赤い国からの魔術師   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


kolmkümmend kaheksa(第三十八話)

 

 

 

 

「……貴方達は一体、何者ですか?」

 

 銃剣を突きつけられた当初、ルミアは思考が真っ白になって硬直するが。

 

 やがて、落ち着きを取り戻したのか、凛然と……恐れず、屈せず、ルミアが問いを投げる。

 

「貴方達は何が目的なのですか?サーシャ君を……どうするつもりなのですか?」

 

 静かな不屈の意志を燃やしつつ、独立派の男を睨み付け……

 

「返答次第では……私、許しませんから」

 

 ルミアの気丈な瞳が、凛と真っ直ぐに、男を射貫いていた。

 

 仮初にもその身に流れる王家の血の為せる業か。

 

「ッ!?」

 

 今にも殺されそうにも関わらず、ルミアが纏っているその風格と気品に、その一瞬、男は気圧され、たじろく。

 

 だが、男はすぐに我に返って、ルミアを睨みつける。

 

「……ガキが、気に入らねえ目しやがって」

 

 こんな年下の小娘に一瞬でも呑まれてしまったことに、耐え難い屈辱を感じたらしい。

 

 男は据わった目で、身動きの取れないルミアの下へと歩み寄っていく。

 

「いいから、さっさと吐きやがれ。ルシタニア人のガキはどこだ?ああ?……吐かないとブッ殺すぞ?おいコラ」

 

 男はルミアの細首を片手で鷲掴みにし、締め上げていく。

 

「さぁ、吐けやゴルァ!殺すぞ?おら、さっさと吐きやがれ」

 

「かはっ……あっ……ぐっ……うぅ……」

 

 苦悶に喘ぐルミアの顔を、男は嗜虐に満ちた愉悦の目で覗き、さらに締め上げる。

 

 常人ならば、本能的な恐怖に呑まれてしまい、自己の保身のために何らかの情報を吐いてしまうかもしれない。

 

 だが、自身の身に危険が迫っているにもかかわらず、ルミアはサーシャのことを答える気はなかった。

 

 そもそも、サーシャがどこにいるのか知らないし、知っていても答えてはいけない。

 

 締め上げ酸素を求めて身体が悲鳴を上げる中。

 

 ドシュ。

 

 不意に、肉が鋭い刃物か何かが穿つような音が響き渡った。

 

 突然、締め上げから解放されるルミア。酸素を求めて激しく咽る中、ルミアは自身の身体には何も異常がなかった。

 

 異常があったのは、ルミアを締め上げた男の方だ。男の胸部から氷の剣が突き出ている。否、背後から貫かれている。

 

 男は自身の身に何が起きたのか理解できず、口から血を流しながら胸部を突き破ってきた氷の剣を見下ろす。

 

 緩慢な動きで背後を振り返ると、そこにはルミアと同じアルザーノ帝国魔術学院の制服を着ていた、アメジスト色の瞳と白髪の少年が立っていた。

 

 そう。男達が先日、中央区の路地裏で殺害し損ねたルシタニア人の少年――サーシャ自らが男の前に現れたのだ。

 

 ……もっとも、先ほどまでルミアに銃口を向けていた三人はすでに血の海に沈み、息絶えていたし、男も致命傷を負っていたのだが。

 

「…………、……め……ッ!」

 

 口から吐血しながら、男はサーシャに何か言おうとして、そして倒れて息絶えた。

 

 ルミアはサーシャを見上げる。

 

「間に合った……ルミア、怪我はない?」

 

 かなり急いでいたのだろう。息を切らせたサーシャがルミアの下に駆け寄り、手を差し伸べる。

 

 ふと、サーシャの顔を見る。

 

 まだ、意識がしっかりしていないのか、どうかはわからない。

 

 だが、サーシャの顔を見た時、やはり従姉妹――ヤンチャで強気だったあの子に似ていたような気がして……

 

 いや、実際に従姉妹に似ていて。

 

 だからなのか――

 

 ルミアは思わず、サーシャに――

 

「……()()()()……?」

 

「――ッ!?」

 

 本当になぜかルミアの口からそんな言葉が出てきた。

 

 あまりにも予想外の言葉に、サーシャは差し伸べた手をぴたりと止め、目を見開くのであった。

 

 

 

 

 サーシャは、ルミアからの予想外の言葉に驚愕のあまり、硬直していた。

 

 西区から中央区へ全力で駆け抜け、独立派に締め上げられていたルミアをすんでの所で救出したサーシャ。

 

 四人の独立派を始末したサーシャは、解放され酸素を求めて咽ていたルミアに手を差し伸べようとしたのだが――

 

「……ナーシャ?」

 

 そう聞いた瞬間、サーシャは驚愕のあまりに差し伸べた手を止め、硬直していた。

 

 え?ナーシャ?何言ってるの?俺はサーシャだよ。

 

 ……と、普通ならばそう言えばいいのだが、サーシャはそう言わずに固まった。

 

(……なんで?)

 

 むしろ、サーシャは内心でとはいえ狼狽えていた。

 

「え?な、何……言ってるの……?そんなわけ……」

 

 サーシャは、ナーシャであることを拒否するのだが……もうすでに遅かった。

 

 ルミアは機微に聡い子だ。

 

 普通にやんわりと拒否すればいいのに、狼狽えながら拒否するサーシャを――ましてや、さっきのリアクションを見てしまったルミアは、サーシャをじっと見つめる。

 

「……サーシャ君。貴方は……誰なの?」

 

 そう言って見つめてくるルミア。サーシャが本当のことを話すまで、てこでも動かないといって強い意志が見て取れた。

 

 その真摯な瞳を前に、サーシャも黙ってしまう。

 

 そばらく、重い沈黙が、二人の間にのしかかり……

 

 ……やがて。

 

「ねぇ……どうして、貴女って普段はほんわかしてるのに、こういう時に鋭くなるの?」

 

 根負けしたのか、サーシャは深いため息を一つ吐き、そんなことを呟いた。

 

 今までとは違った口調でサーシャはぱちんと、指を鳴らす。

 

 サーシャの姿が――変わる。

 

 白い髪が腰まで伸ばした、少女の姿に。アメジスト色の瞳。

 

 その姿は――ルミアの従姉妹で東セルフォード帝国連合第一皇女、アナスタシアであった。

 

「……ナーシャ。じゃあ今まで……」

 

「だから言ったでしょ?”貴女を見守っているって”」

 

 まさかこんなに早くバレるなんて思ってなかったけど、と。物思いながら再び手を刺し伸ばすサーシャ……ならぬ、アナスタシア。

 

「でも、どうして――」

 

「話は後。それよりも……来るわよ。新手が」

 

 ルミアの疑問を途中で遮り、アナスタシアは振り返る。

 

 建物の陰からさらに複数の人間がちらほらと現れる。全員、マスケット銃を武装している。銃口をこちらに向けている。

 

「……こっちッ!」

 

「う、うんッ!」

 

 アナスタシアがルミアの手を引っ張って路地裏に駆け込んだ半瞬後、何条もの銃弾が二人がいたところに着弾した。

 

「追え!あの二人を殺れ!」

 

 背後から物騒なことを叫んでアナスタシア、ルミアを追い始めるのであった。

 

 

 

 

 アナスタシア達は逃げる。ひたすら逃げる。

 

 その行く先には、次から次へと新手の独立派が現れては、アナスタシア達に殺到する。

 

 果てのない逃走の中、散発的に発生する戦いが続いていく。

 

 

 

 

「しつこいッ!」

 

 アナスタシアが、数本の剣を召喚し、右側に放つ。

 

 薄暗い路地裏の空間を斬り裂く氷剣、二本。

 

 今正に、右側から襲い掛かった男――独立派のメンバー――が、その左肩と右脚を射貫かれる。

 

「あがぁあああああああ――ッ!?」

 

 男は、身の毛もよだつような悲鳴を上げ、地面に倒れ伏して、蹲った。

 

「ナーシャッ!左ッ!」

 

 その男の様子も見る暇もなく、ルミアが声を上げる。

 

 アナスタシアを狙い、今度は左の抜け道から飛び出してきた、新手の独立派のメンバー。ナイフをすらっと抜き、腰だめに構え、アナスタシア目掛けて猛速度で突進し――

 

「ち――ッ!≪凍てつく矢よ≫――ッ!」

 

 アナスタシアが素早く反応し、左手を独立派のメンバーに向けて、呪文を唱える。

 

 狙いを定めた同時に起動する【シュトレラ2】。

 

 氷閃が空気を切り裂き、吸い込まれるように右脚に命中。

 

「ぎゃ――ッ!?」

 

 突進してきた男はそのまま転倒し、顔面が地面に直撃する。

 

 そして、息を吐く暇もなく。

 

撃て、撃て(トゥリスタ、トゥリスタ)ッ!」

 

殺せッ!(タップケ・タ)なんとしても殺せッ!(タップケ・ナドゥ・ドゥツァ)

 

 また、新手の独立派のメンバーが路地裏の奥から現れ、アナスタシアとルミアに向かって殺到する。姿を知られてしまった以上、何としてでも二人を抹殺するらしい。

 

「な、ナーシャッ!?」

 

「エルミアナ、目を瞑ってなさいッ!手を離さないでッ!」

 

 アナスタシアは、やむを得ないといった表情でルミア目を瞑るように言い、呪文を唱えて複数の氷の人形を召喚する。人形はそのまま襲い掛かってくる独立派の連中に向かっていく。

 

 その次の瞬間、舞い上がる血飛沫。

 

 氷の人形が腕を、脚を、上半身と下半身をバラバラに斬り裂く。斬り裂きまくる。

 

「…………ッ!」

 

「ごめん、あと少し、あと少しだから!それまで、耐えて」

 

 肉が鋭利な刃物で斬り裂かれる音が否応なしに耳の中に入り、ルミアは苦悶の顔を浮かべる中、アナスタシアはルミアの手を引き、駆け出す速度を速める。

 

 縦横様々に入り組む路地裏を、次々と現れる独立派に追い立てられるまま、ある場所へと向かう。

 

 すぐ前の丁字路を右に曲がろうとすると……

 

「一斉射ッ!撃てぇッ!」

 

「――ッ!?」

 

 その道の先には、数名の独立派構成員が一列横隊を組み、マスケット銃を構えてるのが見えた。

 

 アナスタシアは舌打ちしてすぐさま元の位置に引っ込む。

 

 アナスタシア達が引っ込んだのと、マスケット銃の一斉射は同時に行われ、半瞬前にアナスタシア達がいたところを、複数の銃弾が空気を切り裂いてく。

 

「ビィエルッ!」

 

 アナスタシアがビィエルを呼ぶと、再装填しているマスケット銃兵の目の前にビィエルが現れ、羽根を最大限羽ばたかせて風を生成。そのまま銃兵を吹き飛ばした。

 

「ここを真っ直ぐ行ったら広場があるから、そこまで行くわよ!話は時間が許す限りそこでするから!」

 

「うん、わかった!」

 

 一通り、独立派を一掃したアナスタシアはそのままルミアの手を引いて、路地裏を目的地まで駆け抜けるのであった。

 

 

 

 

 

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