元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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十一話 現実は夢小説みたいに甘くない

 

しまった。

嫌なヤツと会ってしまった。

内心で舌打ちをしながら、そそくさと救急箱を片付ける。

 

「それじゃ、近藤さん。手当ては終わったので、私はこれで失礼しますね」

「え、ああ。ありがとうね」

 

面食らう近藤さんに早口でまくしたてる。

急いでその場を離れようと腰を浮かせると、鬼の手が私の腕をむんずと掴んだ。

 

「そんなに邪険にしなくてもいーじゃねーか。一杯ぐらい付き合えよ」

「……うちの店お触り禁止なんですけど」

 

土方さんは馬鹿にしたように鼻で笑い、

「そういうことはキャバ嬢らしく指名の1つでも取ってからにするんだな」

「お妙さぁああああーーーん! この人タッチしてきまーーーす!」

「し、してませぇぇぇえええん! 指一本も触れてませーーーーん!」

 

土方さんは真っ青になって即座に私の腕を解放した。

さすがの鬼の副長も、最終兵器お妙さんは怖いとみえる。

土方さんに冷たい視線を向けて、これみよがしに鬼が触れた部分を手で払ってやる。

彼はこめかみの血管をピクつかせ、期待通りの表情を披露してくれた。

 

「テメー、調子乗んのもいい加減にしろよ……!」

「会って10秒でセクハラかましといてよく言えますね」

「誰がテメーみたいな女にセクハラすんだよ! 精一杯着飾って男に媚びても、結局ゴリラの世話しか出来ねー女だもんなぁ! お前なんの仕事してんの? 飼育員? 獣医? あれれ〜、ここってゴリラにも会えるキャバクラなんですかぁ? めずらしいっスね〜」

土方さんが怒気をはらんだ声で言い返す。

 

「はぁ? 何言ってるんですか。このゴリラはお客様ですから。いまウホウホに口説かれてたところですから。いつもの雌ゴリラに飽きて人間への性の目覚めを体感してたところですから」

「え、お前ゴリラに口説かれて喜んでんの〜⁉︎ え、マジで? いくら人間に相手にされないからってさすがにヤバくね? 女として終わってね? 」

「嬉しいなんて一言も言ってないんですけど。雌ゴリラにすら相手にされない哀れなゴリラを慰めてやっただけなのに、なんか勘違いされて迷惑してるのはこっちなんですけど。ヤバいといえば、こんな下半身暴れん坊将軍なゴリラの下で働く人間がいるらしいですよ。笑っちゃいますよね〜。なんの仕事してるんですかね? あらゆるゴリラの下半身でも取り締まってるんですかね? ヤバくね? 人として終わってね? 」

「その言い方はどうかと思うな〜。いわゆる職業差別的な発言じゃないかな? ゴリラの下で働いてたって良い仕事する人間はたくさんいると思うけど」

「土方さんこそ、ゴリラの恋愛に否定的すぎでは? 種族間を超越した恋愛なんてロマンチックじゃないですか。これぐらいも許容できない心の狭さが露呈していますよ」

「え? 俺は別に否定も肯定もしてないつもりだけど。そう聞こえちゃうってことは、それはつまり君自身がそう思ってるからじゃないのかな? 俺は本当全然否定とかしてないけど。めちゃくちゃゴリラ応援してるけどね。 ゴリラと君の恋愛を心から祝福しているけどね〜」

「はい? ゴリラと恋愛なんて出来るわけないじゃないですか。何を意味わからないこと言ってるんですか」

 

わざと大袈裟にやれやれと肩をすくめてみせる。

土方さんはさすがに我慢ならない様子で、

「テメーが言い出したんだろーが! 本当腹立つなお前! 」

「そのセリフそっくりそのままお返しします」

「それをまた返すわ!」

「それをさらに返すわ!」

「返すな!」

互いにゼーハーと息切れしながら怒鳴りあう。

こんなくだらないことで温存すべき体力を使ってしまった。

この男に関わると本当にロクなことがない。

 

「まあまあ。落ち着いてくだせーよ、土方さん。あんまり虐めると可哀想ですぜ」

涼やかな声がふらりと立ち入る。沖田さんだ。

「いい歳こいて風俗落ちの女なんて見るにたえねーや」

「……風俗じゃなくてキャバクラなんですけど」

「男に媚びて金せびる点では一緒だろーが。悲しいねぇ。若い女の引き立て役で金もらうってどんな気分?」

ずいぶんな言い草にさすがにムッときて、言い返そうと口を開いたけれど言葉が出てこない。

 

10代の若さに、公務員という立派な肩書き。

どんな言葉をぶつけても負け犬の遠吠えにしか聞こえないだろう。

大人しく口を閉じた私を見て、沖田さんはふんっと鼻で笑った。

その様子を見た土方さんは意気揚々と、

「そうだそうだ! 本当いい歳こいて恥ずかしくねーのかお前は!」

「うっせーぞ。マヨネーズ臭いんで息しないでもらえますか」

「総悟との扱いの違い!」

 

マヨネーズと話していてもラチがあかない。

私は沖田さんに向き直り、ため息混じりに言う。

「それで、何か用ですか? そろそろ仕事に戻りたいのですが」

「何言ってやがる。キャバクラ来てやることなんて1つしかねぇだろ。酒飲みに来たんでィ」

相変わらず捉えどころのない瞳が、私を探るようにチラチラと色を変えた。

 

「お前、酌しろよ。指名してやらァ。俺がお前のはじめての客だ」

舌なめずりする音が聞こえたのは、幻聴だと思いたい。

軽い死刑宣告を受けてショックを受ける暇もなく、ドSに強制連行されるのだった。

 

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