アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 番外編 作:朕好こう
最近、心臓がおかしい。よく分からないけど、鼓動が早くなる。景ちゃんとか千世子ちゃんと居るとドキドキする。これは、なんだろう。私は病気にでもなっちゃったのかな。
景ちゃんが、楽しそうにひなちゃんと話していると胸がキュッと締まる。この痛みは何?
千世子ちゃんが、ドラマで男の人と居るとモヤモヤする。何故かキスシーンとかを見れなくなってしまった。
「おはよう、恋歌。今日も可愛いわ」
朝、景ちゃんが抱きしめてくる。いい匂いだし、景ちゃんに抱きしめられると安心する。けど最近はそれよりドキドキしてしまう。景ちゃんの顔がまともに見れなくて、少し目を逸らしてしまう。
「あ…ありがと。景ちゃんも可愛いよ」
景ちゃんが可愛いのは当たり前だけど、私なんかを可愛いと言ってくれたんだし、いつも思っていることを伝える。だけど、それすら恥ずかしい。
「…抱き返してはくれないのかしら」
「っ!?えっちだよそれは!?」
前は抱き返すのなんて普通に出来ていたのに、何故か今は駄目なのだ。身体が熱くて仕方ない。顔から火が出そうだ。
景ちゃんの顔を見る度に変なものが湧き出てくる。嫌じゃないけど不思議な感情が、私を満たそうとする。
顔を洗った後、レイちゃんにこっそり質問してみた。レイちゃんはどこからとも無く出した伊達メガネをクイッと上げて私に言う。
「レイが思うに、恋歌お姉ちゃんのそれは恋の病だと思うの」
「恋…?…私が?」
「うん。恋の病って言うのが、恋歌お姉ちゃんの症状とピッタリだもん」
そんな筈ない。人を好きになるなんて、私がそんな感情を得るなんて。
でもレイちゃんの言う通り、恋の病と私の症状は殆ど当てはまっている。どういうことだろう。私は、本当に人を好きになったのか。
「恋歌ちゃん、体調悪い?」
「ううん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、千世子ちゃん」
「私の好きな人だから心配するのは当たり前だよ」
「ち、千世子ちゃん、からかわないでよ」
「…からかってないよ。本当に好きだから言ってるの」
今日は撮影が終わったあと、事務所で千世子ちゃんとお話をしていた。千世子ちゃんとお話しつつ今日の朝の事を考えていたら、千世子ちゃんに心配された。
私は笑顔を做って返すけど、千世子ちゃんの好きという言葉に照れてしまう。だから思わず、からかわないでよ、と言うと手を掴まれる。千世子ちゃんの白くて細い指が絡められる。
心臓が痛いくらい鳴り響く。頭がショートしそうだ。
「どうしたら信じてくれる?…これ、とか?」
「信じるって言わ…んぅ!?」
千世子ちゃんに唇を塞がれる。丁度よく、人が居なかった。それを知っていたかのように、千世子ちゃんは何回かした後、口を離す。千世子ちゃんは妖艶に微笑んだ後、私に囁く。
「どうかな?信じてくれる気になった?」
…千世子ちゃんって、こういうこと誰にでもするのかな。だってそうじゃないと、私程度にこんな愛情表現なんかする意味がわからない。私が特別と言われるより、私が普通なんじゃないかと言われる方が納得出来る。
でも、もしそうなら嫌だな…千世子ちゃんが、景ちゃんとか他の人にもやってたら嫌だ。
浅ましい感情だと思う。千世子ちゃんに対してこんな感情を持つのは間違っている。後で消さなきゃ。独占欲なんて不快なだけだから。
「そ、そんな事しなくても信じてるよ…」
信じてない。だって千世子ちゃんが私を好きになるわけないから。本当に好きだったら凄く嬉しいけど、私のような凡人じゃ釣り合わないよ。貴女の隣に立ちたいけど、それは友人として。好きな人として立つなんて…烏滸がましいにも程がある。
私は、愛されるべきモノじゃない。どうしようもない失敗作で、呆れるほど愚かだから。効率良く生きて行けなくて、人の後追いばかり。そして、自己嫌悪の塊。こんな醜悪なモノが愛されるなんて許されないよ。まして、景ちゃんや千世子ちゃんみたいな綺麗な人に愛されるなんて。
「もういっかい、いいかな?」
「ダ、ダメです。そんなえっちなことはもう許しません」
「本当に?」
「…ダメ」
千世子ちゃんは私を弄んでるだけだ。きっと直ぐに飽きる。だから、こんな感情を持つだけ無駄なんだ。捨てろ、忘れろ、こんな感情は私には不要だから。
なのに、なんで拒絶するの?やめてよ、私は捨てられて悲しい思いをするくらいなら最初から要らない。私は、景ちゃんと千世子ちゃんのことを■してる。違う、■してなんか無いよ。嘘だから。私の言ってることは嘘ばっかり。人間関係を上手く回すために、皆の望みを満たすために一緒に居るだけ。
だから虚しくなんてない。嘘を吐くことに苦しみを感じる必要は無い。私なんて愛される必要は無い。
「だから居なくなれ」
苦しい。千世子ちゃんと景ちゃんを想う度に心臓がドクンドクンって波打つんだ。千世子ちゃんにキスされたり、手を握られる度に顔が熱くなる。景ちゃんと話していたり、抱きしめてくれる時に心地良さを感じる。
感情を消そうと、鏡に向かっていつもの儀式をする。けど、消えない。消えてくれない。
「居なくなってよ…そうじゃないとダメなの」
この感情が芽生えてから、演技をしていると違和感を覚えるようになった。前みたいな演技が出来ない。それは私の主観が入るようになってしまったから。
でもそれだと景ちゃんや千世子ちゃんの隣に立てない。演技が下手な私じゃ、あの二人の横には居られないの。
それが分かっているのに身体は忘れるのを拒絶する。
「私は、隣に立ちたいの。2人と笑顔で立てたらそれでいいの。だから、居なくなってよ」
何度も、何度も殺す。こんな感情に振り回される訳には行かないから。
消そうとする度に心に痛みが走る。忘れていいの?って“私”が聞いてくる。良いんだよ、こんなの辛いだけだから。私には過ぎたものだから。
だから、■なんて消えてしまえ。