元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

1 / 41
プロローグ

私は、ヒーローになりたかった。

 

幼い頃は、リカちゃん人形で遊ぶ女の子たちを尻目に、赤いマントをひるがえし、男の子に混じって遊んでいた。

ヒーローの赤いマントを身に纏っている時だけは、私は無敵だったのだ。

 

努力は必ず報われる。

どんな逆境も力に変える。

敵も味方も、私の登場を固唾を飲んで見守り、私の熱く真っ直ぐな言葉は、みんなの心を感動で震わせる。

そして高らかに叫ぶのだ。

「正義は、必ず勝つ!」

 

しかし、よくある幼稚なヒーロー願望は時と共に現実を突きつけた。

ヒーローは英雄だ。

選ばれし者しか正義の名を語れない。

その現実が、私の赤いマントを引っ剥がそうとにじり寄ってくるのだ。

 

ヒーローは理屈で動かず、己が正義に真っ直ぐ進む。

傷付いた仲間を見て、全てを投げ捨て無鉄砲に飛び込んでいく。

 

私には出来ない。

怖くてどうしようもなくて逃げ出すだろう。

でも、それの何が悪いというのか。

恥ずべき行為でもない。

普通の人間は、自分が一番かわいいに決まっているのだから。

 

問題は、私にある。

愚かにも自分がヒーローになれる器だと勘違いしてしまった。

その結果が、今の私である。

 

 

未婚、恋人なし、恋愛経験ほぼなし。

今月で契約が切れる崖っぷち派遣社員。

年収200万。

1R風呂無しアパート。最寄駅徒歩20分。

 

 

 

年齢:アラサー

 

 

 

なんだこのとんでもないパワーワードは。

十分ヤバイ臭いがプンプンする情報に、『年齢:アラサー』が付くだけで救いようがなくなってくる。

一気に辛い情報になってくる。

 

同世代の女子が恋と青春に瞳を輝かせ、結婚し、妻になり、母になっていく頃。

私は必死に夢を追ってきた。

偽善とプライドの海に溺れながらも、赤いマントを必死に手放さないように。

誰も私の助けなど必要としていないのに。

そんな私だから、何者にもなれず、何様ばかり積み重なってしまったのだ。

 

 

だから、余計に嬉しかったのだろう。

 

「……さくら」

 

ある夜の夢の中。

懐かしい声が私を呼ぶ。

 

「たすけて、桜」

 

たとえ夢の中でも、私を必要としてくれる人がいる。

泣き果てた末の縋るような声に私は答える。

今まで言いたかったセリフだ。

今まで言えなかったセリフだ。

 

 

「必ず助けます」

 

 

私の正義が燃えている。

 

 

 

…………

 

なぜ昨日見た夢のことばかり思い出すのだろう。

走馬灯は、人生のフラッシュバックが相場のはずだ。

血に塗れた日本刀が、私に向かって振り下ろされている。

コマ送りのようにジリジリと刃が迫るが、どれだけ「逃げろ!」と念じても足は動かない。

タキサイキア現象。

危険を感じると脳が誤作動を起こし、世界がスローモーションに見えるアレだ。

よく見えるからと言って避けられるわけでもない。

自分が殺される瞬間をじっくり見学できるなんて最悪すぎる。

まさか身体に刃が通る間もこの速度なんだろうか。

嫌な可能性に思い至り心の中で絶叫するも、実際の唇はほんの1㎜開いたかどうかだ。

無駄な足掻きと分かっていても、胸中の喚きを止められない。

嫌だ。死にたくない。

 

死の瞬間を待ちながら、また昨日の夢がフラッシュバックする。

生まれたままの姿で現れた彼女は、真っ白な空間に溶け込むような白い肌を震わせる。

鎖骨まで伸びた髪の毛と、必死に訴えかける瞳だけが異様に黒く、まるで白い空間にそれらだけがポツンと浮かんでいるかのようだ。

彼女の乾燥した色の無い唇が開く。

「たすけて、桜」

 

バカヤロー。

どう見ても助けて欲しいのは私の方だ。

とうとう白刃が私の前髪に触れ、同時に私の唇も動き出した。

おそらく彼女と同じような土気色の唇から言葉が溢れる。

 

「たすけて、ヒーロー」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。