赤い国からの魔術師   作:藤氏

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メリークリスマスです。

今日、12月25日はクリスマスですが、実はソ連が崩壊した日でもあります。

それでは、どうぞ。


kolmkümmend(第三十話)

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ……夢を見る。

 

 それは、今となっては遠い日の物語。

 

 まだ革命が起きる前の、平穏で皇女ゆえに不自由で、だけど幸せな家族に囲まれていた頃の記憶。

 

 私の父は、東セルフォード帝国連合第四代皇帝パーヴェル一世で、母は北西端に位置するアルザーノ帝国女王アリシア七世の妹マリアベル。このなんともまぁ、豪勢な両親の元に生まれたから、私は何かと注目の的となっていた。

 

 片や、広大な領土と数ヶ国も支配している『十七ヶ国の君主』。片や、魔導大国から嫁いできたアルザーノの美しき姫君。

 

 東セルフォード帝国連合皇族の血とアルザーノ帝国王家の血――大陸で絶大な影響力を誇る二大国の王家の血を持っているのは、世界広しといえど、私と姉妹ぐらいだろう……今は私だけだけど。

 

 そんなわけで、父から皇帝の座を引き継ぐことになったら、私は今までの歴代皇帝の中でも最も世界に影響を持つ皇帝になるのではないのかと、小さい頃から言われていた。それで、隣国のレザリア王国がなんやかんやと言っていたらしいけど。

 

 とにかく、そんな風に両親以外の宮殿内の人達から言われまくっていたから、いつしか私は、皇帝になったら世界を守りたいとか思うようになり、世間知らずな私はそれを使用人とか侍女とかに言いふらしていたような気がする。

 

 そこには、母の故郷でもあるアルザーノ帝国も入っていた……というか、当時それを口に出していた時の私の知る世界は、東セルフォード帝国連合とアルザーノ帝国ぐらいが世界だと思っていた。

 

 もちろん、あの時初めて会った従姉妹――エルミアナに対しても言いふらしていたような気がする……今思えば、子供ながらとんでもない発言をしていたと思う。

 

 とにかく私はそんな皇帝になりたくて、子供ながらにそんな憧れを抱いていた。

 

 子供ながらの何とも甘い考え……現実は帝国連合はかなり嫌われていたにも拘らず、必死に努力していた。子供なりに必死に努力すれば『世界を守る皇帝』になれる……と思っていた。必死に頑張れば、なにかあった時に助け、皆を平和に安寧に暮らせるようにする皇帝になれる……と信じていた。

 

 そんな甘々の激甘な理想を胸に、私は努力して……

 

 そして、皇帝になれる道は革命によって絶たれた。

 

 それだけでなく、この革命で私は、家族を失った。

 

 家族も失い、帰る場所も無くなった私は共に逃げ延びた部下と共に、帝国連合内をあちこち放浪していた。というより、その後に起きた内戦でそうせざるを得なかった。

 

 そして、プレスコフで滞在していた時、私は重大な二択を迫られた。

 

 一つは、国外に亡命してそのまま余生を過ごすか。その場合、亡命先は母の祖国――アルザーノ帝国になるだろう。

 

 もう一つは、亡命せずに革命政権と独立派という二つの敵と戦うか。

 

 正直、その時の私は迷っていた。だって、戦うって、私にはそんな力なんてない。

 

 だからといって、やはり心の中ではまだあの夢が捨てきれていなかった。

 

 悩んで、悩んで、悩みまくって……私は……亡命しなかった。

 

 やはり捨てきれなかったのだ。『世界を守る皇帝』という甘ったるい夢を捨てきれなかった。

 

 内戦で帝政派が正統派と新皇帝派に分裂してて、革命政権側に押されている現状を理解しつつも……かなり厳しい状況でも、そのか細い可能性があるならばとそれに縋ったのだ。

 

 だから、私は一族が古くから――ルシタニア大公として名乗り出る前から、とにかく古くから持っているある家宝を竜殺しの槍と言われる槍を持って――

 

 その時に、私は見知らぬ男――多分、幻覚かなんか見て、それで――

 

 …………。

 

 ……。

 

 

 

 

 意識の隅を微かに突く、小鳥の囀り。

 

 目蓋に朝の日の光を感じ、徐々に夢の中を彷徨う意識が浮上していく。

 

「……………」

 

 むくりと、アナスタシアが無言でベッドから身を起こす。

 

 ここはアナスタシアの自室。皇女なのに、ベッドに机などと必要最低限の家具しか揃えておらず、殺伐としていた。

 

「………夢、か」

 

 アナスタシアが身を起こし、ベッドから抜け出すと、机に置いてあった写像立てを取る。

 

 写像立ての中には、五年前に撮った家族――父と母、アナスタシアと次女と三女が揃って撮影された写像があった。

 

 自分以外、もうこの写像とアナスタシアの記憶の中にしかいない家族。

 

 外では厳格で威厳のある皇帝を振る舞いながら、家庭では優しくて家族想いだった父。

 

 アナスタシアと同じく元からやんちゃな性格でありながら、優しく、それで切れ者だった母。

 

 やんちゃなアナスタシアとは対照的に、控えめで手先が器用であった第二皇女、タチアナ。

 

 穏やかな気性であったが、母親のティーテーブルから幾つかのビスケットを盗んだこともあるなどいたずら好きな一面があった第三皇女、マリア。

 

 皆、今はもういない。革命で赤軍に殺された。

 

「……どうして、皆いなくなったの?」

 

 写像立てを机に置いて、アナスタシアはベッドに腰かけて呟くのであった。

 

 

 

 

 グレンとレオスの決闘当日の午後。

 

 昼食を済ませた後、今回の魔導兵団戦演習に参加する生徒達は、駅馬車を使ってフェジテ東門から東へ延びるイーサル街道を行く。やがて街道の北側に見えてきた広大なアストリア湖南端付近の湖畔に、全生徒が集合する。

 

 湖に面したほとりに立ち並ぶ緑の木々と色とりどりに咲いた花。遠くに望む山の稜線にかかった白化粧。冷たく澄んだ湖の水……平時ならばのんびり散策を楽しみたい場所だ。

 

 この湖畔から北西部にかけて、学院が保有する魔術の演習場が広がっているのだ。

 

「しかしな……グレン先生……マジでマジなのかな……?」

 

「システィーナのやつ、もし先生が勝ったら、どうする気なんだ……?」

 

 湖畔に集合した生徒達が、システィーナへちらほらと視線を向ける。

 

 その視線を肌で感じていたシスティーナは、居心地悪そうに身じろきするしかない。

 

「流石に、グレン先生は口で言ってるだけだろ……?」

 

「いやいや、本気かもしれないぞ?だってグレン先生だし……」

 

 ロッドとカイが、ひそひそとグレンの真意を探っている。

 

「つーか、そもそも先生はどうしてレオスに決闘なんか吹っかけたんだ?いくら逆玉狙いっつっても、あの物臭がりがそんな面倒事に首を突っ込むのも妙じゃねーか?」

 

「まさか……先生、本気でシスティが好き……なのかなぁ?」

 

「うーん……あの方は、もっと年上の女性がの方が好みのような気がするのですが……」

 

 カッシュが誰もが薄々思っている根本的な疑問を口にし、リンがなぜかほんの少し悲しそうに推察し、テレサがその推察の違和感を指摘し……

 

「きゃーっ!きゃーっ!禁断の恋愛よーっ!生徒と先生の禁断の恋愛よーっ!」

 

「ウェンディ……君、そればっかりだね……」

 

(……すげぇ、はしゃぎっぷり。ていうか、お嬢様言葉忘れてますわよ、ウェンディさん)

 

 極上のゴシップを前に大はしゃぎなウェンディに、セシルがため息混じりに応じ、サーシャは頬を引きつらせながらそう思った(因みに、ギイブルはそんな連中ガン無視で、少し離れた場所で本を読んでいる)。

 

 何はともあれ、魔導兵団戦前の緊張を紛らわせるためか、生徒達がひっきりなしに、噂話に花を咲かせていた……その時だ。

 

「うるさいぞ、貴様ら!静粛にしろ!」

 

 ハー……ハンムラビ法典先生が集合する生徒達の前に現れ、高圧的に一喝。

 

 途端、しんと静まり返る生徒達。

 

 ギイブルが忌々しそうに、ぱたんと本を閉じた音が、寒々しく響いた。

 

「早速、これから魔導兵団戦を始めるが……まぁ、生徒諸君らはこの魔導兵団戦演習に参加するのは初めてだろうから、この私が改めてルールから説明してやろう」

 

 今回の演習において、審判・運営を務める講師陣の一人、ハ……ハ……ハンコック先生が尊大に言った。

 

 まず、使用可能な魔術は初等呪文のみ。微弱な電気線を飛ばして相手を感電させる【ショック・ボルト】、激しい音と振動で相手を無力化する【スタン・ボール】など、殺傷力が低い学生ようの攻性呪文だけなため、大きな怪我をする心配はない。

 

「それらの呪文を、極めて殺傷能力が高い軍用魔術とみなし、我々立会いの審判員から致命的な負傷を負ったと判定された者が『戦死』として戦場から除外されていく。万が一の事態に備え、学院の医務室に常勤している法医師先生も、この演習に立ち会ってくれている。遠慮なく競い合うがいい」

 

「はい、もし怪我をされた方は、遠慮なく申し出してくださいね?」

 

 学院の法医師――柔らかな髪を緩く三つ編みにした、線の細い、いかにも儚げな印象の年若い美女――セシリアが生徒達に手を振っていた。

 

(この人、大丈夫なのかな?その……技量面じゃなくて……赤い液体をリバースしないよね?ね?)

 

 男子達の多くが、セシリアの微笑みに注意が集まりつつある中、サーシャは心配そうな顔をする。そして、ハー……ハー……、……ハーッハッハァが簡易的なボードを乱暴に叩いて、注意を引き戻すのであった。

 

「……どれ?」

 

 サーシャは、簡易的なボードに張ってあった地図をまじまじと見る。

 

(この地図は、北東に環状列石遺跡が一つで、南西にも置ないような列石遺跡が一つ。確か、ここがそれぞれのチームの根拠地になるんだよね。で、北東がレオスの陣地で先輩の陣地は南西、と)

 

 今回の演習内容は、生徒達は指揮官である講師の指揮に従い敵根拠地へ進軍、交戦、敵の根拠地を制圧する事。つまり、どんなに敵を撃破しようがしまいが、先に本陣を取られたら敗北となる。あくまでも主要な目標は敵陣の制圧である。

 

(そして、地形は……中央の平原と、北西の森と、東の丘のこの三つ。ていうか、これ以外の進軍ルートはない)

 

 で、まずは中央平原のルートなのだが。

 

(もっとも早く敵拠点に到達できるのが、このルート。けど、それはお互い様だから力尽くの突破はお勧めできない、と)

 

 次に北西回りのルート。

 

(この森は、ここでの主導権が握れたら、中央の平原に攻めるのは容易だし、守りも容易い。ここを取るか取らないかで、平原の部隊の運命が決まる)

 

 最後に東回りの丘ルート。

 

(ここは狙撃にはもってこいの拠点だね。この高地さえ抑えてしまえば、まぁ、厄介なことこの上ない……んだけど、今回使うの魔術に遠距離狙撃の魔術はないし、敵根拠地からは遠回りのルートになってしまうから今回はそこまで重要じゃないか)

 

 と、あらかた地図を見終えたサーシャは、しばらく考え。

 

「中央から突撃するか、森を迂回して突撃するか、遠回りして突撃するか……どっちがいいのかな?白兵戦に持ち込めばワンチャン……」

 

 ぶつぶつと突撃を連呼するサーシャに――

 

((((と、突撃?え?突撃?白兵戦?……え?))))

 

 胸中は戸惑いで一致しながら、サーシャの呟きを聞き流すグレンのクラス達なのであった……

 

「あ、あの……レオス……私……」

 

 一方で視線で火花を散らし始めるレオスとグレン。そんなところにシスティーナがレオスの下に、気まずそうにやってくる。

 

「気にしなくてもいいですよ、システィーナ」

 

 システィーナの言いたいことを察したレオスが、優しくシスティーナに笑いかける。

 

「貴女は、貴女のクラスのために全力を出してください。私を気にかける必要はありません。貴女が立ち向かってくるのも、まだ試練なのでしょう……私はきっと、それすら超えて勝利を、そして貴女を勝ち取ってみせます。だから安心してください」

 

「レオス……」

 

 そんな、どこか甘いやり取りがなされるのを見た、サーシャは。

 

「……キモ」

 

 冷めた眼でレオスを見て、毒々しくそう吐き捨てた。

 

 それだけじゃない、やはりレオスからはなんか嫌な感じがしているのだ。

 

 あの甘いマスクと歯に浮くような言葉を言う連中は、大抵、裏ではその女性に利用価値を見出しているということだ。逆に言うと、利用価値がなくなるとその女性を容赦なく捨てる。レオスからは薄々とそんな感じが見られるような気がした。

 

(……これ、ルミアもやはり……)

 

 今のレオスのことをルミアにこそっと聞こうと、ルミアの方を向くが――

 

「俺、上手く逆玉に乗れたら何しよっかなぁーっ!?なにせ、もう働かなくてもいいんだしなーっ!遊んで暮らすぜ、わっはっは!」

 

「あはは、先生ったらもう……まだ、勝負は始まってもいないんですよ?」

 

「お、そうだ!せっかく逆玉で金に余裕ができるんだし、ルミア、お前を俺の妾にしてやろうか?んー?」

 

「えっ?私が先生のお妾さんですか?……ふふっ、それもいいかもしれませんね?期待してます、先生」

 

「めかけ……?よくわからないけど。ルミアがめかけになるなら、わたしもなる」

 

「ふっ……モテる男はつらい……まぁ、任せとけ、任せとけ!」

 

 などと、ルミアやリィエルを相手にグレンがロクでもないことをのたまっていたのを見た、サーシャは……

 

「おぉう……」

 

 満更でもないルミアに、何も言えなくなり……

 

((((やっぱ、俺達、負けた方がいいんじゃね……?))))

 グレンのクラスの生徒達はため息混じりにグレンとレオスを見比べて、その胸中を、見事に一致したのであった。

 

 

 

 

 

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