元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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十七話 人生は博打という大人は総じてマダオ

その瞬間——

 

バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!

 

(すさ)まじい音を立てて電撃が(とどろ)く。

目の眩むような閃光が(またた)く。

200万ボルトが走り流れ、肉を焦がし、血液を沸かす。

衝撃で激しく身体を揺らし、何度も痙攣した。

そして数瞬後、バケモノは白目をむいて天を仰いだまま動くことをやめた。

 

 

ぷんと鼻をつく異臭。

電撃により瞬間的に発生した強烈な熱。

動きを止めたバケモノの下——私は生きていた。

 

 

自分の鼓動を感じる。

自分の呼吸を感じる。

自分の身体を感じる。

私は——生きている!

 

——そうだ。

——やった……やったぞ!

極度の緊張と絶望と何やらがないまぜになり、しばし呆然とした後——じわじわと喜びがわいてくる。

 

作戦は成功したんだ!

間違いなくトラウマコースの衝撃映像が脳裏に刻まれてしまったが、命あればすべてよし!

なぜか涙がこぼれちゃうけど仕方ないだって女の子だもん!

手の舞い足の踏む所を知らず!

歓楽極まりて哀情多し!

有頂天外! 恐悦至極!

 

生死を賭けたギャンブルを勝ち抜き、自分でもよくわからない喜びの境地に至る。

それぐらい分の悪い賭けをしていた自覚はあった。

 

賭けの内容は、言ってみればシンプル。

敵がスタンガンを奪ってスイッチを押すかどうか、だ。

もしもヤツがスタンガンに見向きもせず、獣のように私を襲っていたなら、いまごろ私は死んでいただろう。

 

スタンガンの特注を頼む際、私はある仕掛けを頼んだ。

それはレバーの切り替えにより、電気の流れる方向を逆にするという仕掛けだ。

通常はスイッチを押すと、スタンガンの先端に電気が流れる。

が、レバーを切り替えてからスイッチを押すと、逆方向——つまり持ち手側に電気が流れ、スイッチを押した人間が感電するという仕組み。

万が一、敵にスタンガンを奪われた時の小細工だったが——まさかこんな土壇場で頼ることになろうとは思わなかった。

 

だが、勝算はあった。

幸い、バケモノがかつてどんな男だったかを、私は知っていた。

暴力を好み、人を痛ぶることが好きな男だった。

あの夜、私の恐怖に歪む顔を、男は気色満面に眺めていたのだ。

 

どうやったら人が絶望するかを、あの男は知っている。

方法は簡単だ。

徹底的に希望を潰してやればいい。

もしかしたら助かるかも。

そういった希望や抵抗を、目の前で潰す。

わざと希望を持たせ、奈落に突き落とすのだ。

 

あれはそういった類の人間だ。

 

ならば、方法はある。

生意気な女があれこれ試行錯誤した抵抗を、わざと防がせてやればいい。

そうすればヤツは上機嫌。

私の最後の切札——スタンガンを無効化した時、ヤツは有頂天になる。

あとはいかに私を絶望させるか、その一点にしか興味はないだろう。

となれば、最後にスタンガンを使って私を殺すことは必然。

なぜなら、人は最後の希望を潰され、それを横取りされることに最も憤りを覚えるからだ。

 

ここまでは、それほど悪くない勝率だと踏んでいた。

 

しかし、問題は二つあった。

バケモノと化した男に、まだ理性は残っているのか。

それと、平賀源外のカラクリはきちんと作動するのか、だ。

銀魂のイメージが強すぎていまいち彼の腕を信用できない。

こんなことなら近藤さんでもう一発試しておくんだった! と何度自分の怠慢を悔やんだことだろう。

 

 

何はともあれ、そうした賭けを乗り越えて、私は勝利したのだ!

ありがとう平賀源外!

ありがとう千鳥!

ありがとうカカシ先生!

 

ひとしきり生きている喜びを享受した後、バケモノの下から這い出そうと試みる。

私の腹の上で、ヤツは上半身を起こしたまま天を仰いで絶命していた。

グロテスクな見た目が丸焦げでさらに悲惨だ。

なるべく直視しないように、私は目を伏せる。

正直触りたくもないが、ヤツを押し退けようと仕方なく手を伸ばす——と、ふいにその手を掴まれた。

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

 

伸ばした手〜を〜♪

掴むのはだ〜れ〜〜?♪

 

嫌な予感しかしない。

ギギギと首を軋ませ、私は恐る恐る顔を上げる。

バケモノの腹部から生えている左手?が、私の右手とガッチリ握手していた。

 

のけぞって天を仰いでいたバケモノが、ピクリと動く。

同時に、鼓膜をえぐられるような不気味な音が鳴りはじめた。

その音は、バケモノの口から溢れているようだった。

 

「グガグガグガグガガガガ——ッチ! チ! チチチ!」

 

私はふーっと一息ついてから、彼に話しかける。

 

「オッケーです。わかりました。血液、飲みたいんですっけ? では、こうしましょう。200mLまでならいいですよ。あ、注射器あります? 私、買ってきましょうか?」

「ウマイウマイウマイウマイイイイイイ!」

「アレェーッ? なんか今日は体調いいみたいです! こりゃ400mLまでいけるな! あなたのために400mLまで頑張っちゃおっかな⁉︎」

「チチチチチチチチチチチチチ! オレノオレノオレノオレノ!」

「うんうんうんうん! わかるわかるそれって超わかるぅぅぅぅうううう! 血って美味しいよねぇ! あの鉄分吸収してるぅぅぅうううーって感じ⁉︎ クセになるぅぅううみたいな⁉︎ 次の日お肌ツヤツヤ☆ みたいな⁉︎ 」

 

バケモノは全身を小刻みに震わせる。

というか、さっきからずーっと握手しっぱなしなんだけど。

なんで? そんなに私と握手したい?

——アレなにこれちょっと泣きそう。

 

「よく考えてくださいよぉ! 百歩譲っていま飲んじゃってもいいですよ? けどね、人体の血液は全部で約4リットルなんです。それってすっっっっごく少なくないですか? そんなのすぐに飲み終わっちゃいますよねーっ! 本当共感しかない! それがなんと! 今回見逃して頂ければ、半永久的に私の血液はあなたのもの! 毎朝6時に400mLをお届け! 三ヶ月続けて頂ければ元は取れちゃうんです! どう考えてもこっちのほうがお得——」

 

バケモノはブルブル痙攣しはじめると、前後に激しく頭を振りはじめる。

なんのリズムに乗ってるの?

メタル? ヘビメタ聴いてんの?

なにそれどういうメカニズム?

 

「グガグガグガグガグガグガグガグガガガガッ——」

「ちょ、ちょっとぉぉぉおおお! いい加減にしてくれる⁉︎ その『グガ』ってのやめてくれる⁉︎ 怒ってんの⁉︎ 何キレてんの⁉︎ 何本気になっちゃってんの⁉︎ 怖いんですけど! なんかものっそい怖いんですけど! 謝るから! 電気ショックのことなら謝るから! だからお詫びに血あげるって言ってますよね!」

 

私の叫びが届いたのか、バケモノはぴたりと動きを止めた。

上半身を姿勢良く正し、頭部は重そうにぶら下がっている。

ヤツの両手が奇妙な動きで頭部を持ち上げ、その顔面を私に見せつける。

電撃で黒焦げになった顔。

そこに浮かぶ二つの白目。

その下には、まるでブラックホールのようにぽっかりと空いた一つの穴。

そこから、この世のものとは思えない憤怒の雄叫びが上がる。

その衝撃波を、私は肌で感じた。

 

そして悟る。

 

あ、終わった。

いよいよダメだ。

死を目前にして、恐怖よりも怒りが勝った。

理不尽で、非論理的で、非合理的で、絶対的で、無意味。

私はそういったものが嫌いだ。

「死」という概念が、私は死ぬほど嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

けれど、私は死ぬ。

そう理解した時だった。

 

 

 

 

 

バケモノに握手という名の拘束をされていた右手が、ふいに解放された。

一瞬の出来事。

何かが目の前を横切り、そして鮮血。

私の手を握っていた——バケモノの腕が宙を飛んだ。

唖然とした私とは対照的に、ヤツは瞬時にその何かに反応した。

獣じみた動きで飛び退くと、あっという間に数十メートルの距離をあける。

四つん這いの姿勢で、見えているのかわからない白目を私の後方に向けた。

 

 

何が何やらわからぬまま。

頭の中は真っ白だ。

ヤツの視線に誘導されて、ぽかんと口を開けたまま私はゆっくりと振り向いた。

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