ソフィア先輩に所縁のある人間がここにおります」

「……と、いうと? アリス・スティアート様?」

 

 ラーナ様が初めて「嫌な流れになった」という顔をする。

 アリス様はしてやったりと笑みを浮かべて、言った。

 

「その新部署の主、私――アリス・スティアートが務めさせていただきます。確か、設立は来年すぐという話ではないのですよね? でしたら一年、卒業を待っていただいても問題はないでしょう?」

「確かに」

 

 頷くラーナ様。

 私の代わりに、アリス様が新部署に行く?

 

「あの、アリス様? よろしいのですか?」

 

 心配になって尋ねると、アリス様は微笑んで頷いてくれる。

 

「ええ。……魔法省への入省を婚期延長の言い訳にするケースは珍しくありません。私としても大義名分ができるのは嬉しいですし、どうせ仕事をするならソフィア先輩に近しい立場が好ましいのです」

「王族が揃いも揃って婚期延長か。嘆かわしいな」

「それは心苦しいのですが……スザンナ・ランドール様が覚悟を決めてくだされば、状況も変わるのでは?」

 

 ラーナ様はふっと笑ってアリス様の攻撃を流した。

 

「なら、ソフィア・アスカルトの司書入りは許可するとしよう」

「本当ですか!?」

 

 他の偉い方からも文句は出なかった。

 遂に、遂に、私は念願の司書就職を果たしたことになる。

 

「ありがとうございます、アリス様。このご恩は一生忘れません」

「大袈裟です、ソフィア先輩。どうしてもと仰るのでしたらまた今度、夜通し本のお話をいたしましょう」

「はい、喜んで!」

「アリス様。女性同士ですから強く反対はしませんが、ソフィアは僕の婚約者です」

「ええ、存じております。ですが、女性同士の楽しさというものもありますので」

「………」

 

 こうして、私達の卒業の時は日ごとに近づいていた。

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