赤い国からの魔術師   作:藤氏

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幕間を一回入れます。こっちのほうがきりが良いので。

水着回は次話でいきます。


幕間1

 

 

 それは草木も眠る深夜の出来事。

 

 今宵は月もなく、街路灯の火もとうに落とされ、塗り潰されたような暗闇がフェジテを支配している。

 

 そんなフェジテの何処か、人知れぬ路地裏にて。

 

「……まけたか……?クソ……」

 

 黒いローブ――天の智慧研究会の礼服――に身を包んだ外道魔術師の男が、肩で息をして後ろを振り返った。

 

「クソクソ……ッ!なんなんだ、あの女は……ッ!」

 

 男はある少女を拉致するためにフィーベル邸に侵入しようとしていた。

 

 だが、あと一歩のところで侵入に成功しようとしていたところで――

 

「ねぇ、何してるのぉー?」

 

 突然、背後から少女の声がしたのだ。

 

 振り返ると、そこには腰まで伸ばした雪のように白い髪と、綺麗なアメジスト色の瞳が特徴的な十代半ばの少女が薄ら寒い笑みを浮かべながら男の背後に立っていた。

 

 十代の半ばの少女――それも如何にも温室育ちのような子供相手なら、男は顔が真っ青になることはなかったであろう。

 

 だが少女を見た途端、男はルミアを拉致するという、当初の目的を忘れ、慌ててその場から逃走した。

 

「あの女の目……一体どんな絶望を見たら……クソ……幸い、特務分室の連中とルミア=ティンジェルにはバレてねぇし、ここは出直し――」

 

 男がそこまで言いかけた、その時。

 

 どすっ!

 

 背後から細い針状のものが、男の首筋を刺し――

 

 そのまま、男の意識は暗転した。

 

 

 

 

 永遠の眠りへと叩き落とされた男の背後にて。

 

「……駄目じゃない、知らない人を勝手に連れて行っちゃうなんて」

 

 白髪の少女は、もうすでに死んでいる男を見下ろし、くすくすと笑っていた。

 

「ましてぇ、私の従姉妹を攫うなんて~、そんなの私が許すはずがないでしょ~?」

 

 東部の――ルシタニアに訪れる極寒のような瞳で男の死体を見下ろしていると。

 

「ねぇ、そう思うでしょ?ヤチェク?」

 

 すると。

 

「……『姫』、深夜とはいえ、その姿で街を出られるのはお控えください」

 

『姫』と呼ばれた少女の背後には、ヤチェクがいつの間にか立っていた。

 

「いいじゃない。あの姿のままだと疲れるのよ。魔力使うし……」

 

「それでも、貴女は革命政権と新皇帝派に狙われている身です。彼らの手にかかる者がこのフェジテのみならず、帝国全土に潜り込んでいるのです。貴女を見つけ出すために今も動いているのです。そのことを自覚してもらわないと……」

 

「……わかってるわよ」

 

 ヤチェクの説教じみた言葉に、『姫』はぷいっと不機嫌そうに返す。

 

「狙われているなんて、そんなのわかってるわよ。でも、あんな連中にビクビクしていてもしょうがないじゃない。それに私達の目的も果たさないといけないし。だから、危険を冒してまで国家保安委員会にボリスを先に私と貴方は潜り込んだ……違う?」

 

「……仰る通りです。あの組織には誰にも知られてはいけない情報が眠っているはずですから。ただ、気をつけて頂きたいという事です。たとえエルミアナ王女に久々に会われたとしても、です」

 

「はいはい……それで、どんな用なの?まさか、わざわざ説教するために、帝都からフェジテまで来たんじゃないでしょう?」

 

 説教はもう終わりだと言わんばかしに、『姫』はヤチェクに問う。

 

 すると、ヤチェクは一通の書状を懐から取り出し、『姫』に手渡した。

 

 『姫』はそれを受け取ると、封蝋を解いて広げ、文面に目を通す。

 

「……件の組織、動くと思う?」

 

 文面に目を通した『姫』は、予唱呪文を時間差起動し、書面を焼却処分する。

 

「丁度、学院から離れるので、守りは必然的に薄くなります。私が件の組織の人間ならば、動かないという選択肢はないでしょう」

 

「……わかった。≪戦車≫が護衛についているから、護衛はそちらに任せて私は情報を収集するわ」

 

「情報?」

 

「彼らがルミアを拉致・もしくは殺害する目的。それをして一体、何をするのか……まぁ、期待はあんまりしてないけど、なんらかの情報はあるはずよ。それを探る」

 

「……全ては帝国を再建するためで?アナスタシア殿下」

 

 ヤチェクの問いに、『姫』――東セルフォード帝国連合第一皇女にて次期帝位継承者であったアナスタシアは一瞬押し黙る。

 

「……手段は問わない。相手が相手だから……内戦の状況も芳しくない今、手段を選んでいる暇なんて、ない」

 

 一瞬、葛藤が芽生えたが、決意を表した顔でアナスタシアはそう返し、この場を去っていく。

 

「……確かにな。俺達にそのような時間は残されていないからな」

 

 確かに、内戦の状況は芳しくない。帝政派で正統派と新皇帝派に分裂した今、独立派と革命政権の二つの敵とも戦わなければいけないのだから。

 

 アナスタシアの言葉を受け、ヤチェクはそう思いながらその場を去るのであった。

 

 

 

 

 

 

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