元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話 作:匿名希望くん
次の日、みんなの反応は様々だった。
銀さんは「彼女の友達ってやたらとエロく見えんだよなぁー」と頷き、
新八くんは「世の中には浮気しない男性もいますから!」と慰め、
神楽ちゃんは「桜はなんで浮気されたアルか?」と問い、
お妙さんは「今度合コンするときは絶対呼びますからね」とエールを送った。
極め付けに、スナック『すまいる』の店長は「真選組から圧力があってね……ごめんなさいね。ただでさえ婚約者に捨てられて大変だっていう時に」と申し訳なさそうに解雇を言い渡した。
……ふう。
私としたことが大人気ない。
いくらなんでも一回り近く年下の子供に怒るなんて、そんなみっともないことはやめよう。
昨日、口止めしなかった私も悪いじゃないか。
そうだ。
きちんと理性をもった抗議をすることこそ、大人のやり方だろう。
怒りの感情は一度抑えて、おさ、おさ、お、お——
沖田ァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!
あんのクソガキィィィィィィィィィィィイイイ!!!!!!
怒りのボルテージは最高潮。
真選組の屯所に乗り込むと、通された部屋には三人の男がいた。
明らかに怯えている様子のゴリラ。
渋い顔でガンを付けるマヨラー。
ふざけたアイマスクを頭に付けているクソガキ。
日本家屋らしい畳張りの部屋は、男所帯のわりには清涼な空気が漂っていた。
私は鼻息も荒く、無遠慮に部屋に入る。
なんせこちとら年甲斐もなくブチ切れている。
こんなにキレたのは、二年前、転職の際に4月入社と5月入社の違いでボーナスが出なかったとき以来だ。
まったく悪びれる様子もなく、それどころかちょっと楽しそうに、沖田さんは私に目を向けた。
そのなめくさった態度に、私は怒鳴る。
「一体どういうつもりですか⁉︎ プライバシーの侵害にもほどがあります! SNSの
「え、俺ェ⁉︎」
沖田さんの隣で、我関せずといった風情の土方さんが思わぬ飛び火に驚いた。
部下のセキュリティ意識低下は上司である土方さんの責任だ。
いざ目の前にしたら沖田さんにビビったなんてことは断じてない。
私の考えを見透かしたように、沖田さんは鼻で笑う。
「俺ァ、アンタの悩み事をみんなで共有しようと思っただけですけどねィ。助け合いの精神を理解する余裕もねェ哀れな人間だな土方ァ!」
「はぁ? ぜんぜん悩んでないですけど? とっくに吹っ切れてるんですけど? 女の機微もわからない哀れな男だな土方ァ!」
「ああ、そういうことか。俺にだけ特別に打ち明けた悩みを、みんなに話されたから嫌だったんですねィ。それならそうと素直に言えよ、腹切っとけ土方ァ!」
「沖田さんって自意識過剰ですよね。私は夜空のお星様に話したんですよ。ドSの王子様はご自分の星にお帰りください、マヨネーズ星に埋まっとけ土方ァ!」
「お前ら打ち合わせでもした?」
土方さんが青筋を立てて、睨み合いに参戦する。
三者の険悪な空気に耐えられなかったのだろう。
大人しくしておけばいいものを、近藤さんが慣れないケンカの仲裁に入る。
「おおおおおお落ち着いて! 桜さん! 俺の顔に免じて! 総悟には俺からもよーーーーく言っておくから! ね⁉︎」
「ゴリラの顔で何が免除されるって言うんですか。動物園にでも行った気になっとけって言うんですか。それなら餌やり体験でもさせてくださいよ。癒されるんで。ほら、バナナ食っとけよ」
ぎりぎり残っていた大人の理性で持ってきた手土産——フルーツバスケットの中からバナナを放り投げる。
「すっげーキレてんじゃん!」
涙目の近藤さんは怯えながらもバナナに飛びついた。
もちろんプライベートな事情を言いふらされたことには腹が立つ。
だが、そのリスクを考慮しなかった私にも多少の落ち度はあるだろう。
そこまでは100歩譲って、許そう。
アラサーの度量として、寛大な心で、人生の勉強代だと考えよう。
しかし、収入源である「すまいる」の解雇処分についてはどうしても納得できない!
「なんで『すまいる』までクビにならないといけないんですか! 税金泥棒と違って、私は毎日生きるための銭稼ぎで必死なんですよ!」
税金泥棒に反応したのか、土方さんが青筋を立てて言い返す。
「キャバ嬢って言ってもゴリラの世話係だったんだからさ〜。自販機の世話係にでもシフトすればいいんじゃない? 自販機の下でも
「私がそんなところにシフトしたら、自販機漁り職人『はせがわ』が困るじゃないですか。プロの島荒らすようなこと怖くて出来ませんから。あれ〜、町を取り締まる警察の方なのにプロがいるって知らないんですかぁ?」
「べっつに〜。プロがいるなんて知ってたけどね。俺も
「自販機漁り職人って、ただの住居不定無職のマダオのことじゃないですか。『はせがわ』って、ただのマダオの個体名じゃないですか。何言ってるんですか?」
「自分から振っといて冷めてんじゃねーよ! そういうとこあるよお前本当! 乗ってやった俺に少しは感謝すべきだよ本当!」
「迎合されても気持ち良くないんですよね」
「テメェ二度と俺の前でボケんじゃねーぞ!」
土方さんをおちょくっても、気が済まない。
なぜ解雇されるのか、私は明確な理由を知りたいのだ。
そして謝罪と妥当な補償を求める!
私が鼻息荒く追撃しようとしたとき、
「あ、あの……」近藤さんが拳をぶるぶる震わせて言った。
すっかり蚊帳の外だったゴリラに、みんなの視線が集まる。
そして、近藤さんは真っ青な顔でスライディング土下座を決めた。
「すんまっせええええーーーん! 桜さんが
突然のことに私は呆気にとられる。
土方さんは「バカヤロー! こんな女に簡単に頭下げるな!」と近藤さんを叱責し、近藤さんは「いいやトシ! 止めてくれるな! 全部俺の責任なんだ!」と反抗している。
渦中の沖田さんは、このやりとりに飽きた様子で大あくびをした。
……まったく話が進まない。
私はため息を吐いて、フルーツバスケットを畳の上に置く。
部屋の隅に重ねてあった座布団を一つ持ってきて、座る。
沖田さん用に持ってきた洋菓子を開けて、三人の前に突き出した。
「お茶、お願いします」
ようやく矛を収めた私に、ゴリラはぶんぶん首を縦に振って部屋を飛び出した。
洋菓子と茶を囲んで、円になる四人。
遠慮なく菓子を摘む者もいれば、土下座スタイルから頭を上げない者もいて、決して雰囲気がいいとは言えない。
頭をあげない近藤さんにかわり、土方さんが話し出す。
「……上から圧力があった。真選組に常駐の医者を置けっつー話だ。今まで簡単な治療は山崎が診て、定期的に医者を招いて診察をしていたんだが——」
沖田さんが、言葉尻をとって続ける。
「それが突然、あちらさんご指名の医者を置けときた。
「で、適当に相槌打って誤魔化せばよかったものを、このバカが話ややこしくしやがって——」
「謝ってるじゃん! だからすっごい謝ってるじゃんんんん!」
土方さんの冷たい視線に、近藤さんがまた泣きわめく。
そういえば、昨日、やけに近藤さんが落ち込んでいたことを思い出す。
これが原因だったのか。
……なんだか嫌な予感がする。
厳しい視線に晒されて、近藤さんはもごもご白状した。
「そ、その……。俺もね? いったん持ち帰ってトシや総悟に相談しなきゃって思ったんだよ? でもさ〜そのとき酒も入ってたしさ〜なんかよくわかんなくなっちゃってさ〜。言っちゃったんだよね。もうすっげー腕のいい医者が、うちに来る予定だからお断りしますって」
「……へ〜。腕のいい医者ですか、いったいどこに——」
三人が一斉に私を指差す。
私は無言で、体を右にずらす。
それでも付いてくる指先の光線。
——私は無言で立ち上がり、一直線に脱出を試みた。
「総悟! 逃すな!」
当然捕まる。
逃げ出さないように、縄でぐるぐると巻かれて、乱暴に転がされた。
「拉致監禁で訴えてやる。善良市民への暴力行為をマスコミにリークしてやる」
「残念だったな。戸籍がないヤツは市民じゃねー」
土方さんは悪役さながらに
それが警察官の面だろうか。
確実に犯罪者だろう。
沖田さんは、畳に転がる私を黒い笑みで見下す。
その笑みを見て確信した。
これは罠だ。
私を怒らせて屯所に乗り込むように誘導し、捕獲することが目的。
こうなっては雇用契約書に
くそ、見事にやられた。
こうなったらシラを切り通すしかない。
証拠はどこにもないんだ。
私は絶対に認めない!
こんなヤクザ警察には負けない!
私は不適に笑って言う。
「沖田さんから何を聞いたか知りませんけど、私は医者じゃありません。医療なんてまったく知りません。一体どこにそんな証拠が——」
沖田さんが無言で、縛られた私の前にボイスレコーダーを置いた。
……ボイスレコーダー?
あれ、なんか見たことある。
そういえば、ストーカー対策で使った私のボイスレコーダー……どこやったっけ?
昨日、たしか……ヤツに
ボイスレコーダーから流れる。
昨日の、沖田さんとの会話。
私の独白。
流れる証拠。
「誰が医者じゃネーって?」
私の肩にポンと手を置いて、沖田さんが微笑んだ。
このクソガキィィィィイイイ!
おかしいと思った!
ああ、おかしいと思ったさ!
昨日の沖田さんはやたらと優しかった!
あれ? こんなキャラだっけ? って思うほど優しかった!
映画版ジャイアン的なアレかなと納得してしまった自分を殴りたい。
漫画通りの人格だと先入観を持つのは人としていかがなものかという私の反省を返せ!
なんとかドス黒い感情を抑える。
まんまと騙され、言質を取られた。
まぁ、証拠があるなら仕方ない。
私は観念して話し出した。
「知ってるなら話は早いです。……私に医者は無理ですよ。沖田さんから聞いてますよね? だって私は、血が苦手なんです。血が苦手な医者なんて、何をすればいいんですか」
「何もしなくていい」
間髪入れずに、土方さんが言った。
「……はい?」
「そもそも今までだって抱えの医者なしにやってきたんだ。お前の働きなんて必要ねーよ。この件が片付くまで、
「……そこらへんの医者に金でも握らせて連れてくればいいじゃないですか! なんで私なんですか?」
「……色々事情があんだよ」
土方さんは渋い顔で言う。
私にだって事情ぐらいあるわ!
そう言いたい気持ちをぐっと
私じゃなきゃダメな理由っていうと——
「ヴァンパイア事件が関係あるんですか?」
タイミング的にこれしかないだろう。
昨晩、犯人を捕まえられなかったのか?
沖田さんの助けを借りた手前、少し責任を感じなくもない。
「お前が知る必要はねェ。とにかく、黙って俺らに囲われてりゃいいんだ」
土方さんは眼光鋭く圧力をかけてくる。
遥か高みからの命令口調。
カッと頭に血がのぼり、怒りで心臓が熱くなった。
私は憤りを含んで、静かに言う。
「……それが人に物を頼む態度ですか? 説明もなく黙って従えって何様なんですか。何もしなくていいなんて、私にだってプライドが——」
「うちで働くなら戸籍を作ってやる。社保、社宅完備。給料は今の二倍出す」
「是非よろしくお願いします。土方副長」
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