アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 番外編   作:朕好こう

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 これは必死に天才に追いつこうとする嘘吐きのお話。頭鬼恋歌の“独白”。


頭鬼恋歌(にせもの)の偽りない話』

 過剰な期待が辛くて吐きそうになる。

 

 

 私の親友は天才だった。彼女は黒山墨字の元で成長していった。最初の、思い出せる感情のままに演じる粗い演技は、どんどん洗練されていった。最初は未知の状況への対処、次に(たにん)を探求する喜びを、そして百城千世子から俯瞰する技術を短期間で得た。

 

 その才能が羨ましい。嫉妬に狂いそうになる。私が小学生から高校生になるまで努力し続けてきたことを簡単に追い抜かされた。役者として、私は負けたくない。

 

 彼女を殺そうかと本気で悩んだ時もあった。親友を殺そうと考えるなんて最悪だと思う。けれど、それ以上に彼女の才能が殺したいくらい羨ましかった。

 

 この感情は歪んでいる。この思考は気持ち悪い。理解しているから、このドロドロした感情を頑張って覆い隠す。親愛と憎悪が絡み合って、私の心を侵食する。

 

 

 私は私が嫌いだった。

 才能も無い癖に彼女たちの隣にいる自分が。

 

 

 私の親友は天才だった。天使のように綺麗に笑って、人を惹きつけて離さない。最初は仮面を被っていることを理由に嫌っていた、私と似ているから嫌っていた。でも、本当の理由は、彼女が綺麗だったから嫌いだったんだ。

 

 どうしても醜い私と対比してしまう。彼女の仮面は作品の為のものだった。一生懸命、頑張って作ったんだろう。作品を絶対に成功させる為に試行錯誤して、自分の寝る暇すら惜しんで。それを見る度にお前は努力しているのか、と問われるようで嫌いだった。

 

 彼女も殺したいくらい憎かった。水族館でデートした時も殺したくてしょうが無かった。首に手をかけて絞めれば、天使と呼ばれる彼女だって簡単に殺せる。だけど殺せなかった。よく分からないけど、躊躇したのだ。

 

 

 私は偽物だった。

 

 

 最初に成りきろうとした役は王賀美陸。彼の演技を目指した。彼の言葉、行動、何から何まで真似した。友人が離れていったけど、どうでも良かった。彼みたいに彼のようになるには他人なんて要らないと思ったから。

 そして、中学生になって虐められるようになった。人と協調出来ない子は虐められる。当たり前だ、力の無い癖に傲慢な少女なんて格好の虐めの標的だ。そうして、私は王賀美陸になるのが苦痛になった。

 

 次に成りきろうとした役は夜凪景。彼女の感情の昏さに惹かれた。ここまで人は色んな色彩を出せるんだと思った。だから彼女を観察する為に仲良くなった。そして知ってしまった。誰かと仲良くなって、共通の話題で盛り上がる楽しさを、私を私のままでいいと言ってくれる“普通の幸せ”って言うものを。

 

 “幸せ”を知ってしまってからは演劇の事も映画を見る時くらいしか思い出せなくなっていった。考える必要が無くなったから。レイちゃんとルイくんを一緒に見守るのは大変だったけど皆が笑ってくれたら私も嬉しくて、景ちゃんが料理する時は私も手伝って皆でご飯を食べた。

 

 でも、ロミオとジュリエットを景ちゃんの前で演じてまた更に知ってしまったんだ。

 

 観客に喜んで貰える“幸せ”を。それは“普通の幸せ”より芳醇な香りを漂わせていた。景ちゃんが楽しそうに拍手をしてくれて、私の心はまた演劇に向かっていった。

 

 百城千世子の技術を見た。偶然、テレビを付けていた時に惹き付けられた女の子。他の共演者だって、魅力的な筈なのに私は彼女に惹き付けられてしまった。自分と良く似た…まぁ、顔はだいぶ差があるけど、王賀美陸を目指したかのような女の子に興味が湧いた。他の出演作品を何度も見て技術を盗んだ。彼女ならこうするだろうなといつの間にか理解出来るようになっていた。

 

 

 …私は偽物なんだ。そして異常者なんだろう。だって、誰かにならなくちゃ私は私を保てない。とっくの昔に“(ずきれんか)”なんて忘れてしまっているんだ。

 

 小学生より以前の記憶が無い。王賀美陸と出会う前のことを全部忘れてしまっている。中学生の時に、景ちゃん以外の友人が出来たことは無い。景ちゃん以外にも他人(ひと)に愛想を振りまくことは有っても、同級生の名前すら覚えてないんだ。

 

 お父さんの顔を見ても、お母さんの顔を見ても、お姉ちゃんの顔を見ても他人にしか見えないんだ。自分でも狂ってると思う。でも、私にはそうにしか思えない。本当に家族だと思えるのは景ちゃんとレイちゃん、ルイくんくらい。友達だと思えるのも数える程しか居ない。

 

 あぁ、わたしはだれなんだろう。こうやって語る私はだれなんだろう。

 

 

「今日は真っ暗だねぇ。お月様もお星様も無いや」

 

 そんなことを考えていると寝れないから、景ちゃんにバレないように寝床を抜けて、外に出る。そして夜空を見上げる。今日は雲が厚くて、何にも見えない。

 

 でも良いんだ。その方がいい。暗闇の方が落ち着く。月も星も好きだけど、たまには無い日だってあっていい。

 

 私はいつも誰かの偽物で、“頭鬼恋歌”を忘れてしまっているけど。そんなこと、この暗闇に溶かして誤魔化せばいい。

 

 無意識に空に無い筈の月に手を伸ばす。綺麗な夜空に浮かぶ大きな満月を幻視する。産まれた時からある誰かの望み。誰の望みなのかは分からないけど、その望みの内容だけはきちんと覚えている。

 

 願いは、景ちゃんと一緒に舞台の上で輝くこと。舞台の上で手を繋いで、笑い合うこと。その為には何もかも犠牲にする。この命が尽きてでも、この望みだけは叶えてみせる。

 

「くしゅんっ!」

 

 くしゃみが思わず出る。流石に外は寒くなってきた。家に戻ろう。景ちゃんがいる部屋でぐっすり寝よう。今、彼女と一緒に居れる幸せを噛み締める。

 

「おやすみ」

 

 横でぐっすり寝ている景ちゃんの寝顔を見ながら眠りに落ちていく。

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