赤い国からの魔術師   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


kolmkümmend kaks(第三十二話)

 

 

 

 

 その時、平原の戦況を観察していた審判役の講師達は、驚愕に目を剥いていた。

 

二人一組(エレメント)・一戦術単位編成ですと……ッ!?」

 

 そう、グレン陣営の生徒達は魔導兵運用の超基本・三人一組・一戦術単位を誰も組んでいない。攻撃前衛と防衛後衛、その二つのポジションで構成される、シンプルな二人一組・一戦術単位を組んで、レオス陣営に立ち向かっていたのだ。

 

 中央平原の戦場において、レオス陣営は十八人、グレン陣営は十二人。

 

 一見、レオス陣営の方が頭数が上だが……しかし、それぞれ戦術単位に換算すると互いに六戦術単位……つまり、互角である。

 

「そんな馬鹿な!」

 

 講師達の一人が、声を荒げた。

 

「確かに戦術単位は互角だが、なぜ戦況まで互角になる!?三人一組・一戦術単位は二人一組・一戦術単位より圧倒的に強い編成なんだぞ!?」

 

 その講師が言うとおり、戦場の統計を取れば、敵撃破率・味方損耗率共に、三人一組・一戦術単位の方が優れた成績を残している。

 

 そもそも二人一組・一戦術単位などというものは、味方が損耗した状況で、三人一組が組めなくなったときに『仕方なく』やる戦術編成なのだ。

 

「くっ……やってくれたな、グレン=レーダス……ッ!」

 

 その時、状況の裏に潜む落とし穴を察したハー……ハム先生が、忌々しそうに言った。

 

 東セルフォード帝国連合軍の将兵の間で、こんな言葉があった。

 

 曰く、一番恐ろしくない敵は生粋の研究者に率いられた素人の獅子、と。

 

 なぜなら、研究者は実戦経験に裏打ちされたものでない、教科書どおりの戦術を自信満々に配下の兵に指示するからだ。

 

 逆に、実戦経験を積んで、どんな状況でも勝利を掴む……勝利の嗅覚に優れている軍人に率いられた獅子は厄介な敵であった。例え、獅子が素人であろうとも、である。

 

 さて、それを踏まえて考えてみればこの摩訶不思議な戦況も、ある程度納得いくものであった。

 

 現代の魔導兵の戦いはチーム戦が基本中の基本である。要は、いかに、チーム内で息を合わせられるかが重要になる。

 

 そして、二人一組と三人一組……どちらが息を合わせやすいのかというと、断然、前者の方が合わせやすい。

 

 つまり、互いのチームの練度の問題なのだ。今回の場合、実際に前線で戦うのは、魔導兵戦術について何一つ知らないズブの素人である生徒達であり、たった数日で高度な連携を要する三人一組・一戦術単位など、ものに出来ないのである。なにせ、プロの魔導士でも長期間の訓練が必要なのだから。

 

 確かにレオスの指導力は素晴らしく、指導を受けた四組の生徒達は三人一組・一戦術単位が一応、形にはなっているが、要所でどん臭く、攻守の切り替えがもたついている様子が多々ある。もっとも重要なポジションである支援後衛が有効的に働いていなかったり、はたまた何もできず、手持ち無沙汰な者すらいた。

 

 それに対し、グレン陣営の生徒達は二人一組・一戦術単位でよどみなく攻守を切り替えて、繰り返し呪文を行使していたものだから、レオス陣営の三人一組・一戦術単位はかなり無駄のある戦術になっていた。

 

 レオスや、恐らく講師陣も論文や統計データを丸呑みにしてしまい、実際に演習を行うのは素人の獅子――つまり、生徒だという単純な事実を失念していたのだ。

 

 とはいえ、最初から二人一組・一戦術単位で訓練して臨むというのはいくら演習でもかなり大胆な手であるし、より難易度の低い二人一組を組ませるにしたって、たった数日でどれだけの練度になるかわかったものではないから、それならばと三人一組でやらせてしまうもの。

 

 だが、一部の者しか知らないが、グレンは元・魔導士だ。それも実戦経験豊富な魔導士である。不利な状況で、なんとしても勝利を拾う……その嗅覚に優れていたのである。数日間しか訓練期間がないなら、二人一組の方が強い……グレンはそれを感覚的に察していたのだ。

 

 一方、レオスは生粋の研究者であり、実戦経験はほとんどない。データや論文を読みあさり、魔導兵の戦術に関する造詣はグレンを圧倒的に上回るが……実戦経験に裏打ちされたものではない。その結果、魔導戦術の教科書どおり三人一組を選択。

 

 この結果がこれだ。ややレオス陣営が押してはいるが……この頭数差で、この一進一退の互角の状況――通常あり得ない戦況となってしまっているのだ。

 

 さて、この拮抗した戦況を見て、グレンが次に取る一手はハーヴァード大先生でもわかりきっていているのであって……ていうか、サーシャでもやるのであって――

 

 

 

 

 

「……というわけで……行きましょうか」

 

 どのルートでも戦況が拮抗しているのを遠見の魔術で確認するや否や、平原と森に投入された予備戦力の中(丘は、彼女がいるから、放っておく)。

 

 サーシャは平原ルートにいる敵を掃討するため、一人で敵陣に突撃した。

 

 帝国連合製の対抗呪文【ニージュ】を、前面を中心に180度展開した。

 

 この【ニージュ】。複数の魔術障壁で圧縮された無数の非常に小さな氷のナイフが内蔵されており、攻性呪文が【ニージュ】に着弾すると、破壊された障壁から無数のナイフが飛び出して攻性呪文を無効化される。

 

 一度攻撃を受けると破壊されるため、【エア・スクリーン】のように一度展開したきりではなく毎度毎度破壊された部分に障壁を展開しなければならないが、それも、熟練すると素早く展開することができる。

 

 サーシャも【ニージュ】を素早く展開できるわけだから。

 

「突撃、突撃ィッ!」

 

 平原に陣取っているレオス陣営までの距離、二十数メトラを駆け抜ける、駆け抜ける。

 

「ら、≪雷精の紫電よ≫――ッ!」

 

「≪雷精の紫電よ≫――ッ!」

 

 突然、一人が突撃したことに、レオス陣営の生徒達はぎょっとして慌ててサーシャに向けて攻性呪文を一斉に撃ちまくる。

 

 紫電が幾条もサーシャに殺到する。

 

「≪雷精の紫電よ≫――ッ!」

 

 撃って、撃って、撃ちまくる。撃ちまくるのだが――

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」

 

 次々と【ニージュ】を展開しまくる。

 

 二十数メトラが急速に縮まる。

 

「これならどうだ!≪虚空に叫べ・残響為るは・風霊の咆哮≫――ッ!」

 

「≪大いなる風よ≫――ッ!」

 

「≪白き冬の嵐よ≫――ッ!」

 

 点で駄目なら面攻撃と言わんばかりに、今度は【スタン・ボール】、【ゲイル・ブロウ】、【ホワイト・アウト】などの広範囲を攻撃する呪文が飛ぶ。

 

 サーシャに向かい【ニージュ】に着弾・炸裂する呪文達……

 

 このような面攻撃を喰らったら、即戦死判定になるだろう。なにせ、最初の面攻撃を防いだとしても、その後の攻撃を防ぐ事は通常出来ないのだから。

 

 ……通常なら。

 

 現に――

 

「――≪雷精の紫電よ≫――ッ!」

 

 呪文から炸裂した地点から無傷のサーシャが現れ、一条の紫電が一人の生徒に向かって飛来し、仕留める。

 

「な――ッ!?」

 

 仕留めたはずのサーシャが無傷で現れくるという予想外の出来事に、硬直してしまうレオスの生徒達。

 

 その隙に、サーシャは【ニージュ】を解除して残り数メトラを駆け抜け――

 

「おっ邪魔しまーすッ!」

 

 そのまま、レオス陣営の前線を突破して背後に回り、振り返りざまに紫電を一条放ちさらに一人仕留める。

 

「さて、ダヴァイ・ネムノゴ・ポイグラーエム・ニィ・タクイェ(少し遊びましょ)?」

 

 たった一人で前線を突破してしまったサーシャ。

 

 そんな超絶的な突破力を生徒達に見せつけたサーシャに対し。

 

「ば、化け物だ……」

 

 その強大さ、得体の知れなさ、桁外れの動きの東部人に、レオスの生徒達は恐怖に恐れ戦くのであった。

 

 

 

 

 一方、丘でも――

 

「無理です!丘の拠点の制圧なんて不可能です!僕達には無理です!」

 

 レオス陣営の丘ルート制圧隊の隊長、リトは脂汗を滝のように流しながら、通信の魔導器を耳元に当てていた。

 

『どういうことですか!相手はたった一人なのでしょう!?』

 

 咎めるようなレオスの声が、通信の魔導器から聞こえてくる。

 

「で、でも……相手は一人ですけど……、ば、化け物です!」

 

 悪魔を見るような表情で、リトは前方二十数メトラ先に佇む敵兵の姿を見つめる。

 

 そこに、ちょこーんと佇んでいる少女は……リィエルだった。

 

 サーシャも生徒達にとっては恐ろしいことこの上ないのだが、リィエルの方がある意味で恐ろしい相手に映るかもしれない。

 

 まず、攻性呪文が当たらない。かすりもしない。

 

 眠たげに左右へふらふら揺れるだけで、リィエルは飛んでくる全ての紫電をひょいひょいかわしてしまうのだ。なんと対抗呪文を使わずに、である(実際には、この魔導兵団戦で使用可能な対抗呪文を、まともに扱えないだけだが)。

 

 で、今度は面攻撃の呪文をリィエルにぶつけるのだが――

 

 ぷん、と残像が横ぶれして、一同の視界から消えるリィエルの姿。

 

 その一瞬で、リィエルはレオス陣営の生徒達の死角へと高速移動したのである。

 

 その結果、誰もいない空間を、大分遅れて虚しく炸裂する呪文達……

 

「な……なんなんだ、こいつ……」

 

 後、何百回、何千回呪文を撃ったところで捉えられる気がしなかった。

 

 しかも、これだけ超絶的な回避能力をもってレオス陣営を翻弄しながら、リィエルは何もしてこない。攻性呪文一つ撃ってこないのである(実際には、この魔導兵団戦で使用可能な攻性呪文を、まともに扱えないだけだが)。

 

 つかず、離れず、レオス陣営の生徒達の前に姿を見せ続けるリィエル。

 

「う……うぅ……」

 

 その意味不明さ、得体の知れなさ、不気味さ、桁外れの動きから、お人形さんのような小柄な少女がとてつもなく巨大な化け物のように見えてしまう……

 

 

 

 

 こうして、平原と丘はサーシャとリィエルという、化け物達の独壇場になるのであった(二人は現役の魔導士だから、生徒達を圧倒するのは当然といえば当然なのだが、ルミア、システィーナ以外の生徒達は知らない)。

 

 

 

 

 

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