アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 番外編 作:朕好こう
景ちゃんが男を連れてきた。名前は明神阿良也。あの舞台で知り合った青年。私から死臭がすると言った人。多分、この世界で1番私に相反する性質を持つ人。
「…こんばんは。なんで髪、濡れてるの?阿良也くん」
「久しぶり。相変わらず色んな匂いがするね」
笑顔を做って会話するけど通じない。本当に苦手だ。私の本質を知ろうとする人なんて居なくていい。景ちゃんも星先輩も居ないなら、この場で殺したいくらいだ。
「阿良也君は私に役作りを教えてくれるらしいの。その代わりに私の家に来たいって言うから…アキラ君も恋歌も居るし大丈夫かなって」
「えっと…初めまして。星アキラです」
「…何も臭いしないと思っていたけど。君、何かに影響でも受けた?」
「え…?」
「アキラ君、気にしないで。阿良也君はいつも変なの」
阿良也くんは星先輩を見るもすぐに興味を失ったのか、お腹を鳴らす。
「夜凪、カレー食べよう」
「分かったわ、恋歌。ルイとレイを寝かして来てくれるかしら」
「はーい」
ルイくんとレイちゃんを寝かしに行くと、襖から2人が覗いていた。
「れ、恋歌おねーちゃん。よんかくかんけいなの!?しゅらばってやつなの!?」
「ルイも夜更かしする!!」
「いや違…」
「恋歌お姉ちゃんはどっちが好きなの!?お姉ちゃんはどっちに好かれてるの!?」
「ルイも遊ぶ!9時までに寝るルールのはきをお願いします!」
2人が珍しく興奮している。説得出来ず動揺していると星先輩が来て、2人に話しかける。
「これから少し役者さんのお勉強会があるんだ。2人とも偉いから、今日はおやすみ出来るよね。僕らもうるさくならないようにするから」
「ウルトラ仮面がそう言うなら…」
星先輩の言葉で2人とも布団に潜り込んだのを見て、襖を閉める。ほっと一息して星先輩にお礼を言う。
「堀先輩、ありがとうございます。先輩手慣れてますね」
「星だ。まぁ、子供向けの番組に出てるし、子供は好きだからね」
「へぇ、いいパパさんになりそうですね」
「恋歌はいいお母さんになれると思うわ」
いつの間にか星先輩の背後に笑顔の景ちゃんが立っていた。星先輩はよく分からないけど冷や汗を書いている。私は気配を察知する能力に長けていると思っていたけどそれを潜り抜けた…!?流石、景ちゃん…演技だけじゃなくて色んなスキルを持ってるなぁ。
「カレーが出来たから2人とも降りて来て?」
「あ、あぁ」
「カレー楽しみ」
下では阿良也君が座って、黙々とカレーを食べていた。私達もいただきますをして食べ始める。10分くらい私以外そんなに喋らない。
「阿良也君、私に役作りの仕方教えてくれるつもりある?」
「もちろん、俺、嘘吐くの大嫌いだからね」
少しだけこちらを見て言う。あぁ、やっぱりこの人は嫌いだ。私とも相容れないだろう。怒りも無償の愛も分からない嘘つきの私と彼では見ている世界が違うから。
「ところで夜凪って弟妹のこと疎ましく思ったことある?」
時間が止まる。本当に止まったわけじゃないけど、誰も動かない。星先輩が苦言を呈する。だけど阿良也くんはそれを無視する。
「阿良也さん、何言って…」
「さっきのちびっ子達のことだよ。疎ましく思ったことない?」
駄目だ、なんだこの感情は。
「頭鬼入れても4人暮らしでしょ?手伝って貰ったって10代なんだ。色々大変で大人にならなきゃいけなかったんじゃない?」
口を閉じろ。景ちゃんを傷付けるな。
「夜凪、よく思い出してよ。自分の感情に正直であることは役者の条件だからね。弟妹を恨んだ夜もあったんじゃない?」
「…星君、どうして怒ってるの?」
「どうして!?あなたは人の気持ちがわからないのか!!」
「じゃあ、君はなぜ自分が怒っているのか説明できるの?自分の気持ちをちゃんと分かってるの?」
分からない。この感情が何なのか。殺意なら説明がつく。けどなんで殺意を抱いた?景ちゃんを傷付けたからだ。でも私を傷付けた訳じゃないのに?
「意外に人間って自分の気持ちすら自分で分かってなかったりするでしょ。自分の気持ちの分からない役者は他人の気持ちも分からない。そういう役者は臭わない…筈なんだよ。まぁ、どうやってか臭うやつも居るけどさ」
私の方を見てくる。確実に私の本質を見抜いているのだ。私が“偽物”だということを。それを景ちゃんにバラされたら私は生きていけない。私は、私として保てない。
「あったかもしれない。どうして私だけって恋歌が居なかったら思っていたかもしれない」
景ちゃんが口を開く。阿良也君も星先輩も私も黙って聞く。
「お母さんが死んで、恋歌が来たけど大変だったわ。ご飯を作らなきゃ行けない、掃除しなきゃ行けない、あの子たちの面倒を見なきゃいけない」
「毎日映画を見て、楽しいという気持ちを刷り込んでいったの。現実ではお母さんが死んであの子たちが毎日泣くの。でもね、映画の人たちは本当に幸せそうに笑うの。できればずっと…“あっち側”に居たくて現実の世界を忘れたくて。それを…恋歌が救┈┈」
景ちゃんが涙を流し始める。救った?違うよ景ちゃん。私は最低な人間なの。貴女の心を知りたくて近づいた。貴女に演技の才能があると思ったから、近づいたんだよ。私は高尚な人間じゃない。星先輩も千世子ちゃんも貴女すら私は利用してるんだよ。貴女との幸せすら全部を演技に昇華させてるの。
「ジョバンニは母親に救われていたのか」
阿良也くんは景ちゃんを喰らって役を掴んだようだった。そして帰っていく。
彼が帰った後、お皿を星先輩と一緒に洗う。景ちゃんは机に突っ伏している。
「…自分の感情って自分だけのものだと思っていたわ。でもそんなはずなかったのね。他人の感情を自分のものにする。あんな真似が私に出来るなんて思えない」
私と阿良也くんは役作りは似ている。他人の感情を喰らって、自分のものにする。まるで生まれ変わるように。私達は役者を名乗るために人の道すら外れることを厭わない。彼は今までの人生観を壊すほどの強い体験を、私は自分を殺して誰かの人生を盗んで、役に成る。景ちゃんは自分の体験から思い出す。だからこそ自分とは相容れないものには成り辛かった。それも墨字さんのお陰で変わりつつあるが。
コンコンっとノックがする。阿良也くんが突然の雨で帰ってきたのかと思って、景ちゃんと星先輩と共に玄関に行く。そこに居たのは
「アキラ君がここに泊まってるって聞いたから来ちゃったよ。久しぶり、夜凪さん。こんばんは、恋歌ちゃん」
千世子ちゃんだった。