短いですが、どうぞ。
結局、あの後、ルミアの誘いを断らざるを得なかった。
というのも、あの後、一人の魔術学院の講師に呼び出されたのであるからだ。
あ、決してハー……ハクション大魔王先生ではないので、ご安心を。
呼び出されたサーシャは、講師と共に人気のない校舎裏でなにやら話していた。
話の内容とは――
「……七人目か……」
「ああ、ヤコブが殺られた……国軍省から出た後に拉致られちまった……ッ!」
新米の講師として魔術学院に潜入している、旧スルビナ王国出身の元・貴族の子息であるゾラン=チョシッチが半ば狼狽えながらヤコブのその無惨な最期を語っていた。
「これで、七人……しかも、殺されたのはスルビナ人とルシタニア人……つまり、俺達も危ないぞ……ッ!」
「スルビナとルシタニア……」
これは本格的に危なくなってきた、と。サーシャはため息を吐く。
スルビナ人をルシタニア人を標的にしている、ということは、下手人はイメタリア三国の独立派だけじゃない。
ボスナ=スルビナ、およびフルヴァツカの独立派も絡んでいる。
東部諸国は帝国連合が結成されるまで、互いに互いを争い、領土を奪い合っていた。
その中で、周辺諸国の領土を切り取り領土拡張していた国が二ヶ国あった。それが、ルシタニア大公国と東部諸国の南部で中心的存在であったスルビナ王国である。
帝国連合を結成して以降も、婚姻・陰謀で構成国を属国・同君連合化していったルシタニアはもちろんなのだが、スルビナ王国も周辺諸国――特にボスナ=スルビナ王国のボスナ人勢力とフルヴァツカ王国とは歴史的に熾烈な争いをしていたこともあり、この二ヶ国からのスルビナ王国の憎悪は凄まじい。
その二ヶ国は過去に――ルシタニアはボスナ人とフルヴァツカ王国を、スルビナ王国はイメタリア三国を連合に組み込む時に、互いに援軍を送っていたのである。
要するに、イメタリア三国とボスナ人、フルヴァツカの独立派が手を組んで今回のルシタニア人・スルビナ人に対する帝国民を巻き込んだ無差別テロを行っているということである。
「……数が多過ぎる」
サーシャは、予想外の独立派の結束に、頭を抱えてため息を吐いた。
「どうする、サーシャ?何か対策を打たないと……ッ!」
「……そうだな」
もし連中がサーシャとゾランの身元を特定したら、何しでかすかわかったものじゃない。学院内で、というのは、結界があるから難しいかもしれないが、前回の天の智慧研究会による自爆未遂テロの件もある。正直、油断できない。
「……ボリスに連絡を取ってみるから、ひとまずは自分の身を守りながら、お互いの連絡を密にしよう。正直、この学院に留まった方が理想的なんだが、そういうわけにもいかない。正当な理由がないと、怪しまれちまうし……とにかく、周囲に気をつけていくしかない」
「そ、そうだな。そうするとしよう」
そう言って、ゾランはそそくさと去って行った。
「…………」
なんというか、彼、もっとしっかりした方がいいと思うのは自分だけなのだろうか?いや、彼は生粋の学者肌だし、現場で身体張るというより、技術的な面で後方支援するタイプだからああいう性格でも多少は問題ないはないんだろうが。
それに、生徒・講師・教授陣からの評判もけっこう良いらしいから、もう少し自信持っていてもいいような気がする。
そう物思いながら、サーシャは教室に戻ろうとして――
「システィーナ達の方、どうなったかな?」
あれからレオスと共にどこかに行ったシスティーナと、二人の後を付けているであろうグレン、ルミア、リィエル達は結局どうなったのか、気になりながら教室に戻るのであった。
そして、その後――
「……なして、そうなった?」
「うーん?」
放課後。
偶然ルミアと二人っきりになったサーシャは、システィーナとレオスのことと、その後、グレンが二人の間に乱入した話しをルミアから聞いたサーシャは、あまりにも予想斜め上を行く顛末に、ジト目で呆れていた。
あれからシスティーナはレオスと何か話していたらしい。
何を話していたのかは、二人の周囲に召喚していた使い魔を通じて聞いていたグレンしか知らないのだが、ルミア曰く、最初はからかうネタが増えたと面白がっていたらしいが……
その後、突然怖い顔をして、システィーナとレオスの間に割って入ったらしい。
突然、何があったのかはサーシャもわからないが、少なくともレオスが何かグレンにとって気に入らない話しをしていた可能性が高いと判断した。
まぁ、そこからは修羅場になったのは容易に想像できたし、実際そうなのだが――この時、システィーナの口から飛び出した爆弾発言が事態を予想斜め上の方向へ事態を動かしてしまうことになってしまう。
なんと、システィーナは自分はグレンと将来を誓い合った恋人同士とレオスに爆弾宣言したのである。
もちろん、これはレオスの結婚を断るための口実であり、グレンとシスティーナは付き合ってはいない。
この発言に、グレンには関係ない話しだと余裕を崩していなかったレオスも流石に、動揺する。
これで諦めてくれるのかと思いきや――
「――それで決闘に発展するなんてね……どうしてこうなった」
嘘から始まったグレンとレオスの決闘に(しかも、言い出しっぺのシスティーナはやけにピンポイントなリアクションをしていたため、妙な信憑性をレオスに与えてしまっていた)、ため息を吐くサーシャ。
しかも、グレンも逆玉できるじゃなーい☆ってのたまったらしいから、なんかもう……拗れに拗れまくっていた。
「しかも、先輩まで逆玉って言っちゃって……大変なことになってしまったね」
「うん……本当に、どうなるんだろう?」
苦笑いしているルミアだが、どこか不安に揺れていた。
「先輩が逆玉って言っていたということは……ひょっとしてレオスはシスティーナに結婚の話でも持ち込んだのかな?ほら、システィーナは法的に結婚可能な年齢だし、上流階級層の婚姻は一般と比べると早いから、形式上、不自然じゃないし」
「私も実はよくわかってなくて……システィとレオスさんが話は先生だけ魔術で聞いていたから……多分……」
「まぁ、実際婚約者って公言していたしね。レオスさんは」
だから別に結婚の話が出ても、不思議ではいのだが。
「…………」
サーシャはレオスのこの行動に、奇妙な違和感を感じていた。
(だとしたら……なんでそんなに急ぐんだろうね?)
もしレオスが結婚を申し込んだとしたら、システィーナはもちろん断っているはず。
まぁ、本人は気付いていないが想い人がいる以上、断るのは不思議ではない。
だが、その後のグレンが間に割って入った時の様子を聞くに、レオスはそれでもシスティーナに結婚を迫っていたとも読める。
(レオスは……まぁ、自身が手掛ける軍用魔術研究により専念できるようにしたいからとか言ってるんだろうけど……)
確かに、レオスの言い分はわからなくもない。
隣国であるレザリア王国との国際緊張は高まり続けているし、東部では革命政権――東セルフォード連邦が旧東セルフォード帝国連合――帝政派との内戦で優位になりつつあり、脅威が増しつつある昨今、次世代の軍用魔術研究・開発の重要性は高まっていた。
レオスはこの軍用魔術の研究が専門分野みたいだから、一時代築くための支えが必要……という意味で、幼なじみであるシスティーナに結婚を迫ったのだろうが……
(なんか……妙、だね……)
そうサーシャが難しそうな顔をして物思うと。
「……ひょっとして、サーシャ君もレオスさんから嫌な予感する?」
難しそうな顔をしているサーシャに何かを察したのか、ルミアがそう問うと。
「……杞憂であればいいんだけど、正直、そんな感じ。どう言えばいいのかわからないけど……なーんか、嫌なものを感じるんだよね。例えば……白金魔導所所長だったバークスのような……あれと似ているような感じ。ルミアも?」
「私も同じ感じで……会ってまだほんの少ししか経ってないけど……人格的に申し分ない人だというのはわかるんだけど……でも……あの人は、何か……」
「そう……」
同じ嫌な予感を感じていたサーシャとルミアが顔を見合わせる。二人とも不安そうな、物憂げな、そんな顔をしていた。
「……何も起こらなければ、いいんだけど……」
「うん……気のせい……大切な親友が見知らぬ男性に奪われてしまうのかも、と思っているだけ……むしろ、本当にそうであった方がいいような……」
フェジテで頻発している物騒な事件。そして、帝国でちらほら起き始めている東部人――ルシタニア人とスルビナ人を狙った無差別テロ。
色々と周辺がきな臭くなっている中、サーシャは物憂げな表情で空を見上げるのであった。
そして、複数の男女からなる見知らぬ集団が覗き見していることをこの時、サーシャは気付いていなかった。