「ええっ!? ソフィアが男の子になっちゃったの!?」
「はい……。図書室で見たことのない古書を見つけたので読んでみたら、性転換の魔法の本だったようで……」
「なるほど。見たところ容姿はそんなに変わっていませんが……少し背が伸びましたか? それから多少血色が良くなったような」
「お前ら、文字数が少ないからって説明台詞を連発しすぎじゃないか?」
アラン様のメタ的なツッコミは無視するとして。
「ううう、どうしましょう……?」
親しいメンバー以外は人払いした生徒会室にて、みんなを涙目で見上げる。
しかし、全員「どうするって言っても」というような顔。
そんな中、キース様が首を捻って、
「うーん。もう一度本を読むわけにはいかないんだろう?」
「読んだ箇所は文字が消えてしまって、読みきったら本自体が崩れてしまいました」
「読みきらなくても良かったんじゃないかな?」
「あ!」
その発想はなかった。
ただ、性転換していることに気づいたのが読み終わった後だったので、一度読み始めた本を途中で放り出す、という発想もなかったのだ。
「やっぱり一生このままなのでしょうか……」
息を吐いて自分の姿を見下ろす。
ジオルド様が評した通り、見た目はそんなに変わっていない。着替える暇がなかったのでドレス姿のままなのもあるが、それを差し引いても大差ない。まあその、もともと胸なんてないようなものだったし、虚弱なのは体質と運動不足のせいだったからだ。
むしろ、男子になったことで多少体力がついたのか身体は楽になったくらいだ。
体型、特に下半身の違いについては違和感が凄いが。
「ソフィアが……ソフィアが男の子に……!?」
ちなみに、一番ショックを受けているのはメアリ様。
この世の終わりのような顔でぶつぶつと呟いている。
「お、落ち着いてくださいメアリ様。本を読むのに支障はありませんし、そこまで大ごとじゃありません」
「大ごとに決まってますわ! いいですのソフィア、貴女、これからは私達と夜に遊んだりできなくなるんですのよ!?」
「そ、それは困ります!」
あと、寮も男子側に移らなくてはいけないだろう。
キース様やジオルド様がいるので寂しくはないだろうが、本を移動するのが大変だ。本棚は備品なのでまるごと、というわけにはいかないし、いったん抜きだして運び、収め直すのはちょっとした引っ越し作業である。男手がないと辛い。
今は私も男手なのだが、この私に力仕事を期待しないで欲しい。
「ああ……。いざとなったらソフィアと二人、遠い異国で暮らす私の人生セカンドプランが……」
「おいちょっと待て初耳だぞ」
「というかメアリ様。ソフィア先輩が男性になったのであれば、異国に移る必要がないのでは?」
「「は?」」
私とメアリ様の声が重なる。
逆転の発想を披露したアリス様はとろけるような美しい笑顔を浮かべて、私の手を取った。
「というわけでソフィア先輩。私と結婚してください」
「そ、その手が……って、ちょっと待ってくださいませ! 私の許可なく結婚なんて許せませんわ!」
「おいメアリ。お前一応俺の婚約者だろうが」
アラン様のツッコミはまたしても無視された。
◇ ◇ ◇
驚くことにアリス様は本気だった。
王女の地位を利用して腕の良い医者を何人も呼び寄せ、私の身体に異常がないこと――つまり、元に戻る見込みが薄いことを確認すると、正式に婚約の申し込みをしてきた。
怒涛の展開に、私が男になったショックを受け損ねたアスカルト家の一同は「王族に婿入りなんて」と大喜びした。
「あ、あの。アリス様はいいんですか? 私と結婚なんて。普通、こんな状態、気味悪がって遠ざけるものだと思うのですが」
「元に戻る見込みがないのでしょう? であれば男性になったも同然ですし、ソフィア先輩はソフィア先輩です。……私、今更男性と結婚なんて、と思っておりましたが、先輩と結婚できるなら話は別です」
「でもその、男性的な甲斐性を期待されても困るのですが」
「汗臭い男性は好みではありません。それに、ソフィア先輩? 今の身体なら妊娠するのは私ですから、体調が崩れる心配もありませんよ?」
そんな利点が!?
「わかりました。結婚しましょう、アリス様」
「ソフィア先輩ならそう言ってくださると思いました」
司書の内定は既に出ているし、お婿に行く形になるから自由が利く。男性が働くことに異論は出にくいし、出版印刷業やレストラン経営をしながら司書をすればいい。
あれ、良いことの方が多い気がしてきた。
「男性の身体には生理もありません」
「なんと」
「服装もスーツさえ着ておけばそれほどうるさく言われません」
「天国ですか?」
「知識が豊富で魔法の才に優れているのは、男性であれば掛け値なく称賛されます」
「嬉しいは嬉しいですけど、割とどうでもいいのですが――」
「ソフィア先輩を狙った女性からの求婚が殺到しますよ?」
「アリス様は私の女神です」
つい女同士のノリで抱きつくと、アリス様も満更でもなさそうに抱きしめ返してくれる。
なるほど、こうなるのが私の運命だったのかもしれない。
「待ってくださいませ!」
「メアリ様?」
「ちっ」
なんかアリス様が舌打ちした気がする。
「何の用でしょうメアリ様? アラン様の婚約者のメアリ様?」
「ソフィアの相手には、ビジネスパートナーであるメアリ・ハントが相応しいのです。アラン様とは別れますのでご心配なく」
「あら、メアリ様。時代はもうレストランから印刷に移っているのですよ? ソフィア先輩の真のパートナーはこのアリス・スティアートです」
「くっ……。で、ですが、女としての器量では私の方が勝っています。男性になったばかりのソフィアには包容力が必要ですわ」
「ふふふ。アラン様と閨の経験もない生娘が何を仰っているのか。先輩、私が手取り足取り教えて差し上げます」
「馬脚を現しましたわね女狐! ソフィア、この女は経験豊富な魔女よ。貴女には相応しくありませんわ」
なんだか凄い騒ぎになってしまった。
私としてはアリス様との結婚で異論はなかったのだが……。でも、メアリ様との生活も楽しそうだ。一緒に本を読んだり、料理のレシピを考えたり、私の背格好ならドレス交換も普通にできるだろう。
と。
「ねえねえ、ソフィア。結婚なら私としましょうよ」
「「カタリナ(様)!?」」
「他に相手ができたならジオルド様も諦めてくれるわ。ね、ね? 司書のお仕事して構わないから。形だけ結婚して、二人でのんびり暮らしましょうよ?」
「いいですね、それ」
「「ソフィア(先輩)!?」
大騒ぎになった。
というかこれ、ひょっとして私はモテているのだろうか。
前世では幼馴染のしゅーちゃんと恋人同士に間違われたりした。そのせいで他の女性からやっかまれたりもしたのだが、あの時のしゅーちゃん以上にモテている。
これではまるでハーレム主人公ではないか。仲良しだったメアリ様とアリス様が喧嘩をするなんて、恋のさや当てとは恐ろしい。やっぱり恋なんてするものじゃない。
そこへ、何やら古い本を抱えたマリアさんが通りかかって、
「ふふふ……っ。見つけました、ソフィア様が読んだのと同じ本。これで私自身かカタリナ様を性転換させれば……!」
あれ、マリアさんまで良くない感情に取り憑かれている?
「ま、待ってくださいマリア。ライバルが増え――もとい、王族として危険物の使用を認めるわけにはいきません。それはキースにでも読ませてライバルを消す方が」
「ジオルド様? 物凄く邪な計画が聞こえたのですが、さすがの僕でも怒りますよ?」
「いや、ってゆーかもう一冊あったならソフィアに読ませればいいじゃねーか」
「「それだ!?」」
性転換の本をもう一度読んだ私は、無事に元のソフィア・アスカルトに戻った。
めでたしめでたし?
フリーのアリスが強すぎて、アランの婚約者というメアリが不利すぎる不具合。