元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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十六話 轟け!唸れ!これが私の千鳥だ

やばいやばいやばいさすがにやばい!

パニックに陥りそうな脳味噌を叱咤し、フル回転させる。

助けは呼べないか?

もうヤツに対抗できる人類は、万事屋か真選組ぐらいしか思いつかない。

脱兎のごとく、繁華街を駆け抜けながら必死に考える。

 

——万事屋は反対方向だし、銀さんはたしかどっかで呑んでるって言ってたけど……スナック「ペロペロ」ってどこだよ⁉︎ どこをペロペロしてるんだかされてるんだか知らなけど、ろくなところで呑んでねーなあのマダオ!

 

——たしか真選組はヴァンパイア事件の犯人を追って……B地点でどこだよ! 場所ぐらい詳しく言っとけ土方ァァァァアア!

 

切羽詰まって理不尽な八つ当たりをしてしまう愚かな私をお許しくださぁぁぁぁあああいいいい!

誰でもいいから助けてぇぇぇぇええええ!

 

散々胸中で喚き倒してから、我にかえる。

……ないものねだりをしても仕方ない。

しっかりしろ。私が自分でなんとかするしかない。

覚悟を決めるんだ。

怯えて曇った頭では、無駄死にするだけ。

心は熱く、頭はクールに。

ここまで来たら一か八か、賭けるしかない。

 

背後を見ると、バケモノは、腹部の日本刀を邪魔くさそうに抜きながら四足歩行で迫っていた。

 

……見なきゃよかった! 見なきゃよかったよぉぉぉぉおおお!

 

——まずはヤツの視界から消えることだ。

曲がり角を急旋回して、路地裏に飛び入る。

バケモノに追い込まれるままに、路地裏をずんずん進んでいく。

まるで迷路のような道をぐねぐね進みながら、どうか私の期待通りの場所に繋がることを祈る。

バケモノの気配をすぐ背後に感じる。

そのプレッシャーに唇を噛み締めて耐える。耐え続ける。

息苦しさで肺が破裂するんじゃないかと思った頃。

 

——見えた!

私の行く末。

暗くて、臭い路地裏は最終地点に私を導いた。

薄汚いコンクリート壁が立ち塞がる……行き止まりだ。

 

私は振り返って身構える。

袂からスタンガンを取り出し、急いでボルトレベルを最大出力にした。

このスタンガンは銀さんに頼み込んで、あのカラクリ技師「平賀源外」に格安で作ってもらった代物だ。

最小出力で近藤さんを失神させたんだ。

最大出力なら、あのバケモノだって倒せるかもしれない。

それに、ちょっとした仕掛けもある。

上手く使えばあるいは——もう一縷の望みに賭けるしかない。

 

「オニごっこは、ぉわりカナ?」

 

狂気に満ちた声が響く。

獲物を追い詰めた余裕からか、少し理性が戻ったようだ。

悠然と歩み寄るバケモノに、警告の意味を込めてスタンガンを突き出す。

ヤツは立ち止まって、私の武器を一瞥すると鼻で笑った。

完全に舐め腐っている。

 

「私は逃げてたつもりないんですけどね」

「ククッ……。ソんなに震えテ……ナニヲ言う」

 

指摘されて気付く。

スタンガンを握る右手が、情けないぐらいに震えている。

演技力がなさすぎる右手に、我ながら笑える。

その笑みを不適な笑みに変えて、今度は両手でスタンガンを握りこむ。

 

「計算通りと言ってるんです。あなたを倒す準備は整いました」

 

一発勝負だ。

全ては一瞬の選択で決まる。

相手が私の罠にハマるか、それとも回避されるか。

まだ考えはまとまっていない。

けど、やってやる!

考えろ! 喋りながらでも考えるんだ!

アルミン・アルレルトもそう言ってた!

 

私は慎重に言葉を選ぶ。

 

「取引をしましょう」

「といひき……?」

 

まず敵の観察だ。

ヤツの肉体は、致命傷をいくつも負っている。

というか首も折れてるし、もはや致命傷どころじゃない。

平然と動き回っているところを鑑みると、痛覚がないのだろう。

ゾンビみたいに、肉体を動かせる限りは活動できそうだ。

ゾンビ映画のお約束ならば、頭部を潰せば肉体運動は停止するかもしれない。

けど、それは無理。

そこまでの戦闘力が私にあるなら、とっくにやっている!

 

「そうです。まあ、取引というよりは脅迫になってしまいますが」

「きようハク……? ククク……ドウいうイミだ?」

 

いや本当にどういう意味だよ!

こっちが知りたいわ! そんなんこっちが知りたいわ!

時間稼ぎしようと思ってたら空気でとんでもないこと口走っちゃったよ!

なーんにも考えてないよ勘弁してください!

 

しかし、なんだろう。

何かが引っかかる気がするけど——やっぱり何も浮かばない。

クソ!

とにかく時間を稼がないと——

 

 

威嚇(いかく)の演出をかねて、スタンガンのスイッチを気軽に押してみる。

途端に、その先端から予想以上に激しい火花——というかほとんど雷に近い閃光がバヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂと鳴いて散った。

 

バケモノが感心したように「ナルほド……」と呟いてくれたが、私の内心は穏やかじゃない。

 

平賀源外ィィィィイイイ!

限度が! 限度があるでしょうよ!

バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂなんて効果音そうそうないよ!

千鳥レベルだよ! カカシ先生かよ!

こんな危険物を2000円で気軽に売ってはいけない!

「なんか知らねけーど丁寧に扱えだとよ。とりあえずジャンプと同じコーナーに飾っとけ」とか適当なこと言うマダオに気軽に渡してはいけない!

 

バケモノに悟られないよう、さりげなくスタンガンのレバーを切り替える。

そして心臓がバクバク鳴っていることはお首にも出さず、私は見事なポーカーフェイスを決める。

 

「この電撃は、雷と同じ200万ボルト。人間に当てれば、一瞬で黒焦げになります」

「ホウ……ソイツでおれヲコロすのか?」

 

弱者の必死の抵抗を、バケモノはニヤつきながら見守る。

余裕そうだ。それもそうだろう。

どんなに強力な武器でも当たらなければ意味がない。

そして当てるほどの戦闘力が私にあるなら、とっくにやっている!

そしてこの()()()もとっくにやっている!

 

「当たるはずないって思いますか?」

 

含みのあるセリフに、バケモノは沈黙で返した。

本当に何か策があるのではと多少警戒しているようだ。

真冬の冷えた空気に、緊張が走る。

 

次に口を開く数秒の間に、私は思考を巡らせる。

 

そもそも敵の目的はなんだ?

ヤツは狂っているように見えて、無差別ではない。

一直線に私を狙った。

何度も殺されそうになったけど、殺すこと自体が目的じゃない。

キーワードは——血?

 

「スタンガンは、あなたに当てるのではありません。——私です」

 

そう言って、スタンガンの先端を自分の首元に押し当てる。

ヤツの爛々と光る目が、驚愕に染まった。

 

「あなたが固執しているのは、私じゃない。私の血液ですね?」

「……ソレガどうしタ? どうせオマエハシヌ! シヌ! コロす!」

「200万ボルトの電撃を身体に受ければ、血液は沸騰します。いいんですか? 一度沸騰すれば、血の味は変わる。味だけじゃない。あなたが欲しがっている新鮮な血液とはまったく別物になりますよ」

 

私の血液に固執する理由はわからない。

けど、このバケモノにとっては価値あるものなんだろう。

確信はない。

が、ここで勝負をかける!

 

空気をいっぱいに吸い込み、私は声を張り上げた。

 

「わかったならそこを退()け! お前に殺されるぐらいなら、死んだほうがマシだ!」

 

もちろん死ぬ気はない。

でも、大人しく殺される気はもっとないのだ。

 

半分本音を含んだハッタリは、それなりに迫力があったらしい。

私のゴリ押しにバケモノはグッと押し黙った。

 

震える足を叱咤して、私は一歩踏み出す。

さらに一歩。

もう一歩。

バケモノから目を離さない。

損傷がひどい顔面からは、ヤツの表情は読み取れない。

ごくりと鳴る喉に、さらに強くスタンガンを押し付ける。

 

数メートル幅のある道。

その端を通って、いよいよバケモノとすれ違う。

 

 

 

 

 

最も二人の距離が近付いた瞬間——ヤツは獣の咆哮をあげて私に襲いかかった。

抵抗する間もなく、あっという間に組み敷かれる。

 

「あたたかいチ……それはそれで——ウマソウダ」

 

そう言って、両手で固定した頭部をグッと近付ける。

バケモノは異様に長い舌を見せつけながら、舌舐めずりをした。

 

……なるほどなぁ〜

そういうもんか〜

トマトソースとかもあったかいの美味しいもんな〜

……ッて馬鹿野郎!

まだだ! まだ終わってない!

 

現実逃避してしまいそうな脳味噌を叩き起こして、右手に握った武器をヤツの身体に押し当てようと振りかざす。

しかし、追い詰められた弱者の攻撃が当たるわけもない。

バケモノはにやけ面で、頭部を支えていた左手を使い、私の右手を悠々と払いのけた。

 

その衝撃で、私の手から飛んでいってしまった——ボイスレコーダーが。

 

ヤツは「ンン?」と首をひねり、飛んでいったボイスレコーダーに気を取られている。

攻撃を防ぐことに使った左手は所在なさげに停止し、右手は頭部を支えるために高く上げられている。

 

 

 

つまり——右ボディがガラ空きだぜ?

 

——ここだッ!

私は左手に隠し持っていた大本命——スタンガンをヤツの右腹部に押し当てた!

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その渾身の一撃がヤツの腹に埋まることはなかった。

黒服たちの攻撃で、スクランブルエッグ化していた腹部から突如として腕が生えると、私の左手首を捻り上げたのだ。

 

 

……なんじゃそりゃあああああああ!

 

 

バケモノの新しい腕は、当然のようにスタンガンを奪い取ると、自分の左手に手渡す。

 

「ククク……ザンネンだったナ」

 

驚愕と絶望に顔を歪ませる私を見下ろして、今度こそバケモノは勝ち誇った。

ヤツは楽しそうに、奪ったスタンガンを、私の首筋に押し当てる。

 

 

ドッと熱くなった身体。

その柔らかな血管に、ヒヤリと冷たい感触がした。

恐怖でビクついた反応がおもしろかったのだろう。

バケモノはスタンガンの先端を押し付けながら、それをゆっくりと移動させる。

首筋をすべり、頬をすべり、額に到達すると、スタンガンで殴るように押さえつけた。

 

無理やり正面を向かされた眼前に、バケモノの醜悪な面が覆いかぶさる。

私の反応を楽しんでいるのだ。

怯え、震え、泣き喚いて命乞いをするのを待っているのだ。

 

殴られた額が熱い。

痛みで生理的に滲んだ涙が熱い。

怒りで震える声帯を根性で押さえつける。

 

「……近付かないでもらえます? 息が臭いんですが」

 

 

一拍置いた後、ヤツは大声で笑い出す。

狂気じみた痙攣的な笑い声。

 

耳障りだ。

吐き気がする。

 

「スグにオトナしくなル……こいつヲくらえばナ」

 

生意気な私の恐怖心を煽りたいのだろう。

演技じみた大振りな動きで、ゴリゴリ音がするほど、額に強く強くスタンガンを押し当てる。

 

そうして、私に見せつけるように——

 

スイッチを——押した。

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