本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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「な、なんだってー!?」的な捏造ifネタです。
壮大に何も始まらない話。
本好き設定とのクロスネタなので、あちらを未読の方には何を言ってるかわからないと思います。
続きませんし本編との関連もありません。


if番外編:世界の真実?

ユルゲンシュミット

 

 アリス様の声が、付属図書館の開かずの書庫内に響いた。

 

「それが、ソルシエ王国ができる前――この地に存在した国の名前です」

 

 ソフィアとしての人生はもちろん、本須麗乃(ぜんせ)も人生を含めて一度も聞いたことのない名前。

 それなのに本能的に、「とても重要だ」とわかってしまう不思議な名前に、私はごくりと唾を飲み込んだ。これはきっと、世界の真実に繋がっている。

 アリス様もまた、どこか興奮を隠せないように頬を紅潮させていた。

 わざわざこんな、一部の人しか存在を知らない、どうやっても盗聴のしようのないような場所に連れてきたことがその証拠だ。

 

「王族専用の書架をあたり、歴史研究家を何人も尋ねてようやくたどり着きました。思いの他、たくさんの時間がかかってしまったと思います」

 

 じっと、彼女の瞳が私を射貫いて、

 

「そう、あの日――私の前でソフィア先輩が()()()()()()()使()()()()()

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 今から二年近く前――学園を卒業して一年も経たない頃のことになる。

 

「ソフィア先輩? こんなところで人払いをして、何をするのですか?」

「アリス様。どうか驚かないで見ていてくださいね」

 

 学園内にある小さな地下室にて。

 私は一切の人払いをし、出入り口の扉を硬く閉ざした状態で、アリス様たった一人に「それ」を披露した。魔力を集中させた手のひらから小さな「炎の球」を作り出して放ち、壁に叩きつけて消滅させる、というデモンストレーションを。

 振り返ると、アリス様は絶句していた。

 震え、青ざめ、そしてそれ以上の知的探求心に目を輝かせていた。

 

「ソフィア先輩。それは、魔法道具を使ったんですか?」

()()()

 

 身体検査なら好きなだけと言うと本気で全裸にされかけたが、お陰でアリス様はわかってくれた。

 

「風の属性のソフィア先輩が()()()()()使()()()

「研究の成果です」

 

 ちなみに土ボコもできる。

 えっへんと胸を張って言うと、アリス様は「世紀の大発見です!」と声を荒げた。

 

「これ、誰にも言ってませんよね?」

「はい。アリス様にならと思ってお話しました」

「……ああ」

 

 深いため息と共に頷くアリス様。

 

「不幸中の幸いというか……。ソフィア先輩。経緯を説明していただくのはもちろんですが、絶対に、絶対に、このことは誰にも言わないでください。これはフリじゃありませんから!」

「え、ええ。もちろんです。でも、そこまで言うほどですか……?」

「ソフィア先輩を王に、という世論が持ち上がってもおかしくありません」

「今すぐ研究成果を忘れたくなってきました」

 

 もちろん、そんなことはできるはずもなかった。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

 発端は、素朴な疑問からだった。

 

「アレクサンダー君って何の属性の魔法で動いているんです?」

 

 人の記憶を辿ってその人物の居場所を突きとめることができる、動くぬいぐるみ――アレクサンダー君。

 固形物を動かすのは基本的に「土」の管轄なのだが――ここで疑問。サブというか、なくてもいい機能である「動く」方ではなく、メインの機能は?

 人の記憶を辿る?

 心を扱う魔法は、四大属性のどれにも当てはまらない。マリアさんの持つ光でもない。認識操作や洗脳が可能な「闇」の範疇だ。

 

 え、わざわざ闇の魔法を使って作ったの?

 

 私が作ったカタリナ様発見器やキース様発見器は関連付けした二つの鉱物の共鳴を利用したもの――つまり「土」の範疇なのだが、アレクサンダー君はそれでは説明がつかない。

 ラーナ様に尋ねると、拍子抜けするような答え。

 

「闇の属性など付与していない。素材の組み合わせによって、魔法を込めるのでは行えない機能を持たせられるだけだ」

「そうだったんですか……」

 

 ここで、私は新たな疑問を覚えた。

 それはつまり()()()()()()()()()()()()()()ということでは?

 私は魔法道具について更に詳しく勉強した。その結果わかったのは、ラーナ様が言ったことの詳細。素材によっては複数の属性に跨るような効果も得られるし、疑似的に光や闇の魔法を再現できる場合がある、ということ。

 

 なにそれ?

 

 誰も疑問に思わなかったのか、と、逆に疑問に思った。

 ゲームっぽいと常々思っていたが、この世界の魔法はどこかおかしい。まるで、そうなるように誰かが規定したみたいだ。

 私はラーナ様に疑問を伝えず、独自に研究を始めた。

 素材の中には闇の属性を持つものどころか、複数の属性を持つものもあった。おかしい。属性とは一つではないのか。物質が複数属性を所持しているのに、生物が一つの属性しか持てない、などということがありえるだろうか。

 

 そもそも、あらゆる魔法が六大属性にきっちり分けられる、なんていうことがありえるか?

 普通に考えたら二属性の複合魔法などが出てくるはず。というか、闇の魔法には使い魔を作る魔法もあるのだが、生命を操るのは光の領分ではないのか。光と闇が別の属性、ということさえ怪しくはないか。

 

 結論が、私の行使した「他属性の魔法」。

 

 人間にも複数の属性がある。一人一属性と思われているのは、メインの属性が極端な形で決まっているから。可能だと信じて相当な試行錯誤を繰り返さない限りはメイン属性が引き出されてしまってうまくいかないから。

 ちなみに私は水の魔法も使えた。

 ただし、光と闇の魔法は使えなかった。あの二つは特殊なのだろう。推測では闇が希少な属性。そして光が「闇を含むあらゆる属性を持っている」者。

 

 もちろん、何の根拠もなかったのだが。

 

 私のデモンストレーションを受けたアリス様が二年近くかけて調べ上げ、結論を出した。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「ユルゲンシュミットは数百年前――下手をすれば千年以上前に滅んだ王国です。その当時は今とは異なる形で魔法が存在していたようです」

「じゃあ、どうして魔法が今の形に?」

「国が亡ぶと同時にシステムが崩壊したからです」

 

 当時は七つの属性が存在した。

 神に祈ることによって魔力を増やし、追加の属性を得て、魔法を行使することが可能だったのだが、知識の失伝等の理由によって国を維持する基盤が崩壊、ユルゲンシュミットは滅亡し、魔力供給、あるいは信仰を失った神々は滅びた。

 国が滅びて荒廃した地からは人が減っていき、少数の人間だけが残った頃――外国(ランツェナーヴェだとかいう名前があったらしい)が流入してきて、少しずつ復興させていった。大陸には複数の国が乱立し、そのうちの一つがソルシエ王国。

 滅んだユルゲンシュミットの中心部にあたるため、今でも魔力持ちが多いらしい。

 

「じゃあ、今の魔法のシステムは」

「神が失われたことによって変化したもの――あるいは賢者や、私達よりも前に転生してきた者が形にしたもの、なのでしょうね」

 

 神がいなくても機能するように。

 ただ、システムが変わったからといって、人々の保有する魔力や属性までが変わったわけじゃない。私がやったように、やろうと思えば他の属性の魔法も使える。

 実際、アリス様も四大属性を振るえるようになったらしい。

 おそらく、私達転生者以外が真似してもなかなか上手く行かないだろう――前例がない状態なら生涯を賭しても不可能かもしれないが。

 

「当時のユルゲンシュミットには、選ばれた者だけが閲覧できる特殊な書物が存在し、読んだ者に知識を授けたようです」

「読んでみたい――じゃなくて、それって」

「ええ。カタリナ様やマリアが発見した、闇や光の書の原型。完全版にあたるものだったのではないでしょうか」

「それを手に入れる方法は……?」

「ソフィア先輩。読んでみたいというだけで手を伸ばすものではないと思いますが――伝承が遺失してしまっていますし、一度崩壊した国の話ですからね。可能性があるとしても、遺跡を掘り返さないといけないのではないかと」

 

 なるほど。

 じゃあ、もっと印刷業を発展させてお金を貯めないと。土木工事には巨額の費用がかかるし……って、アリス様が物凄いジト目で私を見ていた。

 

「ソフィア先輩はもうちょっとこう、何かないんですか!?」

「ええ……? そう言われても、何もありませんよ。それはまあ、昔は冷蔵庫とか普通にあったのかも、と思うと羨ましくはありますけれど」

「ああ、もう……。今まで誰にも辿り着けなかった真実に、ソフィア先輩が辿り着けた理由が分かった気がします」

「あ、私が馬鹿だって思ってますね?」

「ソフィア先輩は天才だっていうことです」

 

 私とアリス様はひとしきりじゃれ合った後、開かずの書庫を後にした。

 

 なお、数年後、私達は「儀式を用いず闇の魔法を行使する方法」更には「光の魔力の行使」にまで至るのだが、特にそれを公開することはなかった。

 というか、どっちも普通に使ったら効果が低すぎてどうしようもなかったのだ。せいぜいお互いが指を怪我した時、癒し合う程度。

 

 ただまあ、全く何もしないのもなんとなくもったいなかったので、アリス様が前に書いていた「転生した本須麗乃を主人公にした物語」にユルゲンシュミットの設定を加え、共同で書き上げたものを開かずの書庫にこっそり置いておいた。

 あの書庫はエッチな本を隠すための場所なので、まあ見つかっても捨てられて終わるだろうけど、私達の悪戯を将来、誰かが見つけてくれたらいいな、と、そんなことを思ったりしなくもなかった。

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