本好きの伯爵令嬢は司書志望   作:緑茶わいん

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伯爵令嬢と実力テスト

 魔法の実技では実際に魔力を使った授業が行われる。

 授業初日から属性ごとに分かれるそうで、残念ながらカタリナ様達とは別クラスだった。カタリナ様とキース様、メアリ様とアラン様はそれぞれ属性が同じなので一緒のクラスになっている。

 

 友達と一緒じゃないのは正直不安だ。

 

「でも、頑張らなくては」

 

 小さく自分に言い聞かせる。

 ジオルド様から言われたこともある、

 カタリナ様を悪意から守る。言うのは簡単だけど、私ではジオルド様達のように直接守ることは難しい。なのでせめて、私自身がお荷物にならないよう頑張らなければ。

 

 実技で使われる訓練室に入ると、悪目立ちしない隅の方で授業開始を待った。

 

「では、授業を始める」

 

 最初は個人ごとの実力を確認する、と先生は言った。

 生徒のほぼ全員が貴族のこの学園では、入学前から基礎を学んでいるのが当たり前。同じ一年生であっても進度が全然違うことがあるからだ。

 先生の指示で一人ずつ前に出て、自分にできる最高の魔法を披露するように言われる。

 

 私のクラスは風の属性。

 

 なので、基本は風を起こしたり、ある程度の方向性を持たせてつぶてや刃として打ち出したり、軽い物を浮かせたりといった感じになる。

 他の生徒の魔法も威力はまちまちだが、概ねそういうものだった。

 

「次、ソフィア・アスカルト」

「はい」

 

 中盤で指名された私は人込みからおずおずと進み出る。

 大勢から見られているのを感じながら目を閉じて集中。身体の中から引きだした魔力を、イメージに従って形にしていく。

 そして、解放。

 

「―――!」

 

 どよめきがかすかに伝わってきた。

 私と他の人達との間に生まれた渦巻く空気が音の殆どを遮断しているので、実際は結構大きな声だったのだろう。

 と、先生が教科書を手に私に近づいてきた。

 手を持ち上げて首を傾げる仕草。投げてもいいか、という意味だろう。こくんと頷く。

 軽く放り投げられた教科書が私に近づいて――何かに弾かれたように地面へ落ちた。

 

 もう、いいだろう。

 魔法を止めて、ふう、と息を吐く。

 

「アスカルト君。その魔法は誰に教わったのかな?」

「自分で考えたものを、兄のニコルや家庭教師の先生と改良しました。私は、攻撃的な魔法が向いていなかったので……」

 

 魔法の使い道として最もメジャーなのは戦闘用、もしくは自衛用。

 私は他人に向けて魔法を放つのがどうしても怖かったので、防御特化の魔法を覚えることにした。

 さっきのは私の周りに空気の渦――言ってしまえば小さな台風を作る魔法だ。私のいる場所は台風の目になっているので静かなものだが、台風部分に触れたものは弾き返される。

 難点は風を維持しないといけないので魔力の消耗が激しく、精神的にも疲れること。殺す気で斬りかかられたりしたら防ぎきれないこと。

 

「地味な魔法ですみません……」

 

 謝ると、先生は短く「いや」と答えて私を下がらせた。

 

「風の魔法には攻撃用以外のものが多くある。そういったものを学んで行けばよかろう」

 

 同時に、ひそひそと聞こえてくる声。

 

「アスカルト家の」

「魔女」

 

 以来、何故かそのあだ名が余計に定着した。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

『一位:ソフィア・アスカルト』

 

 掲示されたテスト結果を、私はぽかんと見つめた。

 入学後しばらくして行われた実力テスト。学問の部と魔法の部に分かれており、凄いところに名前があったのは学問の部だ。

 魔法の部は十位。総合では四位。なので、凄いのはむしろバランス良く好成績を上げたジオルド様(総合一位)やアラン様(総合二位)なのだが。

 

「驚きました。想像以上の結果ですよ、ソフィア」

「ジ、ジオルド様……」

 

 背後からかけられた声に一瞬、びくっとした。

 柔らかな微笑みを浮かべる金髪の好青年――第三王子のジオルド様。

 

「おめでとうございます。僕もまだまだ頑張らないといけませんね」

「そんなこと……。私は座学だけですから」

「それでも、学年トップは十分な偉業でしょう?」

「あ、ありがとうございます」

 

 おずおずと答えつつ、私はなんとなく緊張してしまう。

 ジオルド様はとてもお優しい方だ。

 私達のような目下の者とも親しくしてくれるし、偉ぶったところもない。紳士と呼ぶに相応しい男性。ただ、どこか素朴な愛らしさのあるカタリナ様と違い、ジオルド様には隙がない。

 強硬な態度を取らずに水面下で動いてカタリナ様を「守って」いるのだろうとなんとなくわかって、私は頭が上がらない。

 ジオルド様はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、微笑んだままで、

 

「これでソフィアも生徒会入りは確定ですね」

「確か、テストの上位者が選ばれるのでしたか?」

「ええ。基本的には上位から七人。私とあなた、アランと――マリア・キャンベルは確定でしょうね」

 

 マリア・キャンベル。

 学問の部でジオルド様に次ぐ三位に入っていた名前だ。

 総合でも三位。

 テストの上位にある名前は他にメアリ様とキース様と知り合いばかりなので、ぽつんと一つある知らない名前は気になっていた。

 

(ちなみにカタリナ様はちょうど中間の八十位。あの方の魅力はテストでは測れないので、不思議とは思わない。むしろ意図して平均を取られたのではないかとも思う)

 

「そのキャンベル様というのはどのような方なのでしょう?」

 

 私が首を傾げて尋ねると、ジオルド様は可笑しそうに笑った。

 

「ああ、ソフィアは知らないのですね。マリア・キャンベルは平民ですよ。光の魔力を持った、ね」

「光の魔力を持った平民……」

 

 どうやら学園では有名人らしい。

 十年ぶりに出現した平民の入学者。現在数人しかいない「光の魔力」を持っている少女。興味を持っていないのは私くらいだろうとジオルド様は言った。

 

「カタリナと違って頭は回るはずですが」

「私、用事がある時以外は図書館で読書をしていますので……」

 

 入寮の日にさっそく向かったら「入学式までは使えません」と言われてしまい、入学式後に出直したのはいい思い出だ。

 以来、夕食に遅刻しないようにメイドが知らせてくれるまで読書をして、最後まで読み切れなかった時は貸し出しをしてもらうのが私の日常である。

 我が家のメイドはすっかりみんな慣れて、時間が来ると容赦なく本を取り上げてくる。

 借りた本は読み終わって次に暇な日、だいたい翌日か翌々日(カタリナ様達と遊ぶ日もあるので)に返して、ついでに本を読んでいって――その繰り返しだ。

 

 というか、カタリナ様が馬鹿なはずがない。

 私達が困っていると的確なアドバイスをくれるあの方は、頭の回転自体はとても速いはずだ。

 

「……本当に、カタリナの傍にいると退屈しませんね。ともかく、約束通りの『協力』に感謝します。生徒会、一緒に頑張りましょうね」

「は、はい。頑張ります」

 

 しまった、生徒会に入ったら本を読める時間が減ってしまう。

 テストを頑張りすぎただろうか。

 でも、良い成績を取っておいた方が司書になるために有利だ。生徒会役員をやっていると進学や就職になるという話もよく聞くし、諦めるしかない。

 

 せめて、少しでも読書時間が増えるように生徒会の仕事をてきぱきとこなさなければ。

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 

「ジオルド・スティアートです」

「アラン・スティアートだ」

「メアリ・ハントですわ」

 

 生徒会メンバーが決定し、私もジオルド様の予想通りその一員になった。

 

 ジオルド様、アラン様、メアリ様、キース様、それに私。

 二年生メンバーとしてお兄様も参加しているので、私の幼少期からの知り合いの方はほぼ全員が生徒会メンバーということになる。

 私としてはほっとする反面、カタリナ様だけが一緒でないのが寂しく思えた。

 

「マリア・キャンベルです」

 

 マリア様はふわっとした金髪を持つ、可愛らしい方だった。

 

「よろしくお願いいたします、キャンベル様」

「………」

 

 二年生メンバーは生徒会長とお兄様の二人だけなので、生徒会メンバーは友人以外の方が少ないくらいだ。

 せっかく一緒になったのだからと挨拶をして回ると、最後に話しかけたキャンベル様は私を見て驚いたような顔をした。

 

「どうかされましたか?」

「あっ、大変失礼いたしました。ですが、その、アスカルト様。私は平民ですので、そのようなお言葉をかけていただく必要は……」

「あ、そうですね……そういえばそうでした」

 

 うっかりしていたと私は頷いた。

 

「すみません。普段、目下の方と話す機会があまりないものですから。こちらの方が話しやすいので、許していただけると……」

「そんな、許すなんて。どうかご自由になさってください」

 

 しゅんとして謝ると、逆に恐縮させてしまった。

 

「で、では、マリアさんと呼ばせてください」

「あ、はい。アスカルト様」

「アスカルトですと、お兄様――兄のニコルと紛らわしいでしょう? どうかソフィアと呼んでくださいませ」

「……かしこまりました、ソフィア様」

 

 マリアさんは戸惑ったような表情を浮かべつつも、私のお願いを受け入れてくれた。

 

「ソフィア様は不思議な方ですね」

「そう見えますか?」

 

 会ったばかりの方にも「抜けている」とか「変わっている」という風に見えてしまうとは。

 

「ええ。貴族の方とは思えないくらいお優しいですし――絹のような髪も、とてもお美しいと思います」

「あ……ありがとうございます」

 

 それは、単なる社交辞令だったのかもしれない。

 けれど、カタリナ様と同じように褒められた私は嬉しくなって、マリアさんともっと仲良くなりたい、とあらためて思った。




主人公を口説く主人公。
口説かれた主人公は別の主人公に口説かれて落ちる模様。
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