本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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ダンスパーティ

 私が前世を思い出してから約七年。

 社交界デビュー、そして魔法学園への入学が近づいてきたある日、私はカタリナ様の十五歳の誕生パーティに招待された。

 ジオルド様とアラン様の二人の王子をはじめ、メアリ様やお兄様はもちろん、他にも多くの貴族が招かれた盛大なパーティ。

 王子様と婚約も決まっている公爵令嬢様のパーティなのだから、力が入るのも当然だ。

 

 アスカルト家でもパーティに先だって色んな準備が行われた。

 お祝いの品や当日着ていくためのドレス、身に着けるアクセサリーの決定や手配、招待客のリストを入手して予想される会話の予行演習まで。

 

「カタリナ様はどんなドレスを着られるのかしら?」

「主役と色が被るのは好ましくありません。念のため二着か三着用意するとしても、ある程度の見当はつけておきたいかと」

「そうね。……ソフィア、どう?」

 

 使用人や服飾職人の指揮を執っているお母様が私に尋ねる。

 

「そうですね……カタリナ様ご自身にそれとなく窺ったところ、『青いドレスじゃないか』と仰っていました。私もその可能性が高いと思っております」

「青ね。ちなみに、それはどうしてかしら?」

「ご本人の髪の色か目の色に合わせるのがセオリーだからです。そう考えた場合、カタリナ様の髪は少々落ち着いた色合いですので……」

 

 カタリナ様ご自身はお洒落にあまり興味がない。

 青いドレスじゃないか、と言ったのは普段の服も青色が多いからだ。そして普段着に青が多いのは使用人がセオリーを踏まえて選んでいるから。

 お母様がにっこり微笑んで頷いてくれる。

 

「素晴らしいわ。よくできたわね、ソフィア」

「とんでもありません」

 

 私は恥ずかしくなってそう答える。

 本人と親交があるのだからわかって当然だ。

 ……ちなみに、さっきのセオリーで行くと、メアリ様のドレスは暖色メインの可能性が高い。メアリ様の髪と目はどちらも赤系だからだ。

 ただ、あまり鮮やかな赤色だとカタリナ様と張り合うことになりかねない。ジオルド王子を立てる意味でも多少、淡い色合いを選ぶのではないだろうか。

 

 侯爵家のメアリ様は私よりも格上。

 私のドレスは更にもう少し地味なものが望ましい。

 

「ですので、私のドレスは落ち着いた色合いの寒色と白の組み合わせではいかがでしょう?」

「でしたら、深緑はいかがでしょう? ソフィア様の普段着にもよく用いておりますし、他の皆様も予測を立てやすいかと」

「私は良いと思います。お母様、いかがでしょう?」

「ソフィアが良いのなら構わないけれど……」

 

 お母様は頬に手を当てて、

 

「本当にいいの? あなたの場合、髪や目の色に合わせると……」

「大丈夫です、お母様。昔ほど言われなくなりましたし、それに、何を言われたところで気になりません」

 

 言いたい人には言わせておけばいい。

 私は私。

 大切なお友達もできた。他人といがみ合うより本を読む方が楽しい。司書になるという目標もある。

 

「お父様とお母様からいただいたこの髪と目は、私の自慢です」

「……ソフィア。本当に強くなったわね」

「お、お母様。服が皺になってしまいます……」

 

 お母様にぎゅっと抱きしめられてわたわたしたり、使用人達から微笑ましく見守られて恥ずかしくなったりした後、念のため予備のドレスのデザインも決めた。

 そして、当日は幸いにも予備のドレスの出番はなく、私は深緑に白のドレスでパーティに臨んだ。

 

「ごきげんよう、ソフィア」

「ごきげんよう、メアリ様」

 

 メアリ様と私はかなり早い時間からクラエス邸を訪れていた。

 控え室で合流した後、空いてしまった時間をお喋りにあてる。

 

「わざわざお手伝いに来ていただいて、ありがとうございます」

「いいのよ。……というか、何度も言うけれど、呼び捨てにしてくれていいのよ?」

「いえ。私、こちらの話し方の方が慣れているので……」

 

 むしろ、家格が下の子達に堂々と接する方が緊張してしまう。

 

「ソフィアらしいわね」

 

 メアリ様はくすりと笑った。

 

「らしいといえばカタリナ様もだけれど」

「パーティでアスカルト家の料理が食べたい、ですものね」

 

 私達が早くから会場入りしたのはそれが理由。

 じゃがバターなど、私が提案した料理の多くは素朴すぎてクラエス家では作ってもらえないらしい。そこで、あの味に飢えたカタリナ様から我が家にヘルプコールが来た。

 料理人を連れてくるために早く来た、というわけだ。

 

「メアリ様も材料をありがとうございます」

「何言ってるの。私達は運命共同体でしょう?」

「はいっ」

 

 メアリ様は街への料理店出店に協力してくれている。

 野菜にまで及ぶ植物の知識(カタリナ様のお手伝いのお陰だ)を活かし、珍しい野菜の栽培や新種の研究などを行ってくれている。

 採れた作物はハント家の出入り商人を通して料理店へ優先的に、かつ割安な価格で卸してもらえる。

 私としては必要な作物を楽に手に入れられるし、メアリ様の側も安定した販売先が確保できるので、どちらにもメリットがある。

 むしろ、作っているのが珍しい作物ばかりのため、私の料理店が買わないと大赤字になりかねない。料理店が繁盛して評判を呼べば作物の需要も高まる、まさに運命共同体だ。

 

「そうそう。ソフィアが欲しがっていたコメ? イネ? とかいう作物、それらしいものが見つかったと報告を受けたわ」

「本当ですか!?」

 

 メイド達からは「パーティの日に商談をしなくても」と呆れられてしまったが、パーティ中に話しているわけではないので大丈夫だと思いたい。

 時間が余るようなら本を読もうと用意もしていたのだが、メアリ様と楽しくお話しているうちに時間がやってきた。

 

(カタリナ様はおめかしに時間がかかっているようで事前に会うことができなかった)

 

「「お誕生日おめでとうございます、カタリナ様」」

「メアリ、ソフィア! ありがとう! 二人共相変わらず綺麗ね」

「そんな、カタリナ様には敵いませんわ」

「ええ、本当に。いつ見てもお美しいです」

 

 カタリナ様はスタイル抜群の美女に成長した。

 胸の大きさではメアリ様が上だが、メアリ様は規格外なので仕方ない。むしろ、すらっとした身体ときりっとした顔立ちが女性らしい起伏と上手くバランスを取っていて見事と言うより他にない。

 それでいて、ややきつい顔立ちに浮かぶ表情は明るく柔らかいのだから、もしジオルド様と破局でもしたら大勢の男性が詰めかけるだろう。

 

 まあ、ジオルド様がカタリナ様を諦めるとは思えないし、現時点でも十分に多くの男性がカタリナ様を狙っているのだが。

 

「メアリ。ソフィア。二人共とても素敵なドレスですね」

 

 件のジオルド様はカタリナ様を心から愛しているようで、会う度に愛情の籠もった笑顔を浮かべ、カタリナ様に付き添っている。

 

「よう、メアリ。やっぱりソフィアと一緒にいたのか」

 

 アラン様は、メアリ様曰く「私よりカタリナ様に夢中なくせに無自覚」とのことで、その評価の通り、カタリナ様と話しているととても楽しそうだ。メアリ様と仲が悪いではないのだが。

 

「こんばんは、お二人共。今日は姉さんのためにありがとうございます」

 

 キース様はお兄様とはタイプの違う美青年に成長。女性からの人気も高いようだが、カタリナ様へ密かに懸想しているらしく、浮いた話は全くない。

 

「ソフィア。……メアリ様、妹をエスコートしてくださってありがとうございます」

 

 お兄様も相変わらずカタリナ様に想いを寄せている。

 しばらく前、それとなく確認してみたところ、ジオルド様から奪う気はない。ただ、黙って想う分にはいいだろう、ということだった。

 このように、カタリナ様は少なくとも四人の男性に愛されている。

 

 同性であるメアリ様も。

 私の隣に立って笑顔を浮かべているメアリ様が、内心でどう思っているかはわからない。

 私は彼女の、そしてみんなの想いをできる限り応援してあげたいと思っている。

 

 そうして、パーティはつつがなく進行した。

 主役であるカタリナ様はジオルド様を筆頭に、数々の男性からダンスを申し込まれて大忙しだった。でも、合間にじゃがバターや他の料理を食べてくれたようでにこにこと笑顔を見せてくれた。

 

 私もお兄様、それからキース様に踊ってもらった。

 二人にお相手してもらえれば格好がつくかな、と思っていたら、覚えのない同年代の男性からもダンスを申し込まれた。

 踊っている最中に囁かれたのは、物語を書く方に興味があるという話。今度読んでもらえないかと言うので、売り込みならいつでも大歓迎です、と答えておいた。

 

 かしこまった場なので女性同士で踊れないのが残念だったが、メアリ様がこっそりお相手をしてくれた。

 こんなこともあろうかと男性パートも練習してきた、とのことだったが、本当は何のためなのかは考えるまでもない。

 一緒に踊りながらメアリ様の動きを一生懸命覚えて、カタリナ様とも踊ってもらった。

 とても楽しいひととき。

 

 でも、学園に通うようになれば、みんなといられる時間がもっと増える。

 何より心おきなく図書館へ通える。

 早く学園に行きたい。

 私の想いは日増しに強くなっていった。

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