アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 番外編 作:朕好こう
私が、演劇界に興味を持ったのは小学生の頃、王賀美陸の演技を間近で見た時だった。当時、アメリカに住んでいた私は彼の演技に強く惹き付けられた。
芝居が上手い、当然な評価だろう。だが芝居以上に彼から目が離せないものを感じた。私が、彼のファンになるのに時間は掛からなかった。
彼の映画が発表されれば直ぐに見に行ったし、彼のサインを貰おうと彼が賞を取った時に詰め掛けて記者や大人達に揉みくちゃにされたのはいい思い出だ。
彼の演技を見る度に、私もこうなりたいと思った。演技の本を読み漁った。彼以外の映画も見た。けど、満足出来なかった。
「“本物”じゃないと、駄目だ」
王賀美陸と同等の才能を持つもの、同等の技術を持つもの。それを見なきゃ私は進化出来ない。王賀美陸は目指してなれるものじゃないのは本能的に理解していた。彼のようなカリスマ性は私に存在しない。演技の才能はあるかもしれないが、それだけでは一生彼に到達出来ない。でも身近な人に“本物”は存在しなかった。
王賀美陸になることを少し諦めかけていた中学生の時、日本に帰国することになった。唯一の親類が亡くなって、そのお葬式に行くことになったのだ。そこで私は彼女に出会った。私と同じ黒髪だけど艶も触り心地も違う、誰もが惹き付けられるであろう少女に。
「…ルイとレイの相手をしてくれてありがとう」
彼女の感情はぐちゃぐちゃだった。母を失った強い悲しみ、誰かに対する強い怒り、これから先に対する絶望。あそこまで煮詰めた負の感情を見るのは初めてだった。別に助けなきゃとか思った訳では無い。もっと低俗な理由で彼女と仲良くなりたかった。彼女のその強い感情に惹かれた、こんなに感情を引き出せる彼女なら王賀美陸と同じステージに立てると思ったから仲良くなろうと思った。
「私は頭鬼恋歌。貴女のお名前は?」
「景。夜凪景」
その後は彼女の心の修復に務めた。一緒に映画を見たり、ご飯を食べたり、ルイとレイと遊んだり。色んなことをした。いつの間にか最初の目的も忘れて、景ちゃんと遊ぶことに幸せを見出してしまっていた。
「恋歌は演技とかしないのかしら」
中学生も終わりの頃、受験勉強とご飯を終わらせ、ルイとレイを寝かしつけた後に唐突に景ちゃんから言われた。私は最初、あんまりしないかなぁなんて誤魔化していたけれど、見てみたいとせがむ彼女に根負けした。
「じゃあ、ロミオとジュリエットをやるね」
別に好きな訳じゃない作品で、寧ろ嫌いと言っても過言じゃなかった。悲恋とかそういうのは嫌いだった。だけど、命を賭けてまで愛し合う2人の姿だけは嫌いでは無かった。
演じ終わると、景ちゃんは拍手してくれた。この拍手が切っ掛けだったかもしれない。誰かを笑顔にして拍手を貰う。演技が初めて楽しく感じた。一生懸命、王賀美陸になろうと勉強していた時は苦痛だった。終わりのない旅をしているみたいで。
「私も、やってみたいわ。お芝居」
彼女が演劇界に入れば、たちまち有名になるだろう。そしたらきっと私ではすぐに置いてかれてしまう。私はぎゅっと手を握り締める。彼女と同等で無ければ彼女の隣に居る資格は無いから。
これはきっとロミオとジュリエットが結ばれるくらい有り得ない話で、イカロスが蝋の翼で警告に耳を貸さずに太陽を目指したくらい無謀な挑戦。
でもいいんだ。1度きりでいい。ほんのちょっとだけでも景ちゃんが女優として輝く隣に私が居れたらそれで満足なんだ。神でも悪魔でもいい。私に力を貸してください。景ちゃんと同じ舞台で同じ景色で歩かせてください。その後どうなってもいいの。
「うん、景ちゃん。一緒に役者になろうね」
景ちゃんと笑顔で指切りをする。最初のぐちゃぐちゃだった感情はそこに見られない。でもそれで良い。貴方には笑顔が似合うから。