赤い国からの魔術師   作:藤氏

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原作十八巻、今日買って読んでみましたが……

帝国王室……マジかよ……と思ってしまったのと同時に、この物語を投稿しやすくなったかなと思ってしまった今日この頃。

というわけで、どうぞ。


kakskümmend seitse(第二十七話)

 

 

 

 ところで、アルザーノ帝国魔術学院で行われている授業には、二種類の授業がある。

 

 必修授業と専門講座だ。

 

 必修授業とは、文字通り生徒達の誰もが必ず単位を修得しなくてはならない授業だ。魔術基礎理論に始まり、黒魔術学や白魔術学、錬金術実験、数理や生化といった各種自然理学にルーン語学……等々、魔術の基礎を広く学ぶための授業で、これ各クラスの担当講師が授業を行う。出席は必須ではなく、学期末に行う試験にさえ合格すれば単位修得可能なので、余所のクラスの担当講師の授業に潜り込んで履修することも可能だが、基本は自分のクラスの担当講師から必修授業を受けることになる。

 

 一方、専門講座とは、学院の各講師が独自に開設する講座であり、講師自身の専門分野の魔術や研究成果についての授業を行うことになり、その内容は基礎的な必修授業と比べて、より深く掘り下げたものになる。生徒達も年次クラスを問わず、講義を受けたい者が自由に選択して、専門講座を受けることになる。

 

 レオスはアルザーノ帝国魔術学院にやってくるなり、病欠のグラムド先生の担当クラスの必修授業を受け持つ傍ら、早速この専門講座を開設した。

 

 その専門講座とは――

 

「――これまでこのツァイザーの魔力エネルギー変換効率式を解説したきたわけですが……これで、なぜ、帝国で採用されている軍用の攻性呪文のほとんどが『炎熱』、『冷気』、『電撃』の三属で占められるのか、皆さんも理解できたかと思います」

 

 魔術学院校舎西館、集まった生徒達で満員御礼な大講義室にて。

 

 期待と尊敬の眼差しを一身に集めながら、教壇に立ったレオスが教鞭を執っている。

 

 しん、と静まり返ったこの大部屋に、レオスの良く通る声が朗々と響き渡る。その声は明快で流暢でありながら、どこか甘く柔らかで、コラールのようだ。

 

 いかにも貴族然としたレオスの卓越した容姿も相まって講義に参加した女子生徒達は夢見るような表情で、その声に聞き惚れていた。

 

 凛と背筋を伸ばした威風堂々たる姿、常に余裕の微笑みを絶やさないレオスは、年頃の少女にとってはまさに、幼い頃に夢見た理想の王子様の具現だ。

 

 そんな中。

 

(……お見事)

 

 サーシャはレオスの授業を聴講して内心、感嘆していた。

 

「そう、魔力を物理的な作用エネルギー……すなわち、物理作用力へと変換する際、『炎熱』、『冷気』、『電撃』の三属がもっとも変換効率が良いのです。つまり、もっとも効率良く施術対象に損害を与えることができる魔力の使い方と言えるのです」

 

 現に、レオスの容姿や声に興味ない男子生徒達もレオスの話に夢中で聞き入っている。

 

 もし、ここに帝国連合軍の将兵が聴講していたら、なにがなんでもレオスを招聘しようとしていただろう。少なくとも帝国連合の魔導技術が飛躍するのは間違いない。

 

 もっとも、革命が起きて絶賛内戦中の今となってはそれも叶わないことなのだろうが。

 

 因みに、帝国連合では『冷気』が主力で『電撃』、『風』が補助という位置づけになっている。

 

 ――正確には、『冷気』系の魔術は純粋の魔術で、『電撃』、『風』は銃弾、砲弾や六年前に実用化されたロケットを飛ばす際の補助的な位置づけになっている。

 

 それにより爆発的な初速を発揮し、膨大な物理エネルギーを以て相手に損害を与えるという力業になっているのだが。

 

 まぁ、それはともかくとして。

 

(軍の一般魔導兵でも半分以上が、理解してない物理作用理論を、軍人でもない生徒達に理解させた……こんな人がいたなんて……)

 

 いつの間にか講義が終了していたが、サーシャはレオスがかなり有能な講師であることを改めて認識するのであった。

 

 だが、その一方で――

 

(これが、軍の士官学校とかならまだいいけど……この内容を彼らに教えるのは早過ぎじゃないかな?)

 

 サーシャは本日のレオスの講義内容を反芻する。

 

 レオスは魔術師としての戦闘能力、戦闘技術を高める一辺倒の授業であり、グレンが行っている魔術師としての総合的な力量向上を目指し、ルーン語の文法や術式構築技術、自然理学の魔術的な応用と理解、その他、魔術師に必要な幅広い知識を深める授業とは同じ理論・実践主義でも根本がまるで違う。

 

 いかに、効率よく魔力を破壊力に変換するか。いかに、効率よく人を殺傷するか。それら人殺しに特化した術を、どう運用するか――なんていうか、教える内容が場違いな気がするのだ。場所が場所なら、わざわざ血腥い部分を言葉巧みに美化しないで済むし、強大な魔術の力に対する華々しい一面のみを高々と歌い上げる必要もないはずだ。

 

 魔術を志す者のほとんどが、大なり小なり自己顕示欲の塊だ。これは旧帝国連合でも帝国でもどこの国の魔術師でも変わらない。普通の人間とは一線を画した自分、他者が持ち得ない強大な力を持った自分というものに憧れ、そんな自分にひとり悦に入る……どんな聖人君子な魔術師にも、そういった一面は存在する。

 

 だから、今日のレオスの授業は――まだ新米の魔術師に過ぎない生徒達には、さぞ麻薬のように心へ深く染み入ったことだろう。

 

 中には、【ショック・ボルト】でも、やり方次第で人を殺せることに気付いてしまっているかもしれない。

 

(……なんていうか、あの人の魔術師なら大体想像がつきそうなことなんだけど……)

 

 なんかズレているなこの人、と。サーシャはこっち――正確には、システィーナの方へ向かってくるレオスを見て、物思うのであった。

 

 

 

 

 

 所変わって、帝国保安局情報調査室、室長室にて。

 

「……またか……」

 

 ソファに腰かけているボリスは、苦々しい顔で向かい側に腰かけているヤチェクの報告を聞いていた。

 

「……これで何人目だ?同志が殺られたのは?」

 

「今日で、七人目だ」

 

 向かい側のソファに腰かけるヤチェクの顔も、いつものおちゃらけたような顔ではなく真剣で、危機感を募らせた表情でそう返す。

 

「両手、両足に銃弾を撃ち込まれ、最後に額にズドン。……同じ手口だ」

 

「……下手人は……独立派だな?イメタリア三国の」

 

 今までの手口から下手人を推測したボリスの問いに、ヤチェクはこくりと頷く。

 

「間違いない。リスアニア、ラトガレ、エースティの連中だ」

 

 イメタリア三国。

 

 東セルフォード帝国連合の構成国の中で、リスアニア大公国、ラトガレ大公国、エースティ公国の三国の総称である。

 

 文化・言語が非常に類似している東セルフォード帝国連合構成国の中、この三ヶ国はルシタニア大公による同君連合に組み込まれる前から、独自の文化・言語を持っている数少ない構成国であった。

 

 連合に組み込まれてからは、東部語の語学教育が三国でも行われるなどしているが、長年独自の歴史を歩んできた故に反発する者がこの三ヶ国では少なくなかった。

 

「そのせいもあってか、連合に組み込まれた当初から反帝国連合・反ルシタニアの機運が強いんだよなぁ、あそこらへんは……四十年前の『奉神戦争』の焦土戦術を行ってからは尚更、な」

 

 一通り報告し終えたヤチェクがため息を吐きながらそう言う。

 

「三国の独立派も数多くあるが、総じて帝国連合――特にルシタニアに対する印象はかなり悪い。この独立派の中にはルシタニア人を見かけたら問答無用で殺害する組織まである」

 

「これまで殺された同志も、一人除けばルシタニア人だ」

 

「……サーシャもルシタニア人だったな?」

 

「ああ。それと『姫』もだ」

 

「…………」

 

 沈黙。二人の間に重い沈黙が訪れる。

 

 無論、ボリスもヤチェクにも命の危険がある。

 

 しかも、下手人は同志だけじゃなく、無関係の帝国国民まで巻き込む無差別テロまで行っているのである。

 

 最近、変死体が帝国内のあちこちで頻繁に発見されており、帝国政府は全力でその怪事件の捜査に当たっている。変死体の体内から”ある物”が検出されてからは特にだ。

 

 そのため、怪事件と同時に起き始めた無差別テロの捜査は、充分な人手を確保出来ていないまま捜査に当たらざるを得なくなっている。

 

「俺達も危ないが、一番危ないのはサーシャと『姫』だ」

 

「……それに廃嫡王女がいる。下手したら、とんでもないことになるかもしれん」

 

「天の智慧研究会に、過激なイメタリア三国の独立派……」

 

 もし独立派がサーシャ、アナスタシアを狙ってフェジテで無差別テロを行ったら。

 

 もし、そこに護衛対象であるルミアが巻き込まれてしまったら。

 

 面倒なことになるのは明らかだと、二人がそう理解した途端、頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

「……一旦、ルミアから離れた方がいいのか……?いや、それだと……」

 

 一方、サーシャもボリス達と同じことを考えていた。

 

「え?サーシャ君、今、なんて?」

 

 ぼそぼそと呟いていたサーシャは、ルミアの存在に気付く。

 

 どうやら、かなり考え込んでいたらしい。

 

「ああ、いや……なんでもない。大丈夫よ」

 

「……?」

 

 小首を傾げるルミアに、サーシャは考えるのを一旦中断する。

 

 本当は何でもないわけではなく、むしろルミアに話した方がいいと思ったのだが、サーシャは言わないことにした。

 

 そもそも、これを言ってどうするんだ?下手したら、自分の素性がルミアにバレる可能性があるのに。

 

「で……ルミアはどうしたの?そんな困った顔して……?」

 

 サーシャはルミアがほんの少しだけ、思い詰めたような表情をしていたことに気付き、何か相談事があると察する。

 

 因みに、システィーナはレオスと共にどこかに去って行っていた。

 

「その……サーシャ君にもお願いがあるの。その……申し訳ないんだけど……」

 

 ルミアがサーシャに縋るような目を向ける。

 

「……?どうしたの?」

 

 サーシャはそんなルミアを見て、ルミアのお願いを聞くのであった。

 

 

 

 

 

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