アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 番外編   作:朕好こう

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 中編っていう意味の分からないお話。


皆に好かれる人(八方美人)の切羽詰まった話』

 千世子ちゃんが家にいる。しかも私の部屋に。相変わらず綺麗なお顔に満面の笑みを浮かべて。

 

「えっと…」

 

 口を開くけどすぐに閉じる。今この部屋は緊張感が漂っていて、喋りにくい。それは何故か。景ちゃんも居て、景ちゃんは能面のような顔で千世子ちゃんを見ているからだ。肩身が狭い。私の部屋なのに居るのが辛い。隣の星先輩を肘で突っついて、小声で話す。

 

「堀先輩、どうにかしてくださいよ。イケメンスマイルで」

「いや、イケメンスマイルとかが効く相手では無いだろ。2人とも」

「うわ…自分のことイケメンだと思ってるんですか」

「君が言ったんだろ…?」

「2人とも、随分仲良くなったんだね」

「…恋歌もアキラ君も少し静かにして貰えるかしら」

 

 景ちゃんと千世子ちゃんに一斉に見られる。怖い。どっちも目を大きく開いている。蛇に睨まれた蛙というのはまさにこの事か。昔の人はこの状況を体験していたのか。星先輩も私も押し黙る。

 

「夜凪さんって心が狭いんだね。別に話していたっていいでしょ?」

「今、千世子ちゃんと喋ろうとしたのにうるさかったから」

「ちゃんと小声だったと思うけど」

 

 2人が目を合わせる。千世子ちゃんは少し顎を上にして見下すように、景ちゃんは下から睨みつけるように。

 

「あっ!わ、私、そう言えばお茶とお茶菓子買ってあったんだった。千世子ちゃんと堀先輩の舌に合うか分からないけど持ってくるね!」

「ぼ、僕も手伝おうか」

「アキラ君、いいわ。私が行くもの」

「恋歌ちゃん、私が手伝うよ」

「千世子ちゃんはこの家の事知らないわ。私は恋歌と、一緒に、住んでるから分かるけど」

「ふぅん…けど、恋歌ちゃんに教えて貰えばいい話だよね?」

「お客様にやらせる訳にはいかないわ。黙って指をくわえて座っていて」

 

 私がこの場から逃げ出そうとすると、星先輩も付いてこようとする。そしたら景ちゃんと千世子ちゃんが一斉に立ち上がる。そしてまた顔を見合わせて喧嘩する。というか景ちゃんは、なんでそんなに私と一緒に暮らしていることを強調したの?

 

「1人でも大丈夫だよ。皆はここで待ってて」

 

 その言葉に2人はすごすごと引き下がる。星先輩がやっぱり、と言って立ち上がろうとすると2人に止められる。私は逃げるように部屋を後にしてお茶菓子とお茶を用意しに行った。

 

 

 部屋に帰ってきたら星先輩が死にそうな顔をしていた。胃が痛いのか、周辺を押さえている。景ちゃんは相変わらず表情筋をピクリとも動かさないし、千世子ちゃんは笑顔をずっと保ってる。

 

「こ、これ、どうぞ」

 

 3人の前にお茶を置いて、お茶菓子を真ん中に置くと座る。私は緊張しているからか、熱いお茶を一気飲みしてしまい熱さで噎せる。景ちゃんと千世子ちゃんが心配そうに近づいて、また一触即発の雰囲気へと変貌する。星先輩がティッシュをくれる。

 

「…ところでさ。なんで夜凪さんはあんなに落ち込んでいたの?」

 

 …やっぱり千世子ちゃんは良く見えている。人を観察する力に優れているのだ。だから、もしかしたら本当の私の事も理解しているのかもしれない。

 

「とても、凄い役者さんがいて…本当に凄くてあんなの恋歌でも無ければ出来ないと思って……このままじゃ私はカムパネルラを演じられないわ」

 

 千世子ちゃんは少し考えて、景ちゃんの頬っぺたを摘む。景ちゃんのもちもちした肌が伸びる。私も面白そうだから空いている方の肌を摘む。

 

「痛いわ!?」

「…愛情表現ってやつ?あ、うん。なんて言えばいいのか分からないけど」

「もちもちしてるね、景ちゃん。ピチピチお肌だ」

「今日は、私泊まるね。で、明日恋歌ちゃんも交えて遊びに行こっか」

 

 景ちゃんは私と千世子ちゃんに肌を摘まれて、疑問符を浮かべた顔をする。千世子ちゃんがお泊まりか。今日は嫌な事も良い事もある日だなぁ。

 

 

 皆が寝静まって、また私は景ちゃんを起こさないように寝床を抜け出す。今日の気持ちを整理したかったから。

 

「なんだったんだろう、あれ」

 

 怒り、なのか。分からない。私に備わってない感情だから。でも不愉快だった。胸がざわついて、身体を抑えられなかった。星先輩が胸ぐらを掴んでいなかったら、確実に殺していた。

 

「雨降ってるのに、何が見えるの?」

 

 考えていたら気配を察知する事が出来なかった。後ろを振り向くとパジャマ姿の千世子ちゃんが居る。可愛いパジャマだ。着てる人が可愛いからだろうけど。

 

「…なにも見えないよ。ちょっと眠れなかっただけ。起こしちゃったかな?ごめんね」

 

 私は誤魔化すように笑う。思考を出来るだけ悟られないように笑う。

 

「隣、いい?」

 

 聞く前に隣に座っている。まるで景ちゃんだ。私は思わず笑みをこぼして頷く。千世子ちゃんをよく見る。本当に綺麗だ。私と同じ…いや、私と比べること自体が間違っている。私は人間ですら無い。感情が欠けてしまった私が、嘘吐きの私が彼女と同じ生物であることすら烏滸がましい。

 

 顔を逸らして黙って外を見ていたら、急に千世子ちゃんに抱き着かれる。突然の事に驚く。そして事態を理解すると鼓動が早まる。え、どうして?なんで私は今抱きつかれているんだろう。

 

「ち、千世子ちゃん…?」

 

 喋りかけても、何も反応してくれない。でも千世子ちゃんの温もりも心臓の鼓動も、私に届いてる。というか何のシャンプー使ってるんだろうか、髪からいい匂いする。髪質も景ちゃんのサラサラとは違い、ふわふわしてる。

 頭がパンクして、抱き返す。景ちゃんや星先輩に見られたら恥ずかしいけど、ぎゅっと抱きつく。そうしたら心が落ち着く。あの感情が薄れていく。

 

「落ち着いた?」

「う、うん…落ち着きました」

 

 耳元で囁かれる。皆を起こさないように配慮してくれているのだろうけど、ドキドキして変な敬語みたいになってしまう。

 

「そっか。なんか悩んでる?」

「悩んでないよ。眠れなかっただけだってば」

 

 ふぅん、と彼女は言うと、私を静かに押し倒す。まずい、マウントを取られた。非力な私では彼女に抵抗出来ない。

 

「何も言ってくれないなら、こじ開けちゃおうかな」

 

 何処を!?千世子ちゃんはゆっくりと顔を私の顔に近づけて、唇が……

 

「恋歌、千世子ちゃん。何しているのかしら」

 

 重なる前に景ちゃんが怖い顔をして、私たちのことを見ていた。千世子ちゃんは笑顔のまま、景ちゃんと話し始める。

 

「夜凪さんは一緒の家なんだし、私よりアドバンテージあるよね?」

「関係無いわ。恋歌に手を出さないで」

「ふっ…夜凪さんが手を出さないなら考えてあげるよ」

「…」

 

 何の話だろうか。私にはさっぱり分からないけど取り敢えず間に入る。

 

「ま、まぁ、今日は寝ようよ。明日遊びに行くんでしょ?」

「…そうね」

「そうだね、明日決着を付けようか。夜凪さん」

「どちらがより、恋歌に楽しんで貰えるか」

「え、私審査員なの?」

 

 よく分からないけど2人の勝負に巻き込まれてしまったらしい。

 

 外の雨はまた少し強くなりつつあった。

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