赤い国からの魔術師   作:藤氏

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 すみません、先月から指が腱鞘炎を起こしていたので、しばらくお休みしていました。

 あまりにも間が空いてしまったので、慣らしがてら、先にこちらを投稿します。

 それでは、どうぞ。


четыре(第四話)

 

 

 

 

 

 

 ――そして。

 

「このお馬鹿!お前、一体、何考えてるんだ!?」

 

 フェジテ西地区にある路地裏の、さらに奥まった場所で、グレンの叫びが響き渡った。

 

 どうしてこうなったかって?

 

 ・グレンの前にアルベルトとサーシャとリィエルが現れた。

 

 ・リィエルが高速武器錬成で大剣を生成してグレンに向けて突進した。

 

 ・グレンに突進するリィエルに、前方からビィエルが頭突きし、後頭部にアルベルトが放った黒魔【ライトニング・ピアス】が直撃して動きを止める。

 

 ・リィエル、グレンにグリグリされる←今ココ

 

 先ほどまでの緊張感は、今やどこかに吹き飛んでしまっていた。

 

「俺が現役時代のときにお預けになった勝負の決着をつけたかっただとぉ!?時と場合と状況を考えろ、このアホ!脳筋!おかげで死ぬトコだったわ!」

 

「……むぅ」

 

 受けたビィエルの頭突きと【ライトニング・ピアス】の威力が相当、手加減されてあったことや、生来の頑丈さも手伝ったのだろう。もうすっかり回復したリィエルが感情の起伏に乏しい表情を、ほんの少しだけ、しょんぼりさせていた。

 

「せ、先生……その方達は……?」

 

 ルミアは少し離れた場所で、不安と戸惑いの表情をリィエルとアルベルトとサーシャに向けている。

 

「あー、こいつら俺の帝国軍時代の同僚だ。信頼できる連中だから安心……できるはずねーよな、さっきの光景を見た後じゃな……」

 

「そうね、町中でいきなり攻性呪文を撃つなんて。うかつよ、アルベルト。どうやらあなた、その子に怖がられ――」

 

「オ マ エ だ よ! お前ッ!」

 

 グレンはリィエルの頭を両手で鷲掴みし、がくがくと激しくシェイクする。

 

「……ったく、お前はちっとも変わらんな……はぁ……」

 

 その眠たげな無表情を微塵も崩さず、ゼンマイ仕掛けのメトロノームのように左右にふらふら揺れるリィエルを尻目に、グレンが深いため息を吐いた。

 

「……話の続き、いいか?状況はとても深刻なんだがな」

 

「す、すまん。頼む」

 

 アルベルトの態度は久方ぶりに再会した仲間へ向けられるものとしては、どこか冷ややかだ。グレンは気まずさを覚えながらそれに応じた。

 

「状況としては、アルベルト先輩が遠見の魔術や使い魔によって得られた情報によると、王室親衛隊は女王陛下を自分達の監視下に置き、彼女――ルミアさんを始末するために独断で動いているということです」

 

「んなのわかってるよ。連中、絶対にありえない命令でっち上げてるからな。で?女王陛下の身の回りは今、どんな感じだ」

 

「監視しているだけで、殺すつもりはないのでしょう。陛下自身は普通に競技場の貴賓席に居ますよ。ただ、その周囲一帯を王室親衛隊の上位幹部陣を中心に、隙無く完全に取り囲んでいます。そのせいで動けない。おまけに今はその周囲はいかなる者も近づけさせない厳戒態勢……騒ぎを起こさずに突破をするのは無理ですね」

 

「セリカはどうしたんだ?ほら、元・特務分室のナンバー21」

 

 アルベルトから引き継ぐように状況を説明したサーシャに、グレンはセリカの動向を問うが、サーシャは肩を竦めて首を傾げるそぶりを見せる。その様子だと、セリカは女王陛下の傍にはいるが、何も行動を起こしていないらしい。そして、そのつもりもないらしい。

 

「わっかんねーなぁ。セリカなら、いくらでも女王陛下を守って切り抜けられるはずなんだけどなぁ……アルベルト、王室親衛隊がルミアを特に狙う理由、わかるか?」

 

「詳細は不明だ。只、お前の話の通りそのルミア嬢が、あの噂の『廃棄王女』だとするなら……何処かでそれを聞きつけた王室親衛隊が、王室の名誉を守るために、忠誠心を暴走させ、その娘を始末しようとしている……と、考えられなくもない、がな」

 

「だが、それは無理があり過ぎだ。人の口には戸が立てられんと言うから、漏れたその機密情報をどっかで得たとうのはアリだとしても、女王陛下がいる、今、このタイミングで、不敬罪を犯してまでコトを起こす意味がまったくわからん」

 

「確かにな。やるなら、密かにやればいいだけの話だ」

 

 事の真相を考察し、難しい顔で考え込むグレンと、冷淡な表情を貫くアルベルト。

 

「それに、連中のあの慌てよう、まるで今日中にルミアさんを殺害しないと大変なことになる。そういう感じの慌てっぷりでしたからね。あまりにも不自然な動きなんですよね」

 

 王室親衛隊の不自然な動きがあることを指摘するサーシャ。

 

「もういい。考えても仕方ないこともある」

 

 そんな思索の膠着状態にしびれを切らしたのか、突然リィエルが三人の間に割って入る。

 

「……いや、お前はもう少し、考えような?」

 

「だから、わたしは状況を打破する作戦を考えた。グレンがいるなら、もう少し高度な作戦が可能」

 

「ほう?言ってみろ」

 

「まず、わたしが敵に正面から突っ込む。次にグレンが正面から突っ込む。次にサーシャが敵に正面から突っ込む。最後にアルベルトが敵に正面から突っ込めばいい。……どう?」

 

「お前はいい加減、その脳筋思考をどうにかしろっての!?」

 

「痛い」

 

 呆れたグレンはリィエルの脳天を鷲掴みし、ぎりぎりと万力のように力を込めた。

 

「お前が居なくなった後の俺の苦労、少しは理解したか?」

 

 淡々と放たれるアルベルトの言葉の端々には、どこか確実に棘があった。

 

「……うん、ごめん。マジでごめん」

 

「お前が何も言わずに俺達のもとから去った理由、今は聞かん。帰って来い、とも言わん。だが……いつか話せ。それがお前の通すべき筋だ」

 

「……ああ」

 

 グレンを一瞥することもなく一方的に投げ放たれるアルベルトの言葉に、グレンは珍しく神妙に頷いた。

 

「そして、いつかわたしと決着をつけること。それがあなたの通すべき筋」

 

「嫌だよ!?」

 

 諦めないリィエルに、グレンはうんざりしながら突っ込みを入れた。

 

「そう。()()()決着をつけるのは嫌、と。なら、()――」

 

「なんでそうなるんだ、勘弁してくれ!?ひぃいいっ!?よ、寄るな!?」

 

 リィエルが錬金術で錬成した大剣を構えて、無表情でじりじりにじり寄ってくる。

 

 グレンは冷や汗を滝のように流しながら、戦々恐々と後ずさりしていた。

 

「ええい!大体、お前、なんでそんなに俺との決着に拘るんだ!?」

 

「魔術師同士の決闘は勝者が敗者に要求を一つ通せる……そう聞いた」

 

「ああ、そんなカビ臭い伝統があったな!それがどうした!?」

 

「……それは」

 

 やけくそ気味に投げられたグレンの問いに、リィエルは一瞬、言葉に詰まって。

 

「……グレンに、……どうしても、帰ってきて欲しかった、……から」

 

 常に一切の感情の色を見せなかったリィエルの表情が、消え入るような声でそう呟いたその時だけ、微かに憂いに彩られた……ような気がした。

 

「……ちっ、このバカ。それで俺が死んだら本末転倒だろうが……」

 

「グレンがあの程度の攻撃で死ぬわけない」

 

「お前なぁ……」

 

「サーシャがそう言ってた」

 

「おい、サーシャ。お前、リィエルに何吹き込んでんだ?」

 

「え?だって、本当じゃないですか」

 

「本当じゃねえよ!?」

 

「手、生えますし」

 

「生えねえよ!?」

 

「頭も、定期的に新しい頭に替わりますし」

 

「替わらねえよ!?お前、俺を化け物かなんかだと思ってんの!?」

 

「うるさいですよ、先輩」

 

「なに、この理不尽!?」

 

 そんなグレン達の様子を見守っていたルミアがくすりと笑った。

 

「アルベルトさんに、サーシャさんに、リィエルさん……でしたっけ?ふふ、良い方達なんですね?」

 

「はぁ?良い奴?こいつらが?冗談……」

 

 もはや、グレンはため息しか出ない。

 

「まぁ、いい。とにかく、女王陛下に直接面会すれば、それがこの状況の突破口になるはずだ。俺はなんとか上手く、陛下の前に立たなければならない」

 

「その根拠はなんだ?グレン」

 

「さあな?ただ、セリカがそうしろって言った。アイツはケチで意地悪だが、意味のないことは絶対言わない。俺が女王陛下の前に立つことには必ずなんらかの意味があるはずだ。どの道、このままじゃ物量差でジリ貧、それに賭ける」

 

「信じて良いのか?」

 

「少なくとも、俺は信じられるね」

 

「……わかった。お前がそう言うのなら、俺も信じよう」

 

 アルベルトが静かに目を閉じて頷いた。

 

「それで、先輩達二人を女王陛下の前に立たせるとして……俺達は何をすればいいんです?」

 

「そうだな――」

 

 グレンが少し、考え込んで……アルベルトとサーシャとリィエルにとある提案をした。

 

 

 

 

 

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