アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 番外編   作:朕好こう

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 これは幸せを理解しないまま、演技を続けて身も心も壊れてしまった少女のくだらないお話。


■■■■(ずきれんか)の犬も食わない話

 苦痛を紛らわすために、やっちゃいけないものに手を出した。やっている時は凄く気持ちよくて、苦痛を忘れられる。だけど、ソレの効果が切れると心がぐちゃぐちゃになる。嫌な事も楽しかった事も全部思い出してしまう。

 

 目を背ける為に、好きでもない人達と遊んだ。顔はそこそこ良かったからお金は簡単に手に入ったし、ちょっとは気持ちよかったかな。皆、私が演じれば喜んでお金をくれた。皆、私の事を褒めてくれた。……従順な犬であれば。

 

 気がつけば、王賀美陸の映画を見るのを止めていた。演技の本を全て捨てていた。家を出ていってから家族とは何年も連絡を取ってない。ハイスクールもそもそも行かなかった。やることは男と遊ぶか、お薬を貰いに行くか、卑しく乞食をするか。

 

 毎日遊ぶことで、汚くなっていく自分を考えられないようにした。私は何処で間違えたのだろう。彼の演技に魅入られた時か、彼のような役者になりたいと望んだ時か、中学生の時に演技に熱中するあまり親類の葬式に行かなかった時か、やっちゃいけないものに手を出した時か。

 

 分からない、けどもう取り返しのつかないことくらいは分かる。

 

 街灯とネオンが目を貫く、明るい夜の街を歩く。今日は何をする気にもなれない。久し振りにあそこに行こう。

 

 私が来たのは、誰にも邪魔されずに月が見える立ち入り禁止の屋上。本来は鍵が閉まってるけど、管理人さんにおねだりして合鍵を貰っている。柵がボロボロだから気をつけろという声を聞き流して屋上の階段を昇る。

 

「綺麗だなぁ…今日は満月だ」

 

 ここの屋上はネオンや街灯より高いから、他の光が邪魔しない。星と月と真っ暗な夜空だけが目に映る。心が落ち着くのはここだけだ。私を私のままで居させてくれるのはこの空間だけ。

 

「…あれ、見ようかな」

 

 スマホを開いて最近のお気に入りの動画を見る。今大人気の『新宿ガール』、夜凪景の動画を。夜の空みたいな綺麗な黒髪に、満月みたいな大きな目。そして星のように人を惹きつける演技。これを撮ってる人の技術も高いけど、何より彼女自身が素敵だからこそ、色んな人達の反響を呼んだ。

 

 ずっと見ていると何故か涙が出てくる。

 

「おかしいなぁ、なんでだろ」

 

 無理に止めようとすると涙が止まらないんだ。私も彼女みたいに輝きたかった。でも才能が無かった。人の才能を測る力だけはあったから。あってしまったから、私の才能の限界を理解してしまった。才能が無いのに、王賀美陸になろうとして足掻いて苦痛になって止めてしまった。

 

「虚しいんだ、私。君みたいに成りたくて。でも成れないって分かってしまう。勝手に自分の才能の限界を決めてしまうの」

 

 顔は涙でぐちゃぐちゃだ。不細工で嫌になる。

 

 苦痛で仕方無かった。やっちゃいけないものをやって、私の体がおかしくなっていくのが。好きでもない人に抱かれて、お金を貰うことが。演技をくだらないことに使うのが。本当は誰かに助けて欲しくて。

 

 目を背けた筈なのに縋っていた。私はこれでもいいなんて嘯いて、演技から快楽に逃げた。本当は家族と仲直りしたかった。私のことを心配してくれていたのに拒絶して、怒鳴り散らかしてしまった。あの時の家族の悲しそうな顔が忘れられなくて、それからも目を背けた。

 

 あぁ、どうしようも無いな。この心の穴はもう塞ぐことは出来ないんだ。この痛みは一生続くんだ。胸をぎゅっと掴んで、痛みを紛らわす。

 

 夜風に当たっていると泣き止んで、スマホを仕舞う。

 

 ふと、夜空の向こうに屋上からなら手を伸ばせば届くだろうかなんて馬鹿な事を考え始める。もしかしたらあの綺麗な満月に少しでも触れられるだろうか。

 なんとなく試したくなって、ふらふらと柵に近付き、手すりを左手で掴みながら、右手で満月に手を伸ばす。するとガコンと何かが外れる音が遅れて聞こえる。体が前のめりになって浮遊感を感じる。きっと落ちたんだと他人事のように思う。走馬灯って言うのが頭を過っていくけど、碌でもない人生だ。自分のことを省みなかったゴミが薄汚い格好をして、気色悪い作り笑顔を被って、舞台の上で馬鹿な踊りをしている滑稽な作品(じんせい)を見せられる。

 

「こんなの犬も食わないよ」

 

 お腹を空かせた野犬にだって餌を選ぶ権利くらいはあるだろう。腹を満たせない餌なんて見向きもされず見捨てられる。こんな退屈な人生(おはなし)に誰かが飛びつくわけない。

 

「綺麗な、お月様」

 

 最後の一瞬まで私を魅了して止まない満月に手を伸ばす。もし、来世なんてものがあるなら。もし、もう一度人生がやり直せるなら。夜凪景みたいに輝きたい。そう願う。

 

 そして、私は、落下して

 

             死んでしまった。

 

 

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 人は死んだらどうなるんだろう。

 輪廻転生するんだろうか、天国や極楽浄土に行くのだろうか。悪いことをしていたら地獄に行くかもしれない。もしかしたら異世界かも。

 

 結論から言えば明確な回答は無い。死後の世界なんて、人それぞれなんだ。生きている人が誰も行ったことがないから、こうあって欲しいとかこうであるべきだなんて空想で補うしかない。

 

 だから彼女の行先も、どうなるのかは分からない。この後、彼女がどうなったかなんて神様でも無ければ分かりもしないのだ。

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