『さぁ、「変身」の競技で最高得点を叩き出し、勢いを盛り返した二組!続く「使い魔操作」、「探査&解錠」でも結果を出し、現在三位!再び優勝が射程に入りました!いやぁ!今回の魔術競技祭は本当に面白い!』
大番狂わせはやはり勝負事の華なのだろう。観客席の人々も勢いを取り戻し始めた二組の姿に、再び熱狂に火が点き、沸き立ち始めていた。
そんな盛り上がりの中、サーシャは女王陛下のいる貴賓席周辺を監視していた。
貴賓席周辺では王室親衛隊の衛士達が忙しく行き交い、怒声が飛び交っている。
本来なら、とうの昔に標的を抹殺して後始末もできて万事解決、となっているはずなのだが、未だに標的は生きている。
おまけに、逃亡を手助けしている魔術講師に散々振り回されているため、標的を捕らえることができない。
件の魔術講師。それも、実戦経験もない、たかだか、魔術師一人に、誇り高き王室親衛隊が後れを取っているという惨憺たる事実に、ゼーロスが苛立っているのが目に見えて伝わってくる。
(……あの慌てよう……やはり普通じゃない。かなり無理を押しに押し通しまくっているな、あのおっさん)
不自然なまでに慌てふためいている衛士達から、今度は女王陛下に視線を移す。
特段目立つ動きをしておらず競技を観戦しているが、彼女の顔を見る限り、とても落ち着いてみていられる状態ではないことがここからでもわかった。
そして、隣にいる金髪の長髪の女性――第七階梯の魔術師、セリカ=アルフォネアに目を向けるが、彼女も動く気はないらしい。だが、その深刻そうな表情を見る限り、どんな状況なのか理解しているらしかった。
(ふむ……ルミアを狙う連中は、前もってセリカ=アルフォネアの首を押さえてしまったらしい。まぁ、彼女を押さえた方がいろいろと事が進むからな。俺だってそうする)
と、なると、敵はどうやって彼女の口を封じることが出来たのか?
(彼女のことだ。ただ脅しただけじゃ、なんにもならない。下手したら消し炭になる。しかし、敵は彼女の口を封じることに成功した。こんな芸当ができるのは……)
世界広しといえど、魔術師以外に他ならない。それも超一流の魔術師。これが今回の仕掛け人。
(そうなると、王室親衛隊の連中がアルフォネアを口封じしたとは考えにくい。連中は魔術戦よりも近接格闘戦に優れているだろうし……ま、赤衛隊に比べたら実戦経験がゼーロス以外乏しいけど)
王室親衛隊の仕業とは考えにくい。無論、あの学院長らしいおじさんも。
では、誰がセリカを口で押さえたのだろうか?セリカが貴賓席からそんなに動いていない限り、敵は彼女の近く――貴賓席にいたはずなのだが。
それだけじゃない、敵は女王陛下に何を仕掛けたのだろうか?
(王室親衛隊が動いているということは、少なからず女王陛下も関係あるはずなんだけど……でないと、こんなに無理を通しまくることなんて有り得ないし……)
この、一見単純そうで単純じゃない事案に、サーシャが頭をフル回転させていると。
『そして、今、魔術師の伝統遊戯「グランツィア」の試合の真っ最中!今、ハーレイ先生の一組チームとグレン先生の二組チームの、血を血で洗うような陣取り合戦が行われております!』
ふと、競技フィールドに目を向ける。
そこでは、楕円形に敷設されたグランツィア・フィールド上を、制服の上からつけたビブスによってチーム分けされた選手たちが必死に呪文を唱えて霊点を設置し、陣地結界を構築していた。青い光の点とそれを結ぶ青い光の線と、それに沿って立つ光の壁が、競技場を色鮮やかに切り分けていく。
ふーん、と。サーシャはぼんやりと眺めているが、二組の行動が妙に気になっていた。
というのも――
『が、二組、どうしたことでしょう!?先ほどから全く結界を構築する気配がありません!一組チームの構築した陣地結界を壊してばかりだ!』
実況の通り、二組のチームは一向に結界を構築して自分達の陣地を作ろうとはせず、全員がひたすら一組のチームの作った結界を壊す妨害工作ばかりをやっている。
「ふむ……引き分けを狙っているのかな?でも、あの実力差じゃ、最後まで保たない気がするけど……」
場は膠着状態と化しているが、二組チームと一組チームの実力差はかなりあることは一目で見てわかる。ただ結界を壊す手際だけは良いのだが、それはもしかしてもしなくてもグレンが壊す練習だけしてろと言われたからなのだろう。
「まぁ、先輩の指示なら、あの先輩のことだからなんの意味もない指示を出すはずがないから……はてさて、何をするように言ったのやら」
状況はお互いゼロのまま。
一時的に一組に得点が入ってもすぐゼロに戻されてしまう。
得失点差がクラスの得点になるこの競技。このまま終われば二組はともかく、一組は他クラスに大きく差を詰められてしまうことになる。
そんな状況になってしまったら、流石に分が悪いと思ったのか、眼鏡をかけた権威主義的で常に頭髪にダメージを与えてそうな一組の講師が苛立って指示を飛ばし始めた。
指示を受けた一組チームの選手達は赤い光で結界を構築し始める。
『ああーっと、一組、アブソリュート・フィールドの構築に入ったぁ!これが成れば引き分け狙いはできない!二組選手陣、慌ててノーマル・フィールドの構築に取りかかったが――流石、一組、対応が早い!一組のディフェンダー、ノール君、二組のフィールドをあっという間に潰した――ッ!』
二組の三人が必死に結界を張って、アドバンデージを保とうとするが、一組のディフェンダーにことごとく潰されていく。こうしている間にも、一組の構築するアブソリュート・フィールドは着々と完成に近づいていく。
アブソリュート・フィールドか完成し、一組の勝ちは決定。普通ならばそうなるのだが――一なぜか一組は敗北した。
なぜなら――
『こ、これはぁああああああああああああああああ――ッ!?』
一組の赤いフィールドが成立するのと同時に、それを切欠として突如、それを大きく取り囲むように黄色のフィードが出現したのだ。
『サイレント・フィールド・カウンターだ――ッ!?なんと一組のアブソリュート・フィールド成立を条件にしたサイレント・フィールドを二組が仕込んでいた――ッ!?』
グランツィアのルール上、完全に囲まれてしまったフィールドには得点価値がなく、最も外側のフィールドを構築したチームの得点に加算されてしまう。つまり――
「……えげつな」
格下をいいことに相手を苛つかせ、大規模なアブソリュート・フィールドを構築させるように仕向け、相手が勝利を確信した瞬間、敗北という現実を突きつけて一気に落とす。
まぁ、何はともあれ、これで二組が再び優勝する可能性は高まった。
後は、次の種目――最終種目である『決闘戦』で優勝すれば、二組の優勝が決まる。そして、女王陛下からの勲章の授与に参加できる。
その時が、まさに勝負といったところだろう。
まぁ、その前に、っと。サーシャは再び貴賓席に視線を戻す。まだグレンとルミアは捕まっていないのだろう。貴賓席の周りではゼーロスが報告に来た衛士に対し、苛立ち紛れに怒鳴りつけているのが見えていた。
「…………」
サーシャは人差し指を口にあてしばらく考える。
そして、しばらくして――
「……ふーん、なるほど……元・≪世界≫の言う通り、これはグレン先輩しか解決できない問題だわ、こりゃ」
下手人も大体わかった。下手人は女王陛下の側にいることができる女性。そして普段は側にいるはずのその女性が、
「やれやれ、どこをほっつき歩いているんだか……」
肩を竦め、苦笑いするサーシャ。
下手人のことだ、恐らくはルミアの死を確認するまでフェジテの外に出ていくことはないだろう。
学院の外でグレン達と鬼ごっこをしている王室親衛隊の連中は、彼等を捕まえることができないだろう。
問題は……肝心要のグレンがこのことに気がついているのかということ。
「ゼーロスを止められなかったらルミアは死ぬ。もし、ルミアが
まぁ、いざという時は少々手荒な真似をすることになるが。とにかく、ルミアとアリシアの二人がどちらとも死ぬのは、今となっては少々が都合が悪い。これは東セルフォードを支配している政党――全連邦労働者連盟の都合ではなく、国家保安委員会の都合でもない。
これは、サーシャ=セルゲーヴナ=ソルダトワにとっての都合である。
とにかく、今はこれから行われる『決闘戦』の結果を待とうと、サーシャは背を壁に預けるのであった。
そして、遂に始まった最終種目『決闘戦』。
順調に試合が進んでいく中、二組は本来自分達よりも格上である他クラスを相手に勝ち抜いていく。
そんな二組を、アルベルトとリィエルが見守る。
貴賓席では、アリシアが憔悴した表情でルミアの無事を神に祈る。
グレンとルミアが中々捕まらず、刻々と進む時間と共に頂点に達しようとしている苛立ちと焦燥感にまみれるゼーロス。
学院外では、グレンとルミアが王室親衛隊の衛士達と鬼ごっこを繰り広げる。
そして、『決闘戦』の勝負の行方を注視するサーシャ。
魔術競技祭の最中、三者三様の思惑が飛び交っている中。
『決闘戦』優勝の結果は――システィーナが一組の生徒ハインケルを下し、遂に二組が優勝するというまったくの予想外の結果になり、魔術競技祭の全競技が終了し、閉会式と表彰――グレン達にとって本当の勝負が始まるのであった。
キリがいいのでここまで。