アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 番外編 作:朕好こう
不合格通知が届いた翌日、朝日で目が覚める。横には不合格通知を手に持った景ちゃんが座っている。やっぱり落ちてしまったのが悲しいのか少しだけ俯いている。
「景ちゃん…」
後ろから抱き締めてあげる。あ、柔軟剤のいい香りがする。なんて邪なことを考えつつも、景ちゃんのサラサラな髪を撫でていると景ちゃんが口を開く。
「ありがとう、恋歌。でも諦めが着いたわ。バイトもクビになってしまったけれど」
彼女を疎む人は多い。料理のセンスも頭も良いし、運動だって大体は出来る。球技は壊滅的だけど。家族を第一に考えるあまり、無愛想にも見える。バイトを直ぐにクビになってしまうのも人間関係の悪化が多い。それに彼女は気付いていないのだ。
「景ちゃん、また別のオーディションがあるよ。前、約束したでしょ。女優になるってさ」
スターズに入るのが主演を勝ち取るのに最適とは言え、他に事務所はある。彼女の才能はここで埋もれていいものじゃない。貴女は役者じゃないと駄目なんだ。
そうやって景ちゃんと喋っていると学校に登校する時間が迫っているのに気づく。慌てて準備をしていると、既に外に出ていたルイくんとレイちゃんの泣く声が聞こえる。もしかして誰かに虐められてる、そう思って外に出ると景ちゃん達しか居なかった、訳も分からないが、取り敢えず2人を宥める。レイちゃんは直ぐに泣き収まるけど、ルイくんは1度泣くと止まらないのだ。あわあわしていると車が近づいて来るのに気づく。
「すまないが、一緒に来てくれないか」
車から出てきたのは金髪の爽やかな人。何処かで見たことがあるなぁ、と首を傾げていると、ルイくんが興奮した様子で。
「ウルトラ仮面だ!!」
というので思い出す。そうだ、彼はウルトラ仮面だった。もしかして怪人でも出たのだろうか。
「ウルトラ仮面、怪人が来たの?」
そう聞いてみると、ウルトラ仮面は引き攣った顔でこちらを見てくる。私を怪人だと思っているのか。自分は人畜無害ってやつだと思うのだが。
「君もウルトラ仮面を観てるのかい?」
「勿論、でも貴方がウルトラ仮面だとは知らなかったしウルトラ仮面の変身後しか覚えてないの。全話見てるけど、貴方の事は一切覚えてなかったなぁ」
なんて話をしてると他の人達にウルトラ仮面が来ている事がバレてしまった。折角のヒーローの休日を邪魔するなんて野暮な人達だ。
「頼む、早く車に乗ってくれないか…」
ウルトラ仮面は少し焦った様子だ。恐らく呼ばれているのは景ちゃんだし、きっと景ちゃんの才能をきちんと見てくれる人が居たんだと思った。
「頑張って、景ちゃん」
私も早く、他の事務所に入らなければと思っていたら、ウルトラ仮面が私の方を向いて言った。
「いや、それが君もなんだ。頭鬼恋歌君」
頭に疑問がいっぱい浮かびながらも、嬉しそうな景ちゃんに押されて車に乗り込んだ。私が合格した?いや、確かに景ちゃんの才能なら不合格からの合格も有り得なくない。でも私みたいな“偽物”が?確かに芝居にプライドはある。でも、王賀美陸にも景ちゃんにも及ばない私を不合格から掬いあげた人が居る。ウルトラ仮面に聞いてみる。
「なんで私も?」
「…1人が辞退した。それが夜凪景君の枠だ。君は分からない」
「恋歌、折角役者になれるのに嬉しそうじゃないわ。どうして?」
あまり嬉しくなさそうな私に景ちゃんがそう質問する。嬉しくなさうな。それはそうだ、実力で落ちたと思ったオーディションに誰かの手によって助けられて悔しくないわけが無い。でも彼女に悔しさをぶつけるのは間違っているから嘯く。
「そう見えるかなぁ?嬉しくない訳じゃないけど、予想外だったからちょっと頭が追いついて無いからかも」
「まぁ、そうだろうね。急に訪問したのは申し訳ない」
…誰が私を舞い戻したのだろうか。そんなことを考えていたら最終審査の場所に着く。会場に着くと目にシワが寄った美しい人と目が合う。名前は星アリサ。スターズの社長で、王賀美陸とは別の憧れだった人。憧れだった人の前で演技をするという事に、少しだけ緊張する。息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。アリサさんが出したのは“
「あなたたちの目の前には1匹の野犬がいるわ」
彼女の言葉から設定が紡がれる。イメージの共有がし辛い設定だ。しかも景ちゃんは未体験の状況に弱い。なら私が見た事のある、もしくは景ちゃんが想像しやすい状況に引っ張ってあげればいい。臨戦態勢を取って、景ちゃんに野犬の姿を明確に表現してあげる。私が襲われる表現をしたら、後は景ちゃんにバトンタッチする。景ちゃんは怒りと家族を守らなきゃという感情を露わにして、野犬と戦う。頭を踏み潰し、他の参加者が息を呑む。不味い、これ以上はもしかしたら景ちゃんの境界があやふやになってしまうかもしれない。止めようとするとルイくんとレイちゃんが手を引っ張ることで景ちゃんは浮上してくる。
「…おかえり、景ちゃん」
安堵して呟く。皆が景ちゃんを賞賛するのを見て嬉しくなる。後は私だけだ。早く追いつかなきゃ。景ちゃんに置いてかれてしまうから。
「恋歌、大丈夫だった?」
景ちゃんが手を差し伸べてくれる。きっと彼女は待って、と言えば待ってくれるだろう。けどそれじゃあダメなの。景ちゃんが全力で戦ってくれないと、世界一にはなれないから。貴女の足枷にはなりたくないから。
「大丈夫。ありがと、景ちゃん」
笑顔で彼女の手を取る。ずっと握っていたい暖かい手。優しく私を導いてくれる手。景ちゃんは少しだけ照れたように離して、ルイとレイの所に行こうかと言う。私は頷いて彼女に着いていく。
でも、いつまでも導かれてはいけない。貴女の隣に居たいから。だからもう一度手を繋ぐ時は、皆が拍手喝采を贈る輝かしい舞台の上で。