アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 番外編 作:朕好こう
BADENDと呼ぶには幸福で、あちらのENDにするには惜しいEND
「アキラくん、おはようございまーす」
上に誰かが乗って僕を揺らす。こんな朝早くに誰だろうか。寝惚けていて、頭は回らないし目も霞んでいて、上に乗っているのが長い髪の少女だと言うことしか分からない。いや待て、少女…?
「…おはようのキスがお望みですか?」
「っ!?」
その言葉で目が覚める。合鍵を持っているのは3人だけ。その中でもこんなことをしてくるのは彼女しか居ない。顔を近づけてくる彼女を引き離して、怒る。
「朝、僕の部屋に来ちゃダメって言ったろう」
「えー?いいじゃないですか」
「ダメだ」
男だって朝は色々と大変なのだ。…色々と。まぁ、そんなことは置いといて、ベッドの上で可愛らしく正座する笑顔の少女を見据える。少女は僕の視線に気付くと、僕に抱きついてくる。
「私の色気にやられちゃいました?アキラくん」
「やられてないよ。僕だって選ぶ権利はある」
「酷くないですか!?私がぺちゃぱいだからって嘗めないでください!」
「別に嘗めてないが」
「…舐めるとか気持ち悪いですね。これ千世子ちゃんに報告しますね」
「偏向報道は止めてくれ」
相変わらず人を小馬鹿にしたような態度だ。そういう所が好きになってしまった時点で、僕もだいぶ彼女に毒されている。起き上がると彼女も後ろを付いてくる。
「ご飯、何食べます?私は和食とか良いなあって」
「え、夜凪君の家で何も食べてないのか?」
「景ちゃんにメールだけして来ました。それがどうかしました?」
冷や汗が垂れる。不味い、夜凪君は彼女のこととなると暴走しがちだ。彼女と付き合う時も殺されかけたし…千世子君にも殺されかけたし…ひょっとすると僕は地雷源に居るのでは?
スマホに着信が来ている。撮影中に鳴らないようにいつも音を切っているから気づかなかった。履歴を見ると夜凪君と千世子君で埋まっている。最初は恋歌君を見かけたかというメール、次に恋歌君を返せというメール、最終的に呼び出しだ。もう嫌な予感しかしない。
「アキラくん?」
元凶である彼女が首を傾げて、ご飯食べないのかと聞いてくる。今はそれどころじゃない。早く逃げないと。動揺していると、インターホンから死の宣告が聞こえる。
「誰か来ましたよ?」
「あ、あぁ…えっと…」
インターホンの画面を見ると笑顔の千世子君と虚無の顔をした夜凪君が映る。僕はそっと見ない振りをして画面を切った。少し息を整える。どうする。玄関は確実に固められている。だが、千世子君は僕の部屋の合鍵を持っている。窓からは高過ぎて逃げられない。相手はどんな凶器を使うんだ。包丁か?縄か?考えろ、ここで死にたくないだろう、星アキラ…!
「景ちゃんと千世子ちゃんじゃないですか。なんで無視するんですか?」
「いや、ほら…」
「?」
何も知らない彼女は玄関に向かって行ってしまう。不味いなと焦ると同時に閃く。玄関のチェーンをかけて、今日は寝よう!そうすれば良いんだ。後は居留守で今は凌げる。
そう考えた瞬間、彼女の手を掴んで引き止める。きょとんとした顔で彼女は少しの間悩む素振りを見せると、抱きついてくる。違う!そうじゃないんだ!くそ、抱きつかれて嬉しくなっている僕が居るのがやるせない。
「アキラくんは甘えん坊ですね。でも景ちゃん達を無視するのは良くないですよ」
「それはその…」
「言い訳は駄目です」
僕がドアを開けないのは殺されるからだ。待て、この状況は更に死ぬのでは?恋歌君に抱きつかれているとか彼女達の処刑対象になりかねないぞ。
そんな僕の焦りも他所に鍵が差し込まれた音が聞こえる。ドアが開き、2人が見える。2人は僕達の状況を視認すると、じっと見てくる。数時間にも思える沈黙の後に2人は口を開く。
「へぇ…朝から熱いね」
「……す」
「ま、待ってくれ!これは誤解なんだ」
「景ちゃん、千世子ちゃん、おはよー」
焦って動揺する僕とは対照的に、朗らかに恋歌君が挨拶する。これをどうにかしなければ僕の明日は無い。というか数分後に死んでいる可能性すらある。胃に痛みが走る。
「皆居るし、ご飯一緒に作りません?」
「あぁ!そうしよう!」
「アキラ君って、スライスかみじん切り。どっちが好みかしら」
「挽肉とか好きだよ、私」
「挽肉…?ハンバーグ?」
恋歌君が良い案を出す。良くやった!と思ったが、僕の胃痛の原因は彼女では?というか、僕の死因が着々と決められている気がする。
その後の朝食は胃を痛めながら食べきった。最後に釘を刺して、千世子君も夜凪君も撮影があると言って帰っていってしまった。
「…アキラ君、恋歌に手を出したら…すわ」
「アキラ君、五体満足で居たいならハメを外し過ぎないようにね」
2人が帰ったあと、恋歌君は僕の膝に座って映画をずっと見ている。この体勢は色々とクるものがある。好きな人がこんなに傍にいてドキドキしないわけが無い。
「そう言えば、アキラくん」
「ん?なにかな」
「いつ、手を出してくれるんですか?私もう、結婚出来ますよ」
「なっ…!?」
こちらに振り向いて彼女は爆弾発言を放つ。僕は羞恥で顔が熱くなるのを感じる。確かに僕は20歳で、彼女は18歳。結婚も出来るし、今の僕なら責任は取れる。けど…
「私に魅力無いからですか?まぁ、千世子ちゃんと景ちゃんに比べたらゴミですし胸も無いですけど」
悲しそうな顔をして僕の目を見てくる。そういう訳じゃない。でも、大切にしたいから手を出せないんだ。
「アキラくんはイケメンだから色んな女の子に言い寄られると思うんですよね。その中には私より可愛い子も、胸の大きな子も居ると思います。でも私、独占欲が強いんです。今まで知らなかったけど、私にはきちんと愛も怒りもあったんです。だからこれは貴方が手を出してくれないことへの怒りと貴方が大好きっていう愛情表現です」
首に手を回され、唇と唇の距離が零になる。キスをするのは初めてじゃない。寧ろ彼女からそれは沢山してくる。だがこんなにもドキドキするキスは久しぶりだった。
「月が綺麗ね」
とびっきりの笑顔で彼女は告げる。なら僕も答えなければいけない。僕も笑顔で返す。
「いや月はずっと綺麗だったよ」
「月が綺麗ですね」は色々な類語がありますので調べて見てはいかがでしょうか。返しも秀逸なものがあります。その中でも私が特に好きな返しを採用させて頂きました。
風邪は治ってきているので無事に21日には復帰出来そうです。