本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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侵入と救出

「うむ、見張りは強敵だったな」

「わざとらしいです、ラーナ様……」

 

 私達は街はずれの屋敷に夜襲をかけることにした。

 夜だというのに屈強な見張りが付いていたが、ソラが別棟の作業小屋に火をつけボヤ騒ぎで注意を逸らし、ラーナ様が風の魔法であっという間に倒してしまった。

 倒した見張りには猿轡をして転がしておいて、鍵はソラに開けてもらう。

 

「では行くか。作戦は覚えているな?」

 

 もっともらしく言うラーナ様に、アリス様が苦笑して、

 

「出会った相手は全部吹き飛ばして気絶させる。別行動はとらずひと固まりで行動する――忘れようがありません」

「良し。特にカタリナは変なことをするなよ。はぐれたら探してる余裕はない」

「わ、わかってます!」

 

 作戦がアバウトすぎるせいで遠足みたいなノリである。

 ただ、闇の魔力を感知できるマリアとソラ(彼の方は以前に自分が使っていたせいだ)はかなり真剣な面持ち。それだけここは危険な場所。敵地であり、一歩間違えば死地なのだ。

 

「攻撃役は私と、アリス王女、それからソフィアだ」

「頑張ります」

 

 私は、こういう時のための秘密兵器を取り出して頷いた。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

「な、何者だ――」「えい」どかん「ぎゃっ!?」ばたん。

「し、侵入――」「ばん」どんっ「ぐわっ!?」ばたん。

「え、あなた達誰――」「ふっ」どむっ「きゃっ……」ばたん、きゅう。

 

 私達侵入者一行は快進撃を続けた。

 ファンタジー世界の冒険者が見たら「ふざけるな」と言ってきそうなやり方だが、プランはただ一つ。見敵必殺、有無を言わさず風で吹き飛ばして気絶させる、以上終了、である。

 何しろ、このパーティの属性は、

 

 ・風:私、アリス様、ラーナ様

 ・光:マリアさん

 ・闇:ソラ

 ・土:カタリナ様

 

 このように物凄く偏っている。カタリナ様の「土ボコ」は範囲が狭く使いどころが難しいし、光と闇の魔力は戦闘に向いていないため、必然的に風チームが担当になる。

 ちなみに私達が使っているのは、

 

「うむ。やはりこの魔法道具は使い勝手がいいな」

 

 細めの筒にトリガー付きの持ち手を取り付けた道具。

 言ってしまえば、銃の形を物凄く簡略化したようなそれは、使用者の魔力を吸って風の槌を作り出す魔法道具だ。護身用に思いついたものをアリス様、ラーナ様の協力で製作した。二人も欲しいと言ったのでまとめて三丁作り、それぞれが一丁ずつ持っている。

 出力は注ぐ魔力で調整でき、圧縮された空気をぶつけられた相手は悶絶したり気絶したり、時には吹き飛んだりする。

 魔力を注がないといけないので風の属性を持っていないと使えないが、一々集中する必要がないので、荒事が苦手な私でも攻撃できる。

 空気を圧縮する行程を物理的手段に頼ったことで魔力効率も良くなっており、私達くらい魔力があれば気にせずどんどん使える。

 

「あれ、私達って強いんじゃ……?」

「「気のせいです」」

 

 私とアリス様の声がハモった。

 逃げ場のない屋敷内の通路で使っているから強いだけで、逃げ場がある屋内や広間で使ってもそこまで効果はない。銃口を向けた先に風が飛ぶとわかるのだから、多少の心得のある人間ならさっさと避けるだろう。

 まあ、そうしたらラーナ様は銃を止めて自前の魔法で吹き飛ばすだろうが。

 

「なんだあの女は! 侵入者が来たからと俺を追い出して! せっかく楽しんでいた最中だったっていうのに!」

「早くお逃げください、危険です」

「はあ!? 侵入者ごときお前達が排除すればいいだろう!?」

 

 そうしているうちに、何やら偉そうにしている男を発見。

 護衛をさっさと吹き飛ばし、ソラが首にナイフを当てるとすぐに大人しくなったので、「キース・クラエスはどこだ」と尋ねると、あっさり場所を教えてくれた。

 

「ご苦労。もうお前に用はない」

「は、話が違――」

 

 ばたん。ラーナ様が風の魔法で気絶させた(※殺してません)。

 でもこれ、悪人の家に悪の組織が乗り込んできた、みたいな構図ではないだろうか。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 偉そうな人(仮)に教えられた通りに隠し部屋を開け、隠し部屋へ入る。

 牢屋のような場所には簡素な服を着せられたキース様と、黒髪の女性が一人いた。マリアさんがびくっとして口元を押さえる。あの女性が原因だろう。私には闇の魔力はわからないが、妙に存在感があって人目を惹く人物であるのはわかる。

 

「くすくす。もうここまで辿り着くなんて、凄いわ」

 

 楽しそうに――虫を潰して喜ぶ小さい子供のように笑う彼女。

 

「あ、あなた誰!? キースを離して!」

「そ、そうです、キース様を返してください!」

 

 カタリナ様と二人で言えば、彼女はなおもくすくすと笑って、

 

「駄目。せっかく魔法が間に合ったんですもの。この子は私の闇の使い魔にさせてもらうわ」

「闇の――使い魔!?」

 

 黒猫や蝙蝠の姿が脳裏に浮かぶ。猫だったら可愛いが――って、そういう問題ではない。闇の使い魔なんて字面からして碌なものではない。そんなものにキース様を変えられてたまるものか。

 

「そちらは一人。こちらは複数。いかに闇の魔力を持っていようと、荒事には対応できまい。観念して大人しく投降しろ」

 

 ラーナ様が恫喝する。

 

「くすくすくす。どうして、そんなことをしなくちゃいけないのかしら。あなた達には何もできないというのに」

「何を――くっ!?」

 

 辺りが一瞬、闇に包まれた。

 次の瞬間、私は首筋に冷たいものを感じた。細い女性の指。あの女性が私の瞳を覗きこんでいる。

 

「ソフィア!?」

「ソフィア先輩!?」

「っ」

「ソフィア・アスカルト。『アスカルト家の魔女』。計算外を引き起こす異端者は……あなたかしら?」

 

 怖い。

 覗き込まれている。瞳だけではなく、もっとずっと奥――私の心を、見られているような感覚。全身がぞわぞわして、自制が効かなくなる。抵抗しないといけないのに、身体が動かない。

 

「ソフィア先輩から離れてください!」

「……アリス・スティアート王女」

 

 女性はつまらなそうに、アリス様に視線さえ向けずに呟く。

 銃口――それが何かわからなくても、武器だということは察しがつくはず――を向けられているのに、だ。

 

「ソフィアに傷をつけたくないなら、何もしない方がいいんじゃないかしら? ね、ソフィア? あなたもそう思うでしょう?」

「あ……」

 

 心に、彼女の声が染みこんでくる。

 あれ? ええと、私は、何をしていたんだっけ? わからない。わからないけど、目の前の女性は良い人な気がする。

 そうだ。この人の言う通りにしていれば間違いない。

 

「ねえ、ソフィア? あなたの一番の望みは何?」

「本を、読むこと」

 

 当然だ。私はそのために生きていると言っても過言じゃない。

 

「止めろ、ソフィア! そいつの声を聞くな!」

 

 うるさい。

 ラーナ様。私が図書館に行くと高確率で邪魔をする人。

 

「そうよ。……ソフィア。あなたは本が読みたい。他のことは二の次。なのにあなたに期待して、あなたに仕事を押し付けて、あなたを煩わせる者がいる。いいえ、他人なんて煩わしいばかり。どうしたらいいと思う?」

「他人。煩わしい。なら……いらない?」

「そう」

 

 他人なんていらない。

 煩わしい人々なんて押しのけて、私と本さえあればいい。本があれば生きていける。

 

「さあ、ソフィア」

 

 優しくて親切な彼女が私の背後に回り、そっと両頬を包み込む。

 

「全部押しのけなさい」

「は、い」

 

 『渦の防壁』を展開する。

 周りにいた人達が悲鳴を上げるが――私には関係ない。閉じこもって、干渉を妨げて、一人になった方が面倒が少ない。

 私は、私の心は深く静かな闇に落ちていって。

 

 次に気づいた時には、カタリナ様やアリス様、それからキース様までもが私のことを心配そうに見つめていた。

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