赤い国からの魔術師   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


Сорак Дзевяць(第四十九話)

 

 

 

 

 やがて、一行を乗せた馬車は、緩やかに起伏する草原を西へと進む。

 

 そのまま、のんびりと馬車に揺られていき……

 

 傾いた日が遠い山の稜線にさしかかる頃――その遺跡は、ついに一行の前に姿を現した。

 

 仰げば、透き通る柘榴色のように暮れなずむ大空。

 

 見渡せば、遥か遠くに美しく紅の差す連峰、その麓に広がる美しき湖の乱反射。

 

 見下ろせば、黄昏色に燃え上がる広大な草原。

 

 そんな絶景を仰望できる切り立った崖の縁……この一帯でもっとも空に近き高台に。

 

 その神殿は……静かに鎮座していた。

 

「あれが……『タウムの天文神殿』か……」

 

 石で造られた、巨大な半球状の本殿。周囲に並び立つ無数の柱。渦を巻くような不思議な幾何学模様が、石で構成されたその壁面にびっしりと刻まれている。

 

 独特な建築様式で造られたその神殿は、背後に背負う圧倒的な勝景に負けることなく、その確かな存在感を誇示しながら、そこに在った。

 

「……『タウムの天文神殿』……私……とうとう来たんだ……」

 

 神殿をじっと見つめながら、システィーナが感慨深そうに呟いた。

 

 システィーナに限らず、その偉容を魔の当たりにした生徒達は皆、例外なくその不思議な雰囲気と存在感に圧倒されている。

 

「……おいおい、お前ら。ぼぉ~っとしてる場合じゃないぜ?」

 

 そんな空気を破るように、グレンが手を打ち鳴らし、さっそく指示を飛ばす。

 

「本格的な調査は明日から、今日はここで野営だ。野郎共は天幕を張れ。リンとテレサは夕飯の準備を。セリカ、念のため野営場周辺に守護結界の敷設を頼む。白猫、ウェンディはその補佐だ。ルミアは馬の世話を。サーシャ、リィエル、お前らは周囲を哨戒し、危険な魔獣がいないかどうか探れ、いたら遠慮なくやっつけていいからな?そして、俺は――」

 

 てきぱきと卓越したリーダーシップを発揮し、指示を終えたグレンは、唐突に、ごろりとその場に横になる。

 

「……疲れたから、寝るわ……夕飯できたら起こしてね~、ふぁ……お休みぃ……」

 

「あ、先輩~、ビィエルが突っ込んで来ますよ~」

 

「≪アンタも・何か・働きなさいよ≫――っ!」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ――っ!?」

 

 サーシャがグレンに向けて指差し、上空から急降下してきたビィエルがグレンを吹き飛ばし、システィーナが即興改変で唱えた黒魔【ゲイル・ブロウ】で追い打ちをかけるように吹き飛ばす。

 

「という訳で先輩、ビィエルの世話をお願いしますね~?」

 

「≪皆にばっか・働かせて・貴方っていう人は≫――ッ!?」

 

「痛い!痛い!突くなっ!ごめんなさいっ!すみませんっ!ちょっと調子に乗りました、ひぃいいいいいいいいい――っ!?だから、突かないでぇえええええええええ――っ!?電撃も止めてぇええええええええ――っ!?」

 

 その場は、たちまち大騒ぎとなる。

 

 そんなグレン達を、セリカは愛おしそうに一瞥し、ふっと笑みを零して。

 

「…………」

 

 改めて、タウムの天文神殿に向き直る。

 

「……『タウムの天文神殿』……ここならば、あるいは……」

 

 いつになく、思い詰めたような表情で。

 

 セリカが、誰へともなく、そんな呟きを零していた。

 

 

 

 

 ――同時刻、某所にて。

 

『……来たのね、セリカ……』

 

 塗り潰したかのような深淵の暗闇の中で。

 

 その異形の者は、やはり誰へともなく、そんな呟きを零していた。

 

 

 

 遺跡に到着した、次の日。

 

 万が一の時のため、セシルやリンなど何人かの生徒を待機・連絡班として守護結界内の野営場に残し、グレンは早速、遺跡内へと足を踏み入れる。

 

 グレンを先頭に、アーチ型の神殿入り口から遺跡内へ入ると、すぐに日の光は届かなくなり、視界は闇が支配的な暗黒の世界へと変貌した。

 

 実はこの遺跡、巨大な一枚岩を掘削して形作る、という謎の建築様式で造られたものであり、外から日の光を取り入れる機構が何一つない。

 

 ゆえに、先頭のグレンが指先に灯した黒魔【トーチ・ライト】……魔術の光を頼りに、一歩一歩少しずつ、遺跡内の通路を進んでいく。

 

 そして、そんなグレン達を手荒く歓迎する者がいて――

 

「こ、こんなの聞いてませんわッ!ここは安全な遺跡なのでは――」

 

「いいから撃て!ほら、来たぞ!?」

 

「ああもう!今回、こんなのばっかりですわっ!」

 

 通路の奥からグレン達を目掛け、人影が実体化したようなものやら羽を生やした小さな妖精のようなものやら人魂のようなものやらが、殺意マシマシで通路の奥から襲ってきたりしたり――

 

「ちぃ……っ!ええと、なんだっけ!?わ、≪我は射手・原初の力よ・――≫……」

 

「ま、ま、まだ、≪魔弾――≫……」

 

 そんな異形達――狂霊という文字通り妖精や精霊が狂化した存在の襲撃に慌てながら、生徒達は黒魔【マジック・バレット】という狂霊達に効果がある無属性系の攻性呪文を使って、詠唱がおぼつかないながらも撃退したり(システィーナだけ、やたらと冷静で【マジック・バレット】を矢継ぎ早に連唱していたが)――

 

 システィーナ達が撃ちもらした狂霊達を、リィエルが魔力付呪された大剣で……サーシャが詠唱した【マジック・バレット】で打ち落としたり(因みに、グレンは男性のわりに魔力操作の感覚が生まれつき乏しくて、無属性系呪文が苦手であった)――

 

 最後は、セリカが生徒達を下がらせて自身が前に出て、数十発もの【マジック・バレット】を周囲に出現させるというアタマオカシイ技を生徒達に披露して、狂霊達を一瞬で殲滅させたり――

 

 え?セリカだけだったら、すぐに終わったんじゃね?と思いますでしょ?私も思います。でも、セリカが『生徒達に極力やらせてみよう』とか言ったから、生徒達にやらせてただけなんです。

 

 まぁ、学院じゃ戦闘訓練はできても実戦経験は積めないし、その一環として今回の狂霊はちょうどいい相手ではあるし、合理的といえば合理的でもある。それに、いざという時に備えてセリカ、サーシャ、リィエルがフォローに回っているから、そこまで心配することでもない。

 

 その後は、時折、湧いて出てくる狂霊達と戦いながら、グレン達は遺跡内を進み、やがて第一祭儀場に着く。

 

 その時、グレンの様子がおかしかったような気がしたが、生徒達は調査のためグレンの指示通りに動いていく。

 

 そんな調査を一日、二日、三日……祭儀場、礼拝場、天文台、霊廟……と一日ごとに一つずつ同じ手法で調査していき……

 

 

 

 

 そんな、単調ながらも、野営場に帰還したあの和やかな雰囲気のある遺跡調査から五日目の真夜中。

 

 しん、と骨にまで染みるような夜の寒気の中、サーシャはある地点にいた。

 

 遺跡前の野営場から、北に少し歩いた岩山の陰には……

 

「はぁ~、やっと入れるわ~」

 

 サーシャの目の前に広々と現れたのは、岩に囲まれた天然の温泉であった。

 

 微かに鼻を突く硫黄の匂い。含まれる鉱物で僅かな濁りを見せる湯の色。

 

 なみなみと湛えられたその湯面からは大量の湯煙が上がり、周辺を白く霧がける。

 

 この位置からでも仄かに感じる熱気が、夜の寒気に冷えた頬を優しく痺れさせた。

 

 この天然温泉は、つい先日、セリカが発見したものだ。

 

 セリカ曰く、この辺りは霊脈的に旧火山帯であり、探せばどっかにあるだろうなと思って探したら、案の定あった……とのこと。

 

 入浴に使うには湯温が少々高過ぎだったようだが、そこは流石セリカ。【氷のルーン】を温泉に囲む岩に刻み、程よい湯温に調整してくれたらしい。

 

 この功績により、セリカは、今まで濡れタオルで身体を拭いて済ますしかなかった女子生徒達(+サーシャの姿をしていたアナスタシア)の信仰と崇拝の対象と化した。

 

「温泉を見つけてくれた教授には頭が上がりませんなぁ……まぁ、自分が入りたかったってのもあるでしょうけど」

 

 いくら自由奔放な性格のセリカでも、女性だからなのか気にはしていたのだろうし、何よりこの気遣いは非常に助かる。

 

「さぁて……誰もいないうちに、お風呂、お風呂~♪……できれば、他の女の子達と一緒に入りたかったけど……それで、イチャイチャして……ふふふ……」

 

 なんか冗談めいているようなそうでないような……なんともいえない軽口を叩きながら、口調がすでに素になっているサーシャ(アナスタシア)は岩陰で服を脱いていく。

 

 ……ちなみに、先日。

 

『俺は覗くッ!楽園を目指すッ!たとえ、この命が燃え尽きようとも――ッ!』

 

 と、熱く語るカッシュと、アナスタシアを除く生まれたままの姿となった見た目麗しい少女達の間で、この温泉を戦場に壮絶なる魔導大戦が繰り広げられ……激戦の末、カッシュが無念の敗北を喫したのだが……それはまた別の話である。

 

「さて、と……」

 

 脱いだ制服を岩陰に隠し、サーシャの姿を解いたアナスタシアは、いよいよ温泉の中に身を沈めていく。

 

「はぁ~~、生き返るわ~」

 

 たちまち、心地良い熱がグレンの身体を包み込んでいく。

 

 寒気で感覚が鈍った指先やつま先が、鈍い痛みを伴う痺れと共に蘇っていく。

 

 巡りのよくなった血行が、凝り固まった肩や腰を解きほぐすような感覚。

 

 連日の遺跡調査で溜まった疲労が、全身から溶け流れていくかのようであった。

 

「極楽、極楽~♪」

 

 見上げれば、無骨な岩山が縁取る夜空は、満天の星を湛えている。

 

 流れる雲の中に恥じ入るように隠れる月もまた、風情があって良い。

 

 グレンとセリカのような大人ならば、これにブランデーでもあれば、実に最高のシチュエーションだと思うだろう。

 

「~♪~~♪」

 

 

 しばらくの間。アナスタシアは星空を眺め、鼻歌など歌いながら、入浴を楽しんでいた。

 

 ……やがて。

 

「……寂しい」

 

 ふと、空を見上げながら、アナスタシアは誰へともなく、そんなことを呟いていた。

 

 無理もない。自分の血筋を考えればなおさらである。

 

 幼い頃から周囲から持て囃され、アナスタシア自身もそれに浮かれていなかったわけではない。が、その一方で必ずしも本心で言っているわけではないということもわかっていた。

 

 幼い頃から共に学んできた同い年の子も、どこか距離があって……とにかく、亡き妹達などの家族以外で本心から接してきた者はいなかったと思う。

 

(……あの子を除けば……)

 

 湯の熱に当てられ、ほんの少しだけ胡乱になる意識の中、アナスタシアがそんなことを思っていると……

 

「……ん?」

 

 温泉周辺に立ち並ぶ岩陰に、ふと、人の気配を感じた。

 

「……誰?」

 

 身構えて、アナスタシアが誰何する。

 

「私だよ、ナーシャ」

 

 すると、その人の気配が何の躊躇いもなく、アナスタシアが浸かる温泉の方へとやってくる。

 

 立ち上る湯煙をかき分けて姿を現したその人物は……

 

「……なんだ、ルミアか」

 

「ふふ……やっぱりいた」

 

 ルミアであった。

 

 温泉の縁に立ったルミアは――一糸纏わぬ姿だった。

 

 腕にかけられたタオルのカーテンや立ち上る大量の湯煙が、彼女の透き通るように艶やかな白肌を、申し訳程度には隠しているが……

 

 十五、六の少女にしては成長している胸部と艶めかしいボディラインは……到底誤魔化しきれるものではない。

 

 ルミアの姿を確認したアナスタシアが、力を抜く。

 

「……どうしたの?もう寝たんじゃなくて?」

 

「そうなんだけど、ナーシャが温泉の方へ行くのを見たから、ね」

 

 ルミアはくすりと笑って身を屈め、流麗なる脚線美を誇るおみ足を湯に入れ……そのまま温泉の中へとその身を沈めていく……

 

「それに……ナーシャがすごく寂しそうにしてるかもと思うと……一緒に入ろうかなって」

 

「私、お姉ちゃんだから寂しくないもん」

 

 温泉の中に入ってきたルミアはぷいっとそう言うアナスタシアに微笑みながら、すい~っと寄っていく。

 

「……それに、ルミアってシスティーナ達と二度風呂してたでしょ?私、その後を見計らって来たのに」

 

「うん、そうなんだけどね……あはは」

 

「…………?」

 

 なぜか突然顔を真っ赤にするルミアに、アナスタシアは小首を傾げる。

 

 実はアナスタシアが入る前に、グレンが入っていたのだが、セリカが入ってすぐさま出た後、ルミア達が温泉に入ったのだが。

 

 先に入っていたグレンはなぜか潜ってやり過ごそうとするというありとあらゆる面で悪手な手段をとってしまったのだ。

 

 その結果、どうなったか?当然、耐えられるはずがなくグレンは裸の少女達の前に姿を現し……システィーナがお空へかっ飛ばしましたとさ。

 

 まぁ、そんなことはアナスタシアには知る由もなかったのだが。

 

 そして、二人はそのまま、お互いに寄り添うように湯を楽しみ始める。

 

 湯の熱以上に、互いに感じる互いの熱。息遣い。

 

 さっきまでの女子同士の賑やかではないが、落ち着く二人の雰囲気。

 

 語る言葉はいらない。穏やかに、優しい時間が、緩やかに流れていく……

 

 ふと。

 

「それにしても……初めてだよね……ナーシャ……」

 

 ルミアがそんなことを呟いていた。

 

「ん?」

 

「こうやって一緒にお風呂に入るのって今までなかったから……なんか新鮮だね」

 

「そりゃ、従姉妹とはいえ、生まれも育ちも住みも違う国だったし……皇女と王女だったしね、私達……」

 

「そうだね。五年前のあの時が初めてだったから……もう、そんなに時間が経ってたんだね……」

 

 再び無言になる二人。

 

(そうなんだよね……私達って、五年前なんだよね。最初の出会いは……)」

 

 五年程前、アルザーノ帝国と東セルフォード帝国連合との首脳会談で、まだ王女だったルミアがマリアベルとアナスタシアの部屋の中に入ってきた。

 

 それが二人の最初の出会いだ。

 

 それから、数ヶ月後に帝国連合が革命で崩壊し、以降はアナスタシアの消息が途絶えるが、現在は、二人きりの時だけアナスタシアとしてルミアと一緒にいる。

 

 あの時、ルミアと過ごした日々はとても楽しかった。

 

 話だけしか聞いていなかった従姉妹と初めて会ったのもそうなのだが、それよりも心の底から楽しめたのは……

 

「……貴女が初めてだったから」

 

「ナーシャ……?」

 

 ふいにアナスタシアの口から零れた言葉に、ルミアが首を傾げる。

 

 気付けば、いつもの強気な自信に満ちた少女の姿は、そこにはいなかった。

 

「私に心から接してきたのは貴女が初めてだったのよ。ルミア」

 

 どこか、寂しそうにしていた、弱々しい少女の姿がそこにあった。

 

「ねぇ、ルミア……私って……貴女と会うまで……退屈で、面白くなくて、寂しかったの」

 

「……ナーシャ?」

 

「私の血がどこの家とどこの家の血が流れているのは……知ってるでしょ?」

 

「うん……ナーシャのお父さんが皇帝で、お母さんが叔母さんでしょ?」

 

「そう。その二人の間にできたせいなのか、家族以外、皆お世辞しか言わなかったの……流石は姫様、あの二人の血を受け継いでいる御方……そして……皇帝の座についたら、帝国連合は偉大な国家になる……そんな器を持っている御方……と」

 

「…………」

 

「でも……もちろん、浮かれていた自分もいたけど、なんか……寂しくて……なんで皆お世辞しか言わないのって……」

 

 訥々と幼少期を語り出した、アナスタシア。

 

 ルミアは、今は耳を傾けるしかない。

 

「でも、貴女はそうじゃなくて……皆が言わなかったことを遠慮なく言ってくれて……お世辞なんて言わないし、むしろ容赦なかったような……でも、そうやって本心から接してきてくれて……あの時は、本当に楽しかったな……なのに……」

 

 次第に、アナスタシアの震えがルミアにも伝わってくる。

 

「ねぇ、ルミア……なんでかしらね?……なんで、私達って、こんな目に遭わなくちゃいけなくなったのかしらね……?私は家族を殺されて……貴女は異能だけで王室から追放されて……お互いにそれぞれの敵に命を狙われて……どうしてこうなったの……?どうして……」

 

 ……それっきり。

 

 肩を震わせるアナスタシアの口が、紡ぐことはなかった。

 

 しばらく。

 

 二人の間を、重苦しい沈黙が支配し……

 

 やがて。

 

「……大丈夫だよ、ナーシャ」

 

 アナスタシアの背後に回り、ルミアが背後からアナスタシアを抱きしめて言った。

 

「大丈夫。大丈夫だから……私がいるから……確かに私も色々あったけど……私は今は、すごく幸せだよ?だって、システィもいるし先生も、リィエルも、クラスの皆もいるし……なにより……」

 

 本心から。

 

 精一杯の真心を込めて。

 

「……ナーシャ、貴女とこうして一緒にいることができるから……従姉妹もあるけど、それ以上に大切な人だから」

 

 そう。

 

 ルミアにとって、アナスタシアは従姉妹で、妹のようで、友人のようで……色々と形容できる存在だが……これを一言で纏めるならば……

 

 それは、きっと……

 

「……大切な人、か……」

 

 アナスタシアは、ぽつりと問い返す。落ち着いたのか、震えはなかった。

 

「ルミア、貴女は本当に……私を大切な人と……そう思ってくれているのね?」

 

「……え?」

 

 不意討ちのようなアナスタシアの返しに、ルミアは呆気に取られるしかない。

 

 二人の間になんともいえない沈黙が流れるが。

 

 やがて。

 

「……ふふ」

 

 アナスタシアが笑みを零し、ルミアに寄りかかる。

 

 そして、何やら呪文みたいな言葉を呟く。

 

「ナーシャ……?」

 

「甘えさせて……今は」

 

 そう言って、アナスタシアはルミアの両手に自身の手を重ねる。

 

「皆寝ているから……今なら二人だけだし、今だけでも……ね?」

 

「……いいよ。私も、もっとナーシャといたい……」

 

「……いいわよ。このまま……しばらく、二人で……」

 

 お互い、自身が置かれている状況が似ているからなのか。

 

 似ている者同士、身も心も寄り添うように身体を密着して……

 

 満天の星空の下、温泉の周囲に人払いの結果を張り、グレン達が寝静まっている中、二人はしばらくそのまま湯の中で寄り添って過ごすのであった。

 

 

 

 

 


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