本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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キース・クラエスを探して

 出発は一泊してからのつもりだったが、カタリナ様たっての希望でその日に発つことになった。

 

「誘拐かもしれないんでしょ? だったら、キースは今、寂しくて泣いているかもしれないわ! 早く見つけてあげなくっちゃ!」

「かしこまりました。では、今日にも学園に発ちましょう」

 

 とはいえ、両家の人間にも説明が要る。

 私は準備や説明の時間を利用して早馬を出し、『あの方』に手紙を送った。保険として部下の『あの方』にも。それから人を使い、キース様が連れ込まれた安宿や周辺の聞き込み調査も。

 こう見えて刑事ものや探偵ものの小説も結構読んでいるのだ。素人考えで思いつく程度にはなるが、やれるだけやっておきたい。

 

「話はわかりました。ですが、あなた達だけでキースの捜索など――」

「行かせてくださいお母様! キースは私が連れ戻さないと!」

「ご安心ください、ミリディアナ様。魔法省で責任ある立場の方に協力を求めます。私もご一緒して、無事に姉弟揃ってお帰しするとお約束します」

「ソフィアがそう言うなら……。ですが、約束して頂戴。カタリナとキースだけじゃなく、ソフィアも無事に帰ってくると」

「はい、もちろんですわ」

「あれえ……? ソフィアの方がお母様の娘っぽくない……?」

 

 そんなことはない。

 カタリナ様とミリディアナ様の会話は信頼関係がないと成り立たないし、二人の様子を見て「ああ、親子だ」と思わない人間はいないだろう。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

 聞き込み(少々コインなどを握らせた)の結果、キース様を攫った主犯は顔を隠した男性のようだった。

 彼の後ろで二人の男が大きなずだ袋を協力して抱え、更にその後ろに顔をフードで隠した女性がいたという。

 

 ――あからさまに怪しい。

 

 女性? 主犯の男の召使いか……逆に女の方が主人? キース様狙いの貴族という線もありそうだ。宿の人間もキース様の顔は見ていない。怨恨が動機なら既に殺されている可能性もあるが、血等々で汚れるような状況ならわざわざ宿で着替えさせるだろうか?

 眠らされていただけ?

 でも、だとしたら手紙の筆跡は? カタリナ様の筆跡はキース様が真似られるが、逆ができる人間がいるだろうか? 本人に書かせたのだとすれば、最悪、闇の魔法が絡んでいるかもしれない。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「待っていたぞ、ソフィア。キースが失踪したそうだな」

「ええ。手紙にも書いた通り、あれをお貸し願いたいのですが」

 

 幸い、目的の相手――ラーナ・スミスとはすぐに会うことができた。

 彼女は嬉しそうに笑みを浮かべると頷いて、

 

「構わない。だが、見返りに何をくれる?」

「あれの早期開発をお手伝いした分で足りませんか?」

「……相変わらず、切羽詰まると頭を働かせる娘だ。いいだろう」

 

 例の品は既に用意されていた。

 

「本来の依頼人からいったん返却してもらってきた。非常事態だからな」

 

 貸し一つとでも言いたげなのを微笑んで無視する。

 

「ね、ねえソフィア。()()がその魔法道具なの?」

「はい。この可愛いくまさんが例の魔法道具です」

「可愛い……?」

 

 一見、怪我をしたクマがモチーフのぬいぐるみ。

 その正体は、魔法を組み込まれた動く人物探知機。ラーナ様命名、アレクサンダー君だ。ちなみにアリス様は初めて見たとき「ボコ」と呟いていた。

 

「カタリナ嬢。キースと縁の深い品物は持ってきただろうな?」

「ええ、こちらに」

 

 キース様の秘密の小箱。

 カタリナ様との思い出が詰まった品の中から、小さい頃にカタリナ様があげたハンカチが選ばれ、アレクサンダーに覚え込まされる。

 アレクサンダーはハンカチを受け取った匂いを嗅ぐとオーケーのサインを出す。

 

「お久しぶりです、アレクサンダー。元気でしたか?」

(ああ。ソフィアも元気そうだな)

 

 私達は握手を交わした。ちなみにアレクサンダーの台詞は私の想像である。

 

「ああ、そうだ。ソフィア。こいつの貸与には条件がある」

「一緒に来られるのですよね? 構いません」

「話が早いな。だが、私だけじゃないぞ。マリア・キャンベルとアリス・スティアートも連れて行く」

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

 アリス様とマリアさんにはラーナ様から連絡が行っていた。

 

 二人を捕まえた後、生徒会メンバーと仕事の調整をする必要があったが、比較的スムーズに話が進んだと言っていいだろう。

 二人とも事情を聞くとすぐに同行を了承してくれた。

 

 マリアさんが同行するのは当然、闇の魔力への対策。

 アリス様は、相手がこの国の貴族だった時用の切り札。王族に逆らうのか、という殺し文句は開き直っちゃった悪役以外にはだいたい有効だ。

 

 他の生徒会メンバーには申し訳ないが、私達がいない間のフォローをお願いした。

 特にジオルド様は来たがったのだが、生徒会長が抜けるのは困る。そのために代わりの王族(アリス様)に来てもらうのだ。

 メアリ様も心配そうだったが、キース様を連れ戻してくるだけだから、と納得してもらった。

 

 なお、護衛として同行する方が一名。

 

「女性ばかりで華やかですね。一人くらいお付きが必要じゃないですか?」

 

 情状酌量の余地があると判断され、ラーナ様預かりとなった――カタリナ様誘拐事件の関係者、ソラだった。

 今後はラーナ様の指導のもと魔法省へ入省、仕事をすることになるらしい。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

 服は普段よりぐっと格を落とし、かつ動きやすいものに。

 荷物は最小限。

 私も泣く泣く本を持ち歩くのを諦めた。せめて一冊くらいと思ったのだが、ラーナ様から「それを持って長時間歩き続けられるか?」と聞かれて無理だと悟った。

 本より重いものを持ったことがないのが自慢の私だが、まさかそのせいで本を諦めないといけないとは。

 

「アリス王女。傍仕えなしでの旅になるが大丈夫か?」

「問題ありません。その程度で音を上げるほど柔ではありませんわ」

「ほう」

 

 一般家庭で主婦をやっていた経験があるのだ。

 一人での脱ぎ着がしづらい(あるいはできない)上位貴族の服を着ていなければ、大抵のことはこなせるだろう。

 

「困ったら私がアリス様のお世話をします」

「ありがとうございます、ソフィア先輩。では、宿は同室にいたしましょうね」

「私はカタリナ様のお世話をしますね」

「ありがとう、マリア」

 

 私達のやり取りを見ていたソラが肩を竦めて、

 

「意外と逞しいですね。セリーナ様みたいなのが標準かと思っていましたが」

「その認識で合っているさ。ここにいる貴族令嬢は規格外だ」

 

 ソラはラーナ様を見て「ああ、なるほど」と深く頷いた。

 

「納得しました」

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

 予想通り、誘拐犯(暫定)はとっくに別の街へ逃げていたらしい。

 馬車に乗って一つ目の街に着いても、アレクサンダーは遠方を示し続けていた。

 

 ひとまず分散して聞き込みをすることになり、私とカタリナ様とソラ、マリアさんとアリス様とラーナ様、という分担で散策を開始。

 ではさっそく、と、帽子の中に白い髪を詰め込んで気合いを入れると、ソラにちょんちょんと肩をつつかれた。

 

「なんですか?」

「そんなに気合い入れなくていいですよ。俺はこっそり、お二人のお守りを言い遣ってるんで」

「まあ」

 

 私達は迷子にならず、無事にラーナ様達と合流できればいい、という話らしい。

 子ども扱いされたみたいで少し不満だが――正当な扱いとも言える。来たことのない街。とりあえず書店巡りを! と、目的を忘れて暴走しない自信はない。

 そういうことなら、

 

「カタリナ様。聞き込みがてら、キース様捜索に役立つものがないか探しましょうか」

「そうね! そうしましょう!」

 

 途中、立ち寄った雑貨店でカタリナ様が見つけた謎のアイテムを、せっかくだからとプレゼントした。

 手鏡のような形をしているが鏡の付いていない謎のアイテム。カタリナ様が気に入ったようだし、この間のプレゼント交換の話にちょうど良かったが――あれはいったい何に使うんだろうか。




手鏡(仮)がカタリナを呼んでいる。

今更になって「2」編を読み進めているのですが――「国内に米あるの!? っていうか醤油も小豆もありそうじゃん!」ってなった私です。
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